第153話 宣誓の儀

キランドールの別荘の運営は結局他の人に責任者をやって貰い、それも5日間でほぼ落ち着いた。

当初の予定とはやや違う事になったが、コルトガさんを連れてキランドールを出発した。



キランドールから街道を乗り継いで北上し、王都を目指した。


「主殿、この馬車?いや、馬なのか? いや両方か? 兎に角凄いですな!

私は嘗てここまで揺れずに速い馬車に乗った事がございませんぞ。」

とキランドールを出てから直ぐに気が付いたコルトガさんから絶賛された。


「ふふふ、まあ馬車の方にも工夫はしているけど、一番凄いのは、この馬車を曳いている馬というか、ハイ・ホースなんだけどね、このマダラとB0が凄いんだよ。」

と我が子自慢を始める健二。


「なるほど! 一見馬に見えて実は魔物なんですか! それも我らが気付いてないだけで、街中にも相当入り込んでいるんですね?

ふむ、興味深い。 何故誰も気付かないのだろうか?」


「まあ街に紛れ込んで居たとしても、大抵は、ハイ・ホースではなく、ホースだからね。

ホースだとそこまでの差は無いね。

あ、この馬、ちょっと当たりかも!? って程度だし。」

と説明したら、なるほどと頷いていた。


しかしさ、普通ならそこを褒める前にもっと空間の広さや装備を褒めると思うんだがなぁ。

いや、別に嫉妬とかそう言うんじゃなくて、目の付け所がやっぱり普通よりも違うんだなぁってね。


その言葉に嘘は無く、休憩時間になると、必ずコルトガさんがマダラとB0に「マダラにB0よ、君らは本当に凄いぞ!」と褒めながらブラッシングしたり、飼い葉や飲み水等を用意して出していた。

相当に気に入った様である。

そんな調子なので、直ぐにマダラとB0もコルトガさんに懐いていた。

そして、良く判らないが、この1人と2匹は話が通じているかの如くに会話してたりした。

いや、まあ見た限りの雰囲気なんだけどね。



王都までの距離は500km程度なのだが、流石に王都を結ぶルートなので王都に近付けば近付く程に交通量も多くなり、それ程スピードが上げられないので意外に時間が掛かっている。

まあそれでも3日も掛からずに王都の城門へと辿り着いたのだった。


「おおぉーー、これが王都なのか。予想以上に大きいんだね。」

うん、デカいな。

初めて見る王都だけど、他の国の王都もこれぐらいのサイズなのかな?


「でっかーーーい」

「大きい!」

2人の子供らも大はしゃぎしている。


「私もイメルダ王国の王都すら行った事ないので、比較出来ないですが、デカいですね。」


アケミさんも大きさに驚いていた。


「フッフッフ、主君、一応マスティア王国の王都はこの大陸一の大きさと言われております。」


唯一何度も王都に訪れた経験のあるコルトガさんは冷静に教えてくれた。


「へー、大陸一のサイズなのか。しかし、これだけのサイズって事は、良い奴も悪い奴も沢山居るって事だから

トラブル防止に気を引き締めつつ、一応王都見物でもするか。」


「「「わーーい」」」


子供2人と一緒にアケミさんもはしゃいでいた。

そんな様子を見て、コルトガさんはクックックと苦笑していた。


城門を潜る為の行列に並び、1時間後にやっと順番が廻って来た。


衛兵のお兄さんに従魔と泊まれる『安全』で風呂のある宿を聞いて、『ライ麦の恵み亭』と言う割と高級な宿を勧められたので、早々にチェックインしに行く。

コルトガさんと2人で御者席に座り、王都のメインストリートをトコトコと馬車を走らせる。


流石は王都と言うだけあって、活気がもの凄く、所狭しと屋台が建ち並んで居る。

感心したのは、ちゃんと馬車の走る車道と、馬車の駐車スペースと、屋台の置ける大きめの歩道とに車線が別れているらしい。

まあ、これら全ての含み、メインストリートの幅は20~25mぐらいあるんだけど、それでも『所狭し』状態なのである。


道幅に関しては、うちの拠点も重視して配置したので、負けてない筈だが……多分……。


ただ非常に残念なのは、ゴミが多い事である。

屋台の肉串を食べると、そこらにポーンと捨てる―― 葉っぱに包まれた食べ物を食べ終わると、その葉っぱをそのまま道に捨てる―― 誰もゴミに関して無頓着なのだ。


「わぁ~、せっかくのこれだけの街なのに、ゴミだらけなのが最悪だね。これに関しては、断然うちの拠点がダントツで勝ってるなぁ。」


俺が道ばたのゴミを見てそう呟くと、


「ほぉー、益々主君のエーリュシオンに行くのが楽しみになりますな!」

とコルトガさんは嬉しそうに呟く。


「フフフ、うちの拠点も大体、これぐらいの道幅だけど、各所にゴミ箱を設置していて、そこに捨てる様に住民達に徹底しているからね。

だから、風の強い日にゴミが撒き散らされたりとか、不衛生が原因で病気が蔓延するって事は無い筈だよ。

逆にこれでよく病気にならないと感心しちゃうね。」


「ああ、いやちょくちょく何やらの伝染病が流行っております。奴隷墜ちした期間の事は知りませんが、去年も確か流行病が大量に発生したって聞いておりますな。

なるほど、そう言う事が原因なのですね? 流石は主君、博識であらせられる。」



所々の屋台で肉串や、サンドイッチ等を人数分(ピョン吉とコロの分を含む)を買って摘まみ食いしつつ、30分程馬車を走らせた所にライ麦の恵み亭を発見した。


部屋は無事に取る事が出来て、寝室が4つ付いた高級な部屋に通された。


「主君、私までこんな良い部屋にご一緒するのは、ちと問題がございますぞ?」


「え? そう? 特に問題ないよね?」


「ええ、寝室も4つありますし、お風呂もトイレも2つありますから、全然問題無いと思います。」


一応、最初に部屋割を確認したんだけど、アケミさんが問題無いという事で1部屋(貴族や大商人向けの部屋)を取った訳だ。


「せっかくだから、一休みした後に、王都で服とか色々買い漁って置こうかね。お土産代わりに。」


「ハハハ、ケンジさん、流石に2000人分の服はちょっと無理があるかと。」

とアケミさんが、ヤンワリと指摘してくれた。


「ああ、そうか2000人超えてたね。ついつい50名前後の時の名残で考えちゃうね。

まあでも、ソコソコ買って送って置けば、必要な人に回すだろうから、やっぱり買っておこうかね。

まあ利点がありそうなら、別荘購入を考えても良いんだけど、何か嫌な予感もするし、取りあえず王都見物をしてからかなぁ。」


「ふふふ、そうですね。まあ余り目立たない様に、コッソリ楽しみましょう。ね?」

とアケミさんが言いながら、リックとサチちゃんに微笑みかけていた。


「あ!そうだ!! コルトガさん。すっかり忘れていたけど、着替えとか、普段の装備どうする?

まあ、着替えは買うとして、剣と刀だとどっちが好み?」


「え?主君! この老いぼれコルトガめに剣を授けて下さるのですか!」


「うん、まあ剣だったら、長剣、片手剣、小剣、ナイフ辺りか。槍なら、槍、短槍、ハルバード、後は手斧とかもあるけど。」


と言いながら、各種を取り出して、床に並べて行く。


更に、皮鎧やブーツ類、籠手なんかも各種出してみた。


「ささ、好きなのを選んで見て。」


すると、コルトガさんが、泣き始めてしまった。


ビックリして、思わずオロオロしちゃったんだけど、何か並べられた剣とかを見て、その名剣ぶりに感極まってしまったそうな。


結局、長剣とナイフと皮鎧他の一式を選び、何故か騎士の宣誓みたいな儀をヤラされてしまった。

ほら、あれだよ、よく映画とかで見る、跪いて、主君に剣を捧げ、主君が抜いた剣で肩に触れるってアレです。


「このコルトガ、一生主君に尽くし、必ずや主君の剣となり盾となり、主君をお守りする事を誓い申す!」


剣を受け取ったコルトガさんが、誇らし気に宣言していたのだった。


「あ、ありがとう。

しかし、堅いなぁ。 嬉しいけど、もうちょっとヤンワリ楽しみながら生きようよ。

コルトガさんの人生はコルトガさんの物なんだから、一番守るべきはコルトガさんの命だよ?

簡単に死んじゃダメだから。

せっかく拾った人生でしょ。みんなで楽しく生きて行こうよ。」

というと、更に号泣されてしまった。

俺も今は二度目の人生だし、奴隷墜ちしたコルトガさんも奴隷から解放された事で、自分の人生を取り戻すべきだよね。



ちなみに、剣を貰ったコルトガさんの事をリックが羨ましそうな目で見ていた。


「あ、リックも剣の訓練をして、ある程度大きくなったら、ちゃんとあげるから。

まだ今は小さいんだから、ダメだよ?」

と俺が言うと、


「え!? ケンジ兄ちゃん、本当!? 約束だからね!」

と目をキラキラさせていた。



あと、コルトガさんには、一応マジックポーチとお金を多めに渡しておいた。

また一瞬固まった後、号泣してたけど、今度は面倒だったので、スルーして置いた。

アケミさんは「あれ? 今度は放置するんですか? 号泣されてますが?」

と目で訴えて来たけど、軽く首を振っておいた。



そして、休憩を終えた後、意気揚々と全員で街へ散策に出掛けるのであった。


余談だが、ちょっと気になったので、悪いとは思ったんだけど、密かにコルトガさんを再度詳細解析で見てみると、何と忠誠度が150%まで上がってた。

いやはや、ビックリだよ!!

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