第114話 赤ちゃんの居る家
トールデンまでの道のりだが、行きは早かったが、帰りは約2日半程掛かってしまった。
早く、ハイ・ホースに進化して欲しい所である。
まあ、その分長い時間、アケミさんと話す事が出来た訳だが、アケミさんは終始嬉しさが滲み出ていてニコニコしている。
話し相手が居る旅も悪く無い物だ。
途中で二泊し、昼頃に久々のトールデンへと辿り着いたのであった。
「久々だな、トールデン。」
門を潜り、メインストリートを進んでいくと、懐かしい(と言っても数週間程度なんだけどね)トールデンの屋台が建ち並んでいる。
俺とアケミさんは、屋台で買い食いしつつ、馬車を別荘へと進めて行く。
「どう? トールデンは。 随分出て居る屋台の種類が違うでしょ?」
「ええ、私、マーラックより先には行った事が無かったので、見る物全てがとても新鮮です。」
アケミさんは、御者席の隣で愉しげにキョロキョロと辺りを見回しいる。
そして、1時間弱で漸く別荘に辿り着いた。
「わぁ~、ここの別荘も滅茶滅茶広いんですね。」
とアケミさんがマーラックと同じぐらいの広さの敷地に驚いている。
「一応、大体同じぐらいのレイアウトの建物を建てられる土地を毎回探して居るからね。
ほら、彼方此方行っても同じレイアウトだったら、迷わないでしょ?
その方が便利かなってね。」
「フフフ、普通はそうは思っても出来ないのですけどね……」
門を開き中に入って玄関前に馬車を停めると、中から笑顔のショーキチさんとキヨコさんそれにその家族が出て来た。
「「「「「「お帰りなさい、ケンジ様!」」」」」
「お久しぶり! みんな、元気? 奥さんとお子さんも元気?」
と俺が声を掛けると、
「ええ、お陰様で、無事に生まれて、毎日ガブガブとおっぱいを飲んでおります。」
と嬉し気なショーキチさん。
「キヨコさんのお母さんもお元気そうで。」
「ええ、お陰様で良い暮らしをさせて頂いて、全員毎日健やかに過ごしております。」
「そうか、良かった。 ああ、紹介するね。 こちらは、アケミさん。 拠点の方に連れて行くんだ。」
と紹介すると、みんなが何故かニマニマしながら、
「そうですか! いやぁ~。 そうですか!! ハハハハ。 良かった良かった。」
と言いながら簡単に自己紹介をしあっていた。
子供らがマダラ達を厩舎に連れて行ってくれて、世話をしてくれるらしいので、俺達は屋敷の中に入って、早速一回赤ちゃんの顔を拝ませて貰う事にした。
部屋に入る前に、一応念入りに俺達2人はクリーンを2回掛けておいた。
「わぁ~、何かドキドキするなぁ。」
「あのぉ、私も赤ちゃん拝見して良いものなんでしょうか?」
「ええ、是非とも見てやってください。」
ショーキチさんが、小さくドアをノックして、中にソーッと入る。
中には幸せそうな顔をして眠っている赤ちゃんと、ちょっと疲れ気味?のサツキさんが微笑みながらこちらに頭を下げて来た。
部屋に入ると、赤ちゃんの居る家特有のおっぱいの匂いが充満している。 ああ、これがきっと温かい家庭の匂いなんだなぁ~。
「(ショーキチさん、奥さんまだ産後でキツそうだから、ちょっとヒール掛けておくよ? 良いかな?)」
と俺が小声で聞くと、
「(ありがとうございます。是非お願い致します。)」
とこれまた小声でお願いされた。
ヒールを掛けると、サツキさんの身体がボワッと光り、顔に浮かんだ疲れが幾分治まったようだった。
「(ありがとうございます。お陰様で後陣痛が収まりました。)」
赤ちゃんだが、か、可愛いっす。 滅茶滅茶小さい指、ぷっくりしたホッペ、小さい鼻でスースー寝息を立てているのが、滅茶滅茶可愛い。
髪の毛なんて、チョボチョボっとしか生えてないんだよ?
そう言えば、部屋にはまだ赤ちゃんグッズが殆ど見受けられない。
フフフ、買っておいて良かったぜ!
俺は、部屋の隅に、赤ちゃん用のベッドや、サークルや、赤ちゃん用のタンス、玩具等、マーラックで買い集めた物を出して、振り返ると、ショーキチさんとサツキさんが固まっていた。
「(ちょっ!ケンジ様、こ、これは!?)」
といち早く復帰したショーキチさんが尋ねて来た。
「(ああ、赤ちゃんグッズだよ。良ければ、使ってね。 お祝い代わりだから)」
というと、2人は何度も頭を下げていた。
アケミさんは、赤ちゃんの寝顔を見てデレデレになっていた。
余り長居するのも拙いので、3分程で部屋から出たのだが、アケミさんが少し残念そうにしていた。
そうそう、赤ちゃんの名前だが、
「すみません、勝手にケンジ様の名前を少し頂いて、ケンタローと名付けました。」
とショーキチさんが言っていた。
「えー、そんな安直なネーミングで良いの? 俺の名前ってあんまり良い御利益なさそうなんだけどなぁ。」
と俺が真顔で言うと、
「何を仰るやら。フフフ。」
と笑っていた。
いや、こっちはマジなんだけどね。 何か嬉しい様な、でも前世の俺の事を考えると、子供に対して申し訳無い様な気持ちになるんだよね。
ケンタロー君に幸多からんことを祈るばかりだ。
リビングに戻り、全員にマーラック土産を渡し、ショーキチさんにも刀と忍者セットを渡したら、笑われた。
解せんな。何故笑う。
刀の振り方や、剣術の型を少し教えて貰い、翌日から本格的に短期講習を受ける事となった。
そして、その晩は全員でライゾウさんのお寿司を出したりして、軽い騒がない宴会を行ったのだった。
翌朝、ショーキチさんと刀を使った型を教えて貰い、2時間程熱中する。
「いやぁ~、驚きました。 まさか2時間でほぼマスターされるとは。」
「うーん、何か不思議とスルッと入って来る感じなんだよね。 こんなんで良いのかね?」
「ええ、これが基本で、後は繰り返し鍛錬して身体に覚え込ませる感じです。
しかし、やはりケンジ様は凄いです。」
と、お世辞半分としても、嬉しいお言葉を頂いたのだった。
まあ、そう言われてしまうと、もっと良い刀が欲しくなるのが人情だよね。
翌日、俺はショーキチさんの薦める刀鍛冶の居る工房へとやって来て、これだ!と思える刀を2本購入したのだった。
やっぱり、素人の俺でも判る程、名工と言われる刀鍛冶の作品はひと味もふた味も違う。
刃に凄みがあるのだ。
3日間の逗留も終え、明日はイヨイヨ出発である。
時々聞こえる可愛い赤ちゃんの泣き声を聞き、ニマっとしてしまうという変な癖がつきそうだし、ソロソロ帰らないとな。
全員にそれを伝えると、凄く残念がられたが、また多分来年になったら来る事を伝えると、ホッとした様な顔になった。
翌朝、朝食を終えてから、馬車に乗り込み、全員に見送られて別荘を出発したのだった。
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