第167話 旅再開の前の無茶振りと準備

翌朝、俺達(俺、アケミさん、コルトガさん、コナンさん、ロックさん、リック、サチちゃん+ピョン吉とコロ)はマダラとB0の曳く馬車に乗り、気まずいのでコッソリ出発する予定であったが、杞憂であった。


「お! ケンジ様! いってらっしゃーーい!」

「またお土産よろしくねーー!」

「全国制覇万歳ーーー!」

「ケンジ様ーー、いってらーー!」

「けえって来たら、また全国制覇祭りだべー!」


と俺達に気付いた住民達から笑顔で見送られたのだった。


「あれ? 何か普通に見送られちゃったね。」


俺が馬車の中で不思議に思って居ると、


「ハッ! 某が昨晩の宴会の席で、皆に主君の全国制覇の事をちゃんと話して置きました故に。

主君はそのような細事には、お心を煩わさなくても済む様にするのが、我ら配下の役目故。」

と満面の笑みで語るコルトガさん。


「そっか、ありがとう。

ん? 全国制覇?? 何それ? いや、ちょっとおかしいよね? 言葉の使い方が。

俺は、どちらかというと、全国漫遊記的なノリなんだけど、いつからそんな物騒なノリに変わったの?」

と唖然としてしまった。


俺的には、美味しい物を探す異世界漫遊記だったんだが、いつの間にかVシネマのテイストに変わってしまっている気配。

別についでで人助け出来るならするけどさ。 ヒャッハーな事にはならないからね?



まあ、そんな訳で、ゲートでサクッと4日前に行った村から現状視察と場合によっては打診って感じで廻り始めたのだった。



 ◇◇◇◇



結果を言うと、やはり懸念した通りで、どの村も漁業再開の目処も立たず、領主からの支援も救済も無く、俺の配った支援物資もほぼ無くなり、途方に暮れているところであった。

ロックさんと面識のある村長に移住を打診すると、トントン拍子に話が進み、廻った5つの村、全てが全員で移住して来た。

村全員が移動し終わると、いつもの様に後始末をしてから次の村へと移動し……を繰り返し、ランカスター子爵領内の漁村は無くなった。


そのまま農村地帯へと足を伸ばすと、そこも被害は甚大で、農地は完全に水没し、作物は全てダメになってしまっていた。

食料こそ、数日分は残っていたが、お先真っ暗という苦境は変わらず、途方に暮れていた。

結局ここも先の漁村と同じく、全員が移住を希望した。


こうして、ランカスター子爵が知らぬ間に、次々に村を移住させて行き、5日が経過した頃には、ランカスター子爵領内にはランカスターの街以外は残らない状態になっていたのだった。


「ガハハハ!!! 流石は主君! 面白い。面白過ぎまするぞ!」

と悪い顔で豪快に爆笑するコルトガさん。


「き、きっと気付いたら、ビックリするんだな。だな!! グヒヒヒヒ」

とコナンさんも変な笑い声を上げている。


そう、コナンさん、何故か拠点に戻った際に、拠点の住民から、

「あら、坊主頭なのね、これから熱くなるから、あんた直射日光で日射病になるわよ? これ被って行きな!」って帽子を貰って来たのは良いんだが、これが、農作業に使って居る麦わら帽なんだよね。


もうね、嵌まりすぎるぐらいに麦わら帽がハマってて、俺の腹筋がヤバい状況。


お願いだから、これ以上は……

変なランニングシャツとか渡さないで欲しい物だ。


ちなみに、300軒新規に建てた訳だが、最後の村人を移動させた際に、更に500軒追加で建てさせられた。

他にも、道路や公園の整備、更に役所の建物や集会場等の公共施設も追加で建てた。

農地の拡大も然りで、畜産業ももっと本格的にやる事にしたらしい。

外壁の隣に放牧地用の城壁を増築したりした。

本当に容赦無いなぁ――

まあ、俺しか出来ない事だから、それは良いんだけどね。



最後の組が揃うと、また大宴会となり、新規組にも面白い奴が多いらしく、また今回も大盛り上がりしていた。


前世の俺は宴会というか、そう言う飲み会の席が嫌でしょうがなかった。

まあ会社の部署とかでの忘年会や送別会等にはちゃんとお付き合いで出席していたが、元々お酒が大好きって訳でもなく、ビールでもコップ(ジョッキではなくコップね)1杯で真っ赤になる程だったので、酒に酔って絡まれる感じの宴会が大の苦手だったのだ。

