第146話 幼い旅人

ジャガー団の潜入スパイだが、即日捕まり、一味同様に処罰を受ける事となったらしい。


翌日には、ロージーさんが宿に訪ねて来て、何度も何度もお礼を言われた。

そして、お礼の代金を渡そうとして来たので、辞退しようとしたのだが、

「ケンジ様、これは受け取って貰わんと、他の冒険者の立場がなくなりますんじゃよ?」

と判る様な判らない様な理由で、有耶無耶に渡され、ありがたく受け取る事にしたのだった。


滞在する3日間の内に、買取分も含め、支払い手続きが完了し、1つの盗賊団としては異例の金額である約7億マルカ(大金貨7枚)を受け取る事になった。

ギルドカードへの振り込みにして貰ったのだが、アケミさんと半々にして貰うつもりが、

「えー? 私はただ縛って引き摺ったぐらいだし、うーん、じゃあ大銀貨1枚ぐらいお小遣いで貰えますか?ウフフ」

と笑って辞退された。


大銀貨1枚を渡すと、大喜びしていた。


拠点に送った生存者達だが、件の少女も目を覚まし、落ち着いて居た。

生存者全員は城で雇う事となり、色々とステファン君らから説明を受けた様で、2回目に戻った時には、全員が深々と頭を下げて、何度もお礼を言って来たんだが、何を説明したんだろうか?

一応、生存者全員に一律盗賊の金庫から頂いた分担金を渡そうとしたのだが、これも辞退された。

彼ら曰く、「お金以上の物を既に頂いておりますので。」

という事だった。

全員が全員、幸せそうな顔をしていたので、良しとしたのだが。



そして、この街での滞在理由も無くなり、直ぐに俺達は次の街へと出発した。

街の住民も領主様も非常に良い街であるが、特に拠点を作りたい理由も無かったからである。

特に欲しい食材も無かったしな。



ゴライオスは、海沿いの岩山を迂回した事で、若干内陸部に位置する。


なので、一旦南へ南下して海岸線を目指す事にした。

当初の目的は、塩と海の幸の仕入れ拠点作りであるからだ。


一応商業ギルドで下調べは済んでいるので、南下して海岸線付近の街道を東方面に回る感じである。

その先には、キランドールという割と大きめの都市がある。


そこは、海鮮物は勿論、塩の生産も盛んな場所らしい。


ただ、ここゴライオスから選んだルートの距離ははザックリ600kmぐらい。

途中は丘や峠越えもあるので、その分時間が掛かる。



「本当は、海辺だけでなく、エスター山にあるという神殿本部ってのもお参りしてみたいんだよね。」


そう、いつも色々と俺の為に良くしてくださっている女神様の総本山って所らしいので、一度お礼にお参りしたいと考えてたんだが、ルートの選択が結構難しいんだよね。

もし行こうと思ったら、一旦マスティア王国の王都に寄ってから、街道を行く感じなんだよね。

何処の国でもだけど、余り王都と呼ばれる所には、余程の事が無いと、行きたくは無いし。

変な貴族とかに絡まれる予感しかしないからねぇ。触らぬ神に祟りなしで近寄らなければ、大丈夫じゃないかと。



「そう言えば、ケンジさんって信心深いというか、凄く女神様へ何時も感謝されてますよねぇ。

かと言って、熱烈な信者って言う感じでもないんですよね。なんか不思議な距離感って言うのかな?」

とアケミさん。


「ああ、うん、別に熱烈な狂信者とかそう言うんじゃないね。

ただありがとうって言う気持ちは常に持って居るけど。

そうか不思議な距離感かぁ。」


なるほど、上手い表現だな。確かに日本人的な距離感なのかもしれないな。


お礼もあるのだが、実際に何でここまでして下さるのかを聞いてみたいというのも本心ではある。

まあ都合が合えば、一度は行って見ても良いよね。



朝、ゴライオスを出発し順調に南下しているが、もうすぐ昼時である。


「さて、今日の昼ご飯は何にしようかな? 久々にお好み焼きでも食べたい気分だな。」

と俺が呟くと、


「あ!ケンジさんが前に屋台で作ったアレですよね? わぁ!食べたいです!!

私も作り方をマスターしたいです!」

と俄然ヤル気にるアケミさん。


「うーん、じゃあ今日の昼ご飯はお好み焼きにしようか。」


「はい!」


<マダラ、次に街道の端が広くなってる所があったら、一旦昼ご飯にしようよ!>


<了解! ――あ! 主ー、前方の方に道の隅を歩いてる小さい子供2人を発見したよー?>


<え?あ、反応があるね。じゃあ、驚かさない様にユックリ走って一旦止まってくれる?>


<了解!>


えー、ここまで相当な距離、村も何も無かった筈だけどなぁ?


