第147話 幼い旅人2

気になるこの幼い少年少女だが、徐々に警戒を緩めてくれた様で、ポツリポツリと少年が状況を話し始めた。

少年の名前は、リックで8歳、女の子は妹でサチで5歳だそうで。

元冒険者の両親と共に行商をしていたらしいのだが、怪しい冒険者風の5人組の盗賊に襲われ、両親は殺されたらしい。

両親は2人を逃がすべく必死で抵抗し、その間にリックがサチを連れて、必死で逃げて隠れたらしい。

最後に草陰から見た際には、父も母も斬られながら、必死に抵抗し、母の最後の魔法で賊の男2人を倒し、父は1人を倒して、1人に怪我を負わせていたらしい。

残る1人に両親2人とも殺されてしまったのをリックが目撃していた。

今から3日前の話だそうだ。


以来、必死に妹を守りつつ、父と母の教えに従って、街か村に辿り着くまでは、馬車や旅人達に出会う前に身を隠しながら進んでいたらしい。

人攫い対策との事だった。


「そ、そうか。偉かったな、リック。立派だぞ。」

と俺が思わず頭を撫でてやると、ブワッと耐えていた涙を溢れさせていた。


「にーちゃん、どうしたの? お腹痛いの?」

とサチちゃんが心配そうにリックを見ている。


「あ、いや大丈夫だぞ? ちょっと久しぶりに沢山食べたから、お腹がビックリしただけだから。」

と横を向いて、急いで涙を袖で拭っていた。


俺も思わず泣いていた。いかん、少年が我慢しようとしているのに。

慌てて上を向き、必死で涙を誤魔化した。



と思ったら、アケミさんが横で号泣していた。




一頻り、涙を誤魔化した後、リックに提案してみた。


「なあ、リック。親父さんとお袋さんを埋葬しに行かないか?

ちゃんと無事な姿を墓前に見せに行った方が良いんじゃないか?

まあ、サチちゃんにはちょっとキツいから、もう少し大きく成ってからの方が良いかもだが。

俺達は、冒険者でもあるが、ちゃんと拠点を持っていてな、そこで沢山の人達と生活しているんだよ。

もし、行く宛てが無いのだったら、俺達と一緒に来れば、食うにも困らないし、ちゃんと勉強も教えてやれるぞ?

将来冒険者になりたいんだったら、冒険者にだってなれるし、その為の訓練だってしてやれる。

商売をしたいのだったら、そっち方面も教えてやれるぞ。」


「え?にーちゃん達、オイラを雇ってくれるのかい?」


「ああ、将来的に雇って欲しいんだったら、雇ってもやれるけど、まだ未成年だし、子供は良く食べ、良く遊び、良く寝るのが仕事だな。

まあ、お手伝い程度はあるかもだけど。まあそこらの農家の家程の重労働は無いかな。」


「そうね、ケンジさんの作ったエーリュシオンは良い所よ? 子供らも沢山居るけど、みんな笑顔で暮らして居るわよ?」

とアケミさんが援護射撃をしてくれた。


「ああ、多分下手な都市で暮らすよりはマシだと思うよ?

