第132話 平穏な夕暮れ

翌日早朝に出発し、夜にアルデータ王国の王都へと到着、中1日疲れを取って貰った後、向こう側を出発し、夜に到着すると中1日休憩。

このローテーションで往復し、俺は後始末の為に3回目の便に同行した。




「ランドルフさん、アリーシャさん、ドングさん、お疲れ様でした。

お陰様で無事に終了しましたね。」

と俺が現地でお礼を言うと、


「ハハハ。俺はちゃんと来てくれるって信じてたから大丈夫だぞ!」

とランドルフさんが笑っていたが、


「あら? 結構『大丈夫かな? おい、俺達ここに置いてきぼりじゃねーよな?』って泣き入ってなかったっけ?」

とアリーシャさんが暴露して、大笑い。


「ば、バカ! そ、そんな事ねーし?」

と横を向いていた。

ドングさんは、ニマニマ笑いながらそのやり取りを楽しんでいた。


しかし、笑い話ばかりではなく、この1週間程、結構大変だったらしい。

夜な夜な夜襲を掛けてくるアルデータ王国の残党や、集って来る横柄な奴らがやって来るので、撃退に忙しかったらしい。

中には、可哀想な貧民を装うデップリ油ぎっちょのオッサンとかもいたらしい。


「あれは完全に配役ミスだったよなぁ~。

あれに騙される奴が居たら、見てみたいよな。ガハハハハ!!!」

と豪快に爆笑していた。


「あー、それちょっと俺も見てみたかったな。」

と俺が呟くと、


「あれは見ない方が良いデスよ? 目腐りますから。」

とアリーシャさんが嫌そうに言ってた。

どうやら、話によると前にアリーシャさんとトラブルのあった奴らしい。

なので、どう変装しようとバレバレだったんだと。

尤も先方は覚えてなかったらしく、ヘラヘラと愛想笑いをしながら近寄って来たらしい。


「あー、今思い出しても鳥肌が立つわ! あのデブめ――」

と両腕で自分を抱きしめて、ブルブルと震えていた。



「もう残りは居ませんかね?」

と聞くと、ランドルフさんと有志数名で街のスラムや貧民街を廻り、孤児ら数名を追加で救い出してくれているらしい。


「まあ、そんな訳で、合計で結局1000名を超えちまったが、子供だしギリギリ大丈夫だよな?」


「えーっと、残りは何名でしたっけ? 大人で大体350名運べるから、それを超えて無ければ大丈夫だけど?」


「ああ、じゃあ余裕だな。300名は切ってるし?」





そして中1日を休憩に回し、翌々朝、宿舎を全て回収し、最後に城壁も回収し終わり、颯爽とこの地を後にしたのだった。


ソリに乗った元奴隷の人達が遠ざかって行く王都の残骸を嬉しそうに眺めていたのだった。



 ◇◇◇◇



アルデータ王国の王都組が合流して、早1ヵ月半が過ぎ去った。

辺り一面を覆っていた雪も溶け、春の到来を知らせている。


健二達は村長やスタッフ、村人代表らと何度も話し合いをした結果、結局健二が根負けしてしまい、デカデカとした城壁で一気に囲んで、街並みを全部配置し直す事にした。


「じゃあ、ケンジ様、パパッとお願いしやすぜ!」

と住民らの期待に満ちた目に追い立てられる様に、作業を始めた。


森を壊さない様に、全体的に北へ中心をズラす感じで、城壁(中)を設置し、中央部分から整地を始め東西南北へのメインストリートを作り上げて行く。

更に同心円状にセンターを合わせ、城壁(小)を配置し、その村長、ステファン君、アニーさんの指示に従いつつ、決められた区画に次々に建物を配置して行く。

最後まで抵抗はしたのだが、「これだけの規模なので住民の為にも、是非!!」と泣き落とされ、結局長く慣れ親しんだ洋館(中)と別れを告げ、西洋城(小)を置く事になってしまった。


まあ、そんな事もあって、割とテンションが下がっていたのだが、ある程度形になってくると、不思議な物で、ジオラマを作っている気分になり、ドンドンと気合いが入って来る。

メインストリートだけで無く、各路地もかなり広めに設定しているので、息苦しさも無くなかなか良い感じである。

所々に公園や噴水等も設置してあるし、温泉も10箇所に設置する事になっている。


ただ、住民用の住宅を並べるのが非常に大変で、1日につき、200軒ぐらいを設置するのが精一杯であった。


連日道路を延長しながら整地して、建物を置き――――を繰り返す。


そして、14日掛かりで、漸く中心街の全ての街なみが完成した。


商売を始めたい者も居たので店舗兼用の家の者も多く、どれもが真新しい建物と綺麗な石畳風の道で統一されて、見た目は一端の王都という雰囲気である。

(尤も健二はアルデータ王国の王都以外見た事は無いのだが)


