第118話 アルデータ王国からの脱出 (改)

そして、準備を終えた今日、村を廃棄して出発となる。

この3日間は実に忙しかった。


まず、ハロルド君達の村に着いた夜、そのままの流れで3箇所の村を回ったのだが、1箇所は残念ながら全滅していた。

周囲をくまなく探したが、生存者の気配は見つからなかった。

悲しい気持ちになりながら、残された遺体を燃やして遺骨を埋葬し、手を合わせたんだが、もうね、母親に抱かれたまま亡くなった幼い子の遺体とかを見ちゃうと、堪らない気持ちになっちゃって、大泣きしながら一箇所に集めて燃やしたんだよね。

こんな悲しい事をヤラかす領主やそれを許している国に対して、マジで殺意が湧いてしまった。

そしていつか、必ず彼らの無念を何らかの形で晴らしてやりたいと心に誓ったのだった。



残り2つの村は、かなりギリギリで間に合った感じで、直ぐに治療し、食事を取らせ、一息着いたところで同じ様に提案すると、全員が即答で「お願いします!」と頭を下げて来た。

仮にハロルド君達の村をA村、他をB村とC村とすると、B村が大人11人で子供が3名、C村が大人12名で子供が4名である。

移動手段の馬車は残っていたが、馬はとうの昔に潰して食べてしまったらしい。


翌朝、両方の村で一番大きな馬車をA村に持ち帰り、俺の馬車同様の改造を始めた。

実際の改造パーツは巾着袋に補修用パーツとして入れていたので、サクサクと組み上げるだけである。

居住空間を考えると、やはり1つの村に対し、馬車2台は必要なので、合計6台である。

そうすると、2頭掛けだとすると、12頭の馬が必要となる訳だ。

なので、馬車を改造している間にマダラ達に頼んで足り無い5頭をスカウトして来て貰ったりしたんだけど、いやぁ~マダラはマジ優秀なナンパ師である。

ビックリする程の短時間でホースを5頭ナンパしてきた。

俺には絶対に真似出来ない芸当だ。

マダラのお陰で、馬不足の問題も無事に解決した。



馬車の改造が出来上がった馬車順に、村人達に託して、B村とC村へそれぞれの村の人達迎えに行ってもらったのだった。

迎えの馬車に乗ってやって来たそれぞれの村の住民らは、お互いに抱き合って生きて居る事を喜び合っていた。

そして、村人達が栄養を取りながら、1日休みを取っている間、俺はB村とC村に行き、更地に変えて回った。

一瞬、黒影の出番かとも考えたのだが、まずは村人の安全な脱出を優先すべきだと考えて、我慢した結果、ただ更地に戻すだけでなく、とある置き土産をしておいた。

そしてそれが風化しない様に、厳重な結界を張り巡らせておいたのだった。





そして漸く今朝、出発となった訳である。


「じゃあ、いよいよ出発だ。」


この村での最後の朝食を取った後、村を更地に変えてから他の村同様の置き土産をして、出発したのだった。




当初はメルボンタへ向かう予定であったのだが、止めた。

獣人達を追いやったのが、メルボンタの領主であったからだ。

つまりそんな追いやられた彼らを連れて、ラングーンに行くのは拙いだろうという判断である。


いや、本気で潰しに行くのは『あり』だと思うが、それは彼らを拠点まで運んだ後だろう。



折角B10~B16の速度が上がった所だったが、新入り組に合わせたペースで走るので、通常のマダラ達の速度に慣れてしまった俺には実に遅く感じる。

途中で1泊した翌日にはメルボンタに辿り着いたのだが、そのまま横をスルーして、国境を目指した。



 ◇◇◇◇



途中何度か、冒険者をやっている獣人達のパーティが、人攫いと勘違いして、威圧しながら絡んで来たのだが、モフモフ村の人達が説明して事なきを得ている。

逆にその夜は軽い宴会になったりで、長丁場となってしまった旅のアクセントにもなっていた。


獣人の冒険者達に聞いた所、やはり国の殆どの貴族がそう言う風潮らしく、獣人に取っては厳しい環境だそうで。

じゃあ、獣人達は何故そんな国から脱出しないのか? という疑問だが、『何処に行っても同じか、寧ろもっと酷い。アルデータ王国はその中では平等を謳っているだけマシ』という嘘を、長年に渡り擦り込まれているらしい。


「いや、少なくとも、俺の知る限り、クーデリア王国のドワースはそんな事ないぞ? 亜人差別とか聞いた事ないし、商業ギルドのギルドマスターはエルフだったし、人族と代わらない扱いだよ?」

と俺が言うと、

「やっぱりそうだったんだ!?」

と愕然としていた。


村人達が、俺の拠点の話(税や差別が無い事や作物が豊富に取れる事)をしてしまい、獣人の冒険者達も行きたいと言い出していたが、依頼の途中なので、後から追うと言い出した。


しまったな……これは俺が迂闊だったか。余り口外しない様に村人に念を押しておくのを忘れていた。

まあ、こうなったらなったでしょうがないよな。


「まあ、それは良いんだけど、後から追うったって、隠れ里だし、誰も知らない内緒の場所だから、追い様が無いよ?

うーーん、どうしようか?」

と暫し考えて、


「じゃあ、何か後から合流したいのだったら、クーデリア王国のドワースの神殿の傍に俺の別荘があるから、そこに連絡を取れば迎えを出すよ。

但し、何処の国にも属さない内緒の場所だから、口外しない様にしてくれよ?」

と釘を刺すと、嬉しそうに「任せとけ!」と言っていた。


勿論、後から村人達にも軽々しく拠点の話を口外しない様に釘を刺しておいた。



そして、1週間掛かりでやっと国境を越えたのだった。



「さあ、これでやっとクーデリア王国の中に入れたな。 もう安心かな。」



この1週間で新入りのホース達も良い具合にペースが上がって来ている。

フフフ、徐々に速度が上がっているので、村人達は慣れてしまったらしく、ペースアップには気付いてない様である。

実際には、通常の馬の2倍の速度にまで達しているんだけどね。




そして国境を越えて更に1週間が過ぎた。

漸く元魔法の訓練場であった平原まで辿り着き、一旦休憩を取る事にした。

久しぶりの風景を懐かしい気持ちで眺める。


「かなり前の話だけど、ここの平原では、魔法の練習をやったんだよね。」


「なんか不思議なくらい、真っ平らで綺麗な平原ですねぇ。

見晴らしも良いし。」

とアケミさん。


「うん、俺が真っ平らに修復したからね。 ちょっと色々ヤラかしてしまって、ちょっとした騒動になってたから、焦ったけど。」

と俺が遠い目をして告白する。


「え? ヤラかしたって、何をやったんですか?」


「あ、いや、言う程大した事じゃないんだけどね? 俺は普通にだだっ広い所で、来る日も来る日も魔法の練習してただけなんだけどさ、何かその規模がヤバかったらしくて、天変地異だ!と大騒ぎになったらしくて……」

と俺が言うと、アケミさんがドン引きしていた。


「一体全体、どんな魔法訓練してたら、天変地異と間違えられるんでしょうか?」と。


これは余り詳しく言わない方が良さそうだな……。




休憩を終え、いよいよ拠点へ続く隠し街道へと入って行く。


「え!? こんな所に道があるんですか! しかも滅茶滅茶綺麗な道ですね。」

と驚くアケミさん。


「ああ、一応外からの人には気付かれない様にしてるけど、道は俺が作ったからね。

ちなみに言うのを忘れていたけど、ここの草原から先は、A~Sランクぐらいの魔物の巣窟だから注意が必要だよ?」

と俺が言うと、滅茶滅茶驚いていた。



「あ、後ろの馬車の村人達に言うの忘れてたな。 まあ、後で良いか。 どうせ俺達には寄って来ないしな。」

と俺が呟くと、


「いや、寄って来ないってどう言う事なんです?」

と不思議そうに聞いて来た。


「ああ、まあ普通に俺やピョン吉達が恐怖を植え付けてるから、俺達の気配があると、寄って来ないんだよ。

他の奴は判らないけど、おそらく、他の領軍とか国軍程度だったら、ワラワラと出て来ると思うよ?」

と説明した。



話をしている間に森を迂回し終わって、漸く懐かしの城壁が見えて来た。


「お! 見えて来たね。 あれが俺の拠点だよ。」

と指を指して教えると、


「…………」


アケミさんはポカンと口を開けて固まっていた。


マダラ達が徐々にペースを落として、城門の前に辿り着くと、遠隔で門を開き中へと入って行く。

後ろの馬車からは、


「「「「「「「「「うぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」

と言う歓声が聞こえている。



外門を潜ると、黄金色に輝く麦の穂が風に揺れる畑がズラリと並んでいる。


「あ! ケンジ様だーーーー!」


「お帰りなさい、ケンジ様ーーー!」


と農作業中の拠点の村人がワラワラと寄って来て、口々にお帰りなさいと喜んで出迎えてくれた。


そのまま内門を通って、拠点入った。


やっと懐かしの我が家へと戻って来たのだ。


「いやぁ~、なかなか愉しく有意義な旅だったよ。

みんな変わりなく元気にしてた?」


「ええ、お陰様でみんな健やかに暮らしておりますじゃ。」

と村長が微笑んでいる。


俺は、拠点の住民達に、アケミさんと獣人の村人を紹介し、来年から農地を増やす感じで後日話し合う事にした。


俺は、その間に新しい獣人達の家を18家族分設置して廻り、後の事は村長に任せる事にして、アケミさんを連れて屋敷へと向かう。

屋敷の門にはスタッフ達が待ち受けていて、笑顔で出迎えてくれた。


アケミさんを紹介すると、ちょっとリサさんが悲しそうな何とも言えない表情を一瞬見せた様だったが、すぐに元に戻った。

うーん、もしかして何か拙い事になる? と一瞬冷や汗が脇の下と背中に噴き出したのだが、表情が戻ったので、多分大丈夫と思いたい。

まあこればっかりは、人の感情の問題だし、何ともしようが無いよな。


俺は、素早く臭わない様にクリーンを掛けて、ソッと目立たぬ様に、脇の下の匂いをチェックし、屋敷の中へと入ったのだった。


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メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/22)


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