第145話 冒険者ギルドの7不思議
メインストリートを2人と2匹で歩きながら、途中の屋台で買い食いをして廻る。
「やっぱり、俺はイメルダ料理が一番性に合っているみたいだな。」
と俺が呟くと、アケミさんがそれはそれは嬉しそうに、
「ウフフ、私ももっと色々勉強して、美味しい料理作れる様になりますから、楽しみにしていて下さいね!」
と言っていた。
俺も思わず、
「そうか、じゃあ期待しておくね?」
と返してしまった。
「しかし、不思議だな。やっぱりイメルダ料理だと、おにぎりにお漬物だけでも、俺には最高の食事なんだよね。
もし、今日のあの料理と、おにぎりを並べられると、迷わずにおにぎりを選ぶ自信あるし。」
「じゃあ、今度のお昼は、私がおにぎり握りますよ? 中身の具は何にしますかねぇ? ウフフ。」
と嬉し気である。
「フフフフ、何か嬉しい気分だよ。」
「ウフフフ」
と二人でキャッキャウフフと浮かれながらギルドに向かって行った。
そうそう、アケミさんは既にドワースの冒険者ギルドで冒険者登録をしていて、現在Eランクとなっている。
まあ、C~Dランクの実力はあると思うのだが、ギルドカードさえあれば便利という事で、ギルドカードの最低条件をクリアするぐらいの依頼しか請けていない。
そして、辿り着いた冒険者ギルドの建物の前……
「ねえ、アケミさん、俺いつも不思議に思うんだけどさ、冒険者ギルドって何処の街に行っても大体似た様な建物で、中のレイアウトってほぼ一緒だよね?
あれって、なんか規格が決まってたりするの?
前から、彼方此方に顔を出すけど考えてみると、全部同じだった様な気がするんだけどさ。」
「あー、やっぱり気になりますか。 へへへ、そうなんですよ。あれは一応決まってる設計図通りに建ててるみたいですよ?
私も以前ある冒険者から聞かれて、先輩に聞いたらそう言ってましたんで。
何でも、何処に行っても同じレイアウトだったら、我が家に帰って来たみたいで安心するだろうって配慮らしいですよ。
まあ、表向きは……なんですけどね。フフフフ」
と苦笑するアケミさん。
「ん? 表向きは? 裏があるの?」
「フフフ、ええ、裏話もあるみたいです。 昔は規格じゃなかったらしいんですがね、デタラメに好き勝手なギルドの建物にしちゃった、ギルドマスターが居たらしいんですよ。
すると、我も我もでとんでもないのが10軒ぐらい出来たらしく、しかも建設費がベラボウだったらしくて、大問題になってね、規格で統一したらしいです。」
「なるほどな。他人のお金で好き勝手やっちゃったんだな。 どこの世界にも居るんだなぁ。ハハハ」
「一応ギルドの7不思議の1つとなってる秘話ですね。」
と胸を反らして自慢気に言うアケミさん。
「へーー! ギルドの7不思議なんてあるんだ!? 知らなかったよ。で、残りの6つは?」
「の、残りは……知りません。」
と顔を横に向けて目線を泳がせていた。
「ハハハハ」
と言うオチの後、冒険者ギルドの扉をギィーーと開けて中に入ると、やはり何時ものレイアウトで、思わず笑みが零れてしまうのだった。
ガッと一斉にロビーに居る冒険者達の視線を浴びる。
この時間帯だと確実にギルド内に居る冒険者の数は少ない。
「お!新顔か?」
「へぇ~、綺麗な顔立ちしてるわねぇ~。良い男だわ!!」
「おいおい、ねぇちゃんの方は黒目黒髪って事は、イメルダ人か。 えれぇ~別嬪さんじゃねぇか。」
「げげ!おい、足下見てみろよ!!! あれ従魔なのか!?」
「わっ! なんだよ、あのデカさ、アレ普通のキラー・ホーンラビットじゃねぇぞ!」
「横のデカいウルフ系は何だ? ヤバさがビンビン来やがるぜ!」
とザワザワしている。
俺とアケミさんは、取りあえず、一番近い受付カウンターへ行くと、
「いらっしゃいませ、冒険者のギルド、ゴライオス支部へようこそ。本日はどう言ったご用件で?」
と笑顔で受付嬢が対応してくれた。
俺達は、ギルドカードと、騎士から受け取ったジャガー団討伐の証明書類を出した。
「えっと、こっちに旅して来る途中に盗賊に襲われている商団を発見して手助けしましてね。
ついでに、アジトも潰したので、その報告です。
既に生き残りの盗賊は騎士団の方へ渡してます。これがその書類です。」
と説明すると、書類を見た受付嬢が、
「ヒッ! ジャガー団!!」
と軽く叫んだ。
「し、失礼しました。少々お待ち下さい。」
と書類を持って奥へと小走りに消えて行った。
「おそらく、ギルドマスター案件なんでしょうね。
というか、まだこちらには知らせが行ってなかったのかしら?」
とアケミさん。
「ん? そう言えばこの街に着いてから、既に2時間は経ってるよね。
普通、そんな感じなのかな?」
「もしかすると、あの騎士団の団長さんが戻ってからの報告かも知れませんね。」
ああ、なるほどな。まああのアジトにはもう何も残ってないんだけどなぁ。
受付嬢は奥に引っ込んだ切り、全然戻って来ない。
「うーん、困ったな。放置かよ。