やっと街が終わったとホッとしていると、今度は内壁の外側になる農耕地へとかり出され、また田んぼや畑の為の整地等を12日程連続でやらされてしまう。


「ちょっと、人使い荒すぎじゃない? どんだけブラックな職場なんだよ!?」

と抗議するも、


「いえ、ケンジ様、今が頑張り時ですから!」

と却下されたのだった。


それに、

「それもこれも、美味しい作物の為ですから、ね?」

と食い物に釣られたという事もあり、萎れかけたヤル気を再度滾らせたりしていた。



尤も、住民達がその間何もしなかった訳ではなく、健二の負担を減らすべく、早朝から暗くなるまで、目に見える大石を排除したり、木を切り倒したり、拡張した事で外壁の内側に取り残された魔物に追われたり(……マジで追われているところを何度もスタッフ総出で助けてた)と、頑張ってくれていた。


魔道具の草刈り機や、トラクター等も大活躍し、整地の終わった所からドンドンと畑や水田に変わって行く。


スパイス班も頑張って色々と下準備等をしていた。


大地の息吹スキルを発動し、全ての作業が終わる頃には完全な春になっていたのだった。





「ケンジさん、またここに居たんですね?」

とアケミさんがやって来た。


「ああ、最初は城ってのも嫌だなぁと思ってたんだけど、この景色だけは良かったと素直に思えるよ。」


俺は、今城の最上階にある展望台?のテラスから、落ちて行く夕日に照らされている広大な農地や、街並みを見ながら、紅茶を飲んでいる。


「ええ、本当に綺麗ですよね。ここからの景色は。」

とアケミさんもウットリとした表情で眺めている。


「ああ、そっちに座って。紅茶で良いかな?」


俺が、紅茶をティーカップに出してやると、お礼を言いながら、カップを手に取り、冷ましながら飲み始める。

2人で夕日を眺めながら無言でマッタリとしていると、時間が経つのを忘れてしまう。


「俺、こうやってノンビリ夕日を眺めるのが好きなんだよね。

冬の夕日って寂しい気持ちになるんだけど、春や夏の夕日は何となく明日があるんだ!って気になるし、これはこれで良いよねぇ。」


完全に夕日が沈んだ後、俺が思い出した様に呟くと、


「ああ、そう言えば冬の夕日って何か綺麗でも寒いからか、寂しい気持ちになりますね。

まああれはあれで好きなんですけどね。

一緒に見る人次第なのかな? ウフフ。」

とアケミさんが微笑んでいた。


実際の年齢を知らず、会話だけを聞くと、枯れた昭和の老夫婦の会話である。



今でこそ、こうして平穏な雰囲気で過ごしている健二であるが、アルデータ王国の王都を潰した後1週間以上、夜な夜な悪夢に魘され、何度も夜中に叫び声を上げ、自分の声に驚いて目を覚ます事が多かった。

ガバッと起きると、汗ビッショリになっていて、クリーンを掛けたり、シャワーを浴びたり、そのまま眠れずに起きていたりしたのだが、それを癒やしてくれたのは、アケミさんであったり、王都から連れて来た子供らの笑顔であったり、村人からの感謝の言葉であったりであった。

徐々に夢で魘される頻度が減って行き、今回の再開発計画で完全に忙しさに忙殺され、疲れ果てて眠りに就く毎日が完全に忘れさせてくれたのだった。



村?の様子は順風満帆で、特に圧政に苦しんだ者同士という事か、全くと言って言い程、トラブルは起きておらず、新旧の村人達は仲良く農作業であったり、生産業を日々楽しんで居る様だ。

当初は物々交換であったり、ほぼ共有であったりしたが、今では、ちゃんとお金での売り買いも街中で行われている。


誰かが権力を振りかざし、誰かを迫害するという事は、このエーリュシオンでは皆無である。

2000人以上の住民が居るのに実に平和そのものであった。



生活が安定して来ると、やはり安心出来るのか、結婚するカップルが続出し、結構な勢いで既婚者が増えている。


実に喜ばしい事なのだが、しかしそうすると、周囲の健二に対する当たりというか、煽りというか、催促が日々多くなり、それが実に悩ましいところではあった。


「何度も申し訳無いけど、俺の場合、精神的なトラウマがあるから、急かされたりすると、逆効果だからね?」

と何度も言っているんだが、判っちゃいるけど、止められない感じらしい。


結婚式がある度に、俺に対する視線が強くなって来る気がするのは、俺の被害妄想なんだろうか?


俺は今でも十分に幸せを感じているんだがなぁ~。

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