第129話 決意の時
ジョンさんから領主様の伝言を聞いた後、リビングに場所を移動し、二杯目のコーヒーを飲みながら、ジックリ頭の中で思考を巡らせていた。
というか、ひたすら反省していた。
半端な意趣返しで留めた事を深く後悔していた。
健二は二度目の人生でも人の悪意や狂気に慣れておらず、まさかこんな事を平気でヤレる人が居るとは思ってもみなかった――その自分の考えの甘さを心の中で罵っていた。
「やはり、この世界はそんなに甘くないんだな。」
勿論、他の誰かが聞けば、それは考えすぎだと、気負い過ぎだと言われるかも知れないし、或いはそこまでの責任も無いし傲慢だと言われるかも知れないが、やはり『出来る事』をやらなかった様な後ろめたさは、心に残ってしまうのだ。
これまで、人の命の安いこの世界においても、健二は直接人を殺めた事は無い。
まあ、生還出来ないであろう所に置き去りにした事はあるが、あれは自業自得と考えてカウントしていないのであるが――――
今回のこの件の報復というか、罰を女神様の言う様な感じで与えるとすれば……確実に人を殺める事になるだろう。
実際のところ、その(人を殺めるという事)重圧に耐えられるのだろうか? 他にもっと効果的な方法は無いのだろうか? と考えて居る訳である。
健二の場合は特例が重なったので知らなかったのだが、実際のところ、冒険者でもCランク以上にかんしては盗賊の討伐等で実際に人を殺せるか?という内容の試験があったりする。
Aランクの健二は、本来なら当然この試験をクリアしている筈なのだが、運良くスルー出来たという訳である。
そして、1時間程リビングで考えた後、領主館へと向かったのだった。
領主館では笑顔のマックスさんに出迎えられ、ガッチリと握手された。
「いやぁ~、今回はケンジ君のお陰で、悲惨な事には至らず、本当に幸いじゃった。。
あと、あの雷光の宿に潜んでいた3名の工作員じゃが無事――いや、結構ギリギリじゃったらしいが、捕縛出来たんじゃ。
今は背後関係をポツポツと口を割らしておるんじゃが、こちら側がケンジ君の言った事を交えて話しをすると、諦めたんじゃろうな、アルデータ王の勅命であった事を白状したぞ。」
「なるほど。その場合、クーデリア王国としてはどのような事になりますか?」
と俺は国としての出方を聞いてみた。
「うむ、それなんじゃが、現在王都の方と連絡を取っておってな、対応を協議しておるんじゃよ。
まあ、少なくとも仕掛けられてそのまんま放置はあり得んからのぉ。最悪、戦になるか、話し合いの余地があるかじゃが――」
まあ、つまり国のトップが仕掛けて来たのだから、こちらも国として有耶無耶には出来ない。
最悪ヤル事をやらないとダメらしい。
「なるほど。しかし、相手のアルデータは既に潰れかけてるという話ですよ。
それでもやるんでしょうか?」
「それもこれも相手次第じゃな。どちらにしても、冬の間は動けんがなぁ。」
との事だった。
尚、今回俺が呼ばれたのは、そこら辺の事情を話す事と、今回の報酬というかお礼というか、そう言うお話だった。
俺としては元々俺の行動にも引き金となる事があったので、辞退したかったのだが、細かい事情を話す事も出来ないし、やはりこの地を治める貴族としてのメンツもあるとかで、断る事が出来なかった。
なんか、マッチポンプの様で嫌なのだが、別の形で還元する事にしようと、考え方を切り替える事にしたのだった。
ああ~ただただひたすら、自己嫌悪に陥るなぁ。
別荘に戻ってから、全員に労いの言葉と特別報酬?の金一封を渡して回り、虎のおっちゃん事ランドルフさんとその仲間2名を呼んで、通常では中に入れない屋敷の会議室へと案内し、とあるお願いをする。
「えっと、今回はちょっと相談というかお願いがあって集まって貰いました。
実は、アルデータ出身の冒険者であるランドルフさんだったら、アルデータの王都をご存知なのでは?と思いまして。」
と俺が切り出すと、
「なんだい、ケンジ様よぉ、改まって。 ああ、俺達は王都までの護衛依頼とかも請けてたから何度も王都には足を運んでいるぜ。
まあ、糞みたいな所で、俺達獣人にゃ居心地悪いから、速攻で他の依頼請けるんだけどなぁ。ガハハハ。」
「ええ、本当に王都は最悪でしたよ。余り長く居るとランドルフが暴れて拙い事になりそうなんで、いつも速攻で別の護衛依頼を請けてましたね。」
とこのパーティの唯一の女性である狼族のアリーシャさんが苦笑いしながら補足してくれた。
「ダハハハ、まあそう言うこって、王都には何度も行っては居るがなぁ。
何だ、ケンジ様、王都に行きたいのか?」
と核心に迫る質問を投げて来た。
俺は、村人には説明してなかった今回の事件の概要を説明すると、ランドルフさんが、怒り狂っていた。
「判った。俺らを呼んで、俺らだけに話して居るって事は、そう言う事なんだな?
