第139話 思えば初体験
「あー、通り縋りの冒険者だが、手助けが必要だよね?」
と声を掛けると、いち早く復活した冒険者の1人が
「すまん、助かる!」
と早口でお礼を言った。
既に負傷者多数が居るので、時間を掛けるのは得策では無い。
一気に片を付けるべく、雷魔法を35発並列に起動し、『スタン』を放ったのだった。
「「「「バババババーーン」」」」と35発の稲光が一瞬に光って墜ち、身体から煙りをだしてる盗賊全員がその一瞬後に崩れ落ちたのだった。
余りにも一瞬で片付いてしまった事で、護衛の者達は、手には剣や槍を持ったまま、ポカンと口を開けて固まって居る。
俺は、それらを無視して、倒れている護衛3名に駆け寄った。
幸い重傷ではあるものの、まだ息はしていた。
一番重傷な片腕を切断された者は、その断面にクリーンを掛け切断された腕をくっつけてから『ハイ・ヒール』を掛けた。
身体が激しく光り、切断された腕がくっついて行く。神経等も綺麗に接合されるイメージで掛けたので問題ないだろう。
更に重傷者順に『クリーン』と『ハイ・ヒール』を掛けて廻った。
それぞれ身体がボワンと光って見る見る傷口が塞がり、折れた骨も真っ直ぐにくっついて行く。
これで取りあえず、ヤバかった3名は大丈夫だろう。
しかし血を流しすぎているから、スタミナポーションを飲ませる様に3本出して、ポカンと口を開けて固まって居る傍の護衛の男に指示を出した。
「えっと、まだ出血し過ぎで拙いので、このスタミナ・ポーションを3人にユックリ飲ませて下さい。」
しかし、反応が無いので、再度
「もしもーーし、聞いてますかーー!」
と大きめの声で言うと、
「あ! あ、ああ、判った!」
と受け取って、それぞれ手分けして、倒れたままの3名の口を開け、ユックリとスタミナ・ポーションを飲ませていた。
他の腕や足から血を流している負傷者を一箇所に集め、クリーンとエリア・ヒールを掛けてやった。
「ふう、これで全部かな。他に負傷者居ませんか?
居ない様なら、取りあえず、倒れている盗賊をふん縛って貰えますかね?
あと、申し訳ないんですが、前後200m程の所に見張りの盗賊3名を俺の従魔が取り押さえてますので……」
と言って居る時に、3名の盗賊を縛り引き摺っているアケミさんの馬車が登場した。
馬車の御者席から黒髪黒目の絶世の美女が微笑みながら手を振り、声を張り上げている。
「あ、ケンジさーーん、ピョン吉ちゃんが取り押さえた盗賊3名連れて来たけど、良いんですよね?」
そして馬車が目の前に止まると、御者席から健二目掛けて1人と1匹が嬉し気に飛び降りて来た。
<主ー、やっつけて来たよーー! 褒めていいぞー>
と。
えーー!? 引き摺って来ちゃったの!?
それを見た護衛の男達の顔は引き攣り、俺以上にドン引きしていた。
更に遅ればせながら誰かが、「げげ!!キラー・ホーンラビット!? デカい!!」と叫んでいる。
俺はロープで縛って引き摺るという荒技に唖然としつつも、
「あ、ああ、ありがとう……。じゃあ、護衛の方、前方の3名を連れて来て貰えますか?
従魔のシルバー・フェンリルが取り押さえてますので。」
と再度護衛の人にお願いしていると、
「え!? シルバー・フェンリル!?」
「マジか――」
と驚いている。
そんな折、俺達の迎えが無いのでコロが向こうから戻ってきた。
3人の男の襟首を口に器用に咥え引き摺りながら――――。
<主ーー、ヤッって来たよーーー? 褒めて褒めてーー>
と頭の中にコロの声が響いていた。
再び護衛達が沈黙していた。
え? 何この空気。
いやまあ、俺も常識無いけど、君らも大概だよねと心の中で呟く俺。
「あ、ああ、3名共にありがとうね。」
と声をやっと発するのであった。
そうしている内に、馬車の中から、商団の人達がゾロゾロと降りて集まって来た。
中でも代表の初老の男性が、顔をクシャクシャにしながら、何度もお礼を言って来た。
「私は、この先にある都市ゴライオスでアンジェロマ商会を営んでおります、ロージーと申しますじゃ。
この度は、本当に危ないところをお救い頂き、誠にありがとうございました。
本当に助かりました。また、負傷した者まで命をお救い頂き、言葉だけでは言い表せない程です。」
そして護衛の冒険者の代表らしき人物もやって来て、
「俺はCランクパーティー『紅の流星』のリーダーをやってるサキッチャーって言うんだ。
商団と仲間を救って貰って、本当にありがとう。しかし、まさかあんなにアッサリやっちまうとはなぁ~。ガハハ。
お前さん、強ぇ~な! 驚いたぜ!! しかし本当にありがとう。」と頭を下げていた。
「いえいえ、丁度通りすがりで、お役に立てて良かったです。
私はケンジと言いまして、一応冒険者をやっております。
ここら辺の治安は良く知らないのですが、余り治安が良くないのでしょうか?
前の街の冒険者ギルドや商業ギルドでは特にそんな情報無かったのですがねぇ。」
と率直な疑問を投げてみると、
「ええ、この辺りで盗賊が出るという情報は無く、比較的安全な場所だったのですじゃが。
私も長年このルートを使っておりますが、ここまでの規模の盗賊に出会ったのは初めてですじゃ。」
とロージーさんが嘆いていた。
ちなみに、ロージーさんもジャンセンの街に居たらしく、2日前に出発したらしかった。
旨くすれば、今日か明日辺りにゴライオスへ辿り着く予定だったそうで。
彼らの馬車には今回初参加している孫娘も乗っていたらしく、もし捕まれば悲惨な目に遭う事は免れなかったと安堵したの表情で語っていた。
やはりこの世界の盗賊達は根絶やしにするのが得策とされているらしい。
ふむ、つまり最近こっちに流れて来た盗賊なのか?
しかし、よくよく考えると、街中で絡まれた事はあったけど、これだけ旅をしてたけど、リアルに盗賊に出会ったのは初体験だな。
やっぱり居るんだなぁ、盗賊って。なんかアッと言う間に終わったけどな。
しかし、こいつらを殺せって言われてもなぁ。どうしようか?
取りあえずそして、縛られて横たわっている盗賊の1人を詳細解析してみると、面白い事が判ったのだった。
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