ギルドカードも一緒に渡しちゃったから、待つしかないかぁ?」
「何か長々と待たせますね。何かトラブルでもあったんでしょうかね?」
と話していると、やっと受付嬢が戻って来た。
「お待たせしちゃって申し訳ありませんでした。
ちょっとギルドマスターが来客中でして、なかなか割って入る事が出来ませんでした。」
と言いながらギルドカードを返して来た。
「ああ、なるほど。」
「で、申し訳無いのですが、ギルドマスターの所に見えたお客様もケンジ様とアケミ様の今回の件の関係者の方でして、一緒にギルドマスター室の方へお越し頂けますでしょうか?」
「ああ、了解しました。」
と応えると、ホッとした様だった。
「もしかして、ギルドマスター室の来客って偉い人?」
と振ってみると、受付嬢が黙って頷いていた。
まあ大方領主様ってところかな。
ちなみに、余談だが、ギルドマスター室の机やソファー等も一定の規格品となっているらしく、何処のギルドマスター室でも基本は同じで、後はギルドマスターの好みによっては『自費』で持ち込む程度となっているそうな。
まあ、これも過去にヤラかしたギルドマスターの所為で、統一されたのだが。
通されたギルドマスター室のソファーには、40代後半の白髪の交じった金髪の貴族っぽい人と、ゴツいガタイの如何にも昔冒険者やってました!って言うおじさんが居た。
「おお!君らがケンジ君とアケミさんか。 良くぞやってくれた! ありがとう!!」
と2人のおじさんから大歓迎を受けた。
「ああ、申し遅れた、ワシはこのゴライオスの領主で、ジョージ・フォン・ゴライオス伯爵だ。
いや、本当に助かったよ。ここゴライオスとアンジェロマ商会は切っても切り離せない盟友の様な関係でな。
それにあの街道の安全が保てなかったら、我が領にすると、死活問題にも繋がる。
いやぁ~本当にありがとう。」
「いえいえ、たまたま運良くタイミングが合っただけですから。
しかし、アジトに在った馬車の数から見て、既に10件程は被害に遭っているんじゃないかと思われますね。」
と前置きしつつ、ジャガの経歴にあったジェラルド領での元代官の癒着の件や、ここの街に潜伏中の『ロダンの剣』の2人組とジャンセンのゴンザレスというDランクの冒険者がジャガー団の潜入スパイで情報を流している事を暴露しておいた。
特にここでもジャンセンでも、何人もの女性冒険者が餌食になっている事も付け加えると、2人は顔を真っ赤にしながら激怒して、直ぐにスタッフや騎士を呼び3名を手配する様に指示していた。
その後は、バタバタとなったので、また後日という事になったが、
「うーん、我々は目的のある旅の途中なので、余りここに長居をするつもりが無いのです。
報奨金やなんかがあるのであれば、ギルドカードの口座振り込みで構わないのですが?」
とヤンワリお断りしたのだが、せめて明後日までは居てくれと懇願されて、渋々了承した。
「ああ、そうだ。アジトで発見した物で要らない武具類とかあるんですが、買取お願いして良いですかね?」
と聞いて見ると、領主様もハッとした顔になり、是非頼むと言って来た。おそらくはあのクッコロ関連の確認がしたいのだろうな。
「で、その品々は馬車にでも積んでいるのかな?」
「一応皆様を信用していますが、秘密保持の為、最少人数で倉庫に行きたいのですが?」
ギルドマスター室を出て、倉庫に移動し、武器庫から持って来た要らない武具類を一斉に出すと、その余りの量に「「「おぉーー!」」」と一斉に驚きの声を上げていた。
「なんと!その背中のリュックはマジックバッグなのか! しかも凄い容量だな。」
「ええ、今は亡き両親の遺品です。」
と適当に誤魔化しておいた。
実際には、ガバスさんから最初に譲って貰ったボロいリュックなんだけどね。
ギルドマスターは、
「あ、安心してくれ! 領主様も、俺も倉庫長も絶対に漏らさないからな!」
と焦りながら約束してくれた。
「ええ、信用しておりますよ?」
「うむ。何か最後が疑問形のようなのが気に入らんがな。」
とギルドマスターが苦笑いしていた。
「あ! こ、これは!!」
1本の剣を発見した領主様が苦いを通り越し、悲しい目をしていた。
「ケンジ君、アジトに生存者は居なかったのかね?」
「ええ、私とアケミさんとで入った時には、留守番が5名居ただけでした。
生き残りは無しで、牢の中には、悲惨な状態の遺体があったので、浄化した後、完全に灰にしてご冥福を祈りながら森に撒きました。」
「そ、そうか……残念だな。」
「ええ。」
こうして、一応クッコロさんの黒歴史はゴライオスの中から『無かった物』としてスルーされる事になったようだ。
哀れな事に、クッコロさんの死を悲しむ者がご両親以外には居らず、実の兄弟でさえホッと胸を撫で下ろしてしまったらしい。
街の中では、かなり明るいニュースとして概ね定着していたのだった。
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