第151話 切ない想い
幼い兄弟2人は馬車の寝室で仲良く1つのベッドでくっつき合って寝息をたてている。
可哀想に、こんなに幼い子を残して逝くなんて、ご両親も切なかっただろうな。
寝室のドアを開けて、二人の寝顔を見ていたら、いつの間にかアケミさんが隣に来て、横から俺を抱きしめて、小声で話し掛けて来た。
「また寝顔を見てたんですね。
こんなに幼いのに親と離れ離れになっちゃうなんて、本当に厳しい世の中ですね。
でも、気休めになるか判らないけど、この子達は多分、まだ幸運な内だとは思いますよ?
だって、ケンジさんに出会えた訳ですからね。
普通だと、もっと悲惨な運命だってあり得るんですから。」
「うん、まあそう思うしか無いんだけどね。
何か心の持って行き場所がねぇ。
一番辛いのは、リックだとは思うんだけど、不憫でならないね。
まあ拠点にも別荘にも、孤児は沢山居るんだけどね。
出来るだけ、孤児達が、自分の力で力強く幸せに生きて行けるだけの物を身に付けさせてやりたい物だね。
もし万が一俺が居なくなったとしても、孤児らも、村の人達も全員ね。
俺が、居なくなったら、途端に寂れて、暮らしにくくなっちゃうなんて事があると悲しいからね。
まあそうならない為の旅でもあるんだけどね。」
「そんな寂しい事を……
まあ言いたい事は判りますが、でもきっとそれは何十年も先の事です。
私は、ケンジさんには私よりも1日でも長く生きて居て欲しいです。
そう言う意味では、私の両親は二人共に亡くなったので、ある意味夫婦としては幸せだったのかなぁ?
一人で残されたら、きっと気が狂いそうです。
頭では理解しても、考えたくない未来です。」
と言っていた。
俺はそっとベッドルームのドアを閉め、リビングに戻った。
それから、2回程途中休憩を入れたが、幼い二人は安心した様な顔で熟睡していた。
街道脇の休憩スポットで夕方を迎え、厩舎を出して、マダラ達に夕食を出してやり、厩舎と馬車全体をシールドで包んだ。
「結局お好み焼き出来なかったけど、明日の昼にでも作ろうか。
今夜は、簡単な物で良いかな? 久々にパスタを食べたくなっちゃった。」
「パスタって何ですか?」
とアケミさんがワクワク顔で聞いてくる。
「あれ? パスタ、まだ食べさせてなかったっけ?
えっとね、小麦粉だっけ? それを練って乾燥させた麵類かな。
生麺タイプもあったよな? 作るから、試しに食べてみてよ。
パスタとピザにするか。」
と言って、ピザの生地を伸ばし、オリーブオイルを塗った後、トマトソースを塗って、チーズを撒いてバジルやトマト、サラミっぽい物、そしてマッシュルームのスライスした物を乗せて行く。
余熱した魔動オーブンに入れ、今度はパスタに取り掛かった。
パスタは、みんな大好きカルボナーラとペペロンチーノにした。
カルボナーラのソースを作り、別のフライパンでは、オリーブオイルとスライスしたニンニクと輪切りにした唐辛子を入れ、弱火でニンニクのエキスと唐辛子の辛みをオリーブオイルにつけて行く。
パスタが茹で上がる前にその煮汁をペペロンチーノのフライパンに入れ、乳白色になるまで掻き回す。
茹で上がったパスタをカルボナーラとペペロンチーノのフライパンに半分ずつ入れて、ソースにサッと馴染ませて出来上がり。
大皿に盛り付け、乾燥したパセリを振りかけた。
丁度ピザも焼き上がり、素早く8ピースに切ってから、バジルソースを掛けて2人でテーブルへと運んだ。
ピョン吉とコロにも取り分けてやり、全員で『頂きます』をした。
「わぁ!このカルボナーラ? 凄く美味しいですよ!」
とチーズタップリのカルボナーラに美味しそうにモキュモキュと頬張るアケミさん。
俺はペペロンチーノさんから頂いてみた。
「お!久々だけど、美味しく出来てる。
あ、ペペロンチーノは少々辛いから気を付けてね。」
「あ、ホントだ!ちょっとピリッと辛いけど、凄く美味しいですよ!」
とこっちも大好評。
ピョン吉達にはピザが好評らしい。
「このパスタは他にもクリームソース系やトマトソース系、醤油系とか色々具材も合わせてアレンジが出来るんだよ。
ああ、ピザもね。」
「今度私も挑戦してみようかな。
このピザってチーズが伸びたりして美味しいですねぇ~。
ケンジさんって、本当に料理上手というか、色んなメニューをご存知ですね。
何か、私の出る幕が無いというか、逆に胃袋を掴まれているというか――」
と苦笑いしていた。
「うーん、俺の場合、知ってる料理は偏ってるし、やっぱり人から作って貰う料理はまた全然違うんだよね。
特にイメルダ料理は自分で作るより、作って貰った方が嬉しかったりするなぁ。
それにそんなに卑下する事は無いよ? アケミさんの料理も俺、好きだし。」
というと、アケミさんが真っ赤になってモジモジとしていた。
「嬉しいです――(好きって言われたーー)」と後半ゴニュゴニョ言っていた。
夕食後、風呂から上がって髪の毛を乾かしてやると、嬉しそうにして「おやすみなさい」とベッドルームに消えていった。
さて俺も寝るとするか。
あ、でもベッドルームに居て、リック達が目覚めて誰も居ないと怖がるかな?
