第116話 魅惑の尻尾
さて、ラングーンには直ぐに着いたものの、軽く街の中で買い物をすると、そのまま出発してしまった。
だって、午前中だからね。
今回は、ショートカットコースを通らずに、迂回コースのメルボンタを目指す事にしている、理由はメルボンタはまだ行ってない事と、距離を走った方がBシリーズの進化が早まるんではないかという事である。
それにショートカットコースの悪路は進化前のBシリーズにはちょっと過酷そうなので、回避する事にしたのである。
迂回コースがメイン街道となる為、そこそこに交通量がある。
チョイチョイ馬車等を追い越しているが、それ程頻繁に追い越せるシーンは少なく、結果、時間は余計に掛かってしまう。
幾つかの村等を経由し、メルボンタまで2日半掛かってしまう計算だ。
メルボンタの街は各街道が集合するハブの役割をする街で、その規模は非常にデカい(らしい)。
かなり近い位置に魔物が多く住む森もあったりするので、商人も多いが冒険者の数も多い。
その為、ここら近辺では、他の都市に比べ、面積で約2倍、人口は2.5倍くらい居る(らしい)。
という以前に調べた話をアケミさんに伝える俺。
全部らしいばかりなんだがな。
「へぇ~、じゃあかなりの巨大都市なんですね。 マーラックとかよりも大きいんでしょうかね? ちょっと楽しみです!」
とワクワクするアケミさん。
さて、健二はあまり通過するだけの国という事で、気にしてなかったので知らなかったのだが、ラングーンやメルボンタのあるアルデータ王国には、地域地によって、獣人の村が存在する。
当然人族よりも身体能力の高い獣人達は戦闘力において強力で、冒険者として、又は傭兵として、活躍する者も多い。
そんなアルデータ王国であるので、当然種別による差別等は無い。表向きは……である。
アルデータ王国の王家は人族であり、更に支配階級である貴族もほぼ全てが人族である為、獣人達は軽視されるというか、無茶を強いられる事が多いのである。
ハッキリ言うと、獣人達はかなり劣悪な環境の開拓村を作らせられたり、無茶な税を領主から吹っ掛けられたりと、なかなか生活が安定出来ない事が多いのが実情であった。
その為、そんな過酷な村から飛び出して、身一つでのし上がれる冒険者や傭兵となる若者が多いという訳である。
話しは戻るが、そのメルボンタへの道中の途中、交通量が多い街道から少し入り込んだ人目に付かない今晩の野営場所を探していた時の事である。
200mぐらい先に森のある草原に馬車を停め、「じゃあ、今夜はここで一泊しよう。」と話していると、森の方から、小さい悲鳴が聞こえて来た。
慌てて気配感知の範囲を広げると、小さい人?の気配が2つと、10匹の魔物の反応があった。
「いかん、人が襲われているみたいだ。 助けに行くぞ! コロ、着いてきて! 他はここを守って!」
と言って、身体強化と身体加速を発動し、一気にトップスピードで駆け出す。
後ろからコロも追いついて来た。
200mの草原を一気に突っ切り、その勢いのまま森へと突入した。
近付くにつれ、ハッキリと子供の叫ぶ様な声が聞こえてくる。
「キャァーー」
「は、放せ! あっち行け!! ね、ねーちゃんから離れろ!」
「ハー君、は、早く逃げて!」
10体の魔物はフォレスト・ウルフの様だった。
「うわぁーーー」
と男の子の悲鳴も聞こえる。
森の中の木々が邪魔で速度が落ちるが、それでも15秒程で現場に辿り着いた。
現場は酷い状況で、片腕を食い千切られた少女と、それより小さい男の子は太ももに食い付かれ、振り回されている。
俺はその横から男の子に食い付いているフォレスト・ウルフの首を新しい相棒となった刀で両断した。
フフフ、素晴らしい切れ味である。今宵の刀は血に飢えておるか…… いやいや、そんな冗談を言っている場合ではないな。
男の子は切断された首と一緒に5m離れた木の根っこ部分まで飛んで行った。
片腕を食い千切られて、大量の血を流している少女に3匹のフォレスト・ウルフがトドメを刺すべく近寄っていたのだが、先程の首が弾けとんだ音を聞いてビクッと振り向く。
「遅いわ!」
俺は咄嗟にスタンを3発を発動して、少女に襲い掛かろうとしている3匹に放った。
「「「バババッシーン」」」
薄暗い森の中に稲光が光り、3匹のフォレスト・ウルフもバサリと亡骸から煙りを出しながら倒れた。
グゥルルルル
ガゥーーー
と残り6匹のフォレスト・ウルフが威嚇をし始めるが、そこにコロが突っ込んで無双し始める。
少女の出血量が半端無いので、フォレスト・ウルフをコロに任せ、治療に取り掛かった。
傷口からばい菌が入らない様に、一旦クリーンと、狂犬病対策で『ポイズン・キュア』を掛けた後、『パーフェクト・ヒール』を発動した。
少女の身体が目映い光りに包まれ、逆再生の様に腕が生えて行き、パックリ切れていたホッペの傷も跡形も無く塞がった。
大量の血を流したので念の為、特級スタミナ・ポーションを取り出して、意識が朦朧としている少女を抱き起こして口に瓶を当てて、
「さ、これを飲めば意識がハッキリするから。」
と何度か言うと、少しずつ飲み始め、やがてゴクゴクと飲み干した。
少女をソッと地面に横たえ、今度は木の根っこまで飛ばされた少年の下へと駆け寄り、
太ももに食い付いたままのフォレスト・ウルフの口を無理矢理開いて、足から取り除いた。
こっちの太ももも酷い状況で、肉が抉れ、骨まで折れている。
幸い脳震盪を起こしているのか、気絶しているが、呼吸はしている。
一旦クリーンを掛けてから、ポイズン・キュア、パーフェクト・ヒールの順で治療を完了。
折れた骨綺麗にくっつき、抉れた肉も元通り。
木に飛ばされた際の脳の損傷も問題無いようだ。
「ふぅ~。何とか間に合った様だな。」
と言ってコロを見ると、既に残り6匹を1箇所に纏めて誇らし気にお座りしていた。
「コロ、助かったよ。 ありがとうな。」
<夕飯前さーー!>
「ハハハ、それを言うなら朝飯前だぞ。まあ、確かに夕飯前だがな。」
<ん? そう言うものなの?>
「だよ。」
どうやら言葉の使い方を間違って教えられたらしい。 ジジ辺りが怪しいな。
やっと落ち着いて、意識を失っている少年少女を改めて見て見ると、何やらオレンジに近い茶色の尻尾がモフモフと生えている。
そして驚く事に、頭には尻尾と同じ毛色の『耳』が生えているではないか!
「獣人!? これが噂に聞く獣人か!」
と腕を組み、1人で感動していると、
<主ー、そろそろ戻ろうーー>
とコロに急かされた。
倒したフォレスト・ウルフを回収して、両腕に少年と少女を抱きかかえ、野営地の方へと向かったのだった。
まさか、獣人がこう言う感じとは思ってもみなかったな。
俺はてっきり、『しま○ろう』や『狼男』的な獣が二足歩行する感じを連想していたんだけど、これ普通に顔とか身体とかって人間と同じじゃん。
違いは、この思わず触りたくなる、モフモフの尻尾と耳だけか。
ハハハ。これで噂だと人族よりも1.5倍から2倍近い運動能力があったり、聴力や嗅覚力や視力が強力だって言うらしいから、凄いよなぁ。
馬車まで戻ると、アケミさんが心配そうな顔で待っていた。
「お帰りなさい。あら、可愛い獣人ですね。無事で何よりです。」
と微笑んでいた。
2人を取りあえず、馬車の中に横たえて、テントを建ててから、寝室に寝かせ直したのだった。
テントの外に厩舎を建て、マダラ達に餌と泉の水と果物を与えてから、テントに入ると、アケミさんが子供らの為に雑炊を作ってくれていた。
丁度あと少しで完成という頃、寝室で動きがあった。
どうやら、目覚めたらしい。
「体調は大丈夫かい?」
と俺が寝室に入って目覚めた少女に声を掛けると、
「ああ、あ、あなたは? ここは何処ですか? わ、私達をどうしようと言うのですか?」
と目をキッと吊り上げて矢継ぎ早に聞いて来た。
「ああ、君らは直ぐ傍の森でフォレスト・ウルフ10匹の群に襲われていたんだよ?
覚えて居るかい?」
と俺が柔らかい口調で言うと、ハッとした表情になり、
「あ! 私、腕を……」
と言いながら、自分の腕を見て、固まっている。
「大丈夫だよ。治療したからね。
出血量が凄かったから、後もうちょっと遅かったら、危なかったね。」
と俺が状況を説明し始めると、ブルブルと震えだし、最後には
「先程は、命の恩人に対し、失礼な物言いをしてしまい、申し訳ありませんでした。危ないところを弟共々救って頂き、ありがとうございます。」
と深々と頭を下げていた。
「ああ、大丈夫。そんなに畏まらないでも。
さ、お腹減ったろ? 大分血を流したから、みんなでご飯にしようか。」
というと、グキューーと可愛らし音が少女のお腹から豪快に鳴っていた。
「フフフ、じゃあ弟君を起こしてリビングに出て来てね。」
ちょっとお腹の音に和みながら、先に寝室を出たのであった。
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