第155話 荒ぶるジャ○・ザ・ハット?
みんなで和気藹々とメインストリートを歩いていると、通りの反対側から、「あーー! おっきなウサちゃんだーーー!」と言う大きな声がした。
俺はハッとして声のする方を見ると、4歳ぐらいの女の子が、ピョン吉の方を目指し、脇目も振らず駆け出している。
そこへは運悪く街中を走る馬車としては速度の速い豪華な馬車が気付かないのか直進して来ていて正に子供を轢く一歩手前であった。
その後方では、お母さんと思しき女性の真っ青な顔が目に入った。
「あ!」
小さく叫んで、瞬間的に、身体強化、身体加速で一気に加速して衝突の寸前で女の子を抱き上げ、俺達の周囲にシールドを張った。
ドシャーーン ヒヒーーーン
辺りに衝突音と馬の悲鳴が鳴り響く。
そして、その子のお母さんと思しき女性の悲痛な叫び声が後を追う。
「キャァーーーーー エリンちゃーーん!」
辺りが騒然としたが、間一髪で俺は女の子を抱き留めて、背中を馬の方に向けて庇っていた。
一瞬遅れて、
「ワァーーーーーーーーン」
と女の子が泣き声を上げ始める。
「おーーい、貴族様の馬車に女の子が轢かれたぞーー!」
「いや、見てみろよ! 男が庇って轢かれてるぞ!」
と大騒ぎになっている。
「主君っ!!」
とコルトガさんが真っ先に駆けつけ、その後を追う様に、アケミさんに手を曳かれたリックとサチちゃんが掛けて来た。
「け、ケンジさん!」
「「ケンジ兄ちゃん!!」」
女の子は俺の腕の中で号泣していたが、怪我も無く、無事であった。
「ああ、俺も女の子も無事だから、安心してくれ。」
と言いながら、女の子を駆け寄って来た女の子のお母さんへと手渡した。
馬を見るとシールドにぶつかった際に2頭の内の1頭の右足の骨が折れて、嘶いている。
御者は、ぶつかった衝撃で御者席から落ち、馬と馬の間に引っかかっていた。
俺は慌てて、馬と御者に『ヒール』を密かに掛けて、治療しておいた。
一瞬で治療して貰った事を理解した馬が、俺をお礼代わりに舐めて来る中、馬の間に挟まった御者へ声を掛けた。
「おーい、御者の人、大丈夫か? 身体は何ともない筈だが?」
「あ、え? あ!痛くなくなった? あれ?
ああ、大丈夫だ! 誰か、ここから出してくれるか?」
と周囲に声を掛けている。
すると、ご大層な馬車からお付きの従者を従えた油ギッシュな激太りの中年が、激怒しながら降りて来た。
「な、何事だ!! サンバルタン子爵家の馬車の進行を遮ったのは!? お前か!!!」
と唾を飛ばしながら、怒鳴り散らしている。
後ろに控えていた騎士2人も馬から降りて、そのサンバルタンだかバルタン成人だか判らない激太りの左右に位置して、こっちに睨みを利かせて居た。
思わずその姿を見て、ブホッと噴き出しそうになるのを必死で堪えた。
バルタン成人よりというも、見た目は巨大なガマカエルか、スター○ォーズに出て来るジャ○・ザ・ハットそのものだったからだ。
しかも大量のガマ油が採れそうな奴である。
「申し訳ありませんでした。小さい子が通りに出ていて轢かれそうでしたので、慌てて救助しておりました。
そちらは怪我はありませんでしたか?」
と頭を下げつつ、声を掛けると、
「はぁ!? たかが小汚い庶民のガキを助ける為に、この高貴な俺様の行く手を遮ったのか? 今の事故で見てみろ!この高貴な俺のおでこをぶつけてしまって、傷が出来たじゃないか!!」
とおでこの1cmぐらいの擦り傷を指刺している。
「あらら、ご自身の身体に着いてるエアバッグが効かなかったんですね。」
と内心爆笑しながら、俺は『ライト・ヒール』を掛けてやった。
一瞬「ん?」と怪訝そうな顔をするサンバルタン成人だが、痛みが無くなった筈なのに、怒りは収まっておらず、
「おい、あの小汚いガキとその男を不敬罪で手討ちにしろ!」
と両脇に構えている騎士へと命じた。
「お、お待ちくだされ! サンバルタン子爵のご長男様、エンドルド・フォン・サンバルタン様とお見受け致す。
何卒お待ち下され。」
コルトガさんが声を張り上げて、止めに入ると、
「ん? お主どこぞで見覚えがある顔じゃな?」
「はっ、某、元サンラストーン伯爵家の騎士団の一番隊の隊長をしておりました、コルトガでございます。
