第152話 キランドールでの収穫
翌朝何時もよりも遅めに目覚めると、一緒の部屋から出て来た俺を見て、抜け駆けされたと頬を膨らませるアケミさん。
「おはようございます。あれれ?一緒の部屋で寝てたんですか!?
わぁーー、良いなぁ! ズルイですよ? ケンジさんだけ。
私も一緒に寝たかったなぁ~川の字で。」
思わず苦笑しつつも、あれ?川の字なんて字はこの世界に無いんだけど、言語理解スキルは面白い翻訳してくれるのだなぁ~と変な所に感心してしまう俺だったが、
「もうすぐ朝ご飯が出来上がるので、顔を洗って準備して下さいね。」
と言われ、慌ててマダラ達に朝食を出しに行き、顔を洗って戻って来ると、テーブルに朝食が並んでいたのだった。
頂きますの後、サチちゃんに、「おねーちゃんのご飯おいしーー!」と言われアケミさんが身悶えしながら照れていた。
あー、なんかこれって、俺の夢見た家庭の図そのものだなぁ~。
思わず微笑みながら、一生懸命に食べる幼い子供達と、それを見守るアケミさんを見ていて胸と目頭が熱くなる気がしたのだった。
食後にアケミさんとも話し合ったのだが、
「拠点に送っちゃうと、また知らないスタッフ達に囲まれる事になるし、もうちょっとだけ一緒に旅をしようかと思っているんだけど、良いかな?」
「ええ、私は勿論構わないし、あの子らが居るのも何かちょっと家庭っぽくて嬉しいですが、でもそれで良いでしょうか?
何か、下手に里心というか半端に慣れた所でまた拠点に送られちゃうと、逆に可哀想な事になる気もするんですが。
かと言って、あの子らだけ特別扱いすると、他の孤児達にも可哀想な気がしますし。
あーー、悩ましいです。」
「あー、それは確かに。でもさ、目の前で両親殺されて、それでも必死に幼い妹を庇ってたリックがなぁ。
必死で涙堪えてるのを見ると、こっちが切なくてな。」
「ケンジさんも、私も、あの子達も孤児ですし、状況は同じではないですが、親を亡くした者同士ですし、半端ではなく、それこそ親代わりになってあげれば問題ないですよ。多分。
他の孤児達にだって親代わりになれば良いんですよ。
あーー、でも責任重大だなぁ。頑張らなきゃ!!」
「そうか。そうだよな? うん。 まあ、今は兎に角、このまま旅を続ける事にするよ。」
◇◇◇◇
俺達の馬車は順調に進んでは居たが、昼のお好み焼きパーティーに時間を取られてしまい、予定よりは若干遅くなってしまった。
初めて食べるお好み焼きにリックとサチちゃんが大喜びしていたので、思わす健二もノリノリになって、リックに焼き方を教えたりした為である。
その日の夕方遅くに、キランドールの近所まで辿り着いていたのだが、宿が埋まっていると面倒という判断で、そのまま車中泊する事にした。
ちなみに、夕食にはオムライスを作ってやり、旗を立てて子供らに出してやると、目を輝かせて2人とも大喜びしていた。
しかし、アケミさんのオムライスに旗が無かった為、アケミさんがガーンって顔をしていたのがおかしくて、思わず吹きだしてしまったら、
「わ、笑うなんて酷いです!」
と拗ねられてしまった。
まあ、当然だが、この世界にはお子様ランチという物は存在せず、食べ物に小さい飾りの旗を立てるという様な発想も無いらしい。
俺としては、大人の食べ物に子供用の旗は……と思って立てなかった訳だが、同じ様にして欲しかった様だ。
なかなか女性の考えを察するのは難しいな。
そして、翌朝一番で街へと入ったのだった。
キランドールの城門では、何時もの様に衛兵のおじさんからお薦めの宿を聞いて、早速チェックインした。
『親子4人』と従魔2匹という事で、大きめの部屋(まあ、結局一番良い部屋らしい)に入り、俺とアケミさんは「やっと辿り着いたねぇ~」とソファーにドッと身体を沈み込ませた。
一方子供らは、ここまで高級な部屋は初めてらしく、キャッキャとはしゃぎながら探検中である。
「にーちゃん、たいへんでしゅ! おおきなおけを発見したでしゅ!」
「あ、サチ、これはね、お風呂だよ。(多分)」
「へぇーー、さしゅが、にーちゃん!」
「へっへーー、だろ?」
とホンワカな会話が漏れ聞こえる。
飲み物とお菓子をテーブルに出して置くと、イソイソと探検を切り上げた子供らが戻って来た。
「フフフ、何か楽しいですね。」
子供らがお菓子を頬張って、口の周りをカスだらけにしている様子を見てアケミさんが微笑んでいた。
「なんでですかね? 私、昔から子供が大好きみたいで、ウズウズしちゃうんですよね。」
