第156話 コナンと言う男

夕暮れの近付く中、当初の目的地であったエスター山方面の街道へ出て南東へと進路を取った。

マダラ達はここ数日運動不足だった様で、活き活きと飛ばしている。


<走るの楽しいーー!>

<キャッハーーー!>

と喜びの声が五月蠅かったりするのだが、敢えてスルーしておいた。


そして、王都から60km程離れた辺りで路肩の広場に馬車を停め、野営の準備に入ったのだった。


一時はどうしようかとも思ったが、大事にならず王都を脱出出来たので、ドンマイというところだろう。


コルトガさんが知っていた様なので聞いてみたのだが、あのサンバルタン子爵の長男と言う生物?は、非常に悪評が尽きない奴らしく、兎に角悪い意味で『貴族らしい貴族』だそうだ。

その上、女好きらしく、これまでに何人もの女性が半ば拉致される様に消えたらしい。

更に言うと、王都の街中では、馬車は5mぐらいで止まれる速度までしか出してはダメらしい。

今回の様なケースで死傷者が出た場合、幾ら貴族とは言え、かなり拙い事態となるのは間違いないと言っていた。

故に、あそこで助けに入った事で、普通なら咎められる事は無いという事であった。

あ、そうそう、あと重要な事だが、サンバルタン成人は、純粋な人族である事は間違い無いと。 まあこれが一番驚いたね。



翌朝、清々しい朝を迎え、マダラ達の食事を出した後、俺達も食事を取って、出発した。

エスター山に向かう街道は、割と巡礼の人が多く、乗合馬車も多数出て居るらしい。


このルートは特に交通量が多い事や、神殿本部のお膝元という事で、この街道で盗賊をやる様な罰当たりはほぼ皆無らしい。

だがしかし、魔物は普通に出るので、結局冒険者の護衛無しでは危険なのである。

その為、護衛をケチる徒歩組や馬車組は、なるべく護衛を雇っている一行に着いて廻るのである。

所謂コバンザメ状態である。

もし、魔物が出た場合、他の商団なんかが雇った護衛に助けて貰う気満々らしく、野営地もそう言う一行の居る野営地の傍で一泊するらしい。


まあ逞しいというか、意地汚いというか、ソコソコの商人なら自分で護衛を雇えよ! と言いたくなる。



何でこんな話をしているか?というと、休憩時間になると、一緒に休憩場所の後方に停車する馬車が5台ぐらいに増えているのである。

何かストーキングされている様で、落ち着かない。

ストーキングしている馬車側も何かこちらの様子をチラッチラッと盗み見ていて、こちらが出発する素振りを見せると、慌てて準備を始めるのである。


「ガハハ、何か後ろに鬱陶しいのが着いて来ておりますなぁ。」


「いや、笑い事じゃないって。 何か監視されている様で、気持ち悪いんだけど。」


俺が心底嫌そうに言うと、アケミさんも苦笑いしているし。


「助け合いって言うのは一方が一方的に助ける事を指す言葉ではなく、相互に持ちつ持たれつな筈だし、無言で寄生されるのは何か違うよね。

という事で、次に出発したら、スタートダッシュをキメて、ブッチギリたいと思います! マダラ大先生とB0大先生、宜しくお願いしますね!」


俺がニヤリと笑いながらマダラ達にお願いすると、

<おっけーー!>

<まかせてー!>

と軽い返事が返って来たのだった。


「じゃあ、みんな馬車に乗って。 レディー……ゴーー!」


「「「うわっ!」」」

「キャッ!」

「キャハハ」


みんながスタートダッシュでコロコロと広い馬車の車内を転がってしまって軽い悲鳴をあげていたが、サチちゃんだけはキャッキャと喜んでいた。


爆発的な加速で見る見るトップスピード近くまで加速する馬車。


後方の窓を見ると、既に先程まで居た休憩広場すら見えなくなっていた。


「ハッハッハ。流石ですな。マダラ殿とB0殿は。」

とコルトガさんが腕を組み、ウンウンと頷いていた。




途中追い越しや離合等で速度を落としたものの、ノンストップで3時間走り続けたお陰で、午後3時頃には、目的地まで残りの距離は半分を過ぎていた。

一旦休憩を取る事にして、街道から外れた木陰へと馬車を停めた。

マダラ達に泉の水とおやつ代わりの果物を与え、俺達もおやつの時間とした。


休憩の合間に地図を出して、分岐までの距離を確認する。

この街道を真っ直ぐ行けば神殿本部へと続くのだが、目的地の隠れ家?に


「このコナンが隠居している小屋への道ですが、かなり判り辛い道なのです。

しかも、かなり引き篭もり体質故に、ほぼこの道を使ってないと思われ、もしかすると、草で見過ごす可能性もあるのです。」


「えっと、その脇道の分岐ポイントに、何か目印になる様な物は無いのかな?」

と聞いてみたが、首を横に振っていた。


えー、ダメじゃん。


「何か、もの凄く迷ってしまいそうな予感がするんだけど。」


「ハハハ、お恥ずかしながら、某も同感です。」


まいったなぁ。 このアバウトな地図を見るだけでもエスター山って滅茶滅茶デカいよね。


「それに、まあ奴は結構お茶目な所もありましてな、隠匿や罠や心理的な引っかけを作るのが大好きでしてなぁ。

某も、過去に10回訪問しに出向いて、辿り着いたのは1回のみなのですよ。ガハハハハ」


「ちょっ! 今、サラッと一番重要な事を笑って誤魔化したよね?

到達率が1割かよ!! それ何気にかなり重要だよね?」


「ガハハハ、あれ?お伝えして居らんかったかの? いや辿り着かなかった9回の内、3回程1ヵ月以上彷徨う羽目になりましてな。

運良く、崖から滑り落ちたら川がありましてな、その川の流れが、これまた急で―― まあお陰で下流まで流されて無事生還致しました。ガハハハハ」


いやぁ、ドン引きだよ。

欲しい人材ではあるけど、何か既にリタイヤしたい気分になってきた。


「しかし、ご安心めされ。 主君は必ずや辿り着けると、某の直感が申しておりますれば。」

と胸を張るコルトガさん。


過去に9回迷って、内3回も川に転げ落ちたコルトガさんの勘は当てにならんな。


「ああ、でも、最悪迷ってしまっても、『ゲート』を使えば、取りあえず脱出は可能なのか。

それに食料も山で一生暮らせる程あるしな。 まあ当たって砕けろか。」


「そう、そのイキですぞ!」

とコルトガさんがニヤリと笑いながら、締め括っていた。


しかし、悪戯好きよりという、引き篭もり体質って言うぐらいだから、本気で誰も寄せ付けない為に罠を仕掛けたりして居るんじゃないかな?

だけど、俺自身も引き篭もってたし、似た者同士だったりして? フフフ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る