第125話 賑やかな冬
急激に増えた人口で、備蓄食料では足り無くなったから、流民達の食料は食糧倉庫からほぼ100%供給している。
資金はあるので、購入する手もあるのだが、こんな交通が寸断される(雪で)寸前に買い占めると、その街の人達が困るので、特に買い占めはせずに俺らの屋敷の方から供給している状態である。
雪が本格的に積もり出す頃には、新しいメンバー達も、ここでの生活に慣れ、これまでの圧政でゲッソリと痩せ細っていた身体にも肉が付き、健康そうな見た目になった。
窶れたり、隈があったりした顔もツヤツヤであったり、幸せそうな笑顔が零れていて、取りあえずホッとした。
だからという訳ではないけど、調子に乗ってウッカリ発言でここまでの大事となってしまったが、結果オーライって事で良いよね?
しかし、今更ながら、これだけの人数の胃袋を支えてくれているこの食糧倉庫だけど、凄いよ!
当初はちょっとビビってたんだけど、本当に量が減らないんだよね。
本当に女神様へは感謝の言葉しかない。 そしてこんな俺を支えてくれているスタッフにも感謝である。
新しいメンバー達の構成だが、獣人が529人で最多、次いでドワーフが321人、人族281人、エルフ234人となった。
嬉しい誤算というか、ドワーフ達だが、これが物作りに関しては驚く程に優秀で、鍛冶や建築で滅茶苦茶頼りになる存在である。
来て早々に彼らが望んだ事は、鍛冶場と酒を寄越せ!!という事であった。
そんな要求に俺はドン引きしてたんだけど、スタッフもアケミさんも普通にニコニコして聞いていたので、後で尋ねると、
「ケンジさん、ドワーフって、あれが普通ですよ。
でも鍛冶や物作りの腕はピカ一なんです。
あと、お酒に関しては、あればあるだけ飲み尽くす勢いで飲むので、加減して出さないと、アッと言う間に無くなりますよ?」
とアケミさんが教えてくれた。
エルフは、機織りや木登りや弓による狩猟、魔法も得意だが、一番の特徴は薬学的な錬金が得意なんだとか。
獣人はパワーである。脳筋である。兎に角身体能力に於いては、ダントツに高い。
人族は特化してないものの、バランス型って感じかな。
どの種族が優れているとかでは無く、それぞれの能力を適材適所に上手く融合していけば、素晴らしい生産性であったり、作業効率であったり、秀でた製品が出来たりする事は間違い無い。
で、話は戻るけど、ドワーフのおっちゃん達は、速攻で酒樽を持って俺の用意した専用鍛冶場に籠もり、農機具であったり、剣や刀等を朝から晩まで作っては飲み、作っては飲みしている。
しかも、幸せそうに。フフフ。
日々雪が凄いのだが、今年はとても楽ちん。
雪掻きの人数が溢れる程に居るので、アッと言う間に終わるからである。
従来からの村人のレクチャーを受けつつ、1400人規模でやる餅つき大会は、正に圧巻であった。
尤もその前に、大量の杵と臼や蒸し器の蒸籠を作らせられる羽目になったのだが、俺が3セット程作って見せると、アッと言う間にドワーフのおっちゃん達が群がって、あれよあれよと言う間に100セット程作ってしまった。
正にドワーフ恐るべしである。
途中から、俺はただ完成品を収納して廻る係になってたし。
その内50セットを使っての餅つきが始まると、徐々にヒートアップして行く。
兎に角、餅が突き上がるペースが異常で、早くも丸める係と突く係で勝負の様になっている。
その後、初めて食べる餅の虜になる住民続出で、獣人の中で20人程慌てて食べて喉に詰まらせるバカが居たのはご愛敬である。
そのバカの1人には虎のおっちゃん事ランドルフさんも混じっていたが。
冬の間、エルフ達から頼まれて作った織物工場の方でエルフの女性陣が織物をしたり、別棟の錬金用クリーンルーム方では、俺の作り方をレクチャーした後、リサさんと一緒にポーションを作ったり色々していた。
他の手の空いている女性陣は、アケミさんによるイメルダ料理講習会や、アニーさんによる俺直伝の(異世界)レシピ講習会等を行ったりしていた。
俺は、やる事が無い時は、子供らを集め、字の読み書きや、計算や、人体の構造などの基本的な事を教えたりして過ごした。
年が明け正月になると、俺はこの世界に来て初めてお雑煮に挑戦してみた。
だって、美味しいランドフィッシュ村のブリや、フライフィッシュ(飛び魚)があったら、作りたくもなるよね。
残念な事に、こちらの世界の食材ではレンコンを発見出来なかったので、その他の無い食材に関しては食糧倉庫からの物になっているけどね。
お袋の郷里が九州の福岡だったので、我が家のお雑煮は博多雑煮であった。
お袋は毎年親戚にお願いして年末近くになると、『カツオ菜』というちょっと独特の苦みのある菜っ葉や飛び魚を焼いた『アゴ出汁』を送って貰って作ってくれていたのだ。
で、食糧倉庫を何気にチェックすると、あったんですよ! カツオ菜とアゴ出汁が!!
