第117話 モフモフ村の憂鬱
少年を起こしたらしく、少女が手を繋ぎ、寝室から出て来た。
「あーー、良い匂いがするぞ!」
と少年が嬉し気な声を上げる。
「こ、コラッ! 助けて頂いた上に、食事までなんて、ダメですよ。」
と少女が幼い少年を窘めている。
「えーー? でもねーちゃんだって、さっきからお腹鳴ってるじゃん。
もう俺達2日間何も食べてないんだぞ?」
と少年が反論している。
「ああ、遠慮なんか要らないよ? 沢山作ってあるから、余っちゃうし。
さあ、助けると思って食べるのを手伝ってくれないかなぁ?」
「お! にーちゃん、ありがとうー! おいら手伝ってやるぞ!
さ、ねーちゃんも一緒に手伝ってやろうよ!」
と少女の手をグイグイと引っ張る少年。
結局、鳴る腹には勝てずに、テーブルに着いたのだった。
「さあ、沢山お代わりもあるから、遠慮無く食べてくれ。
「じゃあ、俺達も食べようか。」
とアケミさんに言って、頂きますをして食べ始める。
「お!良い出汁が出てるね! 美味しいよ。」
と俺が褒めると、アケミさんが嬉しそうに身を捩る。
「あ!ホントだ! これ、初めてたべるけど、美味いぞ!」
とまだ結構熱いのに、ガブガブと食べて居る。
しかし、本当に甘えていいのだろうか? という感じで戸惑った様子の少女の方には
「ここで遠慮するのは、逆に作った人に対しても失礼になるから、遠慮せずに美味しい顔を見せるのが礼儀だぞ?」
というと、
「そ、そうですね。では遠慮無く頂きます。」
と一掬いして、口に入れた。
「お、美味しいです! お、美味しいです!!」
と涙を零しながら食べていた。
アッと言う間に1杯目を食べ終わり、まだまだいけそうなので、2杯目を装ってやると、
2人のスプーンが止まっている。
「なんだ? どうした? まだ沢山あるんだぞ?」
と俺が言うと、
「なあ、にいちゃん。これ……、こんな美味しい物、俺の伯父さんと伯母さんにも食べさせてやりたいんだけど、貰って行って良いかな?」
と少年が聞いて来た。
話しによると、この狐族の少年ハロルド君(5歳)は姉のサリーちゃん(7歳)は2年前に両親を亡くし、父の兄夫婦の所に引き取られたらしい。
そして半年前、領主様からの命令で伯父夫婦と共に開拓村に連れてこられたらしいのだが、半年前に僅かな食料だけを持たされて、その後は何の支援も無く放置状態で、先日最後の食料が尽き、伯父さん達に黙って食料になる茸や木の実を探しに、禁止されていた森へ入ったらしい。
「わぁ~それ酷いねぇ。 しかもどっかで聞いた様な最悪のストーリーじゃん。
えー、何? アルデータ王国ってそんな国だったの? それとも、領主が糞なのか?」
と沸々と燃え上がる怒りを抑えつつ聞いてみると、どうやら、大なり小なり国全体が亜人(獣人、エルフ、ドワーフ)に対して劣等種という風潮らしい。
まあ、一応表向きは平等と謳っているんだけどね。
という事で、直ぐにテントを畳んで、月明かりが登り始める草原を横切り森の反対側にあるという獣人の開拓村へと向かうのであった。
30分で村に到着すると、フラフラと足取りの怪しい獣人達が、子供らを探している様子である。
「伯父さーーん、伯母さーーん! オイラ達無事だよーーー!」
と馬車から顔を出して大声を張り上げるハロルド君。
「おお!! ハロルド達が見つかったぞーーー!」
と伯父さん?が後ろを振り向き、彼方此方を探している村人に声を掛ける。
2人は馬車から飛び降り、伯父さんと伯母さんに抱きついていた。
涙を流して喜んで居る伯母さん。
ホッとして、今にも座り込みそうな伯父さん。
そして、15分後、村人全員の前で、ハロルド君とサリーちゃんが頭を下げて謝っていた。
「まあしかし、無謀だったとは言え、目的はみんなの為に食料を調達しようとしてた訳なので、許してやって下さい。
という事で、兎に角先に食事にしましょう!」
と俺が援護すると、全員がキョトンとしていたが、次第に全員の顔が曇って行く。
「お兄さんには、お礼しかないんじゃが、悪いがこの村にはもう食料が無いんじゃよ。」
と伯父さんが悲しそうな顔で言う。
「ああ、大丈夫ですよ。食料タンマリ持って来てますから。
と言って俺は村人全員が座れるぐらいのデカいテーブルと椅子を土魔法でその場に作り、アケミさん作の雑炊やオークの串焼き等の出来合の物を取り出した。
しかし、村人達は子供ら優先で食べさせていた様なので、本当にガリガリに痩せている。
これは先に少し何とかした方が良いだろうと、全員を対象に『エリア・ヒール』を掛けて、更に回復と栄養を兼ねて桃を1つずつ配り、先に食べさせた。
「「「「「「美味い!」」」」」」
「「「「「甘いーー!」」」」」
「「「「「「蕩けるようだ」」」」」」
とワイワイと騒ぎながら桃を全員が完食する。
すると、全員の顔色に赤身がさしてきた。 流石だなこの桃は。
そして、全員にまずは雑炊を配る。
アケミさん作の雑炊がアッと言う間に無くなったのだが、アケミさんがテントのキッチンで追加分を作ってくれていた。
そして、1時間後、大量に栄養を補給した村人達は、やっと落ち着いた様であった。
食後に泉の水を出してやりつつ、話しを聞くと、実に胸くその悪い話であった。
真面目に働いていた獣人達を街から排除する為、難癖を付けては開拓村と称する荒れ地へ、僅かばかりの食料で放り出す。
そして最初の年から税の集金にやって来るらしい。
普通は開拓村であれば、最低でも安定するまで5年は無税にする筈なのだが、メルボンタの領主は最悪で、獣人相手には何をしても良いというスタンスらしい。
思った以上に糞野郎という事だ。
聞けばこの近辺には同様に同時期に放り出された獣人の開拓村があと3つ程あるらしい。
現在この村で大人14人、子供6人。余所の村も大体同じ様な構成らしい。
では、何故1箇所に多くの獣人を纏めて送り込まないのかというと、団結されての抵抗を恐れて、少人数単位でバラ撒いているという事であった。
「許せんな。他の3つの村も同じ様な状況かな?」
と聞くと場所は大体判るのだが、既にここまでやって来た時の馬車を曳いた馬を食べてしまったらしく、移動手段が歩きでは遠すぎるのだとかで、状況が判らないらしい。
うむ……決めたぞ!
べ、別にモフモフ尻尾に惹かれた訳じゃないんだからね?
ちなみに、ハロルド君とサリーちゃんの伯父さんと伯母さんは同じく狐族で、他の村人達は、犬族だか狼族だか(どちらかは不明)や、熊族や猫族、あとは何だろう?丸っこい様な耳の……あ、狸族か!? それと兎族と多分、あの尻尾は栗鼠族?が居る。
大人達は大体が20代後半~40代くらい。
で、何が言いたいかというと、兎族のおっちゃんや栗鼠族のおっちゃんの尻尾もモフモフしているんだが、凄くミスマッチというか、実にシュールなんだよね。
尻尾や耳が感情の起伏に応じてヒラヒラ揺れたり、ブンブン左右に千切れそうな勢いで動いたり、ガックリ力を無くした様に垂れ下がったりと。
確かに小さい子の尻尾も耳も可愛いけど、おっちゃんは…… ねぇ。
だから、断じて尻尾と耳に惹かれた訳じゃないんだよ?
「こんな国に未練あるんですか? 無いなら、いっそ余所で出直しませんか?
こんなムカつく国に居ても幸せには成れませんよ?
税の無い、作物の良く育つ、安全な環境があるんですけど、如何ですか?
同じ農作業するなら、もっと愉しく美味しく暮らせる所が良くないですか?」
と俺が言うと、
「あるのかよ? そんな天国の様な所。 でも俺達にはそこまで行く手段がねぇしな……。」
「いや、這いずってでも行かなきゃなんねーだろ! そんな場所があるんだったら。
どうせここにあるのは死だけだ。餓死だ。子供らの為にも気合い入れて行くしかあんめぇ?」
「そだな。このまんまじゃ、子供らの成長どころか、冬さえ越せねぇな。
よし、オラは行くぞ!」
と徐々に行く気になる村人達。
やったね。そうこなくっちゃね!
そして、その夜の内に、行動を開始するのであった。
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