だからという訳でも無いが、仕事帰りに飲みに誘われると、必ず理由を付けて断って居た。

尤も、結婚後は飲み会どころでは無く、コンビニや運送会社の夜中のバイト等を入れていたので、事実上飲みに行く様な時間も体力もお金も無かったのだが。


そんな俺が、前世では考えられない様な立ち位置に居て、大宴会に参加して居る訳だが、周囲のみんなのお陰で、特に嫌な絡みがある訳でも無く、無理に酒を勧められる訳でも無く、単純に好きな料理を楽しむ食事会的な感じで参加出来ている。

子供らは色んな美味しい物を沢山食べて、子供ら同士で遊んだりしてるし、みんなが笑顔で自由参加している。

勿論、参加しないからといって何かあったりする訳でも無い。 そんな強制はうちの拠点には無いのである。


人数は多いが、エーリュシオンは俺の様な者(酒宴嫌い)にも、住みやすい所だと思う。





そして、今回ランカスター子爵領の領民の大移動で、エーリュシオンの人口は、急激に増えた。3327名になったらしい。


また、今回の人口増加と畜産業の本格化に伴い、急遽家畜を殖やす事になった。

なのでという訳ではないが、元祖村長の方からは、旅さ行くなら、ついでによろしく! と軽~い感じで確約させられたのであった。

という事で、またゲートに大活躍して貰う必要がある。


ただ、折角乳牛等を増やすのであれば、出来ればだが、タンク・カウと呼ばれる大人しい魔物系が良いんだよね。

奴の出すミルクは濃厚で、滅茶滅茶美味しい。

プリンにもお菓子にも最高の素材なんだよね。


肉に関しても美味しいんだけど、例えば従魔にした場合、流石にその従魔の肉を食えるか? と言われると、俺には食えないし、ましてや可愛い俺の従魔を殺させる事も却下だ。

だが、いくら大人しいとは言え、魔物は魔物だから、ホースの様に従魔としなくても大人しく飼われてくれるのか?という疑問はある。

一般の乳牛に比べ、タンク・カウは体格が別格で、成長すると、一般の乳牛に比べ約2倍くらいのサイズになる。

よって、馬とホースの様に紛れ込んで居るという事はまずない。


それだけでは無い。

更に羊も飼いたいらしいのだが、元祖村長曰く、「最低でもアンゴラ・シープ、出来ましたら、ゴールデン・シープが最高ですじゃ!」と注文して来た。

その2種とも魔物である。


「無茶振りするなぁ。運良く見つかったらだからな? そうそう都合良く見つかるとは思えないし、まああまり過度な期待はしないでくれよ。」

と釘は刺しておいたのだが、ニヤニヤしてたから、きっとそんな事を言いながらも何とかしてくれるって思ってるんだろうなぁ……。



それはそうと、旅を再開する前に、先にコルトガさんとコナンさんのレベリングを行う事にしよう。

備えあれば憂いなしだし、下地はそれぞれにあるのだから、上手くすれば、70台くらいまで上げられるんじゃなかろうか?と甘い期待を持っている。

ついでにレベリングが必要な主要メンバーも一緒に連れて行く予定である。


俺とパーティー登録して、1週間もレベリングすれば、十分だろう。



という事で、スタッフからは、ステファン君、アニーさん、リサさん、アケミさんを追加し、初日だけリックも同行させた。

従魔側は、ピョン吉、コロそして、Aシリーズと黒助の予定だ。


そうそう! 俺が旅に出て居る間にジジとジジのダーリンである黒助の愛の結晶卵が孵って、可愛い2匹が生まれたのである。

姉がタマ(雌)で弟はニャウ(雄)と名付けた。タマはニャウよりも少しだけ早く孵化したので、お姉さんなのである。

ジジを拾った頃と同じく、実に可愛い泣き声でジジのおっぱいを飲みながらミャーと鳴いている。

そして、ニャウの方だが、ゴメン……泣き声がニャウニャウと特徴的で、一旦ニャウと思ってしまうと、全く他の名前が思い浮かばなくなってニャウになってしまった。

まあ、ジジも黒助も喜んでくれたので、OKと思いたい。

2匹とも、真っ黒で小さくて、毛もフサフサで実に堪らない。 現在城の中のナンバーワン、ツーマスコットである。

一応、タマ派とニャウ派の派閥があるらしいのだが、どちらもデレデレの表情でこの2匹の成長を見守っている。


こうして、明日から1週間のレベリング週間が始まるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る