第113話 巷で大人気

それからの1週間の特訓で、幼児組を除く全員が鯛焼きもたこ焼きも焼ける様になった。

材料の仕入れの確保や屋台を出す場所の確保と許可申請等、目まぐるしい日々が過ぎて行った。

材料価格等を計算し、料金設定も行い、ちゃんと2/3ぐらいの利益が出る様にした。




そして、オープン当日を迎えたのだった。

2回の人生で初めての出店である。


この世界で初めての食べ物である。認知されないと意味が無いので、最初の方だけ試食品を配る事にしている。


俺は表には出ずに、離れた場所からソッと見守る事にしている。




屋台がオープンすると、初めて見る屋台の屋号というか商品に結構な注目が集まっている。

早速焼いた1回目のたこ焼きを、通りを行く人や、見物人に1個ずつ配り試食させると、アッと言う間に行列が出来上がった。

既に焼き上げて時間遅延のショーウィンドーに飾ったストックが飛ぶ様に売れ始める。

更にその横では鯛焼きも試食を開始し、これまた行列が出来て、ストックが無くなっていっている。


偵察に来た子供達が売れ行きを屋敷の方へ伝え、こちらに居る子供達も焼き始め、ストック分を補充して行く。

3時間交代で子供達がローテションするので、それ程過酷ではないだろうが、それでも目まぐるしい売れ行きである。




そして、好評の内に長くて短い1日が終わり、とてつもない売り上げに全員が大喜びしていた。

食材の仕入れ等は売り&焼き班以外の屋敷のメンバーで補助しているので、明日も滞り無く続けられる。

一番の懸念事項は蛸の仕入れであるが、これはこれまでの1週間である程度ストックしてあるので、最悪2週間仕入れが無くても大丈夫な様にはしているものの、今日の売れ行きを見ると、それも怪しいかも知れないな。


「まあ、最悪の場合、売り切れゴメンで日々限定発売でも良いんだよ? 余り欲を掻いて無理すると、身体壊すから、程々で頼むよ?

子供らだって、まだまだ体力無いんだし、ブラックはダメだからね?」

というと、ブラックの意味が通じて無かった……。


「その、ブラックとは何でっかね?」

とキョトンとしている。


「ああ、えーっとね、先の見えない実入りの少ない過酷な労働環境とかを意味する感じ?」

というと、今一つピンと来ないみたいだった。



で、この収益だが、関わった全員で税金と仕入れを抜いた分を均等に割る様にして配分する事を提案すると、

「それだと、ケンジ様の分が無いじゃないですか!」

と全員から言われ、俺もその配分人数に入る事になったのだった。

最初は利益の5%で良いと言ったのだが、

「そんなややこしい計算せんかて、全員で均等に分けた方がスッキリしまっせ? そうしましょうや? ね?」

と説得された訳である。


「まあ、今日は初日だから物珍しさもあって客入りが凄かったけど、2日目3日目にどうなるかだよね。

1ヵ月後には閑古鳥が鳴いてる可能性もあるから、余り気負いすぎないで、上手くやってくれれば良いから。

それにこれが儲かっても儲からなくても、態勢に影響は無いから。

リラックスして楽しんでくれれば。」

と念入りに『絶対に売らなきゃ!』とか『儲けなければ!』という強迫観念で心を病まない様に釘をさしておいたのだった。



 ◇◇◇◇



屋台を始めて5日間が過ぎたが、ブームはより加熱していた。


特に、鯛焼きは新たな甘味(スィーツ)として完全に定着し、結構良い値段なのだが、女性客が多く、おやつの定番となりつつあるらしい。

たこ焼きも定着しているが、こっちはどちらかというと、男性に人気が高いようである。


心配していた子供らであるが、元気いっぱいで、毎日疲れはするものの、目には希望の光が灯っていて、自分で自分の食い扶持が稼げる事が嬉しいらしい。

それもあって、事あるごとに俺にお礼を言って来るんだよね。

しかも凄く懐いてくれててさ。


そんな子供らを見ていると、嬉しいやら、何か離れがたくなっちゃう感じで、ちょっと目頭が熱くなっちゃいます。


と言っても何時までもここに居る訳にもいかないからねぇ。


アケミさんも円満にギルドを退職して、子供達の面倒を見たり、たこ焼きや鯛焼きを焼く練習したりして、今ではちゃんと焼ける様になったし。

これ以上長くなると、その分、別れが辛くなるのは目に見えてるからね。



「という訳で、ソロソロ俺達はここを発たねばならない。

前に言った様に、結婚も出産も自由にして良い。 そして君らは俺の秘密をバラしたり悪用したりしないと信じている。

次にここに来るのは早くても来年だと思うので、今の内に君らにしておきたい事がある。」

と言って、全員を順番に『リリース』を掛けて行った。


「さあ、これで君らはもう奴隷では無く、普通に雇い主と雇われた人という関係になった。

お願いした、海産物等の仕入れは忘れずにお願いするね。

あと、もし何かあれば、食糧倉庫にあるポーション類を使って、死なない様にしてくれよ。

困った事や相談事は、遠慮せずに連絡する事。

予想以上に長居しちゃったけど、明日の朝ここを発つから、また来年になったら、美味しい海産物やライゾウさんのお寿司を食べに来るからね。」

と告げると、みんなが、かなり号泣していて、思わず俺も泣きそうだったので、慌てて部屋へと引っ込んだのだった。



翌朝、朝の6時に起き、アケミさんと屋敷を出ようとすると、みんなが整列してて、ビビってしまった。

「ケンジ様、本当に何とお礼を言って良いか……。」

と男泣き中のサンジさん。


「ああ、俺にもメリットがある事だったので、そこら辺は言いっこなしで。

まあ、みんな幸せに暮らして! 今まで大変だった分を幸せに暮らす事を目標にしてね。」



そして、マダラ達を馬車に繋ぎ、増えたB10~B16までも馬車に繋ぎ、ばしゃの御者席に乗り込んで屋敷を出発したのだった。


「さあ、トールデンへ出発だ。 トールデンの別荘には、ショーキチさんご夫婦が居てね、赤ちゃん産まれたんだよね。」


そう、先日、無事に男の子を出産したと報告が入ったのだ。

母子共に、健康であるとの事で、ホッとしたのである。


門を抜け、早朝の街道をB10~B16に合わせた速度で巡航開始したので俺達も馬車の中へと引っ込んだのだった。

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