「アケミさん、なんか前方に小さい子が2人歩いてるらしいから、ちょっと心配だし、一旦止まるね。」


「あらら、こんな所でですか? 近所に村なんてありませんでしたよね? どうしたんでしょうか?」


アケミさんも心配そうな顔になった。


ペースを落としたマダラ達が、子供達を追い越して路肩に寄せて停車した。


俺とアケミさんは、馬車を降り、子供らに話掛けてみた。


「こんちは。君ら2人だけなの? 大丈夫?」


話掛けた子供らは、見た所兄妹の様で、8歳ぐらいの男の子と、5歳くらいの女の子だった。

しかも来ている服は薄汚れ、彼方此方破れており、ボロボロである。

見るから数日禄に食べて無い様子だ。


しかし、お兄ちゃんの方は、見るからにこちらを警戒しており、


「な、なんだよ? 関係無いだろ? ほ、放って置いてくれよ。」

と更に警戒を強め、女の子を自分の後ろにと隠していた。


「おお、偉いな。ちゃんと女の子の面倒を見てて。

俺達、今から昼ご飯にするんだけど、ちょっと量を多く持ってきちゃっててさ、余って腐らせるのも勿体無いから、手伝ってくれると嬉しいんだけどなぁ。」

と話を振ってみると、ゴクリと生唾を飲み込んでいる。女の子は、男の子の背中に抱きついているが、顔だけ出して食べたそうな顔をしていた。


先程までは、お好み焼きの話で盛り上がっていたのだが、俺の話で意図を理解したアケミさんが、話を合わせてくれた。


「そうだよねぇ、あれは、ちょっと2人では食べるのはキツいですねぇ。誰か助けて欲しいなぁ。」


俺は、路肩にシートを敷いて、その上に小さいちゃぶ台を出し、サンドイッチや果物やスープ等を沢山出してみた。


「ね? ちょっと量が多いでしょ? まだ沢山あってねぇ、困っているんだよ。

悪いけど、少し手伝ってくれないかな? ただで手伝って貰うのも悪いから、お駄賃も出すよ?

な? 助けてくれないか?」

というと、


「にーちゃん、あれ食べて良いの?」

と後ろから女の子が聞いて来た。


「さあ、女の子も一緒に手伝ってくれるかな? ほら、靴を脱いで、一旦座ろうか。」

と靴を脱いでシートに座り込んで、せっせとスープをカップにつぎ始めるアケミさん。


「い、良いのか? 本当に?」

と男の子が念を押す。


「ああ、勿論だよ。あ、その前に俺達みんな旅で汚れてるから、一旦、綺麗にしようかね。

じゃあ、アケミさんから、『クリーン』」

と言って、アケミさんにクリーンを掛けると、


「あー、ケンジさん、ありがとうございます。わー、サッパリしたー。さ、君らもサッパリしようか?」

「じゃあ、君らにも、『クリーン』」

と態とらしく、声にだしてクリーンを掛けると、

2人の身体がボワッと光り、薄汚れか髪の毛も顔も服も綺麗にサッパリとなった。


「わぁーー、にーちゃん、ピカピカになったよー。エヘヘ」


「わぁ! ビックリしたー。お! サチお前綺麗になったなぁー。ヘヘヘ」


2人が顔を見合わせてキャッキャと笑い合っている。


最後に俺もクリーンを掛けて、

「じゃあ、綺麗になったところで、みんなで食べようか。」


「「いただきまーす!」」


泉の水をコップに注いでやり、前に置いてやると、相当喉が渇いていたのか、ゴクゴクと飲み始めた。


桃のジュースも別のコップに注いでやると、それも飲んでいた。

そして、サンドイッチを男の子が皿に取って女の子に渡し、自分の皿にも取って、2人が恐る恐る一口食べて、


「「美味しい!」」と叫んでいた。


それからは、バクバクと美味しそうに食べてニコニコ笑っている。

すると、


<主ー、俺達の分は?>

とピョン吉の声がして、振り返ると、馬車からピョン吉とコロが顔を出してこっちを見ていた。


「あーー、ごめん、従魔も一緒で良いかな?

兎がピョン吉で、犬がコロって言うんだよ。」

と俺が言うと、


「ああ、良いよ。」

「あーー、ウサちゃんだー」

と2人共目を丸くしていた。


俺は、ピョン吉達にもご飯を出してやると、美味しそうに食べ始めた。


「あ、マダラ達にも出してくるね。」

と言って、泉の水の桶と、餌と肉のブロックを置いてやると、こちらも待って居たらしく、バクバクと食べ始めたのだった。

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