第126話 人生色々……

はぁ――――


朝から目の前で、一足先に春を迎えた黒いのが二匹、イチャイチャしている。


いや、別に羨ましくなんてないんだからね?


もうその調子でいっそ、外の雪を溶かしてくれないかなぁ。


スタッフ達は苦笑いしていたり、生暖かい目だったり……アケミさんは羨望の眼差しだったりしている。

他の従魔達は? というと、コロ以外は冷静というか、スルーって感じだ。


ああ、コロは完全にアケミさんと同じ目をして見つめているね。

魔物の生態って良く判らないんだけど、やっぱり野生の動物と同じで発情期とかあるんだろうろ?


発情期……  はぁ~ 発情期ねぇ~。



そう、俺は今更だけど、実に大きな問題に気付いてしまったのである。

もうね、気付いてしまうとね、ジェイドさんじゃないけど、ハゲるんじゃないか?という程に悩んでしまっている。


誕生日?を迎え、既にというかついに20歳(55歳)になったんだけどね、ここ最近のジジ達を見てて、ハッと気付くと、無いんですよ。

ええ、若い男の子なら毎朝迎えるだろう現象が。


思い起こしたらね、既にそんな現象が無い状態になって数十年ぐらい経つ訳ですよ。

身体的な物は、おそらく前世どころか、この世界でも5本の指に入るぐらいのベストコンディションだと思うし、枯れる様な歳ですら無いのは判っているんだけど、この身体になって驚く程に立派な物を備えているのに、借りてきた猫の様に大人しいんですよ。


これ、やっぱりEから始まるD的な物ですよね? 精神的な物なんだろうか? だよな。


これって、やはり幸せな恋愛以前の問題なんじゃないか? と愕然としちゃった訳ですよ。


そりゃあ、アケミさんや他の綺麗な女性を見て、ドキッとする事はあるですが、座禅を組んでいるのか、俺の『ジョー』はピクリとも反応しないんですよ……。

既に戦う前からマットにダウンしている状態なんですよ。真っ白に燃え尽きている状態なんですよ。




「はぁ~~」

と俺が深いため息を漏らすと、


「どうされたんですか? ここ数日、もの凄くため息が多いですよ?

ため息の数だけ、幸せが逃げて行きますよ?」

とアケミさんが心配そうに俺に問いかける。


でも、その後に真っ赤になりながらもニコリと笑って、

「でも安心して下さい!

逃げて行った幸せ以上に私が詰め込んであげますからね!」

と小さい声で呟いていた。


「あ、ありがとう。 ちょっと個人的な悩みというか、うーん、微妙な事があってね。

ああ、アケミさんやスタッフや村人達とは全く関係無い話だから、気にしないでね?

でも、そう言って貰える人が居るだけでも、少し心が救われる気がするよ。

本当にありがとうね。」

と俺が言うと、「ウフフフ」とモジモジしながら照れていた。




しかし、これはどうしたもんだろう? やはりもうダメなんだろうか?

それとも完全に心が癒えれば治る物なんだろうか? ああ、自分にパーフェクト・ヒールとかって既に試したけど、全く改善はなかったね。



まあ今直ぐジョーが活躍する試合の予定は無いので良いんだけどねぇ~。




朝食を終え、リサさんと工房へ行き、現在開発中の田植え機の続きを行う。

不思議と物作りに熱中している最中は、余計な事を考えなくて済むので、俺に取ってはオアシスである。



稲の苗を1株ずつアームに取って、泥に突っ込んで行く部分は何とか完成している。

この田植え機が完成すれば、腰を曲げての辛い田植え作業が、劇的に改善されるのである。

美味しいお米を沢山食べられる様になるのだ。


ここの住民達は、俺やアケミさんの影響で、既にお米の虜である。

最近では、各家庭でも肉じゃがやがめ煮なんかを作ったりしているらしいし。



田植え機の最後の難関は、水田での駆動輪とフロートである。

前世の記憶を必死で引っ張りだしているんだけど、確か手押しタイプは水車の様な車輪だったような気がするが、キャタピラだった様な気もする。


しかし、フロートというか、スキーっぽい板を下に敷くとキャタピラじゃあ前に進まないんじゃないか?


