第154話 ついに発見!
王都だが、兎に角、人も多ければ、店も多い。
「これだけ広くて店も多いと、1週間あっても廻りきれないよねぇ。
取りあえず、市場もあるみたいだし、そっち方面に行きながら、良いのがあったら買って行く感じだね。」
一応、一番小さいサチちゃんは俺が肩車をして、リックはアケミさんが手を繋いでいる。
何かあって、はぐれてしまうといけないので、リックとサチちゃんには、俺の作ったブレスレットを嵌めてある。
有効距離圏内なら、そのブレスレットの放つ特定の魔力を追って合流する事が出来る。
更にこのブレスレットには、簡単な耐物理攻撃と耐魔法攻撃の防御シールドの付与もされているので、少々の事なら自動で弾いてくれる。
俺の肩の上でサチちゃんが、「高い!高い!」とキャッキャ言っている。
コルトガさんは、俺達の傍で護衛に徹している。
「コルトガさん、そんなに警戒しないでも大丈夫だから、もう少し楽しんでよ。」
一応、俺には『虫の知らせ(大)』と言う便利なスキルと、気配感知等による敵意や悪意を持つ物は意識していれば判るからである。
意識してないと、結構ポカをするけど。
「し、しかし、主君に何かあると取り返しがつきませぬ故に。」
となかなか肩の力を抜かない。
まあ、これはもう少し時間が経てば慣れてくれるのかな?
服屋を何軒か見て廻り、コルトガさんの服やリックとサチちゃんの服、あとアケミさんの服、それにお土産代わりの服も大量に購入した。
他には、魔道具屋さんに寄ったりしたが、余りパッとした物が無く、逆に俺の持つ物を目敏く見つけ、「売ってくれ」と懇願されたりした。
なので、早々に退散する羽目に。
ピョン吉達がせがむままに指定する屋台で食べ物を買い与え、ついでに俺達も摘まんで居たが、やはりピョン吉大先生の嗅覚は素晴らしい。
どれ1つもハズレが無かった。
「うん、ここもとても美味しいね。」
と俺が言うと、
「流石ピョン吉ちゃんですね。ハズレ無しです!」
とアケミさんも同調する。
そんな俺達の会話に、リックが初めて気付いたらしく、驚いて騒ぐと、一緒になってサチちゃんも手を叩いて褒め始めた。
「え? ピョン吉が選んだ屋台ってハズレが無いの? 全部美味しいけど、そう言う事なの?」
「えー、ピョンちゃん、しゅごーーい!」と。
すると、周囲の通行人達も遠目に俺達の行動を目で追い始めたらしく、何故か後ろを着いて廻り、俺達が買った屋台が急激に繁盛し出すと言う、不思議な現象が起きていた。
「何か予期せぬ方向で目立ってしまった。市場に急ごう!!」
と言って、そのまま追っ手……いや追っかけを撒いたのだった。
市場も盛況で、食べ比べの為に、野菜類や調味料、スパイス類、更に植物の種等、色々な物を購入して廻った。
そして、ついに、俺は出会ってしまった!!
何の気なしに立ち止まった薬剤関連の露店に並べられた、木の実や種や薬草に混じって、見覚えのある実が置いてあったのだ。
「ま、まさか、これはコーヒーの実?」
「ん? お客さん薬剤師かい? 珍しいねぇ、コーヒーを知って居るのかい?
ここら辺では余り売れないんだけどな。」
詳細解析でも『コーヒーの実』と出ている。
「見つけた! ついに見つけたぞ!
オヤジ! これ、あるだけ全部買うよ! どれ位あるの? あんまり高いとちょっと困るけど、どれくらい? ねぇ、幾ら?」
と俺がグイグイと迫ると、
「おいおい、落ち着けよ!兄ちゃん。 売るから。全部売るから。 と言っても早々数は無いんだけどよ。」
と言いながら、麻袋を2つ出して来た。
価格は驚きの低価格で、聞くとそこらにコーヒーに木があって幾らでも取れるらしい。
マジか!うーーん、これは悩ましいな。
コーヒーを拠点で植えて収穫するのと、ここで買い付けて持って来るのとどっちが良いか……実に悩ましいところである。
「まだ欲しいなら、2日ぐらい時間くれれば、もっと持って来るけど?」
と店の店主に言われ、思わず「お願いします!」と即答してしまったのだった。
ついでに、市場では砂糖の値段も確認したが、異常に高かった。
健二の拠点産の砂糖の約2倍くらいの値段で、遙かに低グレードの砂糖を売っていたのである。
店主に聞くと、
「いや、ほら砂糖はここらでは余り生産してねぇし、それに砂糖市場で鼻息の荒かったアルデータ王国が潰れちまったろ。
あれの影響が出てて、こっちまで廻って来る砂糖が減ってるんだよ。」
との事だった。
なるほどな。であれば、ここでも砂糖を売って、コーヒーを仕入れるってのもアリか。
夕方近くに宿に戻り、明日も連泊する事を宿のスタッフに伝えた。
全員で美味しく夕食を食べて風呂に入って早めに眠りに着いたのだった。
◇◇◇◇
それから2日王都見学で適当に時間を潰し、やっと約束の3日目に薬剤屋の露店に向かい、無事にコーヒーの実を大量に入手出来た。
色々と2日間考えた結果だが、取りあえず今回は王都に別荘を作るのを見合わせる事にした。
理由は、まだコーヒーを試飲出来ていないからである。
確か、コーヒーはコーヒー豆にするまでに、乾燥とか焙煎とか色々工程があったと思ったので、旅先で慌てなくても良いんじゃないかと言う判断である。
それに、必要とあらば、いつでも『ゲート』を使って別荘を作りに来る事も可能だからだ。
ここ数日で、ピョン吉とコロは街の屋台では顔である。
屋台の通りを歩くと、屋台の店主が店の商品を手にピョン吉達の前に献上しにやって来ると言う不思議な現象が起きていた。
しかしだ! ピョン吉達は意外にドライで、態々献上しに来た屋台の店主の品物でも、それ程美味しく無い物は頑なに受け取らないのである。
そんな店の屋台は、客が益々減ってしまい、かなり拙い事になっていったようである。
まあ、こればっかりは、俺に文句を言われてもお門違いと言う物だ。 一応ピョン吉達の主ではあるが、彼らにだって好みはあるのだから、真っ当に味で勝負すれば良いだけの事。
味の改良をせず、奇策に走るから駄目なのだ。
ピョン吉達は、いつの間にか王都では、『屋台のご意見番』とか、『究極の屋台ハンター』とか、『屋台クラッシャー』の二つ名を頂いたらしい。
「まあ、これでやっとここでの滞在も終わりだね。明日はいよいよエスター山に向かって出発か。楽しみだね。」
等と楽しく会話をしながら、気分良く早めの時間に宿へと戻る事にしたのだった。
しかし、せっかく順調で平穏だった王都の観光も、健二達の傍を通り過ぎようとした馬車の所為で、今正に終わりを告げようとしていた。
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