第166話 イッツショーターイムッ
またこれか……
まったくこの世界は屑な王侯貴族が多すぎやしませんかね? ねぇ、女神様!!
「いや、助けるのは構わないし、連れて行くのも良いんだけど、それは親と離れ離れにして良いものじゃないぞ。
なあ、村長さん、聞いた限りだと、残った村人達も直ぐに行き詰まるのは目に見えているよな?
だから、子供だけ? 親から切り離された子供は、ズッと心に蟠りを持つんじゃないか? そして大きく成って自分の無力さを嘆くんだろ?
だったらさ、もう村ごと全員来ちゃえよ!」
と思わず言ってしまった。
「えぇ!? 村ごとでございますか!」
と呆気にとられる村長に頷きつつ、話を続けた。
「俺の拠点には、現在2000名以上の人が住んでいて、みんな楽しく暮らしているんだ。
まあ、元は俺が勝手に開拓した場所なんだが、何処の国にも何処の貴族にも属してない。だから、税も無い。
みんなで助け合いながら、人族も獣人もエルフもドワーフも、みんな上も下も無い。差別も無い。種族で差別する様な奴は排除している。
みんな、圧政や差別で苦しんでやって来た連中だから、そこら辺は心配しなくていい。
住む家もこちらで何とかしてやれる。
但し、ちょっと問題があってね、海に面して無いんだよ。
川ぐらいはあるが、漁業は続けられないと思う。
もし何処かの海沿いの空白地帯を見つければ、そこで漁業が出来る可能性は、先々ゼロではないけど。
だから、うちの拠点に来るのであれば、砂糖の生産工場か、農家、畜産業とか、別の業種になってしまう可能性は高い。
ああ、そうそう、だけど、塩も海産物もちゃんと海沿いの村や都市から定期的に日々仕入れているから、海産物も食べられるぞ。
一度、村民全員で話し合ってみてくれるかな?」
「な、なんと! そのような夢の様な場所があるのでございますか! ああ、ありがたや、ありがたや!!
お、お待ち下さい。早速村民達全員で話し合って参ります。」
というと、老人とは思えぬスピードでピューッと走り去り、大声で村民達を集め始めたのであった。
この村長さん、ロックさんというのだが、見た目は、痩せ型でやや長めの白髪で、眼光は鋭い感じ。
一度で良いから、『ロッケンロール』とか『シェケナベィベー』とか言わせてみたい雰囲気を持つ。
「フフフ、また増えそうですね。 でもそうなると、今まで救援物資を配った村も同じじゃないですかね?」
とアケミさんが疑問を投げ掛けて来た。
「うむむ。そう言われればそうだよな。 あの衛兵の感じだと、救済はまずないよなぁ。」
ワァ……どうしようか。戻る? ゲートで戻って、聞いてみるか?
等と自問自答していると、ゾロゾロと村長が村民を引き連れてやって来た。
「ケンジ様、どうか我々全員、あなた様の拠点へ連れて行って下され。」
「「「「「「「「お願いしますだ!」」」」」」」」
「「「「「仕事は何でもしますだ!」」」」」
「あたい達、女衆もガンガン働くよーー! なぁ、みんな!」
「「「「「「「「あたりきさー!」」」」」」」」
と盛り上がっている。
俺は、両手を広げて、話し声が聞こえる様に黙る様にゼスチャーをした。
「よし、じゃあ、みんな! 俺の拠点……エーリュシオンに行きたいかーー!?」
「「「「「「「「「おぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」
と全員が声を揃え片手に拳を握り、高々と上げていた。
フフフ、ちょっとこれ一度やってみたかったんだよね。
その後の行動は、全員非常に素早かった。
先に拠点のスタッフに受け入れ準備をお願いしておき、こっちは村長に言って荷造りをお願いした。
アケミさんや、コルトガさん、コナンさんの3人で手分けし、大きな家具類も全ての家を廻って回収して貰った。
網や漁業に使う道具類を破棄して行こうとしていたので、それを制し、壊れた道具も船も全てを俺が回収した。
家畜やペット達も残さずに集めさせた。
「さあ、これで全部かな? じゃあ行ってみようか! エーリュシオンへ。」