という事で、水車の様な車輪を何種類か作って、上に重しを乗せて、工房に作った水田擬きでテストを繰り返しているのだった。


雪解けまでに量産する必要があるが、一旦パーツ類を作って見せれば、後はドワーフ達が驚く様な勢いで量産してくれるから、安心である。

魔道具の心臓部分である魔石と魔方陣の書き込みに関しては、エルフ達が手伝ってくれるし、俺は好きな開発だけをやっていれば良い感じ。

ありがたい。



駆動輪部分に5日掛かったが、形状も材質も決定して、イヨイヨ各機能部分を連結した最初の試作機を組み上げた。

工房内のテスト用の水田ではほぼ上手くいく事を確認出来た。

そして、各部を調節していき、この世界初の田植え機が完成したのだった。



「やったな! ついに。」


「やりましたね!」


「フフフフフ」

「アッハッハハハ」


とリサさんとハイタッチしながら大笑いするのであった。





「さて、次は何作ります?」


「うーん、何作ろうか? もう農作業用は……ないか?

うーーん、取りあえず、暫く休憩だな。」


「――はい。」




ヤル事が無くなると、結局ウジウジと考え出してしまうので、何か面白い事が出来ないかと頭を捻るのだった。


みんなも暇そうにしているので、ボードゲームを作る事にした。

『人生色々ゲーム』である。

ルーレットを回して、止まった目の数だけ駒を進め、そのマスにある内容によって、1回休みであったり、就職したり、大金を得たり、結婚したり、子供が生まれたりするアレである。


完成した物で試しにアケミさんやスタッフと一緒に遊んだ。


大好評だった! 概ねね。

しかし、イベントカードの内容に物言いがついた。


「ケンジ様、こ、これは幾ら何でも、遊びの内容にしては重すぎますよ?」

と。


クレームがついたのは、『夫又は奥さんが浮気して離婚し、全財産を奪われる』とか『実の子で無い事が判明し、慰謝料を請求』とか『子供が反抗期で殴られ治療費50000マルカを失い2回休み』とかである。

あーー、ゴメンよ。 ついつい前世の出来事や願望を書いてしまったようだ。

そうか、やっぱりゲームでさえ悲惨過ぎるよな。

と反省。


なので、適当なイベントカードに編集して貰ったのだった。



再編集した物は実に楽しい人生であった。 うん、これは楽しい人生だ!


これに気を良くして、早速印刷機を作る事にする。

活字印刷機も考えたが、このボードゲームには向かない。

そこで、魔道具によるコピー機の様な着色する物を作成し、ボードに直接着色して行く物を1週間掛かって作成してみた。

紙幣という概念が無い世界だが、この機会に普及させる意味も込め、うちの拠点で作成した紙で作った紙幣を用意した。


自動車の代わりの小さい馬車は魔道具で作った裁断機で一気に作成出来る様にした。


そして、この製品の最大の難関は、人や子供を現すピンであった。

細かすぎるのである。木で作ると、折れちゃうし、結局鋳型で鋳造する事で誤魔化す事にした。



200セットが完成し、冬でヤル事が無くて暇にしている住民達に提供すると、大ブームとなって、早速増産する事になったのだった。


余談だが、これを商業ギルドに登録し、その後各別荘経由で販売ルートに乗せたのだが、これまた大陸中で大ブームとなった。

勿論クーデリア王国内向けはガバスさんの店に一任した。

リバーシの様に2人で対戦という訳では無いので、リバーシに比べて販売価格は高いのだが、生産が追いつかない勢いで売れるのであった。

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