第133話 最近の日課

ここ最近はノンビリと春を楽しみつつも日々の日課として、転移魔法の距離を伸ばそうと躍起になっているのだが、これが全然パッとしない。

イメージの仕方が悪いのか、それともこれが限界なのか? 文献も何も無いので何ともならない。

また最近判った事だが、この転移魔法を使う際、例えば単身で転移する場合と、従魔を連れて行く場合とで同じ距離でも使う魔力量が全然違う。

距離によっても消費魔力量は変わるが、転移する人数とかにも左右される様だ。

単身で、魔力をギリギリまで使って150kmを超えるのが現状の限界である。


そもそもだけど、スター○レックの転送をイメージしているのが悪いのか? という疑念が湧いてくる。


他に転移系で思い付くとしたら、亜空間を通るイメージのワームホールとか、ドアを通るイメージの何処でも○アとかだが、ここは一発逆転を狙って、イメージする魔法を変えてみるのも手かと。



しかし、ワームホールとかブラックホールって何か怖いイメージが強いんだよね。

異空間に迷い込んで戻って来られない様な、そう言うイメージが頭を過ぎるし。

魔法ってイメージが大切だから、心の何処かでそう言うマイナスイメージあると、モロに失敗しそうな気がするので、ワームホールプランは頭の中の多数決で却下となった。

残るは、21世紀からやって来た耳無し猫のアニメに出て来る空間と空間をくっつけて通るドアのイメージだな。


という事で、空間と空間を隣り合わせでくっつけるイメージを練り上げて何度も実験というか練習をし始める。

イメージが固まるまでは魔法がなかなか発動せず、失敗してもそれなりの魔力を消費する。

MPの残量を確認しつつ何度も何度も失敗を繰り返す。魔力切れになるとその日はそれでお終い。


一応、安全圏を見てM残量30%を目安にしている。


そして訓練を始めてから3週間が過ぎた頃、ボワッっとイメージが固まると共に魔法名が頭に浮かんで来る――――


「キターーーー! 『ゲート』」


思わず狂喜しながら叫ぶと、目の前にポッカリと別の空間に繋がる穴が浮かび上がった。

穴の向こう側は、懐かしいマーラックの別荘である。


「うぉーーーーー!!!」


躊躇無く、サクッと穴に飛び込んでしまった。

一瞬大丈夫か?等考える事も無く。


出た先は、正しく懐かしいマーラックの別荘の庭であった。




余りの嬉しさに1人はしゃいでいると、


「あれ? ケンジ様?」と声を掛けられた。


「ハハハ、ああサンジさん、久しぶりだねぇ~。」


「えー!? 何時こちらへ? わぁ~、言って下されば、準備しておきましたのに!!」

とサンジさんが騒ぎ出す。


「あー、いや俺も上手く行くとは思ってもみなかったから、実はさっきまで拠点の方に居たんだよね。

ちょっと魔法の実験をやっててさ、やっと成功したんだよ!!」

と興奮しすぎて、何か頭の悪い説明になってしまったけど、


「まあまあ、一度屋敷で落ち着いて下さい。」

と諭されて屋敷のリビングへと入った。


ソファーに座り、飲み物を出して貰って、落ち着いて事の経緯を説明すると、今度はサンジさんがヤバかった。



「ぇぇえーーーー! マジですか! ケンジ様、それはヤバいですよ! マジ、ハットリ様と同じっすよ! それはヤバいです。 凄すぎますよ!!!」

と半分壊れている。 兎に角ヤバいを連発してて興奮している。


15分ぐらいで平静を取り戻したサンジさんに説明して貰ったところ、約300年前に異世界からやって来たというハットリ・サンゾーなる人物が居て、当時この大陸を荒らし回っていたエンシェント・ドラゴン同士の喧嘩を諫めたそうな。

そのお陰で一時期はとばっちりで大被害を被っていたこの大陸の人類(人族や獣人やエルフやドワーフ)が救われたらしい。


で、そのハットリ・サンゾー君が使っていた魔法の1つに転移魔法があったと。

その後、何でも彼は同じ黒目黒髪で馴染みやすいと、イメルダ王国に住み色々な食文化等を根付かせたらしい。


「おおーーー!ナイスだぞ!ハットリ・サンゾー君!!

なるほど、だからイメルダ料理って俺好みなのかぁ。」


「いやいや、ケンジ様、食べ物は兎も角ですねぇ、そんな事より問題は、この転移魔法は誰も他に習得出来た者が居なかった訳で、バレると確実に全世界的に面倒な事になりますよ?

いや、まあ具体的にどう言う事になるかは判らないですが、色んな国や貴族や商人とか、もうウンザリする程に絡んで来ます。これは間違い無いです。」

と断言するサンジさん。


「ああ、なるほどね。まあ利用しようとする奴が、ワラワラと湧いて出るという事だね。

うむ。あり得るね。了解。という事で内緒でお願いするよ。俺も一捻り偽装する様にするから。」


「畏まりました。フフフ。しかし本当に凄いですよ、ケンジ様。

私は凄い方にお仕え出来て幸せです!」

とサンジさんが満面の笑みで何度もウンウンと頷いていた。


「まあ、そんな事よりも、これで一番重要な事は、いつでもライゾウさんのお寿司を食べに来られるって事だよ。ハッハッハ!!!!

