第123話 警告

翌日、村人達にカレーライスを振る舞うと、最初は見た目の色にドン引きだった村人達だが、意外にも嗅覚に優れた獣人達が真っ先に飛びつき、結果追加で作らさられる羽目になってしまった。

ああ、勿論大好評で、アッと言う間にバカ食いされてしまった。


集会場のキッチンで作り方を教え、寸胴10杯分を同時に作ったので、足りるかと思ったのだが、獣人達の食欲を侮って居た様だ。


「やはり上には上が居る物なんだなぁ。」


俺が、アッと言う間に完食される空になった寸胴を驚きながら眺めていると、


「ケンジ様、うめーよ! これ!!」

と獣人組が良い笑顔を見せていた。



ただ、子供らには少し辛かったみたいなので、リンゴと蜂蜜入りの少し甘めを作ってやると、子供らにも辛い物が苦手な人にも大人気。

こちらもアッと言う間にスッカラカンになっていた。


これ以降、拠点ではカレーの日を決めたらしく、スパイスが定期的に凄い勢いで減って行く様になった。

この調子だと、来年の春にはスパイス切れは確実だろう。


そこで、村人達を集め、各スパイスを来春から栽培するプランを打診すると、一致団結して速攻でOKが出たのだった。

マジでカレーの力は凄いっすわぁ。



そうそう、砂糖だが、各別荘のある都市で販売を始めている。

ドワースでは、ガバスさんの方へ卸して、販売する事になっている。


結果、1週間で爆発的な人気となり、生産が追いつかない程の売れ行きとなった。


しょうが無いので、第二工場を作り、直ぐに増産体制を整えた。

トウタケのストックはまだまだ余裕なのだが、雪が降ると刈り取りに行けなくなるので、村人達に頼んで更に狩り取ってストックを増やしておいて貰っている。


更に念の為、第三工場も作り、ベルトコンベアーでドンドンと倉庫に流しつつ、ストックして行くのだが、生産量を増やせば増やすだけ、凄い勢いで売れていくのであった。



「いやぁ~、これ程売れるとは予想外だったね。」


「そうですかね? だってこの味と品質でこの値段ですよ? 一回使っちゃうと、前の砂糖なんて使えないですよ。

特に高級店とかは間違い無いですよ?」

とアケミさんの意見に他のスタッフ達もウンウンと頷いている。


まあ、確かにご尤もな意見なのだが、ちょっと正直ビビってしまっていたりするんだよね。

スタッフは勿論、刈り取りをやってくれている村人達に給料を支払っているけど、それでも凄い勢いでお金が入って来ているんだよね。

その分、海産物や塩なんかを買って補充したりもしているけど、圧倒的な勢いで増えて行ってる。


「これって、大丈夫なのかな?」

と思わず不安を漏らす俺だった。





さて、話は少し遡るのだが、獣人の村から獣人を連れ出した約2週間が経過した頃、アルデータ王国のメルボンタでは、税の徴収官が、半ば追放して獣人達に作らせた開拓村へと税の徴収に廻っていた。

そして、A村(ハロルド君達の村)へやって来た徴収官は驚愕し、馬から落馬してしまった。

そこには、何故か目に見えない不可侵領域があり、中には女神エスターシャ様の像と、その前には石碑があり、女神エスターシャ様から警告文が刻まれていたのだ。


******************************************************

――汝らに告ぐ。

神は人の上に人を作らず、人の下に人を作らずである。人族も獣人もエルフもドワーフも全ての人は皆同じである。

人族だけが上位種ではない。神の意志を曲げて人を人とも見ない領主にも領土にもそして国にも、それなりの相応しい未来が訪れるであろう。

アルデータ王国の他種族を虐げし愚か者共よ、その時を、震えて待つが良い――

******************************************************


そして、驚く事に同じ物がB村、C村、D村で発見された。

慌てた徴収官は、そのまま休憩も取らずにメルボンタの領主の下へと戻り、報告をする。

最初は怒り狂っていた領主であるが、念の為にその現場へと部下を引き連れて確認しに行った。


確かに徴収官の言った通りの状態で、一切村のあった場所に入る事も出来ない。


しかも、石碑の文面がヤバい。

撤去しようにも、辺り一帯には完全なる見えない神の御業としか思えない強力な結界が存在している。

とても人の手で破れる様な類いの物では無い事は明らかだった。(いやいや、健二の力業なのだがな)


青くなった領主はそのまま逃げる様に領主館に戻り、箝口令を強いて見なかった事にしたのだが………


何故か2日後にはメルボンタの街中に広まっており、既に情報の早い商人らによって、各都市へと伝達されていく。

それから1週間もせずに、とうとう王都まで到達し、王様の耳に入ってしまった。


その頃にはメルボンタの街に異変が起きていた。

石碑に『その時を、震えて待つが良い』なんて書いてあって、震えて待つバカな商人は居ない。

真っ先にメルボンタからの大流出が始まった。

更に不思議な事には、メルボンタの街から亜人と呼ばれる獣人やエルフやドワーフが消え、更には、これまで同様に虐げられていた人族の貧民層が消えて行ったのだ。

そして、その流れはメルボンタの街だけに止まらず、周辺の圧政に苦しむ農民をも巻き込んで、ドンドンと消えて行った。


王様がメルボンタ伯爵を王都に召喚する頃には、メルボンタ領内の人口は1/3まで落ち込み、これまで安価な労働力として、こき使っていた労働層の消失で領内全体が立ち行かなくなっていた。


