第164話 神殿本部
翌朝、朝食もついでに全員に配り、全員から感謝されつつ、停車場から出発した。
出がけに、昨夜話をしてくれた大商会の会長は、「もし王都にまた来られる際には、是非我がサンマルク商会の私、マルコをお訪ね下さいませ。『英雄殿』」と言いながらウインクをしていた。
ゲゲ! このオッサン、判っていて昨日の話をぶちかましたのか!!! いやぁ~商人って怖いわぁ~。
まあ、面白い人だったけど。
俺は思わず、笑顔が引き攣るのを感じながら、「ハハハ、ナ、ナンノコトデショウ。 ええ、機会があれば、お邪魔します」と頑張って返しておいた。
早朝の曲がりくねった道を軽やかに進む馬車だが、上下の凸凹は丸っきり感じ無いものの、横Gはかなり強烈である。
「これさ、横Gがかなりキツいね。」
「横Gが何だか判らないですが、横揺れというんでしょうか? この曲がり角を曲がる際の踏ん張りが、結構気持ち悪くなります。」
とアケミさんも少し酔ったのか、少し青い顔をしている。
「オェッ……な、何か気持ち悪いんだな。や、ヤバいんだな!」
とコナンさんも真っ青である。
それとは対象的なのが、ちびっ子2人。
先程からリビングの床に寝転び、横Gが掛かるとキャッキャと言いながらコロコロ転がってはしゃいでいる。
俺は慌てて、マダラ達にペースをガッツリ落とす様に指示し、全員に『マインド・ヒール』と『リラックス』それに三半規管を重点的に『ライト・ヒール』を掛けてやった。
「ふぅ~、ちょっと危険な状態でした。やっとスッキリしました。」
と顔色が元に戻ったアケミさんがホッとしてため息をついていた。
コナンさんもグッタリとソファーに寝転んで「ゲフッ」とか言ってるし。
そうか。横揺れか。横Gを無くす感じの付与って出来ないかなぁ……。
うーーん、イメージとしては、某SFドラマに出て来る宇宙船のGダンパーとか、慣性ダンパーって感じか。
俺は、横揺れから精神的に逃避する様に、頭の中で付与する魔方陣のイメージを練って行った。
40分ぐらい経った頃、イメージが固まり、魔方陣が完成。
早速馬車を一度路肩に停めて、一旦外に降り、馬車の車体の下に潜って車体全体に付与をした。
「さあ、これでどうだろうか? 一応前後左右の揺れ防止の付与を車体に掛けてみたから。」
と全員に告げると、ちびっ子2人からだけブーイングが出た。
マダラ達に告げて、出発するが、全然前後のGを感じ無い。
まるで頑丈な家の中に居る様な気分である。
「おお、効いてる感じするね!」
「ええ、これ今動いているんですか? 窓の風景は結構良いスピードで流れてますけど。」
「す、凄いんだな! こ、これは凄いんだな!!」
とコナンさんも絶賛している。
早速コナンさんの質問に答えつつ、付与したイメージを説明して行く。
2人で30分程、付与論議を楽しんだのだった。
さて、さっきから大人しいコルトガさんだが、あれだけ豪快に揺れていたのにも拘わらず、ズッと眠っていたらしい。
その後は、特に問題も無く、途中2回昼休みとおやつの休憩時間を入れたぐらいで、この長い山道を走り切った。
夕暮れが迫る頃には、神殿本部が先に見える辺りまで辿り着いていたのだった。
ついに、ついにここまで来た!
これまでの長い道のりだったが、もしかして、もしかして、今日ここで女神様に直接お礼が言えるかも知れない。
そう考えると、感慨深い物がこみ上げて来る。
神殿本部は、大神殿とそこに勤める? いや神に仕える? 人達が住み、更に事務的な処理をするオフィース的な総合宿舎的な建物とに別れており、大神殿の祭壇に関しては一般公開もしており、参拝は自由との事である。
特に信者と言うよりは、個人的なお礼が目的な訳だが、大丈夫だよね?
