第165話 嵐がもたらした物
翌朝、朝食を食べた後、再度大神殿へと向かったのだが、何か昨夜あったらしく、本日は女神様や神々の事について教えてくれる様な余裕のある人が居らず、残念ながら再度お参りだけして、神殿本部を後にしたのだった。
「うーーん、何か慌ただしい雰囲気で聞くに聞けなかったな。ちょっと残念。」
「何ぞあったのやも知れませぬな。某が聞いて参りましょうか?」
とコルトガさんが申し出てくれたのだが、邪魔をしちゃ悪いからという事で、大人しく帰る事にしたのだった。
馬車に乗り込み、停車場から馬車を出して、ユックリと城門を出た。
下りでは、馬車のスピードが出過ぎると危ないので、通常であれば、車輪に付いているブレーキを併用しながら下るのであるが、俺達は周囲に誰も居ない事を確認し、一気に麓へとゲートでショートカットしたのだった。
「こ、これは、反則級の便利さなんだな!だな!!」
「まあ、便利だけど、旅の情緒を楽しむという点では、台無しだよね。便利だけどね。」
そう、本来旅とはその目的地までの行き帰りの過程を楽しむ物でもあるからである。
最悪な状態に陥ったとしても、後で振り返ると、それもまた一興なのである。
「さて、これで今回の主目的はほぼ終了した訳なんだけど、このまま速攻で帰るのも何かちょっと味気ないよね?
どうだろうか、一旦沿岸部まで戻って、このまま沿岸部を回ってクーデリア王国へ入って、クーデリア王国の王都経由で戻るってのは?」
と俺が提案すると、全員が即座に賛成してくれたのだった。
という事で、再度キランドールの手前まで一気に戻り、沿岸部を走る街道に合流したのだった。
それから二時間程沿岸部を走っていると、突然ゴロゴロと雨雲が湧いて出て来て、所々黒い雲の中で稲光が光っている。
「おーー、旅の途中で初の雷雨!?」
と俺が感心していると、
「主君、そんなに感心している場合ではありませぬぞ!
ここは障害物の無い場所故に、落雷の恐れがございます。」
とコルトガさんが焦り気味に注意してきた。
ああ、そう言えば、この辺りって、高い木1本ないよな。
どうしようか。
雨の具合によるけど、流石に雷雨の間、テントに居るのも危険な気がするし、第一、それだとマダラ達が危ないもんな。
何処か適した場所が無いかと辺りを見回していると、前方の遙か向こうに大きな木が生えている丘を発見した。
「よし、あの丘の木の所まで一旦避難しよう。」
という事で、視認出来る距離なので、一気にゲートで木の下に出た。
また、このままだと濡れたり落雷の恐れもあるので、木の下の一郭を整地して、そこに洋館(小)と厩舎を出した。馬車を仕舞い、厩舎にマダラ達を入れて、泉の水や餌等、いつものセットを出してやった。
マダラに
「なあ、雷雨になりそうだけど、ここで平気かな?」
と聞いてみたら、
<大丈夫だよー、僕らこれでも外で暮らしてる種族だもん。雷雨なんてへっちゃらさーー>
と言っていた。
「そっか。まあ、何かあったら遠慮無く呼ぶんだよ?」
と言ってから、ポツポツ降り出した雨から手で頭を庇いつつ、屋敷に入ったのだった。
「ふぅ、何とか本降りになる前に避難出来たね。」
「ええ、国によって違いますけど、マスティア王国はこの時期が雨期なんですか?」
アケミさんの質問で、俺は始めてこの大陸の季節柄の天候の違いを知ったのだった。
「え? 雨期の時期って国によって違うの?」
「主君、アケミ殿の仰る様に、この大陸では、国が東西南北に別れておりまする。
その為、正確には大陸のどの位置にあるかで雨期がズレる感じでござる。」
「ああ、そう言う事なんだね。すまない、全然知らなかったよ。」
「で、でも、今は確か、雨期じゃないんだな。だな。」
「そうなのか。じゃあ単純な嵐とかその類い?