ここからアルデータの王都までかぁ……約600kmぐらいあるかな。」
とランドルフさんがルートを考えながら呟く。
「多分地図だけだとこの季節、辿り着くのに時間が掛かり過ぎそうなんでね。
それに、春になるとクーデリア王国が報復の戦を仕掛ける可能性が高いんですよ。
そうなると、無駄な血が流れますからね。」
「なるほど、判った。道案内は俺らに任せろ!」
と豪快に胸を叩き、その後咳き込んでいた。ハハハ。
「じゃあ、お願いします。尚、これは隠密作戦なので、他言無用でお願いしますね。」
「おう! 『武門の義あくまで影にて』ってか。 俺もあいつらにゃぁ、山程言いたい事があるからよぉ!」
おい、おっさん! なんでそれを知って居る!? と思わず突っ込みそうになる健二。
「アハハ! それ300年程前にイメルダ王国に来たって言う、勇者の言った台詞だろ? 何だっけ? 『影の隠密の心得』だっけ?」
とアリーシャさんが爆笑している。
「何だ!? その300年前の勇者って?? 『影の隠密の心得』って?」
聞くと、過去にイメルダ王国へ現れた異世界からやって来たという勇者と呼ばれる人物が居て、その人が『影の隠密の心得』ってのを広めたらしい。
マジか! じゃあ割とこっちの世界には俺の様な異世界からの記憶を持った奴が他にも居るのか!?
いやぁ~驚いた。
しかも300年前だってさ。つまりあの時代劇を知る人物が300年前に居たって事は、少なくともその人物と俺は、ある程度同じ時代の日本からやって来た事になる訳だが、その差が300年だよ300年!!
余り時間経過とかってのは関係無いのかも知れないなぁ。
「ハハハ。そうなのか。だが大丈夫だ。絶対に死なないから。屍にはならないし、させないから。」
と俺が言うと、
「ガハハ、ケンジ様もお好きな方ですなぁ。」
ともう1人のタンク担当の熊族のドングさんが微笑ましそうに顔を歪ませていた。見た目は厳つくて怖いんだけどね。
なので、もしや同志かもしれないと、余っている3着の黒装束を出して見せた。
「うぉーーー! 黒装束じゃねぇかよ! おい!!」
「わぁ~! あたいも着て良いの?」
「お、俺の身体でも着られるかなぁ?」
と三者三様に大喜びしている。
マジか~! ついでに刀も出してやったら、更にテンション上がる3名。
ハハハ、思わぬ所に同志が居るとはな。
お陰で、重かった心も少しだけ軽くなった気がするのだった。
◇◇◇◇
翌朝、早朝の暗い内からドワースの別荘を出発し、飛ぶ様な勢いで俺達4名を乗せたソリ街道を疾走するのであった。
スタッフ達には指示のメモを残して置いた。 取りあえず、全員を連れて拠点に先に戻る様にと。
そして、アケミさんには別の置き手紙で、先に拠点に戻って待つ様にお願いしておいたのだが、多分置いて行かれて怒るだろうなぁ。
でもこんな旅には連れて行けないよなぁ~。
俺の心残りというか、心配事が顔に出ていたのか、豪快でガサツが売りのランドルフさんが、俺の方を向いて聞いて来た。
「ケンジ様よぉ、良かったんですかい? 彼女を置いて来て。
何なら一旦戻るのもアリですぜ?」
「あーー、いや、彼女って訳でもないんだけどなぁ。 何て言えば良いんだろう? 友達以上恋人未満? まあ、俺にも色々あってね。
ちょっと恋愛とかそう言うのが今はまだキツいんだよね。 多分その内に癒えるかも知れないけど。
ただ置いて来ちゃったのは悪いと思うんだけど、内容が内容だけに連れて来ちゃダメだと思ったんだよ。」
「ふぅーん、何だ恋人じゃなかったんだ。へぇ~ とてもそんな感じには見えなかったけどなぁ~ フッフッフ」
とアリーシャさんがニマニマしながら俺を見ていた。
俺は、少し照れもあって、誤魔化す様に、朝食のサンドイッチと暖かいコーヒーを出して、外の流れる雪景色を見ながらスルーするのであった。
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