「「「「「「「「「おぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」
俺がゲートを目の前に繋ぐと、真っ先にアケミさんとリックとサチちゃんが入り、向こう側のスタッフとの引き継ぎを行う。
村民達は、事前に説明を受けて居た筈なのに、ポッカリ開いた空間の穴に驚いている。
「ああ、悪いんだけど、繋いだ時間だけ、魔力が減るから、早めに移動してくれるかな?」
と俺が言うと、やっと動き出した。
次々と村民や家畜等、全員が3列ぐらいでゲートを潜って行く。
そして、最後にコルトガさんとコナンさん、マダラ達とピョン吉達が潜った。
俺は、打ち合わせ通り、一旦ゲートを閉じ、最後の仕上げ……まあ、今となったら、毎度の事ではあるが……を行い、更地に換え、女神像と石碑を置いてから、再度ゲートを繋いで拠点へ戻ったのだった。
もうちょっと変化を与えようかとも考えたんだけどね。でもほら、この国って神殿本部もあるし(まあ厳密にはエスター山は治外法権らしいけど)、他の国に比べ女神エスターシャ様のご威光が強いんじゃないかと思うんだ。
もしヤルのであれば、ランカスターの街の方に言い逃れ出来ない様な何かをする感じだろうな。
拠点に戻り、スタッフと主要メンバーに、コルトガさん、コナンさん、リックにサチちゃん、そして今回の移住者の代表であるロックさんを紹介した。
今回の移住者は、全員で89名であったが、家族単位で言うと、34家族なので、家の数は取りあえず足りるらしい。
しかし、今後も増えるだろうからと、開いたスペースにまた住居を補充させられる事になったのだった。
ロックさんに他の漁村の話をすると、
「多分、うちの村とほぼ同じ状態じゃと思われますじゃ。
もし、可能であれば、他も救って頂けんかのぉ。」
と頭を下げられた。
そこで、明日から他の村の村長と面識のあるロックさんに同行して貰い、先方の村に聞いて貰う事にしたのだった。
余談だが、久々に俺が戻った事で、拠点の雰囲気が凄まじい状態である。
もう、沸きに沸いていて、屋台を準備したり、各地域の集会場では、女性陣が集まり、張り切って宴会用の食事を用意しているらしい。
何かウッカリ言いそびれてしまったのだが、明日からまた村々を廻る為に出発するとは、非常に言い辛い雰囲気なのである。
もうね、すれ違う住民が全員、満面の笑みでさ、「あー、ケンジ様! やっと帰って来てくださった。嬉しかーー」とか言われちゃうとさ――――
「困ったなぁ。 何か切り出しにくいよね。」
「ええ、凄い勢いで準備してますよね。」
「わーーい、サチ、おまつりしゅきーー!」
「流石は、主君。住民に慕われておりますのぉ。」
とサチちゃん以外は明日からの事を知っているので、苦笑いしていた。
更に余談だが、コナンさんは、この拠点での和気藹々ぶりに滅茶苦茶驚いていた。
「ビ、ビックリしたんだな。まさかここまでとは思わなかったんだな。だな!」
と口では差別が無いと言いながらも、他よりマシ程度と思っていたらしい。
早速、リサさんに錬金工房やなんかを案内して貰う事にしたようだ。
俺はというと、そのままステファン君に拒否権無く拉致され、予定された現場で、ただひたすらに住居を設置させられた。
300軒程設置が完了し、やっと解放されると思ったら、そのまま公園や道路等も整備させられ、更に農地地区へ連れて来られ、ここでも大規模な整地をさせられ、最後に『大地の息吹』を全域に掛けされられたのだった。
まあ、久しぶりでサリスも楽し気に農地作りをしていたけどね。
最近、ステファン君の無茶振りが凄いんだよね……。
抗議すると、「大丈夫ですよ。ケンジ様はヤレば出来る子ですから。ね?」と返され、反論出来なくてついつい「ハイ」と。
そして、住民達へ何とも言えないままに夜の祭りという名の大宴会がはじまったのだった。
余りの歓迎振りに、感極まった白髪のご老人が、弾けてしまい「イッツショーターイムッ!」と一発芸を披露したとか、しなかったとか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます