第121話 思わぬ所に

寝付くのが遅くなってしまって、寝坊してしまったのだが、そんな事を許さないとばかりに、ピョン吉達に腹が減ったと突かれて起こされた。


着替えて1階に降りると、全員が食堂に集まっていて、俺を待っていた。


「ごめん、寝坊しちゃった。」

と素直に謝ると、丁度起こしに行くところだったそうな。


「ああ、そっちの方が良かったなぁ。朝からピョン吉の角に突かれて起こされるよりも。」

と俺が呟くと全員がクスクス笑っていた。


が、アケミさんだけはピョン吉達とレベリングに行った際に、穴だらけにされた魔物を見ている所為か、

「しかし、あの角で突かれて、よく身体に穴が開きませんね。」

と妙な所で感心されてしまった。


朝食を終えて、8時になると、屋敷の前に馬車が5台用意される。

出発するメンバーも集まり、村人達に見送られつつ、城門を2つ通過し森を迂回する街道を進む。

そして草原地帯を通過する訳だが、ここで俺は衝撃を受けた。



「見つけたーーーー!!」


俺が興奮して大声で叫んだので、馬車に乗っていたアケミさんもリサさんもステファン君もアニーさんも、ビクッと硬直していた。



「あ、ゴメンゴメン。 驚かせてしまって。

でも、聞いて聞いて!! 探してたトウタケを発見したんだよ!!」

と俺が興奮醒めやらぬ感じに言うと、


「ああ、この周りの草ですよね?」

とステファン君が呟き、アニーさんがウンウンと頷いている。


「え? 何? 知ってたの?」

と聞くと2人ともウンウンと頷いている。


「え? リサさんとアケミさんは知ってた?」

と聞くと2人共に首を横に振っていた。


ガーーーン 何だよーーー。 いや、俺が聞かなかったのが間違いなんだけどさ。


「あぁぁ―― 聞けば良かった。」

と暫く愕然としていたのだった。


尤もトウタケが砂糖になる事は知らなかった様なので、どうやらこの事を知って居るのはこの世界で俺だけっぽいな。

フフフ、余りスィーツの知識は無いのだが、聡が小さい頃に時々作ってやったりしたから、プリンやクッキーやカップケーキとか、ショートケーキとかチーズケーキ、カステラ、それにシュークリームぐらいなら作れるんだよな。

ああ、あとパイもいける! アップルパイも美味しいよなぁ。ジャムも作れるし、砂糖さえあれば小豆の餡子も作れる。

今となってはもうちょっと色々作って覚えて置けば良かったけど、ホイップクリームやカスタードクリームは作れるから、後は創意工夫で何とかなるかな。


等と頭の中で考えてニヤニヤしてたらしい。


「け、ケンジさん、突然叫んだり、ガックリしたり、今度はニヤニヤと虚ろな目をしてますが、大丈夫ですか?」

とアケミさんに心配されちゃった。


「ハハハ、ゴメン。いやさぁ、また一歩夢の実現に近付いたから嬉しくって、思わず妄想の世界に入ってたよ。」


「マスター、それは魔法ですか?」

とリサさんが食い付いて来たのだが、

「あ、いやどちらかというと、食べ物だね。」

というと、トーンが下がって行った。




馬車は順調に進み、昼前にドワースの街に入った。

一旦拠点に馬車を置き、元からの村人達の案内の下、新規参入組の獣人達を連れて街へ買い出しに散って行った。

一応、今回の買い出し資金として小金貨5枚を渡してあるので、十分お釣りが来る計算である。



ドワースの街での詳細は割愛するが、ナスターシャはレベル上げがかなり進んだお陰で、念願の魔法がかなり上達していた。

今では初級と中級の中間ぐらいは使えるまでになっている。今回も色々アドバイスをしておいたので、また春になる頃には進歩しているだろう。

孤児院の子供らもとても元気で、スクスクと育って居た。

来年になると、12歳になる子らが孤児院を出るらしいのだが、まだ就職口が決まって居ないとの事だった。

そこで、農業をやるなら、うちの拠点で働き口がある事を提案してみた。

来年の春までには自分なりに将来の事を色々考えて貰い、行く宛てがなければ……という感じでも良いと言ったら、かなりホッとした表情になっていた。

やはり、切羽詰まって精神的に追い詰められた状態に居ると、ドンドンマイナス思考になってしまって、良い事無いからね。



そして、ジョンさんの所のユマちゃんも、先日生まれた赤ちゃんも元気に育っている。

勿論、アズさんの弟妹もスクスクと元気に育っていて元気な笑顔を見せてくれていた。

そんな姿を見ると、『あの』状態を知る俺としては、本当に間に合って良かったと、改めて思うのであった。

ヤリスさんの産後も順調で、家族4人が幸せそうな笑顔で微笑んで居る姿が凄く眩しかった。


アリスタでスラムの孤児の面倒をみていた冒険者のドリス君とサラさん達だが、冬の間はスラムの子達と一緒に居たいからと、俺達と一緒に拠点に戻る事になった。

ガバスさんの店もジェイドの店も順調そのもので、ガバスさんの子供もスクスク育っている。


アケミさんにドワースの街を案内しながら、各所への挨拶回りもついでにやったのだが、ガバスさんは何故か「そうか!そうか!!」と何度も言いながら、涙を流していた。

奥さんのナナシーも赤ちゃんを抱っこしながら、ニコニコしてた。

うむ、ちょっと紹介の仕方というか、説明を間違ったのかも知れない。


冒険者ギルドでも素材の買取とアケミさんの冒険者登録を行ったりした。

そのまま帰ろうと思って居たのだが、何故かサンダーさんに呼ばれてしまった。

サンダーさんも相変わらずイケ親父っぷりは健在であったが、ギルドマスター室で小一時間程、世間話に付き合わされてしまって、ハ――ジェイドさんの店に行くタイミングがズレてしまい、翌日に再度出直す羽目になった。


ちなみに、俺がドワースの街では珍しい獣人達を大勢引き連れてやって来た事で、各所でかなり噂話に登っていたらしい。

注目を浴びた当の本人である獣人達だが、全く差別されない事に驚いていた。


そして、5日間程のドワース逗留も終え、ジョンさん一家やアズさん一家に見送られつつ帰途に就いた。



 ◇◇◇◇



この世界の常識では考えられない程のスピードで走る馬車の中で、マッタリと寛ぎながらアケミさんに

「どうだった? ドワースの街は?」

ドワースの感想を聞いてみると、楽しかった様でニコニコしながら、


「辺境都市と聞いてましたが、大きな街で驚きました。

食べ物もソコソコ美味しかったです。

まあ、それでもケンジさんの拠点のご飯の方が美味しいのには、思わず笑っちゃいますけどね。

あれはやっぱり食材の差もあるんでしょうね?」


「そうだねぇ、うちの拠点で取れる作物は多分、かなり高級品になるんじゃないかな? 野菜一つでも味が大きく違うからね。

それに、拠点だと調味料を採算とか考えずに使うからってのもあるとは思うね。」


「そうですよね、調味料は高いですからね。

ケンジさんの拠点で1つだけ残念な事を挙げると、やはり海が傍に無い事ですね。

まあ、こればっかりは、地理的な事なので、どうしようも無いですが――」


「だよね。俺がマーラックに行きたがった訳が良く判るでしょ? 海欲しいよねぇ。

まあ、一応海産物は食糧倉庫経由で供給して貰える様にしているから大丈夫だけどね。」


「ハハハ、そうでしたね。あれがあれば、距離なんかは関係無しだし、鮮度も問題無しですものね。」


「まあ、でも別荘を作っているから、最低でも年に1回は行きたい所だけどね。

問題は行くのに余計な時間が掛かる事だよね。」




そして、スタッフ達も含めワイワイと話している内に、平原に辿り着いた。

一旦ここで休憩を挟み、全員でちょっと早めの昼食を取り終わった。


出発前に、

「悪いんだけど、ちょっとだけ寄り道して手伝って欲しい事があるんだけど良いかな?」

と俺が全員に切り出す。


「ええ、ケンジ様のお願いとあっちゃぁ、断る訳が無いですよ。」

と全員が笑顔で即答してくれた。



フフフ、何かって? 勿論トウタケ採取である。

隠し街道から十分に離れた場所に移動し、俺がアイスカッターでカットしたトウタケを全員でせっせと集めて貰った。

結果、小一時間程の採取で、十分な量のトウタケを手に入れる事が出来たのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る