おー、スッゴい稲光だねぇ。いよいよ本格的だ。」
カッ ゴロゴロゴロ
窓の向こうで稲光から遅れる事数秒するとゴロゴロゴロと恐ろしい音が鳴り響いている。
「ヒッ! ご、こわいでしゅーー! エーン」
余りの恐ろしさにサチちゃんが泣き出し、俺の足にしがみ着いて来た。
俺は、優しく抱き上げて頭を撫でてやる。
リックを見ると、妹の手前、やせ我慢をしているのであろう……さっきから、手のこぶしを握り締め、緊張で両手足を突っ張っらかしている。
ピカッと光ると、ビクッとしている。
俺はソファーに座り、リックを呼んで、隣に座らせて、肩を抱き寄せてやった。
そうすると、安心したのか、身体の力が抜けて行ったのだった。
「あ、そうだ! 遮音をONにすれば、雷鳴は聞こえなくなるな。
アケミさん、悪いんだけど、玄関の横のコントロールパネルで遮音を起動してくれる?」
「はーい!」とアケミさんがパタパタとコントロールパネルに近寄り、操作をしてくれたらしい。
外の恐ろしい雷鳴がピタッと鳴り止んだ。
「あ、しずかになっちゃったよ?」
それまで俺の肩に顔を埋めて泣きながら、雷鳴でビクビクしていたサチちゃんが、エヘヘと笑い出した。
リックはリックで、
「な? サチ、だから言っただろ? 大丈夫だって。ヘヘヘ」
とリックも『え? 雷? 僕平気でしたよ?』って顔でサチちゃんに自信満々に言っていた。
ハハハ、微笑ましいな。 コルトガさんやコナンさんも、ポワンとした笑顔でこの2人のやり取りを眺めていた。
そんなホンワカした室内とは真逆で、外は益々大荒れに荒れていた。
木々は強風で撓る様に揺れ、海上に堕ちていた雷は徐々に陸地へと向かって来ている。
横殴りの雨が、窓ガラスをバチバチと叩いて居る様だが、遮音が聞いているので、全く音はしない。
「この『遮音』は素晴らしいですな。稲光が見えないと、外は嵐とは気付きませぬな。」
とコルトガさんが絶賛している。
「こ、こんな立派な家が入る程のマジックポーチって凄いよ!」
とコナンさんはコナンさんで、この建物の付与と、改めて俺の持つマジックポーチの凄さを絶賛していた。(しかも興奮したのか、普通の喋りで)
「前にも言った様に、このマジックポーチはとある方から、中身入りで譲り受けた物だから、俺の手柄では無いんだけど、でも本当に凄いよねぇ。」
まあ、そう言う事もあって、神殿本部にお礼しに行ったんだけどね。
「しかし、これだけ凄い嵐だと、近隣の村とか、大丈夫なのかな?」
「うーん、ランドフィッシュ村では、これ程の嵐は体験した事が無いですが、それでも被害が出てた記憶ありますし、結構拙いかもしれませんね。」
「ちゃんとした領主であれば、救援物資等の備蓄を放出するじゃろうが、さてここら辺はどうであったか……」
「た、多分、ランカスター子爵かな? かな??」
「おお、ランカスター子爵じゃったか。それなら多分安心じゃろう。」
◇◇◇◇
うん、全然大丈夫では無かったね。
「俺は言いたい! 貴族の世襲制に、物申したいぞ!
大体、ご先祖様はそれなりの功績を挙げた人物かもしれないが、その子孫に能力が無いと、領民が割を食うっておかしいだろ!!」
と俺が怒りを露わにしていた。
翌日の朝まで嵐は続き、俺達は丘の上に陣取っていたので、問題無かったのだが、街道辺りは完全な泥濘状態に変わり果てていた。
普通であれば、馬車の走行は勿論、徒歩も厳しい有様である。
こんな時は、マダラ達ハイ・ホースの足場強化スキルの独壇場だ。
俺達は、泥濘んだ街道を進み、被害を受けた近隣の村々を廻って、救援物資をバラ撒いていた。
沿岸部に近い村は、屋根が飛んだ家、倒れた木の直撃で破壊された家、怪我人、病人が多数出ていた。
まあ、領内の村を全て廻るのは、街道がこんな状況なので、初動が遅れてもしょうがない。
だが、3日掛け、近隣の村を6箇所程救ってやっと次の都市、ランカスターの街へ入る際に、一悶着処ではなく、モメたのだった。
衛兵曰く、
「あー、ここで物資を没収する。
全てを置いて立ち去る様に。
これは領主様の命令である。悪いな……」と苦い顔をしながら告げて来た。
「ほほー、我が主君に対し、そんな事を命令するとは、ランス殿も焼きが回ったのか?」
とコナンさんが衛兵に言うと、
「あ、もしかして、お亡くなりになった先代様をご存知の方ですか?」
と急に態度を換えて来た。
「うむ、某、ランス殿とは何度も酒を酌み交わした仲であった。
先代様という事は、ご子息……確かご長男はタルリール殿じゃったか? 後を継いだのかの?」
「あ、いえ、ご長男様であれば、良かったのですが、ご長男様も、その……お亡くなりになりまして、現在ご次男のギールエン様が領主となっております。
三男様であれば、この様な事は無かったのですが……。おっと、今のは失言でありました。どうかお忘れになって下さい。」
と衛兵が悲しい顔で告げて来たのだった。
「そうか、あのご次男殿かぁ~。心中お察し致す。」
とコルトガさんも苦い顔で応えたのだった。
結局、衛兵のおじさんは、俺達を見なかった事になって、俺達は、おじさんがよそ見をして居る間にUターンして、街道を迂回した。
現在このランカスター子爵領は次男の悪政で荒廃し、荒れに荒れているらしい。
勿論救援隊も救援物資も何も出してない。
という事で、俺は今怒って居る訳である。
「ある意味、領主と領民って、ギブアンドテイクの筈なんだがなぁ。搾取だけって可哀想だよなぁ。それで物申すと無礼討ちだろ? 理不尽だよなぁ。」
「そ、そうなんだな。り、理不尽なんだな。だな。」
とコナンさんも悲しい顔で呟いていた。
ランカスターの街を迂回し、海沿いの村に救援物資をバラ撒きつつ、先へと進んでいたが、とある村で、村長からお礼を言われつつも悲痛な顔でお願いされたのだった。
「のぅ、旅のお方や。こんなお願いは心苦しいのじゃが、聞いて頂きたいのじゃ。
実はのぉ、今回の嵐で、この漁村は船を全部ヤラれてしもうてのぉ。
もう漁業は絶望的なのじゃ。
しかし、ワシらは朽ちていくのはええんじゃが、子供らがのぉ……不憫でならんのじゃ。
じゃから、せめて子供らだけでも奴隷でもええ、連れて行っては貰えぬじゃろうか?」
15名の子供は……下は3才ぐらい~上は13才ぐらいまでで、見るからに痩せていた。
「前の領主様の時は、こんな事は無かったのじゃがのぉ。」と村長が悲しい顔で呟いていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます