第130話 神罰が下る時
ある意味、驚きである。
早朝でドワースを出て、途中何回か休憩を入れたが、それでも夕方ぐらいには王都に辿り着いたのである。
これには道案内をしていたランドルフさん達も驚いていた。
マダラ曰く、
<いやぁ雪の上は障害物が無くて走りやすいっすーー>
と暢気な事を言っていたが、そんなレベルでなく激っぱやである。
早速、王都の城壁から500m程離れた場所の木々の間に巨大なかまくらを作り、その中に雪を固めた上に厩舎とテントを張って休憩を取った。
マダラとB0には温めた泉の水や肉や通常の餌と果物を与え、労を労った。
「で、どうするんですかい? プランは?」
と悪い笑顔のランドルフさんが聞いて来る。
「あー、いやノープランって言うか、城ごと更地にしようかと考えているんだけど、ただねぇ~。」
と俺が言い淀む。
「ん? 何か引っかかりがあるんですかい?」
「いやさ、城の中には善良な人も居るんじゃないかとね? それまで巻き添いにしちゃうと拙いかなぁってね。」
「うーん、善良な奴ですか? 居るのかなぁ?」
とランドルフさんが首を捻って仲間の方を見る。
「えー? 善良な奴は城で働かないですよ? 精神的に保たないだろうし、そんな奴は城内で生き残れないですよ?」
「んだ! メイドでさえ、城の外では傲慢だったからなぁ。」
「ああ、そう言えばそんな事もあったなぁ~。4年前だっけ? 王都で暴れそうになったな。」
うむ……何やらそう言う事件があったらしい。
「まあ、余り好きな言い方じゃねぇけとよ、ある意味二度とバカを作らない為の意味もあるんだろ?
だとすると、見せしめの効果の方が大事なんじゃねぇ~か?」
「だよなぁ。それは判るんだけどね。無差別に城ごとってのがね。
何か他に選別する手が無いかと考えたんだけどね。
「ある意味、助かるべき人は助かるって思うしかないんじゃない?」
「んだ! それにそんな善良な奴だと、マジで城では生きて行けないと思うぞ? 気にするだけ無駄なんじゃねぇかな?」
と3人が話している。
うむ。確かに魑魅魍魎の中で1人奮闘しても飲み込まれるか失脚するだけだろうな。
打ち合わせをしながら夕食を取り、早めの仮眠を取る事にしたのだった。
◇◇◇◇
時間だ。
黒装束に着替えた俺達はお誂え向きの闇夜に乗じて、城壁を越えて中に入った。
驚く事に王都の街は酷い荒れ様で、降り積もった雪化粧でも隠しきれない程である。
俺は3名の案内で奴隷商のある地域を廻り、『エリア・リリース』を掛けて廻る。
エリア・リリースだが、該当する人数が多いとその分、消費魔力が増える。
健二がエリア・リリースを掛けて廻ると彼方此方から
「「「「「「「「「うぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」
とか
「「「「ぎゃーーー!」」」」
とか
「ああ・・・ま、まて」
と言う歓声や悲鳴や焦った様な声が聞こえた。
そして、次はメインストリートにある大店の辺りを集中的に『エリア・リリース』して廻る。
次は貴族街……そして最後に王城である。
流石に王城はエリアが広いので、4回に別けて念入りに地下までエリア・リリースを掛けた。
エリア・リリースを掛けると、対象になった人数やその対象の居た場所が大体把握出来るのであるが、幸いな事に貴族街の屋敷でも、本館とは別の粗末な建物に押し込められていたので、ある意味好都合であった。
俺は2時間以上を掛けて彼らにコンタクトを取って廻り、騒ぎに乗じて南門から脱出する様に告げつつ、奴隷の居る建物にシールドを張って廻った
これで圧政で不本意に奴隷墜ちした者達は概ね解放出来たであろう。
魔力ポーションを飲んで、魔力が満タン近くまで戻った後、気配遮断を発動しつつ2つの月が出て居ない真っ暗な夜空へと飛び上がった。
時刻は午前3時、泣く子も黙る丑三つ時か?
俺はこれから行う行動を女神様の所為でも誰の所為にもしない。
俺がこれを行うのは、俺自身の判断による物だと心に言い聞かせ、納得の上で最後の覚悟を決めた。
そして、深呼吸を終えた後、王都全域に大規模なサウンド・ウェーブを発動し、ファンファーレ代わりの角笛を数回鳴り響かせた。
ブォーーーーーーーーーー♪
ブォーーーーーーーーーー♪
ブォーーーーーーーーーー♪
本当なら、こんな時には、ワーグナーを鳴り響かせたかったが、この世界にはカセットデッキもオープンリールもないからなぁ……。
ザワザワと人の気配が屋外に出て来たのを確認してから、禁断の大技、決して使う事は無いと心に決めていた『メテオインパクト』を王城上空で発動した。
一応過去に平原で行ったよりも魔力を絞ったので貴族街ぐらいまでで被害は収まる筈である。
ゴーーーー
王都上空から雲を突き破って巨大な火を伴う真っ赤な隕石が王城に垂直に落ちて来る。
そして、一瞬で王城の中心のトンガリお屋根に激突した。
ドッカーーーーン
嘗て聞いた事の無い様な破壊音が鳴り響くと、その一瞬後には、衝撃波と爆風が同心円状に広がって行く。
その衝撃波でなぎ倒された建物の残骸や瓦礫を爆風が吹き飛ばして行く――
ほんの数秒で王城の中心から半径約800m程は、俺がシールドを張った奴隷小屋以外は完全に消滅した。
以前の実験時よりもかなり威力を絞りに絞ったにも拘わらず、予想以上の結果だった。
圧政の象徴であった王城も貴族街も全て無くなった訳だ。
一瞬余りの威力に呆然としかけたが、直ぐに次の行動へと移行する。
耳がキンキンと鳴っているが、軽くライト・ヒールで復活させ、素早く出来たばかりで真っ赤に燃えさかるクレーターの中心を魔法で冷却して土台を作った。
そして、その上に女神様の像(特大)を設置し、作っておいた巨大な石碑を設置した。
クレーターの廻りの真っ赤な光りに下から照らされた女神エスターシャ様の像なのだが、やった本人の俺が言うのもアレなんだけど、実に怖い。
優しい慈愛に満ちた笑顔の筈なんだけどなぁ~。
これで、今後こんな支配階級が生まれ出ない事を祈りつつ、王城跡を飛び去った。
一方、俺がシールドを掛けた奴隷小屋から這い出した元奴隷達は一心不乱に南門を目指した。
既にスタンバっている虎のおっちゃん達と合流し、南門を消滅させ、ドンドン城壁を消し去って廻る。
城壁はグルリと一周ランダムに破壊して廻ったので、何処からでも出入り自由になった。
城門や衛兵の詰め所も問答無用で消し去っている。
中に居た衛兵の安否は聞かないで欲しい。
その間にも王都の街からは悲鳴や怒号や剣戟の音が鳴り響いていたが、奴隷紋さえなければ、其処らの怠惰を貪った騎士等に獣人達を押さえられる訳も無く、次々に撃破されていく。
これで王都はお終いである。
人族至上主義であったアルデータ王国はその長い歴史に終止符を打った。いや打たれたか。
俺は魔力ポーションを煽って魔力を補充しつつ、王都の南門から300m程離れた場所に土魔法で巨大なドームを3個作り、内部には照明と空気清浄とエアコンの魔道具を設置して廻った。
お腹が少しポーション漬けでチャポチャポしてる感じだが、取りあえず、おっちゃん達と共に夜食代わりの桃を食べ、キラー・ビーのハチミツ入りの紅茶を飲んで一息着いた。
これで良かったのかなぁ?
俺は大虐殺を行ってしまったな……でも、精神異常無効スキルの恩恵なのか、驚く程に平然としている自分が怖いな。
さて、これからどうするかなぁ……これから先はノープランでフィニッシュなんだが。
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