第159話 天岩戸作戦2

第二弾の匂い爆弾は先程のそよ風を装った物よりも濃度を2倍に上げ、殺傷能力を上げた。


さぁ、どうだ! これが日本人をメロメロにする至高の香りだ!(俺の知る限りだが)


おー! 見えるぞ! 俺にも見えるぞ! その心の葛藤が! 窓の向こうで揺らめく影が。


フッフッフ。 この匂いに抗える奴など―――― 何!? た、耐えただと!?


そうか。俺とした事が、どうやら奴を見くびっていたらしい。


認めたくない物だな。若さ故の驕りを。



俺は奴の自制心と意地に、惜しみない賞賛の拍手を送った。(心の中で)

俺が奴の立場であれば、確実に3日目には堕ちていたな。

流石だと言わざるを得ないだろう。

超一流の筋金入りの引き篭もりだ。

敬意を込めてキング・オブ・ヒッキーと呼ばせて頂こう。



良かろう。明日からもう一度やり直しだ。

こうなったら、トコトンまでやってやろうじゃないか。



夕食を終え、テントに入った後、俺はコルトガさんに奴の食事の好みを聞いて見た。


「ところでさ、今更感が半端ないけど、コナンさんの食の好みってどうなの?」


「食事の好みでございまするか。うむーー、どうであったかな?

何でも良く食べておったとしか、覚えてござらん。

食事かぁ……あ! 食事とは違いまするが、奴は酒は飲めませぬな。」


「ほぅ! 下戸か。」


「カエルですか? うーん、まあ食べろと言われれば食べるとは思いまするな。」


「カエル? ああ、下戸の意味を知らなかったのか。下戸とはお酒がダメな人を指す言葉だ。そこはスルーしてくれると助かる。

辛い物とか甘い物はどうなの?」


「うーん、甘い物ですかな。 どうじゃろうか。

食べて居るのを見た事はござらんな。

そもそもですが、マスティア王国では、甘い物等と言う高級な物も、塩辛い物や主君のお作りになる様なスパイスをふんだんに使う様な贅沢な食べ物は、某の様な者にも庶民にも回っては来ぬ物故に、恐らく知らんのではないかと。」


「あー、そう言えばこの世界では、砂糖もスパイスも高級品だよね。そっか。ふむふむ。いや、参考になったよ。」


俺がお礼を言うと、

「あ!なるほど!! やっと意図が某にも判り申した。 なるほど。流石は我が主君。えげつない手をお使いになる。グフフフフ」

とコルトガさんが凄く悪い顔で笑っていた。 コルトガさん、その笑顔、怖いから! ね?


「しかし、判ってしまったんだったら、一応念の為に言っておくけど、態とらしい素振りを見せると、逆効果になるから、今まで通りぐらいの感じに収めて置いてよ?

敢えて、『わぁーーー、ナンダコレハー、トテモオイシイゾーー』とか棒読みで言われると、気付かれてしまうからね?」


「ダハハハハ。某は大根役者でござるから、腹芸は出来ませぬ故に。肝に銘じておきまする。」


なかなか有意義な情報だった。

明日の朝から、取りあえず色々方向を考えてやって行こう。






夜中と翌朝、起きてから作戦を考えつつ、取りあえず、朝は軽めに行く事にした。


ホットケーキとメイプルシロップでジャブを繰り出すとしよう。



表に出て、テーブルと簡易キッチンにクリーンを掛けてから、ホットケーキの生地を作る。


コンロにフライパンを並べバターを落とし、ジュワーとバターの焦げる良い匂いが出て来る。

これをガッツリ小屋の方へ空気爆弾として濃縮して投下。

お玉に掬ったホットケーキの生地を各フライパンに投入し、ジワジワと火を入れる。

フンワリさせる為に、ある程度火が入ったところで、更に生地を上に垂らして行く。

所謂、後乗せフワフワである。


全員が揃うまでの間に、焼いては収納を繰り返して行く。

勿論換気扇代わりの空気爆弾(実際は爆弾よりという匂いの詰まった風船かな)の出口は小屋の周囲である。

フフフ、どうだい? モーニングコール代わりの甘い香りは?


お! 2階の窓に動きが見えるな。 勿論、俺は気付いてない風でそのままスルーする。



全員が揃ったところで、サラダと美味しいコーンポタージュスープ、ベーコンをカリカリに焼いた物、ソーセージ、それに先程焼いたホットケーキだ。

更にメイプルシロップを取り出して、それぞれがお好みで掛けていく。

辺りに充満するメイプルシロップの甘い香り。

勿論これも、濃縮して小屋へお届け。


フフフ、判るぞ、お前の動揺が! ハハハハハ。


そして、〆のデザートは例の果物各種だ。

これも、堪らないフルーティーな香りを放つ凶悪な一撃になるだろう。


極限まで感度を上げた気配察知が小屋の中でジタバタしている奴の動きをトレースしている。

フッフッフ。



の、乗り切りやがったか――

まあ、良いさ、朝の軽いジャブだし。


さあ、君にとっては地獄の拷問の始まりだぞーー!




昼は、連日ガッツリ系が多かったので、アッサリ目のうどんをちょいすした。

カツオ風味の黄金の出汁の香りが堪らない。


リックとサチちゃん、それにコルトガさんにとっては、初めてのうどんだが、大好評である。


「ケンジ兄ちゃん、これツルツルしてて美味しいねぇー!」

「サチも、これすきーー!」


「主君!これはまた美味いですな。ツユも堪らんです。」


付け合わせの『かしわ飯』のおにぎりも大好評である。

沢山握っておいたおにぎりがアッと言う間に無くなったのだった。




さあ、次は3時のおやつだ!


俺は、鯛焼きとたこ焼きの屋台を取り出し、俺は鯛焼きの屋台、アケミさんにはたこ焼きの屋台を任せ、焼き始める。


この2つの匂いは混ぜると逆効果になりそうだったので、まずは、たこ焼きの匂いだけをお届けしてみた。


すると、途端に動きがあって、2階の窓に駆け寄って来ている。


「主君! これはまた美味いですな!」

とコルトガさんが演技抜きで大喜びして、バクバクと食べている。


「ああ、熱っ! 美味い!!」

「丸くって、おいちー! そとはカリカリなのに中はフワフワでしゅ。」

子供らにも大好評だ。

一段落付いたところで、小屋の周囲の匂いをリフレッシュし、今度は俺の鯛焼きの匂いをお届けしてあげた。


「ほほー、主君、これはまた面白い食べ物ですな。鯛焼きですかな。ふむ……」


お! また窓に張り付いているな。

刺すような視線がビンビンと伝わって来るぞ!


フッフッフ。


まだまだギブアップするなよ! 夕食が残ってるんだからな!


天岩戸


さあ、夕食の準備に取り掛かるとしよう。

今夜のメニューはみんな大好きカレーライスである。

当社調べでは、カレーが嫌いな人はうちの拠点では、皆無であった。

これまで自分らが使う事の出来ないスパイス類を延々と育てていた農民達の反応は激怒に近かった程だ。


「何でこんな美味しい物を今まで作り続けていたのに、知らなかったんだよ!」と。


大きな寸胴で煮込むカレーのスパイシーな香りをご堪能あれ!


フッフッフ、また窓に張り付いている。

正にガン見状態だ。


通常であれば、俺が作った魔道具の圧力鍋で時間短縮で作り上げるのだが、ここま敢えて普通に寸胴でジックリと煮込むのだ。

俺が寸胴の前で約3時間グルグルとかき混ぜていると、奴も3時間窓から凝視したまま動かなかった。


夕暮れ時、

「おーい、夕飯出来上がったよーー」


「「「「はーーい!」」」」


全員が、テーブルに揃い、頂きます!


「美味い! なんじゃこれは!! スパイシーな辛さと辛さだけでなく、色々な味が複雑に混じっておって、正に口の中が爆発しそうな美味さに打ち震えておる!!」

とコルトガさんが大絶叫。 ナイスだぞ! その演技無しの反応、グッジョブだ!


「ケンジ兄ちゃん、これ辛いけど、甘味もあって美味しいーー!」

とリックのお子様用リンゴと蜂蜜入りカレーも大好評。

「サチもこりぇすきーーー!」


全員ニコニコと食べ進め、お代わりしている。


「やっぱり、カレーは長時間煮込むと美味いよなぁ~。これさ、翌日に食べると更に味が染み込んでて激美味になるんだよね。」


「フフフ、問題は翌日まで残るかどうかですね?ウフフフ」

とアケミさん。そう、拠点では翌日まで残らないのである。全員がガツガツと食べ尽くすから。



奴は?というと、滅茶滅茶動揺しているのが、伝わって来ている。

まあ想像であるが、大体親指の爪を噛んで居る感じじゃなかろうか?


食後は、俺達は、カフェオレ、子供にはココアを作ってやった。


「おー! 主君、これはまた美味い飲み物ですな!!」


「ああ、そう言えばコーヒーを飲んだ事が無かったよね? これはコーヒー豆を乾燥させて焙煎した物を粉にして、お湯で蒸らしながらジックリ時間を掛けて落とした、コーヒーって飲み物にミルクを同量ぐらいで混ぜた物。

カフェオレって言うんだよ。良い香りもするだろ? ああ、そうだった。時間もあるから、王都で買ったコーヒーの実を実験的に焙煎までしてしまおう。フッフッフ」

そう、コーヒー豆の香りって凄く良い匂いするんだよね。

子供の頃、コーヒー豆の焙煎した香りを嗅いで、

これは、絶対にチョコみたいな美味しい物に違いない。 親は美味しいから子供に食べさせないんだよ!って勘違いしてコーヒー豆を1粒口に入れて噛んで、悶絶した事があったしな。


ハッハッハ、今では良い思い出だ……大人になってからの失敗に比べれば……。

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