第128話 魔力枯れるまで……

俺達が孤児院に行くと、今年ここを卒業する子以外はほぼ全員が感染して発症しており、そこは既に野戦病院の様な雰囲気で、司教様もシスター達も疲れが酷く、目の下には隈が出来ていた。

軽く病名と治療法を話して、早速子供らの治療を開始した。


意識のある子らには、魔力ポーションと解毒ポーションを飲ませ、意識の無い子には俺がポイズン・キュアとハイ・ヒールを掛けて行く。


孤児院の子供らの治療を終える頃、領主様と兵士が先にやって来た。


「ケンジ君久しぶりじゃな。 今回は申し訳無いが、色々宜しく頼むぞ。」

と久々のマックスさんが重苦しい表情で頭を下げてきた。


俺は、「勿論です。」と応えてから、事件の真相を話した。

途端に重苦しい表情から、鬼の様な表情へと急変し、手に拳を握り締め、ワナワナと怒りに震えていた。


そして、一言、「許せんな……」と呟いていた。

俺も釣られる様に、「同感です。」と呟いたのだった。

ジェイドさんには確保する様にお願いしていたが、既に騎士団の方で雷光の宿に捕縛に向かっているとの事。


「判りました。兎に角、領主様の方で、こちらの神殿に患者を全員集めて貰えますか?」

とお願いすると、既に健二の親書に従って、手の空いている全兵士に召集を掛けて全戸に廻らせているとの事だった。




それから暫くすると、徐々に子供を抱きかかえた母親や父親達が続々とやって来た。

スタッフ達にお願いし、意識のある子はポーション類で治療を、そうでない子は俺が魔法で回復を掛ける様にした。

魔力は有限なので、1人でも多く助ける為には節約しないといけないからである。


更に2時間程経った頃、拠点から助っ人がやって来た。


早速、彼らには神殿から離れている地域の子供達の内、意識のある子には、ポーションセットを、意識の無い子は神殿へと運んで貰う事にした。



更に4時間が経過しているが、患者数は一行に減る感じはしない。

まだ意識のある子の数が2/3の割合で多い事が救いである。

既に、特級魔力ポーションや泉の水や桃等で補給しているが、そうそう魔力ポーションばかり飲めないので、かなり厳しい状況である。


苦しそうな幼い子の顔を見る度に、健二は心の中で手を合わせて謝っていた。

『俺が半端に手を出したばかりに――――』と。


実際の所、確かに引き金の1つでもあったが、砂糖に関しては『偶然』である。

本来なら、特に健二が苦にする事は無いのだが、そんな考えに至らないのが健二ならではであった。




拠点の方から、炊き出しが運び込まれて来た。

気が付くと、夕方の6時となり、外は真っ暗である。


領主様の所の文官の話だと、現在で大体3/4ぐらいが終わったところじゃないかとの話であった。

だとすると、残り1/4である。


既に消費したポーションセットは1000セットを超えていた。

暗くなった所為か、患者の到着が緩やかになり、合間合間に魔力の豊富なマギマッシュのスープを飲んだり、サンドイッチを摘まんだりしつつ、治療を続けた。


治療の終わった意識のある子供達が、「おにーちゃんありがとー」とニッコリ笑ってくれるのだけが心の支えであった。


そしてスラムを含め全ての発病患者を治療し終えたのは日付が変わった頃であった。



最後の子供の治療が終わり、健二は


「皆さん、お疲れ様。 お陰様で助かりました。

スタミナ・ポーションを各人飲んでユックリ休んで下さいね。」

とお礼を言った後、意識を失ったのであった。



 ◇◇◇◇



ん? あれれ? 右半身が動かないぞ!


どうやらベッドの中の様であったが、極度の疲れでそのまま気を失ったという事を思い出すまでにかなりの時間を要してしまった。


そして、漸く頭がハッキリと回りだした頃、右半身の感覚が無い事に焦り始めたのだが、首は動いたのでユックリ動かない右半身を確認する、そこにはスヤスヤと寝息を立ててる………



コロの姿が………。

そして掛け布団を押さえるかの如くに、ピョン吉やAシリーズがズラリとベッドの上に鎮座して寝息を立てていた。


首を動かし顔を起こした事で、おでこからは、サリスが目の上に滑り落ちて来た。



どうやら、心配した従魔達によって囲まれていて、コロに圧迫されて右半身の血流が悪くなって感覚が無くなっていただけらしい。


プハハハハハ!!



身体強化を行ってライト・ヒールを掛けると一瞬で右半身の麻痺状態も治り、ホッと一安心した。


時刻は既に午前11時を過ぎていた。



俺がモソモソと動き始めると、真っ先にサリスが目を覚まし、「!★&#+P!」と可愛い声を発し、ピョン吉達も目を覚ました。


<おー、主、無事に目を覚ましたな>


<主ーー心配したーー>

<腹減ったーーー>

と声を掛けいてきた。


「ああ、ゴメン。心配掛けたかな。もう大丈夫だから。」


自分にクリーンを掛けてから、着替えを済ませると、部屋を出て食堂へと向かうのであった。



「あ!! ケンジ様ーー!!」

と俺を見たアズさんが涙目で駆けて来た。


その声を聞いた、アケミさんもリサさんもジョンさんもやって来る。


「良かったですぅーーーー」

と泣きながら女性3人に抱きつかれ、石像の様に動きが取れなくなる健二。


「あー、何か色々心配掛けたみたいで、ごめんね。もう大丈夫だから。」

と言うが、10分程その状態が続いたのであった。



やっとジョンさんの助け船で救助され、食堂のテーブルに着いて、遅い朝食にありつけたのであった。


ユマちゃんは一晩で完全に復活し、可愛い笑顔を見せながら、

「ケンジしゃま、ありやとうございまちた!」

とカミカミでお礼を言ってくれた。


やっぱ子供の笑顔は良いね! 生き返るねぇ。


「良かったね。元気になって。本当に良かったよ。」



食事が終わると、ジョンさんが


「ケンジ様、領主様より、お礼の言葉と時間が空いたら領主館へお越し頂く様にと伝言がありました。」

と告げて来た。



健二は頷いたあと、食後のコーヒーを飲みながら頭の中で考えを纏め始めるのであった………。

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