第115話 強制連行

トールデンの門を出てから、行きとは逆方向に進んで行く。

大体2時間毎に休憩を挟んでいるのだが、昼食休みの後に走り出した辺りから気の所為かは不明だが、徐々にマダラの速度が上がっている気がする。

<マダラ、何か少しずつ速度上がってない?>


<主、新入り達が徐々に良い感じに仕上がってきてるよー>

とはマダラ談。


なるほど、つまりB10~B16の速度に合わせペースアップしているという事か。


なので、ふと気になり聞いてみた。

<ところでマダラ、B10~B16ってあの広い河は渡れるのかな?>


<うーん、微妙? まだ継続的に水の上は無理?>


そっかぁ……まだ無理なのか。 じゃあ、最悪は筏作って渡る感じかな。






トールデンを出て2日が経過し、やっと河の近くまで辿り着いた。

今回は、ゲンさんの村へは寄ってはいないのだが、河に近付くに従い、何やら様子が以前と違う気がする。

具体的に言うと、以前は殆ど居なかった通行人の数がドンドンと増えて行くのだ。


「あれ~? この道、前に来た時は、こんなに人居なかったんだけど、何でかな?」

と俺が呟きながら首を捻っていると、アケミさんが


「もしかして収穫時期だからとかですかね?」

と辺りを見渡しながら言ってきた。


「そうなのかな? でも農作業よりという、どちらかというと、商団の馬車っぽいよ?」


「うーん、そう言われてみると、そうですね。」


通行人の数が増えた事でマダラ達の速度も、それ相応に落としている。


やっと川岸まで近付くと、やっとその原因が判明した。


「げっ! 何これ。」


健二が思わず驚きの声を上げる。

川岸には大きなノボリが掲げてあって、そこにはデカデカと、『タロン村名物 ケンジ筏はこちら!』と書いてある。

馬車を降りて近くの通行人に聞いてみると、つい最近始まったばかりなのだが、料金が安く早いという事で、大人気になっているらしい。


「マジかぁ~。 いやしかし、あのネーミングは勘弁して欲しいな。 タロン村なら『タロン筏』で良くない?」


あまりにも予想だにしなかった状況に、思わずボヤいてしまう健二。


アケミさんもノボリを見て、「あ!」と声を上げている。


「もしかして、あの筏ってケンジさんが作ったんですか?」


「……… まあ、そうなんだけどね。 ゲンさんめ…… あの名前は俺が付けたんじゃないからね?」


慌てて無実を訴えたんだけど、アケミさんは「フフフ、流石です!」と微笑んでいた。



そして筏の乗り場まで行くと、犯人を発見した。


「あ! ゲンさん!!」


「おお!! 村の救世主様じゃねーか。 ありがとよ! あんちゃんのお陰で大盛況でな。

村も活性化して、大賑わいだぞ。 てーか、あんちゃんよ、暫く見ねぇ内に、別嬪さんと馬増えてねぇ~か?

しかも、シレッと村を素通りしてねぇ~?」

と矢継ぎ早に捲し立てられ、周囲をガッチリケンジ筏をやっていた村人で囲まれてしまった。


「あ、いやほら、前回歓待され過ぎちゃって、ちょっと遠慮したって言うか……ね?」

と俺がしどろもどろになりつつ言い訳をしていると、そんな状況を見たアケミさんが笑っている。


「まあ、面倒な話は後回しだ! おう、みんな! 救世主様を村で歓待すっぞー!」

「「「「「おう!!」」」」」


という事で、せっかく河まで辿り着いたのだが、村へとUターンされてしまった。強制的に。



村に着くと、ゲンさんの奥さんや村人達から盛大にお礼を言われたりと揉みくちゃ状態になりながら、有耶無耶のまま宴会に突入してしまった。


「フフフ、妬けますねぇ~。ケンジさん、大人気ですね。」


「これ、人気なのか?」




各家から、色んな料理を持ち寄って来て、もの凄い量と種類のイメルダ料理が目の前に展開されている。

男連中は酒を樽ごと持って来たりと、まだ夕暮れ前だというのに、既に酒が回って出来上がりつつある者も居る。


最初こそ、事態に追いつけず、遠慮していた健二だったが、そんな料理の山に抗える事も訳も無く、また前回同様に「あ!これ美味い!」 「あ!こっちも美味しい!」とバカ食いし始めた。

ごま豆腐も美味しいし、山芋短冊も美味しいし、豚汁も美味しい。

キンピラごぼうもピリッとしていてご飯が進むし、豚の角煮はトロトロで、口の中で旨味と共に肉が解ける感じである。

確かに宿屋の板さんが作ったプロの味も美味しいのだが、『これぞ家庭の味』という物ばかりで、健二にとってはどれもこれもがご馳走なのである。


「あぁ~、どれもこれも、滅茶苦茶美味しい~!」


最初は、遠慮気味だったアケミさんだが、やはり健二と同じで、箸が止まらなくなっている。



「ケンジさん、これも美味しいです!!」

と満面の笑みのアケミさん。 可愛いお口の横にご飯粒が付いている。


「フフフ、アケミさん、口の横にご飯粒付いてますよ?」

と言って何気に取ってやって、何も考えずに食べてしまった。


「あ!」と小さく叫び耳まで真っ赤になるアケミさん。


あ!何やってんだ俺! と自分の行動に気付き、顔が熱くなってしまって思わず目線を逸らす俺。

逸らした目線の先に居たゲンさんの奥さんが、ニンマリと笑いながら親指を立てている。

他の奥さん連中もニマニマしながら、

「あぁ~秋だというのに、何か暑いわねぇ~。」

とか、

「やぁ~、若いって良いわねぇ~。」

とか言ってるし。


ガキんちょが近寄ってきて、

「ヒューヒュー♪ ケンジ兄ちゃん、ヤルなぁ~!」

とニマニマしてるしで、余計に顔が熱くなってしまったのだった。



健二は知らなかったのだが、このご飯粒作戦の立案者はゲンさんの奥さんである。

健二とアケミさんの微妙な距離感に業を煮やして、アケミさんのホッペにご飯粒を付ける事を裏から指示し、半ば強制的にやらせたらしい。

ゲンさんの奥さん……策士である。


アケミさんは、半ば強制的にヤラされたのであるが、どう言う効果があるとか全く考える余地も無く、付けた後は食べ物の美味しさに熱中していて忘れていたらしい。



結局、満腹の限界まで食べてしまった2人は、殆ど動けなくなり、その日の移動を早々に諦めて、村で一泊する事になったのだった。


明くる朝、美味しい朝食をご馳走になり、村人達から大量の新米をお土産に頂いた。

ゲンさんの奥さんからは、今度は2人分の握り飯弁当を頂いて、村総出のお見送りを受けつつ村を出た。


ゲンさんの筏で無事に河を渡り、ゲンさんにお礼を言って、ラングーンを目指し走り出すのだった。



そしてラングーンへ向かう街道を走る馬車の車内、本人達は気付いていないが、少しだけ、ほんの少しだけだが、馬車の中に座る健二とアケミさんの距離が縮まっていたらしい。

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