第144話 マスティア料理とハゲパン
30分ぐらい経った頃、ドアがノックされ、
「ケンジ様、昼食の準備が出来ておりますが、こちらにお運びして宜しいでしょうか?」
と先程のメイドが緊張しながら聞いて来た。
「え? 昼食用意してくれたの? そうか、じゃあせっかくだから、お願いします。
この従魔達の分もお願い出来るかな?」
と聞くと、ホッとした表情になり、
「ええ、勿論です。どのような物が宜しいでしょうか?」
と聞いて来た。
「えっと、酸っぱくなければ特に好き嫌いは無いらしいので、普通に俺達と同じ物を食べてますよ?」
と答えると、実に驚いていた。
しかし、すぐに4人前の料理が運ばれて来た。
「おーー! これがマスティア料理か!」
一応、喜んで見せたものの、運ばれて来た料理は、クーデリアと同じ系統ではあるが、やや洗練された味付けが施されていた。
元の世界で言う所のフランス料理系になるのかな?
メインディッシュはどれもそれぞれに合ったソースが掛けてある感じである。
うん、まあこれはこれで、ドワースの名店よりは美味しいとは断言出来るな。
だがしかし! パンが頂けない。堅いこの世界標準の残念パンであった。
「うーん、このパンに関してはハゲパンの断然勝ちだな。」
と俺が呟くと、それを聞いたメイドが、驚いた顔をしていた。
アケミさんも同感らしく、自然と
「ええ、確かにジェイドさんのパンの方が素晴らしいですね。他の料理が丁寧な味付けをされているだけに、勿体無い感じです。」
と呟いていた。
この何気なく呟いた2人の言葉に宿は上を下への大騒ぎになったらしい。
食事後、直ぐに支配人とシェフが青い顔をして飛んで来たのだった。
「あ、あのぉ、ケンジ様、お食事はお気に召さなかったでしょうか?」
と怖ず怖ずと聞いて来た。
「いえいえ、大変美味しかったですよ? ありがとうございました。
クーデリアのドワースの名店よりも、良い味でしたし。」
と俺が言うと、
「あの、大変失礼ですが、メイドがハゲパンなる物がもっと美味しいと聞いて来た様なんですが……」
とシェフがオロオロしながら聞いて来る。
そこで、俺は自分らの軽い感想でここまで大事にされるとは思わず、驚きながらも申し訳無い気持ちになった。
「ああ、そのすいません、決して料理全体が不味いとかではなく、料理に対して、パンだけが足を引っ張っている気がして、思わず呟いてしまった様です。
気を悪くしないで下さい。」
アケミさんも失言に気付いた様で、同じく頭を下げていた。
「で、そのハゲパンですが、どのようなパンなんでしょうか?」
とシェフが聞いて来た。
思わず『ハゲパン』という単語に吹きだしてしまいそうになったのだが、何とか抑えつつ権利関係はどうなってたかと考えてみた。
「うーん、これはどう言う扱いになるのかな? まあ、食べるだけならOKか?」
とアケミさんと顔を見合わせながら考えつつ、1つのパンを皿の上に置いてみた。
「あの、俺がハゲパンって言ったのは、そのパンの名称ではなくてですね、雷光の宿というクーデリア王国のドワースにある宿屋のマスターがジェイドさんというハゲのおじさんでして、彼が作っているので、我々の間では、通称ハゲパンと呼んでます。」
と申し訳無さそうに答えたら、
「あの、恥を忍んで、こちらのパンを味見させて頂いても宜しいでしょうか?」
と聞いて来たので、頷くと、パンを手に取って、匂いを嗅いだり、両手で割って見たりしている。
「わぁ!柔らかい!!」
と驚きの声を上げ、手に取った半分を更に半分に千切って、支配人と分け合って、口に入れ、
「「美味い!!」」
と叫んでいた。
そしてシェフは、「あ、リンゴの香りがする!」と叫んでいた。
「これは素晴らしいパンです。
なるほど、これ程のパンをご存知でしたら納得です。」
と一発で撃沈してしまったらしく、項垂れていた。
「方法を具体的に教えるのは仁義に反するので、もし交渉するなら、直接クーデリア王国のドワースの雷光の宿のジェイドさんに交渉してみては如何でしょうか?」
とだけ助言すると、2人でありがとうございましたと、部屋から出ていった。
「うーん、何か気まずいな。」
「ええ、不用意に言葉を発してしまったと、深く反省しました。」
と2人で反省していたが、せっかくの旅行だし、落ち込んで居ては勿体無いと、気分を変える為に、一度冒険者ギルドの方へ向かう事にしたのだった。
(しかし、一応補足しておくと、これは旅行ではなく、名目上は遠征とか新規仕入れ先の開拓の旅なのである)
厩舎に立ち寄り、マダラ達に追加の肉や果物等を出してやってから冒険者ギルドへと向かうのであった。
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