第150話 閑話:ゴライオスの守護神3

「グロな内容を含む為閲覧注意、嫌いな人は読み飛ばし推奨」

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ダメだわ、暗闇が後ろから私を飲み込みそうで、背筋がゾクゾクする。


何でこんな事に? わ、判らない。

兎に角必死で叫んで、泣いてお願いしたけど、ついには見えない壁が真っ白になり、中も見えなくなってしまった。


ああ、心細い。

街道沿いとは言え、こ、こんな森の近くで、しかも照らす物も無く、辺り一面真っ暗である。


こ、怖い。 こんな所で私は独りぼっちなの?


木の陰から何かが出て来そうである。


もうさっきから、頭の中には怖い、心細い、こんな言葉しか思い浮かばない。



夜になって出て来た雲の所為で、月明かりも無く、辺りには、ガサガサ、ゴソゴソ、パキン、グギギーと何かの蠢く音や枝の折れる音、魔物か何かの声も聞こえる。

急激に震えが来てしまい、慌ててケンジ様の落とした剣を手に取り、深呼吸をする。

そう、私は無敵の剣士。 ゴライオスの守護神だ。

落ち着け!落ち着け! 訓練を思い出せ! 必殺の剣を思い出せ!

向こう側の木の陰に赤い点が幾つも見えだした。


「ヒッ!」


思わずその不気味さに小さい悲鳴を上げると、一斉に飛び出して来た。

女性の大敵とされるゴブリンである。


「ご、ゴブリン!!!」


手には棍棒等を持ち、緑色の気持ち悪い奴らが、涎を垂らしながら、近寄って来る。


「クッ、来るな!!」

と叫んだが怯む処か、目をギラギラさせて一斉に飛びかかって来た。

何とか、最初の1匹だけは、自慢の剣技で斬り伏せたのだが、残る20匹以上のゴブリンの前には無力だった。


ああ、ケンジ様――――




次に私が気が付いた時は、どうやら、暗い洞窟の様な所である。

しかも、実に臭い。

汚物と肉の腐った匂いが混じっている。


そ、そうだ、私はゴブリンに連れ去られてしまったのだわ。

ハッとして見ると私の衣服は剥ぎ取られており、草を敷いた場所に手足を拘束されていた。


「え!?」


余りの状況に頭が追いつかない。

何とか手足の拘束を解こうと試みるが、全く緩む気配が無い。


部屋の奥には何かの骨や肉片が沢山転がっていて、見るからに拙い場所である事が窺える。

兎に角、何としてもここから脱出しなければ。

そして、衣服を見つけ、武器を見つけなきゃ!

必死に叫びたくなる心を抑え、藻掻くが蔦で縛られた手首が千切れそうに痛い。

痛い……怖い……。


そうしている内に、この洞窟の部屋へ、1匹の巨大なゴブリンがやって来た。

身長は2m近くあるんじゃないか?

しかもグロテスクな形に立ち上がった私の拳大の逸物を誇らし気に見せせている。


嫌らしい目つきでハァハァと口で息をしている。

その口臭が漂って来る様で気持ち悪い。


ゲヒグギャギャギャーー


と嫌らしい笑い声?を上げて私にその臭い身体ごとのし掛かって来たのだった――――


「た、たすけ、ギャーーーーーーーーー……」






あれから何日経つのだろうか?


何故か私はまだ生きて居る。


私は毎日何度も何匹ものゴブリンに弄ばれ、それでも生きて居る。


「ヘヘヘヘ、ヒャヒャヒャ。」


時々意識が飛ぶ。


身体からは異臭がしていたが、今はもう感じ無くなった。


――――


私が何をしたと言うのだろうか?


何で私がこんな仕打ちを受けているのだろうか?

いや、もう騎士言葉なんてどうでも良いわ。


今まで私は何をやってたのかしら?

私がこんなにまでも無力だなんて……。




最近お腹がポッコリとして来ているの、そして何かが中で動いてるの。怖いわ。


段々と物を考える気力が……。日々意識のある時間が短くなって来ているわ。


次は何時目覚めるのかしら。


思えば、皆が必死に何度も私を止めようとしていたわね。


ああ……お父様、お母様お兄様、お姉様、ごめ――

死――たくな―――

―――

――





健二達がゴライオスの街を離れ2ヵ月が過ぎた頃、街道沿いにゴブリンの出没報告が頻繁に入り始めた。

冒険者ギルド ゴライオス支部は早速ゴブリンの調査依頼を出し、3つのパーティーが広域に調査した結果、洞窟内にかなりの規模のゴブリン集落が出来ている事が判明した。

更に上位種の存在も複数確認され、冒険者ギルドと領軍合同の大規模な討伐が行われる事となった。


ゴブリンの巣となっていた洞窟はかなり狭く入り組んでおり、当初の予想よりも厳しい戦いとなった。

上位種で無い限り、通常ゴブリンの背丈は、成人男性の半分ぐらいの身長である。

彼らの巣はその身長に合わせた高さの通路となっている為、ホールや大部屋以外では、圧倒的に天井が低く、剣を振ろうにもつっかえてしまい、なかなか思う様に戦えないのである。

更に洞窟という閉鎖空間での魔法使用は爆風や酸欠や落盤の可能性がある為、より殺傷能力のある火魔法が使えず、狭い通路故に先頭は横に2人並べれば御の字という状態であった。


これが、まだ屋外のゴブリン集落であれば、かなり状況が違ったのであろうが、この狭い洞窟は、討伐隊の足枷となってしまった。


結果、冒険者と兵士にはかなりの死傷者も出てしまったが、3日間の死闘の末、やっとゴブリン・ウォーリアー、ゴブリン・アーチャー、ゴブリン・メイジ、ゴブリン・ジェネラル、そしてゴブリン・キングを含む約320匹のゴブリンの討伐に成功した。


そして、巣穴を徹底的に調査したところ、ゴブリンの巣の奥に今回の大集落となった原因を発見したのだった。

発見した小部屋には……ゴブリンの子を抱き、腹を膨らませ、ケタケタと笑っている変わり果てた姿の元女騎士の姿があったらしい。

直ぐに呼ばれた領軍の騎士団長ジェルマン・フォン・ダラレーオの手により、最後の慈悲が下された後、発見者を含め、厳重な箝口令が出されたのだった。

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