ただアゴ出汁はこっちのフライング・フィッシュを七輪で焼いた物の方が美味しかったので、フライング・フィッシュの方を採用した。
そして、完成した博多雑煮改を食べた時、俺は震えたね。
これだよこれ!! まさか見よう見まねで再現出来るとは思いもしなかった。
思い起こせば最後に食べてから27年ぐらいは経ってるな……。
気が付くとボロボロ涙を流していたらしく、アケミさんやスタッフ達から心配されてしまった。
博多雑煮はみんなにも大好評で、アッと言う間に作っただし汁も、具も無くなったけど、お陰様で大満足な正月を過ごす事が出来たのだった。
◇◇◇◇
正月が過ぎた頃、ジジがピクッっとして、いきなり屋敷から飛び出して森の方へ行った。
寒がりのジジにしては珍しい事もあるものだと思っていたら、全然帰って来なくてさ、
<ジジ、大丈夫? 全然帰って来ないけど?>
と声を掛けたんだけど、
<だ、大丈夫にゃ! 今良いところだから邪魔するにゃ!>
と連れない返事が返って来た。
まあ、無事なら良いだけどね。なんだろう?
しかし、ピョン吉達はニヤニヤしてる感じなんだよね。
そして、4日ぐらいすると、ジジ『達』が帰って来た。
ジジの後ろには、同じく真っ黒な猫?が居た。
<主ー、ダーリンを紹介するにゃ! カッコイイ名前を付けるにゃ!>
ジジがナンパしてきた彼氏を詳細解析Ver.2.01大先生で見てみると、ハイパー・シャドー・キャットではなく、キング・シャドー・キャットと出て来た。
マジかー。
しかもジジは、クィーン・シャドー・キャットに進化なさっておられる。
おーー、キング&クィーンじゃん。
「えーー? でもカッコイイ名前って言われてもなぁ。
俺のネーミングセンスは最悪だからなぁ。
うーーーん――――」
頭を捻る事、10分 思い浮かんだのは、黒王(黒猫の王だけに)、黒い王というと、どうしてもラオウって付けたくなるのだが……ラオー、ラーオ……
どれもパッとしないな。
いっそ、黒助とかの方が馴染みやすいな。
「黒助とかはどう?」
<にゃーー!!! カッコイイにゃーー!>
「え? マジで?」
これは予想外である。黒助がカッコイイとは。 まあでも本人はどうなんだろうか? と思って彼氏を見ると、ニヤリと笑ってドヤって顔をしている。
なるほど、気に入ったのか。ハハハ!!!
「じゃあ、彼氏君は黒助に決定ね!?」
<わーーい、主様ーー、ありがとにゃーー! これから美味しいご飯よろしくにゃー>
と黒助の声が頭に響いた。
どうやら、ジジはナンパの際に、黒助を飯で釣ったらしい。
本人曰く『うちの魅力で悩殺にゃ!』と言ってはいたが――
外から帰って来たままの二匹にクリーンを掛けてやり、全員で風呂に入った。
黒助は、初めての風呂に蕩けていたのだった。
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