第112話 ザワつく街

冒険者ギルドのスタッフの朝は早い。

朝の5時には起きて朝の6時にはギルドに入るらしい。

健二もアケミさんに付き合って、朝の5時に起き、朝食を出して一緒に食事を食べる。


アケミさんが朝から嬉しそうな顔で、ご飯を食べながら、チラッチラッと健二の顔を見て、またニマーっとしている。

そんな様子を見て居ると、照れ臭い反面、何処か健二自身も嬉しい気持ちになる。


そして、5時半にはギルドへと出発するので玄関までお見送りをした。


「えへへ、いってきます。」


「ああ、気を付けて。行ってらっしゃい。」


端から見ると、思わず喉を掻き毟りたくなる様な、何とも甘ったるい、もどかしい感じである。



6時になると使用人となる人達が起きて来て、食事の準備をしようとしていたので、キッチンや食糧倉庫の使い方をレクチャーし、子供らの分も毎食作って貰う様にお願いした。


7時半には全員が食事を終えて居たので、リビングに呼んで、全員に仕事内容ややりたい事、やって貰いたい事、それと守って欲しい事を説明した。


「なるほど。そう言う訳だったのですね。

やけに人数が多いなとは思ってましたが。」

とサンジさん。


「ほな、私は、子供らと屋台をやれば宜しいんですね?

あれは売れまっせ!」

とトビゾウさんもヤル気を漲らせている。


「そう、昨日のカツ丼だけど、あれも屋台で出せたら良いんだけどね。

まあ、まずは、たこ焼きと鯛焼きだね。

俺は何れあと少しでここを離れるから、後は各人が上手く回して欲しいと思ってるんだよね。

なので、一応、ここの屋敷全体の総合責任者と警備責任者をサンジさんにやって貰って、調理と子供ら生活全般の面倒の責任者をヨーコさんにやって貰う。

屋台とかの商売関係はトビゾウさんが責任者ね。

ライジさんとゼンジローさんは基本サンジさんの下で警備担当、エツコさん、ショーコさん、ナツコさんはヨーコさんの下で調理や家事、あと悪いけど子供らの面倒をお願いしますね。

タロー君はトビゾウさんの下で子供らの面倒をみながら屋台方面で頑張って欲しい。

まあ、子供らは今後も少しずつ増えると思うから、後は、みんなで上手く回してね。

何かあれば、何時でもさっき言った様に、食糧倉庫経由で連絡を取ってくれたら、何とかするし。」


すると、「あのぉ~、私はどうすれば?」とライジさんの奥さんのレイコさんが恐る恐る手を上げていた。

ああ、そうだったな。

「ああ、そうだね、レイコさんもヨーコさんの下で調理や家事と子供らの面倒を見て欲しい。」

というと、笑顔で「頑張ります。宜しくお願い致します。」と頭を下げていた。


「ああ、そうそう、この屋敷は広いけど、掃除は必要無いから。宿舎もだけど。だから、家事と言っても、殆ど洗濯とか庭の掃除ぐらいかな。

まあ、食事は人数多いからそれなりに大変だけど、そんなに気負わなくても良いし、もし量が多い様なら、手の空いた者で手伝ったりしてね。」

と付け加えた。


その後は、集会場を設置して、その中でたこ焼きと鯛焼きの作り方のレクチャーを始める。

10日以内にスタート出来る様に何とかしたい所である。

午前中一杯、レクチャーし、午後からは屋台の作成に取り掛かる。


ベースとなる土台を5台、新品の魚運搬用の木箱を10個購入して来て、その土台の上にたこ焼きと鯛焼きの屋台を作って行く。

たこ焼きの屋台を2台、鯛焼きの屋台を2台、来たる日に備えたカツ丼の屋台を1台作成した。


3時間程で5台共、ほぼ完成。後は暖簾を発注して、看板を作ってやれば良い感じかな。

ああ、そうだ、たこ焼きを入れる薄い木の船の様な器か、竹の皮が必要だな。トビゾウさんに言っておかないと。


鯛焼きの方は、どうしようか? 木の葉っぱで良いかな?


フフフ、何か気分は文化祭の出店を作る時の感じに似てるなぁ。






健二がトビゾウさんと一緒に商業ギルドでたこ焼きと鯛焼きを登録を済ませ、戻っている最中の事だった。

街が結構ザワついて居る。


「なあ、なんか街がザワザワしてない?」


「ええ、ホンマ、何ぞあったんですかねぇ? 結構ザワザワしてますねぇ。 でも悪い事じゃないんと違いまっか? 何やら結構笑顔で話してますよって。」


ふむ、言われてみれば、みんな笑顔で笑って居ながら、或いは嬉し泣きしながら、ワイワイと騒いでいる。


「ちょっとお待ちを。ワイが聞いて来ますさかい。」

とトビゾウさんがワイワイ騒いでいる一団の一つに入って行った。


「わぁ~ 流石は元屋台のお兄さんだ。 あそこに入って行けるコミュ力は凄いな。 俺には難しいよな。」

と変な所に感心していると、トビゾウさんが笑いながら戻って来た。


「ケンジ様、判りました。 ダハハハ。」

と爆笑しながら説明してくれた。


聞いて来た内容は、簡単で、街で非道の限りを尽くしていた、『ゲンジ一家の突然の消滅』であった。

ただ消えたというだけで無く、文字通り建物ごと存在しなかった様に消えたらしい。

しかも朝見るとゲンジ一家の拠点のあった場所は雑草だか何だかがボウボウに生えていて、とても昨日までそこに建物があったとは思えない状態だったらしい。

それで、街の人達は『女神様のお怒りを買ったゲンジ一家が神隠しにあった!』と大喜びしながら、女神様を讃えているらしい。


「ハハハ。なるほどね。」


と思ったら、話しはそれで終わって無かった。

何でもゲンジ一家に捕らわれていた人達が、女神様の使者様によって事前に助けられ、更に大金を渡して『これで幸せに真面目に暮らしなさい』とか言って消えたらしい。

あ……そう言えば、調子に乗ってそんな事言ったかも。


他の人には、『悪が栄える試しなし。女神様はちゃんと見て居られる。』という話もあったらしい。


あ……それもそんな事言った記憶あるな。


その他にも、『悪の栄えた試し無し!』とか、身に覚えの無いセリフもあったが……いや、言ったかも知れん。


そんな訳でかなりのビッグニュースになっているらしい。

とニヤニヤしているトビゾウさんが笑いの合間に教えてくれたのだった。


「で、憲兵さんとかは動いて居るの?」

とちょっとドキドキして聞いてみると、


「ああ、それなんですが、『え? 女神様にお仕置きされちゃったんだったら、しょうがないんじゃね?』でおしまいらしいでっせ。ダハハハハハ!!」

と腹を抱えて爆笑していた。


フフフ、ナイスだな、憲兵の人。


「ケンジ様、ワイ、ホンマ運がええでっせ。ケンジ様の様な素晴らしくて、オモロイ方に買って頂けて。」

とこれは真顔で言っていた。


「うん、まあ褒め言葉?はありがたく受け取るけど、しかしオモロイってなんやねん!」

と突っ込むと、やっぱり爆笑していたのだった。


屋敷に戻ると、トビゾウさんが真っ先にみんなに話して、全員が腹を抱えて大爆笑していたのだった。

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