第148話 閑話:ゴライオスの守護神

「グロな内容を含む為閲覧注意、嫌いな人は読み飛ばし推奨」

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私の名はアーデリル・フォン・ゴライオス。

ゴライオス領を陛下より任されているゴライオス伯爵家の次女だ。

4人兄妹の末っ子として生まれた。

末っ子という事もあって、両親や2人のお兄様と姉上から愛され、幼い頃はいつも誰かにお伽噺や英雄様や勇者様のお話を読んで頂いたりした。

特に英雄様の『世直し漫遊記』には幼心に大きく感銘を受け、それ以来は人一倍正しくあろうと心がける事にした。

元々、正義感が強く、間違った事は許せ無い気質だったのだが、より正義という言葉に敏感になった。


7歳の頃には、『女の子なのに……』と諫める周囲の反対を押し切り、剣の道を歩み始めた。

週に3日、20分もの剣の修練を開始したのだ。

雨の日も風の日も雪の日も、欠かす事無く週3回の激しい剣の修行を行った。


勇者様の伝記にあった『木に打ち込みの訓練』を実行し、庭で一番太い木に打ち込みをした結果、その木が枯れてしまったのだが、その時はお父様より何故かお叱りを受けてしまった。

「アーデリルよ、この木はゴライオス家の御神木として代々受け継いで来た大事な木だと常々申していただろう。何でこんな事をした?」と。


だから、私は、「お父様、庶民をそしてこの領を守る為の訓練と木の1本どちらが大切な事か、お判りにならないのですか?」

とお諫めしたわ。

まったく……子供の私でも判る事なのに、陛下からお任せ頂いている領の守護と、木とどちらが大切か等、比べるべき対象ですらないのに。


12歳になる頃には、剣の実力も相当な域まで昇華し、街の男の子達を相手に訓練を続けたけど、もう向かうところ敵無しの無双状態だったわ。

まあ、訓練に怪我はつき物だし、何人か怪我で腕が動かなくなったって言われたけど、それは実力が無かったのだから本人の所為。

私にはどうしてやる事も出来ないわよね。


14歳になる頃には、週に2日程は街の見廻りをする様になり、ある不作が続いた年には、悪徳商人のアンジェロマ商会が、暴利で小麦の取引をしていたのを成敗したり、それに同調していた商会も諫めて成敗したわ。

まあ、何故かアンジェロマ商会だけは潰せなかったのだけど、ただ余所の領から小麦を持って来ただけの商人が、通常の3倍の値段で小麦を売るなんて、酷い話よね。

結果、街に小麦が出回らなくなったらしいけど、正義の施行には痛みはつき物よ。

勇者様の伝記に有名な諺があるわ。

「人はパンのみによって生きる物にあらず」とか、「パンが食べられなければ、お菓子を食べれば良い」と書いてあったわ。

我が家のペットのカナリアでさえ、雑穀を食べているのに。

まったく、学の無い人達は、心まで貧しいわねぇ。


他にも16歳の頃には、他の領の領主が横柄な態度で塩の取引を持ちかけて来て、諫めたり、余所の領の商人が入り込もうとしたのを阻止したり、我が領の作物を買い叩こうとした商人に処罰したり、大活躍だったわ。


そして、これまでゴライオス家やゴライオスの街の為、色々と悪を是正して来た私の武勇談の中でも、最高の成果は、ジョリー姉様の縁談の阻止よ!

1年前には、3歳上のジョリー姉様が、危うく12歳も年上のスベラス伯爵家の次男ラルフ・フォン・スベラス様の元へ『無理矢理』嫁がせられる所を未然に阻止してあげたのだ。

幾ら幼い頃より旧知の仲であったとは言え、酷すぎる。

ジョリー姉様も、ラルフ様の顔を真っ赤な顔をしてチラッチラッとしか見もせず、下を向いて居られるのに、どうして周りが止めようとしないのか、理解が出来ないわ。


そうなると、もうこれを阻止できるのは、私しか居ない訳よ。

私は義憤に駆られ、何とかこれを阻止する事に成功した。


姉上は『何で余計な事を……』等と照れて泣いておられたが、あれは所謂、勇者様の伝記にもあった、ツンデレという物なのだわ。



でもそんな私にだって、悩みはあるのよねぇ。

私が『出来過ぎる』が為に侍女達が劣等感を持っちゃって、続かないのよ。

もうこれまでに20人程も交代しているのよね。


でも気付いたわ!

これって、みんな裕福な子達ばかりだから、根性が無いのよ。

つまり、勇者様の伝記もあったけど、『ハングリー精神』って奴が足り無いのよ。


流石は私だわ! ここまで答えに辿り着けば、もう後は簡単よ。

日々の暮らしに困窮している孤児達に仕事を与え、訓練して導けば良いのよね。

ウフフ、完璧だわ!


孤児達は仕事と食べ物を得て、生きる道筋まで出来るし、私は私好みの従者を得られるって訳。

正に究極のWinWinよね?



そんな折、ここ1ヵ月ぐらい、商団が途切れるという事態が問題になっていたの。

街道に盗賊団が移って来たのじゃないかって噂もあるし、ここは自他共に認める『ゴライオスの守護神』の出番だわ!



尻込みする根性の無い侍女3人と馬に乗って出撃したんだけど、丁度良いタイミングで身なりの見窄らしい10歳ぐらいの女の子を見つけたの。

これは女神様のお引き合わせだわ。ええ、私にはピンと来たわ。


「あなた、お腹空いているの?孤児なの?」


と声を掛けると、「はい」と小さい声で呟くその子に、


「じゃあ、私が仕事を与えるわ! お腹一杯ご飯も上げるわよ。」

と言って馬に乗せようとしたけど、逃げようとするので、お仕置きの為、縛って実戦経験を見せる事にしたの。

丁度盗賊の話もあったし。


街道を国境方面に進んで1泊し、更に1日進んだ所で出たのよ、盗賊が。


ここは勇者様の伝記にあった、キメ台詞の出番だわ!

「『ゴライオスの守護神』が来たからには容赦しないわよ! 月に代わってお仕置きよ!」

と剣を抜いて、ポーズを決めたの。

これは幼い頃から週3回特訓していたキメポーズ。

盗賊達よ、震えてひれ伏しなさい!



あ、あれれ? おかしいわ! 何でひれ伏さないの?

え? あ、従者が捕まってしまったわ。

え?その汚い手を退かしなさいよ! わ、私を誰だと思って居るの? 守護神よ? 正義の女騎士なのよ?


「ウグッ」

あ!痛い!!!!お腹を思いっきり鎧の上から殴られ、悶絶しながら私は不覚にも気を失ってしまった。

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