第124話 調子の良い訪問者
それから1週間ぐらい過ぎたが未だにレイアウトが決まらない。
まあ慌てる必要は無いので、ジックリみんなで意見を出し合って、暮らし易い様にしようという事になっている。
もし移動するにしても、どうせ、気合い入れてやり始めれば、3日ぐらいで終わる話である。
ドワースの拠点より冒険者の客人が尋ねて来ているとの連絡が入った。
連絡メモによると、依頼での移動途中で健二と知り合って、ドワースの別荘に訪ねて来る様に言われたと言って居る。
「うーーん、そんな事あったっけ?」
頭を捻って考えるが、パッと思い浮かばない。
アケミさんに心当たりを尋ねると、
「ああ、そう言えば、獣人の村から移動して暫くした頃に獣人の冒険者達が一時期一緒に居ましたよね?
あの時、確かケンジさんがポロッとそう言う事を言って居た気がしますよ?」
と告げてきた。
ああ、そう言えば何かあったな。
あの頃は、結構アルデータ王国に激怒してたから、何か色々言っちゃった気がするわ。
「あーー、何となく薄らと思い出してきた。
確かに何か言った気がするな。」
という事で、もう今年はドワースに行かない予定だったのだが、急遽ドワースの別荘に行く事になったのだった。
その日の内に、ドワース入りし、別荘に行くと、獣人5名、人族3名、エルフ2名、ドワーフ2名が宿舎の方に泊まっていた。
その中で、見覚えのある獣人の冒険者の1人が俺に話し始める。
「おう、ケンジさん、久しぶりだね。早速仲間に声を掛けてアルデータで酷い目に遭ってる奴らに声を掛けてやって来たぜ!」
と豪快に笑いながら握手して来た。
「ああ、完全に思い出した! そうそう、そうだったね。
うーーん、12名か。じゃあ、もう1台馬車持って来た方が良いな。」
と俺が笑顔で答えると、急に何か言い辛そうな雰囲気で目線を逸らす虎族の冒険者。
「ん??」
「あ、えーっとな、凄く言い辛いんだが、実は俺ら12人じゃねーんだわ。
俺らは取りあえず、代表って事でここに話をしに来た感じなんだよ。」
と。
「代表??? えーっと、つまりもっと沢山居るって事なの?」
と俺が聞くと、照れる様に頭を掻きつつ頷いている。
「何名ぐらいなの?」
「いや、ほらあの時さ、何名でもドーンと来いって感じだったからよぉ~、犯罪者じゃないまともな連中で、酷い扱いを受けてる奴らに声掛けたらよぉ、何か偉く盛り上がっちまってさぁ。」
となかなか人数を言わない。
「えーっと、だから準備もあるから、ザックリとした人数を教えてくれないとさ、こっちも何とも出来ないじゃん。」
とせっついたら、
「だからよ、ザックリ%△0名ぐらいだ」
「ん?? 悪い聞き取れなかった。もう一度」
「%200名」
「ん? 200名?」
「あーもう……1200名だよ! 悪かったよ! 俺もまさかこんなに集まるとは思って無かったんだよ!!
みんな食うに困っててよ、作物作っても全部持って行かれるわ、このままだと冬も越せねぇって泣いててよ、俺もついつい、『大丈夫ぁ!ケンジ様は懐の大きな方だから』って言っちゃってよ。」
と。
1200名……1200名だと? マジか!
内、半分くらいは労働可能と考えると600名か、ふむ…… スパイスに詳しい奴も居るんじゃないか?