まあ、気に入らなかったら、他の都市にも拠点というか、別荘あるから、そこで暮らす事も出来るし。

選択肢は1つじゃないから、安心しなよ。」


「それもそうだけど、貴方達、あまりここ数日寝てないんじゃないの? ほら、サチちゃんが満腹になってコックリコックリと居眠りしているわよ。

一旦馬車で寝かしてあげましょう。ね?」


アケミさんがサチちゃんを抱き寄せて、馬車へと運んで行った。


「とにかく、警戒する気持ちは良く判るけど、まずは、一旦サチちゃんが寝てる間に、ご両親を埋葬しに行こうか。」

と再度提案すると、リックが涙を溜めながら頷いていた。



本当にこの世界は、人の命が安すぎるよ……。




馬車をUターンして、リックの指示する通りに街道を戻り、途中から脇道へと入って行った。

幼い子らが3日掛かった道のりだが、マダラ達に取っては、数分レベルであった。


暫く細い道を行くと広場があり、そこにリックのご両親の馬車の無惨な姿で残っていた。


そして、両親の遺体だが、亡くなった後に魔物に食い荒らされたらしく、かなり無惨な状態であった。

俺はシーツの上に残った遺体を纏め、クリーンを掛けて遺品をリックに渡し、シーツで包んだ。


「なあ、リック、ここに埋葬するか? それとも俺達の拠点に埋葬するか? ここだとなかなか墓参りに来られないかもしれないが。」


「じゃあ、ケンジさんの拠点に埋葬して貰っても良いですか?」


「判った。じゃあ、一旦俺の方でご遺体を収納するな。」

と言って手を遺体を包んだシーツに手を合わせ、「リック君とサチちゃんはちゃんと立派な大人になる様にみんなで育てるので心配しないで下さい。」と冥福を祈った後、巾着袋へと収納したのだった。

馬車の残骸も一緒に収納した。


さて、問題の盗賊の遺体だが、詳細解析を使った事で、5人組の素性が判明した。

逃げている負傷者とリーダー格の男は、それぞれ、グランとランダーという元Dランク冒険者であった。

親父さんの一太刀のお陰か、片腕が落ちていて、それがグランの腕であった。


もし止血が間に合って無ければ、出血多量で死んでいるだろう。

残った盗賊共の遺体は、地面に穴を開け、火魔法で灰にしてサクッと埋めた。


リック君を馬車に乗せ、アケミさんに後を頼み、俺はグランの血の跡をコロと共に追った。


森の中を高速で駆け抜け血の跡を追うと、1人の遺体があり、それがグランであった。

同様に、穴を掘って灰にした後、広域に人の気配を探索すると、1kmぐらい離れた場所に1人の気配を察知した。

お目当てのランダーかも知れない。

1km先の気配の下へと森を駆け抜けると、小さい小屋を発見した。


「ふむ、ここか。」


俺は小屋のドアをノックし、

「すいませーーん、旅の者ですが、何方か居ますか? ちょっと道に迷ってしまったのですが?」

と声を掛けてみた。


「あぁーーー? こんな所に誰だ?」

と中からダミ声が聞こえ、床を歩く音がして、中から厳つい汚い男が出て来た。

もうね、滅茶苦茶臭い奴で、思わずウッっと咽せる程に臭う。


「あー、ちょっと道に迷っちゃって、街道にはどう出れば良いの教えて貰えませんかね?

もう2日も彷徨ってて。」


「ガハハ、間抜けな奴だな? お前冒険者なのか?」

とバカ笑いしながら聞いて来た。

「ああ、やっとEランクに上がって、遠征してたんだけど、仲間とははぐれちゃうし、最悪ですよ。」

と頭を掻いた。


で、この男だが、ランダーで間違い無かった。


「ダハハハハ、間抜けな奴を放り出して帰っちゃったんじゃねぇか?」

と笑いながらも俺の隙を窺っているのが丸分かりでな目で俺を見ている。


「畜生、グランの野郎、何処に行ったんだかなぁ。レクスターとルディーとジェレンも……。

なあ、ランダーさんよ、あんた知らないか?」

と態とランダーの死んだ仲間の名前を挙げると、ギョッとした顔になり、


「お、おまっ、なんで奴らの名前を? 何で俺の名をしってる?」

と言いながら、腰の剣に手を掛けた。


俺は、その一瞬に俺は迷う事無く愛刀を抜き、ランダーの身体を横一文字に切断した。



驚きの表情のまま、シュパっと上下に切断され、ランダーの身体が崩れ落ち、空気の漏れる様な呻き声が一瞬聞こえたが、数秒で死に絶えた。


とうとう、人をこの手で直に殺してしまった。

だが、全く後悔は無い。寧ろ自分で驚く程に冷静であった。

スッキリしたかと言えば、全然スッキリ感も達成感も何も無い。

ドラマの時代劇とは違うのである。



俺は小屋の中を確認し、リックの両親の物を全て回収して回った。

隠してあった、お金も回収して、シールドを張った中で小屋ごとランダーを燃やした。

気付くと血だらけの格好で、ただ燃える小屋を眺めていた。


小屋もランダーも灰に還った頃、コロの声でハッと気付き、クリーンを掛けてから馬車へとゲートで戻ったのだった。


馬車に戻ると、俺の表情を見たアケミさんが心配そうにやって来て、俺の事を抱きしめて来た。

多分、表情で何をして来たのかを察したのだろう。


そして、マダラに言って出発したのだった。

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