と呟いていた。
一休み終えると、4人と2匹で市場の方へ出向き、途中の屋台で買い食いしたり、露店を覗いたりして廻り、お目当ての市場に辿り着くと、本気モードで買い漁る。
ここもマーラックと引けを取らない程の品揃えで、鮮度も素晴らしい。
まあ品物自体は毎日陸揚げされるらしいので、ここの住民に迷惑が掛からない程度に自粛している(つもり)。
「やっぱり、ここの街も(品揃えは)良いね。
まあ食事はそれ程過大な期待をしない感じで居れば大丈夫だよな。」
「そうですね、やはり鮮度がもの凄く良いです。ちょっと悔しいですが。
しかし、これだけ新鮮な魚があるのに、お寿司が無いって悲しいですねぇ。」
と残念そうなアケミさん。
だよなぁ、本当に勿体無い。
俺は早速、アケミさんと一旦別れ、その足で商業ギルドへと向かった。
そして、夕方前には別荘用の土地を手に入れ、早速夕暮れの迫る中、いつもの作業を手早く終えたのだった。
翌朝早々にチェックアウトし、真新しい別荘へとチェックイン。
いつもの様に別荘の前には野次馬が沢山居たが、その対処もいい加減慣れてしまった。
初めて見る別荘に、リックもサチちゃんも目を丸く見開いて驚いている。
「おいおい、あんまり目を剥いていると、目玉落ちちゃうよ?」
と笑いながら言うと、
「だって、ケンジにーちゃん、これすげーよ!」
「ケンジにーちゃん、しゅっごいでしゅ!」
と言っていたが、屋敷に入ると更に驚いていた。
「ピカピカでしゅーー」
と言いながらサチちゃんが床で滑って遊んでいた。
早速その日の内にお薦めの奴隷商より7名スカウトして契約し、ここの在駐スタッフになって貰った。
一番年上の55歳の男性コルトガさんにここの責任者にして、ここを切り盛りして貰う事になる。
多分、この別荘が一番どの街よりも仕入れ量が多くなるので、責任は重大である。
「はっ!その責務、見事果たしてご覧に入れましょう。」
と何故か片膝を着き、臣下の礼をするコルトガさん。
「うーーん、コルトガさん、堅いよ、もっと気楽に行こうよ。
人生長いんだし。これからも長い付き合いになるんだからさ。
色々と大変だと思うけど、何かあったら、さっき説明した方法で連絡入れてね。
些細な事でも遠慮したりとかは無しで。」
「はっ!しかと、肝に銘じまする。」
と再び膝を着く。
「あと、もし孤児達とかで路頭に迷ってる子居たら、あっちの宿舎に住まわせて手伝いさせてお給金払ってやってね。」
「ケンジ様は本当に懐が広く深いお方ですな。ガハハハ。
いや、このコルトガ、やっと良い主君に巡り会えました。」
そう、このコルトガさん、元某貴族の騎士団の隊長だったお方で、とある貴族同士のいざこざで、仕えていた貴族がお取り潰しになり、そのとばっちりで片腕を無くし、奴隷墜ちした方なのである。
だから、頼りになるんだけど、些か堅いのがマイナスポイントかな。
例の如くに腕は元通りに戻したけど、もう忠誠心が半端無い状態でね、俺は詳細鑑定の忠誠度:120% なんて数字初めて見たよ。
まあ、その内、ここが安定したら拠点側に来て欲しいという事は伝えたんだけど、拠点の話をすると、
「なるほど、そう言う事ですか。
では、是非ともケンジ様に逢って頂きたい人物が居りまして、名はコナンと言いまして、旧知の仲、謂わば戦友に近い人物であります。
このもの、特に知に富んでおり、参謀としてはピカ一でございます。
しかし、人嫌いという訳ではないですが、主君に恵まれず、ここ7年程は山に籠もっております。
是非ともコナンめも仲間に引き入れとうございます。」
と進言された。
ほう! 参謀か!
「それは良いな。是非ご紹介して貰いたいな。 山って何処の山なの?」
「ここらで山と言えば、勿論エスター山でございます。
些か遠いのではありますが。」
マジか! じゃあエスター山に行かねばなるまい。 神殿本部にも行きたいしな。
「そうかぁ~。エスター山か。 いや元々エスター山に行きたいとは思ってたんだよ。
奇遇だなぁ。 縁があるのかもしれないね。」
翌日、早速商業ギルドで再度地図を追加購入し、コルトガさんと目的の場所とルートを決めていく。
結局やはり、エスター山に行くには王都経由しか道が無いという事で、健二も諦め、王都経由の最短ルートを通って行く事にしたのだった。
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