第131話 で、どうすんだよ、これ

ドームから顔を出して王都側を眺めると、王都の空はドンヨリとした雲が下から赤黒い光りに照らされて、何ともオドロオドロしい雰囲気を醸し出している。

南門の方からは、多くの解放された奴隷達が、肩を貸されたりしながら、ここの篝火を目指し、ゾロゾロとこちらにやって来ている。

ヨレヨレであったり、ボロボロであったりするが、しかし、顔は晴れ晴れとしている。


俺達が手を振ると向こうからも手を振ったりして、ガヤガヤと嬉し気に歩いて来る。

彼らの笑顔に心が救われる気がする。


俺は虎のおっちゃん達に言って、スタミナ・ポーションを全員に配って貰い、3つのドームの中にテーブルを用意して、大量の食料を用意した。



朝日が昇る頃、3つのドームには脱出した元奴隷らが全員揃い、久々の温かい食事に涙を流しながら笑い合って居た。


ザックリと数えた人数だが、約750名程で、殆どが着の身着のままの寒々しい格好である。


取りあえず、病気や怪我人等を別途新たに作ったドームに集めて貰い、そこで重傷者から順に回復させて行く事にした。

流石に鬼畜な支配者が栄華を極めた国の元奴隷だけに、部位欠損のある者や怪我や病気を患っている者も多く、小さい子でさえ容赦なかったのが見受けられ、治療をしながら涙が零れてしまった。

流石に部位欠損者を含む全員を一気に戻す事は出来ないので(魔力的に)、重傷者から順に特級ポーション等を併用しつつ治療を繰り返す。


2日掛かりで全員を治療し終えた後、丸々1日死んだ様に眠ったのだった。



念の為、ガッツリ治療に入る前に城壁(小x1)でドーム4つを含むエリア全体を覆っていたのだが、俺が治療して眠っていたこの3日間で、やはり小競り合いやトラブルが城壁の外であったらしい。

いやぁ~、備えあれば憂いなしだな。


一応ランドルフさんの判断で、中に入れる者と弾く者とに別けたらしい。

ナイスである。


「で、その判断基準は?」


「あ? そんなのは簡単よ! 俺を見て嫌そうな目で見たり、高飛車な態度の奴を悉く排除しただけさ。ガッハハッハッハハ!!」

と爆笑していた。


なるほど、逆踏み絵的な物か。ハハハ。


「で、これからどうするね?」と。



「さて、どうしたもんですかね? 彼らは着の身着のままで薄着ですし、これから雪の中を行軍するなんて無茶は無理ですよねぇ。」


「だよな。人数も増えちまったしな。 あーー、あれからザッとだが150名ぐらいは増えたんだ。」

とランドルフさんが、頭をポリポリと掻きながら言って来た。


「まあ、状況が状況だけに、しょうがないですよね。」


うーん、どうするかな。まあ、最終的には拠点に連れていくの一択なんだけどな。


「相談なんですが、ランドルフさん、ここで一冬過ごして貰えないですかね?

俺、一旦戻って輸送方法を考えて、準備を整えて置くので。

宿舎をこの中に13棟程立てて置けば、何とかなりますよね?」

と俺が打診すると、置いて行かれるという事で、ガーーーンって顔をしている。


その顔に、捨てられる子猫みたいな表情に、思わず吹きだしてしまった。

虎のおっちゃんなのに、子猫って――――ッププ――


「ハッハッハ!! 何て面白い顔をするんですか! そんな顔芸今は要らないですよ? ップププ。

まあでも、誰かここを仕切る信用置ける人が居ないと拙いんで、お願い出来ないですか?

多分ですが、一冬までは掛からないです。 ソリを大型化して、1台につき30名ぐらい運べる物を作ろうと思って居るので。

それに、雪のある内の方が実際速度出せるみたいだし、マダラ達総出で頑張って貰うつもりなんで。」


「わぁったよ!(判ったよ) やりゃぁ良いんだろ? やりゃぁ! 乗りかかった船だ。俺ら3名に任せろ!」

と胸をドンと叩いていた。



「だ、だから頼むから、早めに迎えに来てくれよな?」

と少し懇願する様に最後を締め括られて、また爆笑するのであった。




俺は、城壁の中に宿舎を並べて置きつつ、ドームを排除していき、最後をランドルフさん達に任せて拠点へと戻って行った。


途中1人の時間を過ごした訳だが、やはり1人の時間が増えると、色々と考えてしまう訳で……。

もっと他に方法があったのではないか? とか、亡くなった方の中にはまともな人も居たのではないか? とかが、頭の中をグルグルと巡ってしまい、申し訳無い事をしたなと、涙を零していた。

しかしこの世界では、街道とかに出る盗賊は、漏れなく全員殺す事が推奨されている。

理由は簡単で、温情や仏心で見逃した結果、更なる被害者を産むからである。

近くの街の衛兵等に引き渡す環境が無いのであれば、処刑するしか選択肢が無い。

この世界では、犯罪者の更正をそもそも考えてない。

一度犯罪に手を染めてしまうと、もうまともな仕事に就けないし、都市への入場も制限される。


今回は権力がある国家相手だっただけに、そこらの盗賊より質が悪かった訳だから、この世界の人の感覚であれば、

「ああ、あれはしょうがないんじゃないか?」

と肯定的な意見が大半となるだろうが、元日本人の健二には、なかなか割り切れる物ではなかった。

幸いだったのは、直接刀等で殺した訳ではなく、空爆に近い状況しか見て無いので、グロイ状況を目にしなかった事だろう。


まあ、それでも本人は割り切ったつもりでいたが、相当に堪えていたのだった。



その日の夜9時頃に拠点に辿り着くと、待ち受けたアケミさんから抱きつかれ、散々に泣かれた。


「ごめんよ。どうしても連れて行けない様な現場だったんだよ。

でも待って居てくれる人が居るって、何か嬉しいもんだね。へへへ。」

というと、思いっきり腕を抓られて、プイッと横を向かれてしまった。



それから、スタッフ達や村長らを集め、更に人員が約1000名増える事を伝えると、爆笑されたのだった。


「え? そこで笑う意味が良くわからないんだけど?」


俺がキョトンとしていると、どうやら、村長達が俺が出て行った後に、「また住民が増えそうな気がするんじゃ!」と予言していたらしい。

マジか!? 段々村長の予言力が上がっているというか、村長の目論み通りに事が運んで居る様で、ちょっと嫌だなぁ。



という事で、翌日から急ピッチで大型のソリの製造を開始した。

ソリに関しては、現状のソリの大型化をドワーフ軍団が一気に作り出して行き、それに俺が大幅な重量軽減の付与を行った。


子供ら世代のCシリーズはまだ戦力不足なので利用出来ないが、20匹のハイ・ホースが居るので、10台のソリが曳ける。

マダラ達に聞いたところ、足場強化の範囲は最大で12mぐらいまで行けるらしい。

よってそれに合わせ、1台のソリの全長を7mぐらいとして、ちょっと狭いが横に5人掛けのベンチシートで7列とした。

つまり1回の往復で10台×34人前後なので、340人前後の移動が可能となる。


「ほほー、だとすると、3往復で全員運べるって事か。結構早く終わりそうだな。

せっかく一冬を覚悟してくれてるランドルフさんに申し訳無い程だな。ハッハッハ。」



拠点の空いたスペースへ更に宿舎型を13棟程追加で設置し、スタッフには防寒具や衣類の調達をお願いして置いた。

と言っても、各拠点共に既に一度買い占めた後なので、殆ど在庫は少なく、厳しい状況であった。


「これは誰かに近辺の都市まで買い出しに行って貰う必要があるかなぁ。」


ドワースの近隣には、旧ラスティン子爵領や、アザルト伯爵領、スベルテン男爵領、ちょっと王都寄りにエグリート伯爵領がある。

しかし、そのどれに行くにしてもソリとハイ・ホースが足り無い。

確かにマダラ達の子であるCシリーズは居るが、まだまだ厳しいからなぁ。

と悩んで居たら、


<主ーー、えっと、2日ぐらいくれるんなら、俺達でナンパして来るけど?>


とマダラ師匠のお言葉が。


マジすか! 流石はマダラ師匠。超高難易度の(俺に取ってはだが)事をサラッと提案して来る。


「しかし、それってハイ・ホース居るかな?」

と聞くと、


<うーーん、多分ホース止まりだと思う->


って事で、

つまり、やっぱりハイ・ホースはなかなか居ないって事らしい。

寧ろ、ハイ・ホースだらけの『ここ』が異常なんだそうで。

結局、即戦力になるかは微妙だったので、取りあえず今回は申し訳無いけど無しという事にして、マダラ達の子であるCシリーズに頑張って貰い、ドワース近隣の都市へ衣類の買い出しに行って貰う事になったのだった。

まあ、マダラ曰く

<大丈夫だよー、あいつらもソロソロ良い頃合いだし、喜ぶよー? 多分>

と言っていたので、大丈夫だろう。

その為、1頭曳きの小型のソリを作り、2名乗車で村人達に3都市を廻って貰う事になっている。

ソリには一応重量軽減の付与をタップリ掛けておいた。



そして、ピストン輸送大作戦が開始されたのだった。

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