第111話 黒影参上

「ライジさん、どうした? 奥さんとお子さんは?」


「ケンジ様……すみません、遅くなってしまいまして。

妻と息子ですが、見つけた事は見つけたんですが……」

と言い淀むライジさん。


「うん、見つけたのか、良かった。で、どうなったの? 何かトラブルか?

遠慮は良いから、話して!」


「――実は、俺の居ない間にヤバい所から借金してしまったらしく、奴隷に墜とされそうになってまして。」

と悔しそうに咽び泣くライジさん。


「相手は判ってるの?」


「ええ、居所までは何とか突き止めました。」


直ぐに馬車を用意し、移動しながら詳しい話しを聞くと、ライジさんが借金をして奥さんを治療した後、生活に困って一時的に大銀貨2枚を借りた先が、ゲンジ一家というヤバい所の末端だったらしい。

この街でゲンジ一家というのは、かなりヤバい事を裏家業でやっている謂わばマフィアで、ヤミ金や人攫いから殺しまでをやっているらしい。

この国でも金貸し業を行う者は居るが、最高金利は年で元金の50%までと決まっているらしいが、ヤミ金では1週間で10%とか暴利になっていると。

普通に違法だと思うのだが、上手く借金時の証書を改竄しているらしく、訴えようが無い状況とか。


うーーん、どうするかな。

正攻法で返済するだけで済むとは思えないなぁ。


一応、護衛にピョン吉達を連れて来ているから、馬車を襲われる事は無いだろうけど、何とか穏便に済ませたいところではある。





そして辿り着いたゲンジ一家の本拠地。


馬車を道の脇に停め、ピョン吉とコロには馬車の護衛を頼み、ジジには俺の影に入って一緒に来て貰っている。

事前に最悪のケースの場合に合図をしたら、奥さんと子供を影に入れて一足先に屋敷に戻る様に伝えてある。


「おーい、ゲンジ一家! 誰か居るかーー!」

と俺が大声で叫ぶと、中から下っ端がドヤドヤと出て来た。


「あぁ? 何だ? 客人か?」


「ああ、お客さんだぞ。 ゲンジ一家のトップと話をしに来た。

ライジさんの奥さんと子供さんの身請けだ。」


「おう、そうかい。ちょっと待ってな! 今聞いて来るからよ。」

というと下っ端の1人が指示をして、建物の奥へと入って行った。


伝令の下っ端が戻って来て、指示を出した男に耳元でゴニョゴニョと伝えると、応接室へと通されたのだった。





「ワシがゲンジ一家の頭をやってるゲンジだ。

で、お前らが身請け人なのか? レイコが借りた金を返してくれるなら構わんぞ?

ゲヒヒ」

とデップリ太った脂ぎっちょの40代の男が、嫌らしい笑みを浮かべながら、部屋に入るなり話し始める。


「ああ、そうだな。俺はケンジだ。まずは、その借金の証文の確認と、俺の知るレイコさんとゼン君に間違いないか、本人確認をしたいな。

払ったものの、知らない奴でしたってオチじゃあ笑えないからね。」

と俺が言うと、


「ああ、まあ、尤もな話だな。 おい、証文とあいつらを連れて来い。」

とゲンジが下っ端に声を掛ける。


「ところで、お前さん、ここらで見かけねぇ面だな。

余所の国から来たのか?」

と俺に聞いて来た。


「ああ、そうだな。こう見えても、結構手広くやってるもんでな。

この国にも何箇所か拠点を持って居るんだよ。」

と答えると、「ほぉー、そいつはすげーな。ゲヒヒ」と下品に笑っていた。



ドアがノックされ、下っ端が奥さんと子供を連れて来た。


「あ、ああ、あなた……」

「あ! とーちゃん。」

と2人がライジさんを発見して、目に涙を溜めている。


「お前達、大丈夫か? 何も変な事はされてないか?」

とライジさんが声を掛けると、ウンと2人が頷いていた。


「ゲヒヒ、失礼な。まだ何も手を出してないからな。

大事な借金の形だから、手厚くしてるんだぜ?

これでもワシの所は、善良な商売やってるんだからな。」

とゲンジが鼻の穴を膨らませてる。


「じゃあ、間違い無いようなので、証文を確認させて頂きましょうか。

お支払いする金額は全部で幾らになるんですか?」

と俺が話を進める。


「ああ、こっちがその証文だ。」


1枚の証文をこちらに渡して来た。

本来であれば、借用書等の正式な証書には商業ギルドが魔力封印を行うのであるが、出された証文には全くそれが無かった。


「あれれ? 大銀貨2枚を借りてるのに、何故金貨2枚に改竄されているんですか? しかも改竄防止の為の商業ギルドの魔力封印が無いですねぇ。

あれれれ? おかしいなぁ。これ無効ですね。 あらら。 まあでも俺も借りた金はちゃんと返すべきだと思いますから、1年分の利子を付けて、大銀貨3枚を大盤振る舞いで払いますよ。」

と言って、証文を巾着袋に保管し、代わりに大銀貨3枚を投げ渡した。


「なっ! 何をする? 証文を何処にやった?」

と突然目の前で消えた証文に驚きながら、怒鳴るゲンジ。


「さ、これでもう奥さんと子供さんは自由の身ですね。 ジジ頼むよ。」

と俺が言うと、タイミングを見計らっていたジジが飛び出し、全員がジジの出現に驚いている隙に奥さんと子供、そしてライジさんを影に入れて颯爽と消えて行った。


「な!何だ! あいつらを何処へやった? この野郎、巫山戯た真似をしやがって。 おう!出て来い。こいつを可愛がってやれ!」

と手下達を呼び寄せるゲンジ。


バカが……大人しくしていれば良いものを。


ドヤドヤと部屋に入って来る下っ端達。

俺は冷静に、全員が揃うのを待っていた。


「おう、こいつを簀巻きにしてふん縛れ!」


「「「「「「へい、がってんです!」」」」」」


集まった手下は全員で15名、このゲヒヒ親父を含めると16名。

雷魔法を微弱にして、スタンを15発並列発動した。


バババッバッババッシーン


と稲光と音がして、煙を出す15名の下っ端がその場に気絶してヘナヘナと倒れた。


「な、な、な、何をした!?」


「ああ、俺ね、冒険者もやっててね、この世界で災害級と呼ばれる魔物でも全然倒せるぐらいの実力持って居るんだよね。

だから、あんたらなんて、全然怖くも何ともないんだよね。

争い事は嫌なんだけど、あんた達、駄目な事沢山やってるよね?隠しても全部バレてるよ? 俺の詳細解析スキルで、ぜーんぶバレてるから。」

ハハハ、こっちに来た頃の俺だったら完全に、ビビってるよね。

レベルが上がってソコソコ強くなったから、何とでも出来るという安心もあって、気が大きくなってるのかなぁ。

自分で言ってても、余り実感が湧かないセリフだけど。



すると、ガタガタ震えながら、ムシの良い事を言い出す。

「ワシらをど、どうしようってんだ? な?せめてワシだけで良いから助けてくれ!」

と。


「いやいや、あんたが一番責任重大だよね。頭やっているんだったら、部下の責任は頭が取る って言う侠気? 見せて貰わないとねぇ?

俺が強くならなきゃって思った切っ掛けは、あんたの様な奴や理不尽な事を言う貴族や国から何か理不尽な事をされても、跳ね返して行ける様にする為だったんだよね。

だから今までの事を深く反省して、来世は真面目になるんだよ?」

と言って最後にちょっと強めのスタンを放ったのだった。


念の為、建物中を捜索し、金庫の証文や有り金をゴッソリと頂いて、残りの手下5名もスタンで気絶させた。

また、幽閉されてた人々を13名を解放して、金庫から頂いた金貨を5枚ずつ渡して逃がした。

勿論、面が割れない様に、忍者の黒装束に着替えてからである。

いやぁ~、買っておいて良かったよ! 忍者セット! 大活躍だよ。

やっぱ、黒装束は良いねぇ。実に気分が高揚するぜ! 黒影参上ってか。



一通りやり終え、賢者タイムに入ってます。

さて、問題はこのゴミ21人をどうするかだよね。

取りあえず、全部身ぐるみを剥いで、手足を縛って、何処かに捨てに行かないとダメだな。


<ジジ、悪いんだけど、もう一回こっちに来てくれる?>

<にゃ? また行くにゃか? しょうがない主だにゃ。 鯛の尾頭付き1匹で手を打つにゃ!>

<判ったよ。フフフ>


そして、10分くらいでジジが登場した。


「おお、早かったね。悪いんだけど、この21人を影に入れて運んでくれる?」

と俺が言うと、心底嫌な顔をして、


<にゃーーー! うちの影はゴミ箱じゃ無いにゃーー!>

と嘆いていたけど、入れてくれた。


<で、このゴミどうするにゃ?>


「それなんだけどさ、ここら辺で魔物の多い森とかに捨てたいんだけど何処かに無いかな?」


<南の方に結構沢山の魔物の気配あるにゃ。1時間掛からないぐらいにゃ。>


「じゃあ、悪いんだけど、そこの一番ヤバそうな所にこいつら捨てて来てくれない?

鯛の尾頭付きもう1匹付けるから。」


<にゃにゃ! 2匹にゃ!? 判ったにゃ! 任せるにゃ! 二度と森から出て来られない所に捨てて来るにゃ!>

と嬉し気に消えて行った。


俺は普段の服装に着替え、何食わぬ顔で建物の外に出た。

辺りに気配が無いのを確かめ、土魔法で屋敷を浮かせて巾着袋に収納し、土魔法で地面をふんわりと耕した後、種を蒔いて水魔法で水を撒き、大地の息吹スキルを使って成長を促進させておいた。



馬車に乗って屋敷に辿り着いた頃には、既に8時を過ぎており、大急ぎで宿舎の子供らにカツ丼のセット、それに鯛焼きを配った。

屋敷に戻ると、やはりみんなが心配そうな顔で待っており、俺を見たライジさんがいきなり土下座で謝り出す。


「いやいや、従業員の安全確保の一環だから、気にしなくて良いよ。

もう2度とあいつらは悪さ出来ないから、安心して。

そんな事より、遅くなっちゃったけど、夕食にしよう。」

と言って、食事をテーブルに取り出して全員でカツ丼セットを出して食べ始めたのだった。


カツ丼ですが、美味いと大好評で、俺も思わずニンマリしてしまった。

だよなぁ~カツ丼は美味しいよなぁ。 結婚以来、月に1回のカツ丼と牛丼が俺の贅沢だったからなぁ。


泣き笑いしながら食べるライジさん一家の姿が印象的であった。



デザートの鯛焼きは、作ったこっちがビックリする程に大好評で、

「ケンジ様、これは売れまっせ!」

とトビゾウさんが目を輝かせていたのだった。



ちなみに、2時間ちょっとでゴミを捨てに行ったジジが帰って来た。

<主! 飯にゃー! 飯食わせるにゃ!>

と騒いでいたので、お礼を言いながら撫でてやり、カツ丼の他に、約束の鯛の尾頭付きもう2匹と、鯛焼きを2個出してやったのだった。

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