出来ればだが、神殿本部でついでに、女神エスターシャ様以外の神々の事についても尋ねてみたいと思っているんだよね。
だって、何か詳細解析で知ったところでは、俺の為に錬金神ドワルフ様にもご迷惑をお掛けしているみたいだったし、多分俺の知らない所で、鍛冶神様やら農業系の神様やら色んな各部署の神様方へ、間接的にご迷惑をお掛けしたんじゃ無いか?という疑念が頭から外れない。
きっと、あの詳細解析Ver.2.01にバージョンアップした神様も、それとあの各種の解説文を書いて下さっている神様もいらっしゃる訳だし。
神殿本部であれば、そこら辺も詳しく教えて貰えるのでは無いかと期待している訳である。
そして、漸く日が落ちる前に、神殿本部のある一郭へと辿り着いたのだった。
神殿本部のある場所には、周囲を一応城壁が取り囲んでいて、城門から入る事となるが、ここを守るのは国や領軍の衛兵とかではなく、神殿に所属する聖騎士と呼ばれるガーディアン達である。
そう、先日コナンさんやコルトガさんに教えて貰うまで知らなかったのだが、この神殿本部はマスティア王国国内にありながら、マスティア王国とは違う独立した……いや、と言うよりは何処の支配も受けない、完全なる不干渉地帯という方が正しいのか? まあそう言うところなのだそうだ。
コナンさん曰く、そう言う場所だからこそ、何処からもチャチャを入れられずに引き籠もれたのだと言っていた。
それを聞いて、俺はなるほどと納得した。図らずも俺があの拠点をあの場所に作ったのと発想は同じだったという訳だ。
城壁の中に入り、無料の停車場へと馬車を停めて、マダラとB0を労いつつ、泉の水と餌と果物を出してやる。
ピョン吉とコロにも泉の水とおやつを出してやって、馬車の番をお願いしておいた。
そしていよいよ、待望の大神殿である。
到着した大神殿の規模は非常に大きく、軽くドワースの神殿の4倍以上のサイズであった。
高さも倍くらいあって、その横には、天辺に鐘がつり下がって居る塔があり、その何れも夕日に照らされ、白い柱や壁が茜色に染まっていて、息を飲む程に見事であった。
思わず数分魅入ってしまったが、暗くなる前に馬車に戻らないといけないので、慌てて神殿の階段を上り、扉を開けた。
すると、丁度その時、ゴーン、ゴーン、キンコン、ゴーン、キンコンと塔の上の鐘が鳴ったのだった。
「へー、時報代わりの鐘の音か。 なかなか良い音だねぇ。」
夕暮れ時という事で、他の参拝者は誰も居なかったが、礼拝堂の中はそれなりに暗かったが、祭壇の前までの通路が明るく照らし出されていた。
なかなかに凝った演出である。
俺達は、その演出に感動しながら、祭壇の前へと進み、跪いて感謝の祈りを捧げた。
うん、判っては居たさ。 そんな良い歳をした大人な俺がお伽噺の様に、女神様にお逢い出来るなんて、ある訳が無い事ぐらい。
結局心の中で、女神エスターシャ様や、その他の神様達に、心からのお礼を言ってから、立ち上がって一礼をして、礼拝堂から出たのだった。
神殿の扉から外に出ると、丁度鐘の音が鳴り止み、辺りは徐々に星が見え始め、2つの月が遙か向こうに見え始めたのであった。
月明かりが、扉から出る俺達を迎える様に照らし、ピョン吉達の待つ馬車へと戻ったのだっった。
結局直接お礼を言う事は出来なかったが、女神様やその他の神様の元へ感謝の気持ちが届いたと思いたいものだな。
夏が近いとは言え、山の夜はかなり冷え込む。
夕食は、海鮮鍋にして、全員で美味しいブリや鰯のツミレ等を堪能した。
健二達は、夕食の鍋に夢中になって居たので気付かなかったのだが、丁度鍋を囲んでワイワイと食べて居る頃、神殿本部では、大騒ぎになっていたらしい。
普段ならない鐘が長い間、一斉に鳴り出して、暫く鳴り止まなかった事や、何故か礼拝堂の祭壇への通路がどこからともなくライトアップされて居たからである。
通路のライトアップは、30分ぐらいで消えたらしいのだが……。
余談ではあるが、この大神殿の横の鐘だが、通常鳴らす事は無い。
年に1度の『恵みの日』の朝、日の出と共に鐘を鳴らす。
後は神殿として聖人や聖女とされる方をお迎えする際にも鳴らすぐらいである。
鐘は、塔の下に垂れ下がっているロープを10人掛かりで引っ張って、やっと鳴る程に大仕事なのである。
それが誰もロープを引っ張って無いのに勝手に鳴ったりすれば、そりゃあ大騒ぎもするって物だ。
しかし、神殿本部の総司祭長は、概ね悪い前兆としてでは無く、寧ろ吉兆と受け止めていたのだった。
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