うーん、どうしようか。
あの部屋のベッドってダブルだよな。
俺もあの部屋で一緒に寝るかな?
2人の眠るベッドルームに入り、床の上に薄いキャンプ用のマットをソッと敷いて、枕と毛布を出して寝ようとしていると、
「うーーん、止めろーーー!」
とリックの寝言が聞こえた。
どうやら悪夢で魘されているみたいだ。
俺は、急いで起き上がり、リックの頭を撫でながら、大丈夫大丈夫と小声で言ってやると、「ふぅ~」と呟きながら落ち着いた様であった。
そして、再度マットに横になると、今度はサチちゃんが、モゾモゾとし始めた。
「にーに、しっこ!」
とリックを起こそうとしている様子。
「あ、サチちゃん、トイレか? にーちゃん寝てるから、俺が連れてってやるよ。寝かしておいてやろうよ。疲れてるみたいだから。」
と声を掛けると、
「あ、とーしゃん。 うん、わーった。」
と両手を抱っこしろ!という風に伸ばしてきたので、抱き上げて、トイレに連れて行ってやった。
トイレの使い方を教えて座らせ、トイレの外で待っていると、スッキリしたらしいサチちゃんが出て来た。
「あれ? とーしゃんは?」
と完全に目が覚めたようで、キョロキョロと辺りを焦って見回している。
ああ……、こう言う時って何て言えば良いんだろうか?
「俺だよ? 父さんじゃなくてゴメンな。父さん達は暫く逢えないけど、ちゃんと俺達に面倒を見てくれって言ってたから、安心して良いよ?
寝て起きたら、喉渇いただろ? お腹は減ってないか?」
と跪いて話掛けると、少し落ち着いた様子で、
「うん、喉も渇いたし、少しお腹もへった。」
と人差し指を口に咥えながら言って来た。
「じゃあ、あっちで、少し食べてからまた寝るか。」
と言って抱っこして食卓の椅子に座らせてやり、ミルクとホットケーキを出してやり、メイプルシロップを掛けてやると、
「わぁー、甘いにおいがしゅるー」と嬉しそうにしている。
「さあ、ユックリお食べ。」
というと嬉しそうにホットケーキを食べ始めた。
サチちゃんが食べ始めた頃、ベッドルームから、慌てたリックが飛び出して来た。
「サチ! ああ、サチ!良かった……」
どうやら、目覚めたらサチちゃんが傍に居なくて焦ったらしい。
「お、リックも目覚めたか? トイレ行っておいで。
リックも少しお腹減ったろ? 同じ物を出すから。」
というと、キューーとお腹を鳴らして少し顔を赤くしていた。
2人が微笑みながら、ホットケーキを食べている間、俺はカフェオレを飲みながら、ここが馬車の中である事を教えてやった。
余りの広さとトイレやキッチンがある事に驚いていた。
そして、落ち着いたら、拠点の方に連れて行ってあげるからと告げると、
「ケンジにーちゃんも一緒に戻ってくれりゅの? ずっといっしょ?」
とサチちゃんに聞かれ、ちょっと悲しい気持ちになりつつ、
「ごめんね、俺達は、拠点の将来の為にも、もう少し廻らないといけないんだよ。
だから、もう少し旅を続けるんだよね。」
と告げたら、
「エーン、いっしょが良いよーー」
と泣かれてしまった。
うーーん、そうだよね。
両親と別れたばっかりだしなぁ――――
まあ、斯く言う俺自身もちょっとどころか、かなり後ろ髪を引かれる思いなんだよね。
「じゃあ、もう少し一緒に廻ってみるか?」
「いいの? やったーー」
と泣き止むサチちゃん。
兄のリックは、
「あのぉ、サチが我が儘言ってしまって、ごめんなさい。」
と言いながらも少しホッとした表情をしていたのだった。
そして、お腹も膨れ、30分ぐらい経った後、また眠そうに目を擦り出すサチちゃんとリックを両腕に抱き上げ、ベッドへ運んでやったのだった。
子供を抱く感覚に戸惑いを覚えつつもその温かい体温がどことなく嬉しい。
自分の事を必要としてくれるこの幼い妹と、必死で妹の手前涙を堪え迷惑を掛けない様に気を遣っている幼い兄に、前世では希薄だった自分の家庭という感覚を味わっていた。
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