今は庶民となりました故、家名はございませぬ故。」
とコルトガさんが言うと、
「「おーーー! あの剣聖と言われていたコルトガ・フォン・ラルダス殿か!」」
「お! あれが噂の剣聖か! こらまたスゲー人が出て来たな! おい!!」
「これは見物だな。 あの剣聖をこの目で見られるたぁ~、幸運だったぜ!」
「きゃぁーー、剣聖様よーー!」
とか彼方此方でキャーキャーワイワイと声が聞こえ始めた。
何となく自分が形勢不利っぽく感じたのか、サンバルタン成人は、真っ赤な顔を今度は若干青白くさせつつ、しかし高飛車な物言いは変えずに話し出した。
「うむ、あの剣聖のコルトガか! 久しいのぉ。
で、お主、今何処で何をしておるのじゃ?」
「はっ、現在は、このケンジ様を主君としてお仕えしておりますれば。
某は、主君の剣であり盾であります。
何かの際にはこの身をもって、主君より授かった剣でお相手する事になりまする。」
と腰に刺した剣をポンポンと叩いて見せていた。
すると、見る見る顔色が青くなる両脇の騎士と、後ろでハラハラし始める従者。
従者はソッと汗ビッショリになっているサンバルタン成人の耳元でゴニョゴニョと何かを告げている。
「う、うむ。そうであるか。
では、ここはコルトガ殿の顔を立てて、穏便に済ませるとしようかの。
時に、ここらでは珍しい、黒目黒髪の美しい女を連れておるな。
良かろう、その女一人で手を打とうぞ。うん、これで円満解決じゃ。ガッハッハ。
さ、こっちに参れ。」
え? 何言っちゃってるの? こいつ。そんなの越後のちりめん問屋のご隠居が対峙する悪代官ぐらいしか言わない台詞じゃん。
「えっと それは無理ですね。
人は物じゃないんですよ? 大丈夫ですか?
まあ、こちらとしては、そちらが死傷者を出すのをあくまで助けただけですから、そもそもこちらが何かを補う謂われは無いです。
それでも要求するという事は、高貴な立場を穢す事になりますよ?」
と俺が断固拒絶し、声を張り上げて言う。
すると、
「「「そうだそうだ!」」」
「何が女を寄越せだよ! 集り屋かっての!」
「腐ってるわね、流石はサンバルタン子爵家ね!」
「サンバルタン子爵家って、あの乞食で有名な!? わぁ~。よく表に顔を出せたなぁ~。」
「恥を知れよ!恥を!」
「帰れ!帰れ!!」
「「「「帰れ!――」」」」
と周囲の街の人達がドンドンと集まって来て、口々に帰れコールを始めた。
ハハハ、スゲーなぁ~、この街の連中。
流石の厚顔無恥なサンバルタン成人も、この状況はかなりヤバいと思ったのか、慌てて馬車に乗り込んで、立ち去って行った。
「「「「「「「「「うぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」
と大歓声を挙げる街の人達。
「皆さん、ご支援ありがとうございました。
さ、あまり通りで騒いでいると、拙いので、早々に解散致しましょう!」
と俺が大声で叫ぶと、
「ああ、今日は良い物を見せて貰ったぜ! あんた男だな!」
「あー、お兄さん、カッコ良かったわよーー! そこの黒髪の子、このお兄さん放しちゃダメよー! ウフフ」
「良くやってくれたぞーー!」
とみんな口々に褒め称えながら、散って行った。
「ふぅ~。さあ、俺達も宿に帰ろう。 そして、今晩の一泊は念の為キャンセルしてそのまま王都を出発しよう。」
「何か、私の所為で面倒事に巻き込んでしまって……」
と少し恐縮しているアケミさん。
「え? それは関係無いよ。あとコルトガさんもありがとうね。助かったよ!」
「勿体無きお言葉。このコルトガ、主君をお守りする騎士として当然の事をやったまです。」
と片膝をついて、頭を下げていた。
早足で宿に戻り、事情を話すと何故か宿の主人からも
「この街の子を救って頂き、誠にありがとうございました。」
とお礼を言われ、既にある程度作った夕食を弁当用に渡してくれたのだった。
そして約1時間後、夕暮れ時の王都のメインストリートを通り、マダラとB0の曳く馬車は滑る様に城門から出て行ったのだった。
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