「ハハハハ、1200名ってアホか。まあでもせっかく来たんだから、なんとかしないとな。
ところで、その中でスパイス類の栽培に詳しい農民は居るのかな?」
と俺が聞くと、
「ああ、ケンジ様、オラ達は、元農民で、主にスパイスばかりやってただ。オラは胡椒が専門だったが、他の連中には色んな種類をやってた者が揃っとるでよ。
スパイス系なら、任せてくんろ!」
「ハッハッハ!!! ウェルカムだ! そして、虎のおっちゃん、ナイスだ!」
「と、虎のおっちゃん!? おっちゃんじゃねーよ! ランドルフってんだ。ケンジ様よ! ガハハハ。
しかしよぉ、なぁ? 俺の言った通りだったろ? 懐が広ぇ~んだよ、この人は! ガハッハッハ」
と胸を張って爆笑する虎のおっちゃん事、ランドルフさんだった。
それから、地図を広げ、虎のおっちゃんに指揮をさせて、平原に集まる様に指示を出した。
すぐに、拠点へと連絡を入れ、明日平原にありったけの馬車でピストン輸送が出来る様にと指示書を出した。
ジョンさんにお願いして、馬車を3台ほど追加で購入し、俺は一足先に拠点に戻ったのだった。
◇◇◇◇
拠点へ戻ると、直ぐに主要メンバーを招集し、1200名がここに住み着く事を話すと、全員が
「「「「「「「「「うぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」
と声を揃えて驚いていた。
「しかも、中にはスパイス専門でやってた農民が揃ってるらしい。
これで多分来年から、自前のスパイスで、カレー食い放題だぞ!?」
「「「「「「「「「うぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」
と更に盛り上がる村人達。
しかし、それとは正反対に少し青ざめるスタッフ達……。
「どうした、何か元気無いようだが?」
とステファン君に聞くと、
「だって、1200名となると、受け入れ準備だけで、相当大変じゃないですかね?
聞いた限りだと、衣服や何かも揃ってないんじゃないですか? ここの冬は厳しいですからね。
今からだと、間に合うか正直判らないですよ?」
「あー―― 完全にカレーに目が眩んでたわ。
それは拙いね。多分着の身着のままで来てると思うな。
村長、悪いけど、炊き出しの準備を直ぐに頼むよ。
獣人達には、悪いけど、輸送の方を頼むね。
リサさんは、3台追加で改造してくれる?」
「アニーはガバスさんに連絡して、大人用や子供用の下着~防寒具まで集められるだけ集めて貰ってくれるかな?」
「じゃあ、私は炊き出し班の方に廻りますね。」
とアケミさんが言って全員が行動を開始した。
ザックリした人数だけで家族構成も何も判らないので取りあえず15棟程の宿舎(大)を設置して置いた。
更に俺は一足先に平原へと飛んで、平原にも宿舎を同様に建てて置いた。
それからの7日間、村人総出で炊き出しやら受け入れの受付やらを分担し、ガバスさんから受け取った衣服を分けたりと、目まぐるしい日々が続いた。
全員の移動が終わっても、不足だらけで忙しさはまだまだ続いた。
ガバスさんや各別荘のスタッフが近隣から仕入れてくれたお陰で、何とか流民全員分の冬の準備が完了し、冬が越せそうになった頃には、既に12月に突入していたのだった。
落ち着いたとは言え、それでも出遅れてしまった流民達はチョボチョボと後続組が増え続けていて、1200名(正確には当初1237名)から更に128名増えている。
今日現在の段階で、合計1365名に膨れ上がっていたのだった。
そして、最後の方に合流した流民から聞いたアルデータ王国の話を聞いて、健二は衝撃を受けるのであった。
発端は、勿論怒った健二が嫌がらせで置いた女神像と石碑であったのだが、その後次々とその石碑に書かれてあった『相応しい未来』がやって来たという。
人族優先主義で亜人迫害の酷い領地は次々に不作。
更に国の稼ぎ頭であった上級砂糖さえも全く売れなくなり、国からの脱出者が続出していて、既に国として成り立たないレベルになってしまったらしい。
来年の春まで保つかも怪しいレベルという噂らしい。
特に、亜人を迫害していた連中への当たりが凄い状況らしく、石を持って追われるレベルとか。
南無ぅ~ どうなるんだろうねぇ? アルデータ王国。 消えちゃうのかな?
しかし、なんで不作とかになっちゃったんだろうね? 自然災害とか植物系の病気とかかな? うーん、不思議。
まあ、でもこう言っちゃなんだけど、自業自得だよなぁ。
そして、徐々に白い物が空に舞う日が増えて来るのであった。
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