第122話 辛い罠
採取が終わった後、俺はホクホク顔で拠点へ戻った。
待ち構えていたお留守番組から盛大に迎えられ、早速に雪崩込み集会場へ集まって、ワイワイとオーダーした戦利品を分け合っている。
一報俺は、工房の方へと引っ込んで早速砂糖の精製実験を始めた。
既に粉砕機や汁を搾る魔道具は製作済みなので、サクサクと作業を進める。
一旦クリーンを掛けたトウタケを粉砕し、それをローラーで汁を搾り出す。
この汁には余計な成分や不純物も混じっているので、そのまま煮詰めてもダメなのである。
ここに若干、泉の水を加え、更に圧縮しながら絞り出して、絞りカスは肥料行き。
汁に石灰を混ぜて不純物を沈殿させるのだが、このその為の特製のタンクを2種類用意した。
1つは、詳細解析Ver.2.01大先生の指示通りの沈殿物で分ける方法用のタンクである。
その為、タンクは内部は重力2倍で時間経過は10倍に時間経過を進めてある。
これにより、効率良く不純物が加速する様に沈殿し、必要な上澄みを時間を掛けずに取り出せるという訳なのだが、詳細解析Ver.2.01大先生の方法だとこれからがもの凄く行程が多く大変なのである。
あともう一つの方法は俺が考案した方法なのだが、上手くいくかは不明。
なので、1つ目のタンクの沈殿が終わるまでの間、手動で取りあえず実験してみようという訳だ。
そもそもだが、砂糖を作る際、不純物が混じると茶色い砂糖になるみたいなので、これを甘味成分だけ錬金で精製してしまおうと画策している訳である。
タンク内の汁を対象に甘味成分と不純物に分けるイメージで錬金精製を掛ける――――
不純物を下に沈殿させているので、タンクのドレンから不純物の液を抜き、再度同じ行程を繰り返す。
今度は不純物が少なかったので、アッサリと終わった。
1回目で殆ど上手く行った様で、2回目のドレンから出てくる濁った液はほんの少量であった。
この液を念の為に濾過して、乾燥させるのだが、ここでも錬金を使って水分を取り除くと、真っ白な塊がタンク内に出来上がる。
うん、失敗だね。中で水分とっちゃったら、タンクから出せないよね?
もう一回泉の水をタンクに入れて、大きなパレットに移し、再度水分を飛ばしたら、今度はちゃんと白い塊がパレットに出来上がった。
この塊を砕いて舐めて見た。
「おおお!! 甘い! 砂糖だよな?」
俺がリサさんにも味見を急かすと、
「はい、凄く美味しい砂糖ですね! 一般に売っている物と比べると、エグ味が無くて素晴らしいです!」
と高評価を頂いた。
「ハッハッハ!! 砂糖で天下取れそうだな!」
「甘い物沢山作って、世の中をメロメロに出来そうですね、マスター!!」
「「アッハッハッハッハ!!」」
と満面の笑みでバカ笑いする2人。
早速手動でやった方法の魔道具化を開始した。
途中、夕食に呼ばれ一旦屋敷に戻ったが、夕食後、また工房へと戻って各工程を魔道具にした物でテストを繰り返す。
甘味成分の抽出工程が思った以上に面倒で、5回程魔方陣を弄くり回して、やっと6回目で満足いく結果が出た。
最後の水分を取る工程は、既に精米機を作る際にテスト済みなので、そのパラメータの調節だけでOKである。
夜中の3時にやっと、各工程の魔道具化が完了し、リサさんも俺も結果には大満足であったが、グッタリしていてとても屋敷の部屋まで戻れず、そのまま工房の床で寝落ちしてしまったのだった。
◇◇◇◇
翌朝、部屋に居ない俺達を探して、床に倒れる(様に眠っていた)俺達2人を発見したステファン君が一大事と大騒ぎ。
アニーさんとアケミさんも慌ててやって来たのだが、寝落ちしていただけと判って、ステファン君がアニーさんに叱られていた。
「すまんな、何か心配させたみたいで。」
と一応素直に謝ってから、出来上がった砂糖をみんなに舐めさせると、大絶賛された。
「これは凄いですよ!」
「凄く美味しい砂糖ですね!」
「これで色んな物が気軽に作れそうですね!」
「だろ? 今度はこれを大量生産する工場用の物にしないとだけど、ここまで来ればもうゴールは見えたも同然だよな。ハッハッハ!!」
「マスターのスィーツ王国ですね!ウフフ」
と寝ぼけて髪の毛が爆発している俺とリサさんとで、バカ笑いしていると、周りの3人も笑っていた。
「まあ、でも冗談だからな? ウッカリ村長に『スィーツ王国』なんて目の前で喋ったら、マジでヤバい動きしそうだから、本当にシャレだからな?」
とシッカリ口止めしておいた。
最近、獣人達が合流した事で、一気に人口が100人ぐらいになった事で、村長の動きが怪しいというか、王国にしよう、しよう!と五月蠅いんだよね。
やらない!って言ってるのになぁ。 まったく、危なくってしょうが無い。
ちょっと横道に逸れてしまって、冷めてしまったが、全員で朝食を取り、一旦風呂に入った後、シャキッとしてから工場の製作に取り掛かった。
また、収穫が終わって暇している村人達にお願いして、トウタケの採取に行って貰い、タンマリと刈って来て貰ったのだった。
流石に砂糖工場の建設は、3日程掛かってしまったが、何とか4日目からは稼働を開始する事が出来た。
砂糖だが、小売り価格は今のこの世界で売っている上級砂糖よりもやや高い設定にすべきという声があったが、普及させる為に上級砂糖よりもやや安い単価設定をする事にした。
いや、それでもボッタクリ価格なんだけどね? だって、原料がほぼ無尽蔵に生えてるトウタケで、しかもトウタケは1年中いつでも生えてるし、刈り取っても根っこがあれば、3ヵ月ぐらいで2m級に伸びてくるんだよね。
だから、平原の手前のトウタケを押さえている俺達に取っては、刈り取りの人件費程度で済む訳で、原価は非常に安い。
計算すると、原価は1/500以下だったから、ヤバいよね?
