第110話 誰かを待つ間に

アケミさんの休暇は今日までで、明日からまたギルドでの日々が始まるのであるが、1日も早い方が良いと言って、退職する事の報告を先にしに行った。


一応予定していた事は全てやったので、厩舎に行ってマダラ達を全員洗ってやり、ブラッシングしてやった。

そして、早めの時間だが餌と泉の水と果物達を置いて来た。


「そうか、全員の分の食事を用意しないといけないのか。」


と考えてしまう健二。

まあ普通なら、配下の者にお願いして終わりにするところなのだが、元々そう言う発想が無いのでしょうが無い。


という事で、何を作ろうかと色々考えた結果、カツ丼を作る事に決定した。

トン(オーク)カツを大量に揚げて、この為に態々作った専用のミニフライパン擬きで割り下で玉葱を煮込み、適当なサイズにカットしたトンカツを載せて卵を割る。


そして、温かいご飯の上にスルリと載せて出来上がり! これを何回も黙々と繰り返し、40食分ぐらい作り溜めした。


ワカメと豆腐の味噌汁を作り、付け合わせの漬物の小皿も取り分けて、完成である。


フフフ、久々のカツ丼だよ。あーーやっぱりお米のある生活って素晴らしいな。


しかし、これを屋台で出すってのはどうなんだろうか?

その場で油で揚げるのはかなりハードルが高いよなぁ。

まあ、俺の作ったマジックバッグがあれば、問題ないんだけど、流石にバレると拙そうだし……あの時間遅延の木箱を使えばかなりそれなりに出来ないかな?

屋台では最後の仕上げ(ミニフライパンでの煮込み)だけをやらせる感じにしたら、面白そうだよな? 1日100食限定にしたりして。


どちらにしても、まずはたこ焼きのソース作りから始めないとな。

材料とかを食料倉庫で色々探して見ていたんだが、驚いたね。

あったんだよ!その名もズバリ、たこ焼きソースって商品が!!


「えーー!? マジか!」


こんな商品があるとは思わなかった。

試しに小皿に垂らして、小指に付けて舐めてみると、正しくこれである。

これで一気に作業が捗るな。

早速たこ焼きソースを詳細鑑定したので、作り方のレシピはバッチリである。

早速、熟成の時間が掛かるので、大きな寸胴で作業を開始したのだった。


寸胴4杯分の仕込みを終え、熟成室を屋敷裏の倉庫の横に作って寸胴を保管した。


ついでに俺が居なくても日々作業が出来る様に、ソースのレシピを作成しておいた。


さて鯛焼きの方の小豆の餡子の代わりになる物だが、サツマイモを使った芋餡を考えているのである。

元々の甘みがあるので、餡にする際の砂糖が少量で済むのではないか? という狙いがあったりする。

焼き芋であれだけ甘みが出るんだから、蜂蜜と砂糖を少し混ぜるだけでかなり行けるんじゃないかと。

という事で、芋餡の試作をしてみた。




裏ごしをして……試作1号完成である。


「さて、実食タイムですな。」


スプーンに掬った芋餡をパクッと一口。


うーーん、甘い。良いんじゃないか? 仄かな蜂蜜の甘さも加わってて、なかなかに良い。


ちょっと思いついて、軽く塩を振ってみたら、さっきよりも甘さが引き立つ感じがした。

あれだね、スイカに塩を振りかけるのと同じで、甘さが若干増す感じがするね。

という事で、餡全体に塩を振りかけて再度かき混ぜて完成である。

忘れ無い内に、レシピを作成しておき、鯛焼きの作成を開始する。

生地を作って、鯛焼きコンロに火を入れ、鯛焼き鉄板を温める。

温まったところで、軽く油を引いて、生地を流し込んで行く。

そして、真ん中に餡子を手早く置いて行き、上から生地を掛けてっと……反対側の鉄板で蓋をして、鉄板をひっくり返した。


鯛焼きを作っていて、思ったんだけど、ホットサンドプレートも作れるね。今度作ってみよう。


良い色に焼き上がり、イヨイヨ実食タイムです。


焼きたての熱々を木の葉っぱで包んで手に取り、頭からガブリと一口。


「あっつーーー! あ、でも美味い!!」


軽く中の餡子で舌を火傷してしまったのだが、そこはご愛敬。

殆ど砂糖を使っていないのだが、それなりに甘くて美味しい鯛焼きが出来た。


生地や焼き方のレシピを書き上げて、その後鯛焼きを100個ぐらい焼いて、熱々をストックしておいた。

夕食後のデザートにする予定である。


夕食後のみんなの反応が楽しみである。

これって、やっぱりあれかな? 商業ギルドに登録しておくべきなんだよな? 後でトビゾウさんに聞いてみよう。



夕方5時を過ぎた頃から、ポツポツとみんなが笑顔で戻って来始めた。

だが、アケミさんはまだ戻って来ないが、大丈夫かな? 揉めてるのかもしれないな。


時間が経つに従って、徐々にアケミさんが戻って来ないので心配していると、若干グッタリした感じのアケミさんが午後6時過ぎに戻って来た。


「た、ただ今戻りましたぁ~。」


「おかえり、えらく時間掛かってたけど、大丈夫?」


「ええ、長時間説得されたんですが、何とか納得して貰えて、次のスタッフを至急募集する事になったんですが、今度は辞めるまでの期間でまた揉めて……。」


「ああ、そりゃぁそうだろうね。いきなり辞めるって言われても普通はなかなかそうは行かないよね。

で、どうなったの?」


「いえ、最初は1週間で辞めるって言ったんですが、2ヵ月待ってとか言われて徐々に詰めて、何とか10日まで短縮出来ました。」

と遣り切った感のアケミさん。


「ハハハ、何か俺、この町の冒険者ギルドに恨まれてそうな気が。」


「ウフフ、まあケンジさんが恨まれる事じゃないですよね。

私の我が儘なんだから。 でも10日間……お待ち頂けますか?」

とアケミさんが真剣な顔で聞いて来た。


「ああ、約束通り、ちゃんと待つから。

しかし、余りにも時間掛かってるみたいだったから、結構心配してたんだよ。」

と俺が言うと、凄く嬉しそうな顔をして、


「ウフフ、心配してくれてたんですね。ありがとうございます。

なんか、誰かが帰りを待ってくれているって言うんですか? こう言うのが初めてなんですが、凄く嬉しい物なんですね。

私、幸せです!」

と頬を赤くして、クネクネしていた。


フフフ、ああそれは俺も判る気がする。

しかし、そう思ってたのが俺だけだったという暗い過去はあるが……。


おっといかん。思考の暗黒面に捕らわれそうになってしまったな。もう過去の事だ。忘れよう。



帰って来た人数をチェックすると、奥さんと子供を迎えに行ったライジさんがまだだった。

どうしたんだろうか? まさか、見つからないとか? だとすると、ちょっと問題である。


「ライジさん、大丈夫かな?」

と俺が呟くと、


「奥さんとお子さんがまだ見つからないとかですかね?」

とアケミさんも心配そうに聞いて来た。


「それか、もしくは何かのトラブルに巻き込まれてるかだけど、何かあれば知らせる様に言ってあるんだけど、何か下手に遠慮しそうで怖いんだよね。」


「まあ、普通奴隷となると、そう言う我が儘やお願いなんて出来ない立場ですからねぇ。」


だよなぁ。

元の世界では、社畜とか奴隷奉公って言葉があったけど、ブラックな会社はそう言う空気を社内に定着させるんだよなぁ。


それから15分ぐらい経った頃、真っ青な顔をしてライジさんがクタクタになりながら、戻って来た。

しかも、奥さんも子供も連れていなくて、1人である。


詳細鑑定を見て、無事だと思っていたのだがな……

頭が急激に血の気を失い、冷えて行くのを感じるのだった。

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