デカした俺!」



「いやぁ、流石ケンジ様。ブレが無いですね。そうですか、寿司の為に習得されたのですね。」

とサンジさんは冷静に感心していた。


前後が逆になったけど、ここのメンバーの様子を聞くと、何も問題無く、全員元気に楽しく過ごしているとの事で、ホッとした。

たこ焼きも鯛焼きも定着し、コンスタントに売れているとの事だった。



MP復活の為、1時間程休憩をしてから、新しくマスターした『ゲート』で拠点へと戻ったのであった。



さて、気になる魔力消費量であるが、転移に比べ大幅に改善された。

これは感覚上での推測の域だが、おそらくゲートを使った場合、空間と空間のポイントを繋げる際に初期魔力で大幅な魔力を消費し、それ以降は繋げて居る間の時間に応じて空間接続の維持の為に少量の魔力を必要とする感じである。

よって、あまり距離には関係無い感じがする。 まあ、あくまでまだ推測の域だけどね。



お!そうだ!!明日辺りにアケミさんのご両親のお墓参りに行くかな。

ああ、俺も親父とお袋の墓参りに行きたいなぁ。

親父、お袋!本当に親不孝な息子ですみません。


俺は浮かれる心を抑えつつ城に戻ると、早速明日からの旅の準備をイソイソと始めるのであった。



「あ、悪いんだけど、明日からちょっと遠征して来るから。

また定期連絡宜しくお願いしますね。

もし、処理しきれない問題があったら、遠慮無く連絡入れてね。直ぐに戻るから。」

とステファン君に報告すると、


「え? えらく急ですね。

おそらく今の所問題になりそうな事は無いので、大丈夫だとは思いますが……

しかし、人数増えたので、正直ちょっと不安です。」

とちょっと困り顔をされてしまった。


うーん、ステファン君達上級スタッフにはちゃんと報告しておくべきだな。

俺は古くは腹心と呼んでいた上級スタッフ3名とアケミさんを前にして、発表する事にした。


ちなみに、洋館(中)から城(小)に拠点の屋敷を変更した際、広すぎて手が回らないという従来のスタッフの悲痛な叫びを解消すべく、現在では、村人からスタッフを募集し、30名程増員している。

その20名はそれぞれメイド10名ははアニーさんの配下、執事やその他の男性10名はステファン君の配下、錬金関連に関して10名をリサさんの配下とし、更に防衛警備責任者としてランドルフさん、そのサブでアリーシャさんとドングさんにお願いしている。

まあ、ランドルフさんは好きだが、微妙に不安があるので、サブの2人にガッチリと押さえて貰う様にお願いしている。

この3名は既に冬~春の間に森でレベリングを行ったので、以前とは雲泥の差で実力を付けている。

更にAシリーズも彼らの補助に就いているから、多分相当な事が無い限りは大丈夫だと思って居る。



で、話を戻すと、今回集めたのは、アケミさん、ステファン君、アニーさん、リサさんの4名となる。


「えーっとね、実はこの度、やっと念願の長距離転移が成功したんだよね。

だから、何か問題あっても直ぐに帰って来られるし。

ただ問題というか、この長距離転移の魔法――ゲートって言うんだけど、これ実際に自分が行った場所しか転移出来ないんだよ。

だから、ある程度行ける先を増やしたいと思ってね。」


「え!? そんな凄い魔法をご成功されたんですか! わぁ~凄いですよ!! 流石はケンジ様です!!」

と凄くキラキラした眼差しで見つめられた。


よせやい、照れるじゃねーか。ハッハッハ。


「ハハハ、煽てても買って来るお土産は同じだがな。フフフ。

で、さっきも言ったけど、明日からその転移ポイントを増やす為の旅に出る。

秘書のアケミさんも同行お願いしますね。」


すると、転移魔法(まあ正確には、ゲートだけど)と聞いて黙ってられないリサさんが、もうテンションマックスで矢継ぎ早に質問をして来る。

「ケンジ様! それはどう言った感じのイメージになるんですか? やっぱり空間魔法の属性になるんでしょうか? それとも転移魔法?

あと、必要魔力量はどんな感じですか? 距離に比例するって前に仰ってましたけど、そこら辺はどう解決されたんですか?

それから――――」


「ま、まあ落ち着けよ!フッフッフ。やっぱり気になるよね。

論より証拠で、一回体験してみるか?」

と俺が気軽に提案すると、全員がウンウンと首がモゲそうな勢いで頷いていた。


「じゃあ、取りあえず、何処にするかな。ドワースだと門を潜ったりが面倒だから、取りあえず平原に行くか。」

と言って、平原に繋がる『ゲート』を発動した。


「「「「うぁーー!!」」」」


と浮かび上がった空間の穴に全員が絶叫。


最初に俺が入り、4名もそれに続く。


「わぁ!本当に平原だよ? 凄いよ!!」

とリサさんが叫んでいる。


「本当に一瞬というか、特に何も違和感を感じずに移動出来るんですね。」

とアケミさんも普通に穴を潜ったぐらいの感覚に驚いている。


「これは旅行し放題ですね!」

とステファン君も大喜びしてる。


「ああ、そうだね。じゃあステファン君とアニーさんの新婚旅行は何処かの都市に1週間ぐらい送り迎えしてやろうかな? ウフフ」

と俺が笑いながら言うと、2人して真っ赤な顔でモジモジしていた。


そんな感じで納得して貰い、城へ戻って明日の出発の準備を始めるのであった。




転移とゲートの大きな違いだが、転移は方角と距離さえ判っていれば、それなりに転移出来るんだけど、ゲートは明確にその座標を意識する必要があるので、一回でも行った場所にしか繋ぐ事が出来ない。

だから、ゲートを便利に利用しようとすると、一回は自分がその場所に行く必要がある訳だ。

これが面倒と言えば面倒なんだけど、まあ気長な観光旅行と思えば最初の1回も楽しいものだし、まだまだ人生は長い――多分。

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