さて、ここでアルデータ王国の特産物の話をしよう。

アルデータ王国は前にもあった様に、スパイスが特産物であるが、もう1つこの大陸でシェアを誇る特産物があった。

それは砂糖である。

アルデータの砂糖は、その特殊な精製技術で、上質な高級砂糖として各国に名を馳せていた。

そう『これまでは』である。


ところが王都にメルボンタの女神像と石碑による警告? 予告? が伝わる頃ぐらいから、イキナリ商品の売れ行きが悪くなり、輸出しても売れないという状況になり始めていた。

クーデリア王国でもイメルダ王国でも全くと言って良い程に売れないのである。

更に、何故か丁度秋の収穫時期だというのに、収穫出来る手前で作物が育たなくなる領地が続出し、収穫を始めたところでも立ち枯れに近い状態が多発した。

結果、秋の収穫量は例年の1/3程度になってしまう。


誰もが大っぴらに口にはしないが、収穫量が激減した地域の領主はメルボンタ同様に人種差別の激しい貴族の領地ばかりで、王家の直轄領地でも同様の事が起きていた。


もう間違いない。 誰もが心に原因を思い付くが、声にする事は無かった。

『その時』は既に来たのだと――



 ◇◇◇◇



健二は砂糖の第三工場まで順調に稼働した後、来シーズンに向けての領地の拡張について、スタッフや村長それに数名の村人代表者と打ち合わせしていた。

健二は空中からスケッチした周辺の地図をテーブルの真ん中に置き、横長の領地改革案を打診していた。


「まあ、本当は円形の城壁が一番効率良い気もするんだけど、あまり森を切り崩すのもねぇ。

折角の天然の防御を無にする感じだし、ここは素直に横長にしてしまうのが良いと思うんだけどどう?」


すると、村長は、

「そうなると、ケンジ様の屋敷はこっちの中心に移設するという事でしょうか?

だとすると、村も移動すべきですな。」

とウンウンと頷きながら村長が語る。


「え? 何で移動する必要があるの?」


俺には理解出来なかったので、思わず聞き返してしまった。


すると村長が雄弁というか熱く語り出す。


「良いですか、ケンジ様。

ここエーリュシオンは、ケンジ様の物ですじゃ。

我々はケンジ様のお陰で、ここでこうして幸せに暮らせておりますじゃ。

謂わば、ケンジ様はここの中心で、且つ我々の夢であり、希望の旗なのじゃから、領地の中心に高く聳え立って貰わにゃ困るんですじゃ。――――」


まあ、話が長かったが、簡単に纏めると、要は中心人物の館はそこの真ん中あってこそ、分け隔て無く平等に照らし、導くという様式美的な話だった。


「なるほどねぇ~。却下!! 理由は面倒だし、向こう側はほぼ農地になるから、特にあっちで何かヤル気は今のところないかな。

いいじゃん、ここでみんな暮らしているんだし、ちょっと歩く距離は長くなるけど、マダラ達に頼んで馬車で移動すれば、直ぐだしさ。

せっかくここのレイアウトに慣れたし、それにここが一番馴染みが深い場所だから駄目。」


折角の力説が無駄になり、村長がちょっと悔しそうな顔で拗ねている。


「チッ……」


あーー、舌打ちしやがったーー! しょうがねぇ爺さんだな~。


「まあ兎も角、本気で移動させるならさせるで早めにしないと後になればなるほど面倒だから、もうちょっと実用面での不便があれば、考えるよ。」


「ふむ、じゃあ、また考えて来ますんで、約束ですじゃぞ!」

とニンマリ笑いながら引き下がった。


まったく、油断も隙もないなぁ。ハハハ。

この村長結構憎めない性格で、最近では、このやり取りが結構面白くなってきてる自分が居たりする。


「なあ、ところで、スパイス類って、実際に育てた事がある人は居たりする? やっぱり、結構ノウハウあるんでしょ?」

と聞いてみたら、開拓村から来た獣人達は一部の種類に関しては育て方を知って居るらしいが、残り多数は知らないらしい。

何でも、地域毎に一種類のスパイスを専門に作る感じだったらしく、余所の地域が作っていた物に関するノウハウが無いらしい。


「うーん、じゃあ結構試行錯誤する感じか? じゃあ最初の数年は厳しいかぁ。」

とちょっと気落ちしてしまった。


また3日ぐらい各自領内のレイアウトを考えてから話し合う事にして解散したのであった。

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