下手すると、砂糖を詰める為の麻袋の方が高価という……やっぱヤバいよなぁ。フッフッフ。
工場の完成祝いでは、ドーナツや、菓子パンや、アップルパイ(例のリンゴを使った)、ピーチパイ(例の桃を使った)等を大量に作って村人達と大騒ぎしたのだった。
ここまで来ると、後は塩とかスパイスだよなぁ。
まあ、スパイスは種を入手しているから、来春から育てる様にしようかなぁ? フッフッフ。
そうすれば、カレーライスを世に広める事も出来るよね? あぁ~ヤバい! ニヤニヤが止まらないなぁ。
俺が1人妄想の世界でニヤニヤしていると、アケミさんが
「あー! また1人で妄想の世界に浸ってますね?
何ですか? 1人で楽しまないで、教えて下さいよ!」
と突っ込んで来た。
「ハハハ、ごめん。また浸ってたわ。
いやさ、来春からここでスパイスも各種生産する様になると、カレーライスを作って世に広められるなぁってね。」
「何ですか? そのカレーライスって?」
と興味津々のアケミさん。
「そうか、まだ食べた事なかったっけ?
よーし、せっかくだから、この機会に作ってみようかな。」
ドンチャン騒ぎをしている村人達をおいて、スタッフ達を連れ屋敷のキッチンに戻る。
作り方を教えながら、必要なスパイスをゴリゴリと粉にしながら、カレーを作る。
俺は前世では市販のルーしか使って無かったので良く知らなかったんだけど、スパイスと小麦粉も使うんだね。
詳細解析Ver.2.01大先生様様だよ。
そして、寸胴4つに大量のカレーを作り終わったら、ご飯を5升程炊いて約2時間程で宴会会場へと戻ったのだった。
「わぁ~、何かもう魑魅魍魎の巣の様な状態になってますよ?」
会場では、男共は酒を大量に飲んでヘベレケになっているし、子供も女性陣もスィーツの食い過ぎで腹をポッコリさせて、ダウンしている。
「あらら、流石にこの状態でカレーは食えないだろうな。」
「ですね。」
「勿体無いです。」
「じゃあ、俺達だけで楽しもう。」
という事で屋敷の食堂に戻り、全員で初めてスパイス調合まで自前でやった完全自作カレーを食べる事にした。
「さあ、実食です! いただきます!」
と手を合わせ、スプーンにご飯とカレーを掬って、一旦鼻の前で匂いを嗅ぐと、もう懐かしいスパイスの効いたカレーの香りで涎が口の中に溜まる溜まる。
パクッと行くと、
「!!!!! ウマヒ」
ハフハフとしながら、余りの懐かしさにアッと言う間に1皿目を完食してしまった。
周囲を見ると、
「美味しいです! でも辛いーー!」
「あー辛いけど、止まらないー!」
「あーこれ、メッチャ嵌まりますね!」
とハフハフしながら食べて居る。
俺はオークカツを4枚取り出して、サクサクと切り、お代わりしたご飯の上にカツを並べてルーを掛けた。
「ジャジャーーン! オークカツカレー♪」
と3人に見せながらカツカレーを堪能する。
ヤバい、本当に美味い! あーー、これだよこれ! カツカレーだよ!!
あぁ~懐かしいなぁ。 段々歳と共に脂っこいのとか食べられなくなってしまったけど、今の若い身体なら、全然OKだよ!
あー、そうなると、福神漬けとかラッキョウとかも欲しいよなぁ。
「いやぁ~美味い」とバクバク食べていると、3人もそれに釣られて同じく2杯目をオークカツカレーで堪能し始めた。
結果、全員3杯程食べて満腹で動けなくなり、リビングで暫し呆ける事になったのだった。
そうそう、1つ目のタンクだけど、健二達は完全に忘れてしまってて、思い出したのは、それから更に1週間後の事であった。
結局日の目を見る事の無かったタンクから、夜な夜なシクシク泣き声が聞こえるとか聞こえないとか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます