第109話 ヘッドハンティング2

数分後、スタッフが4名を引き連れて部屋へとやって来た。

まあ、詳細解析Ver.2.01結果は省くが、ゼンジローは元Cランク冒険者でなかなかの実力を持っていた。過去形だけどね。

顔と両方の腕と指をにかなりの火傷を負っており、足腰は大丈夫そうであるが、上半身にもかなりの火傷があるっぽい。

子供ら3名は無事である。

ショーコとナツコは調理スキルのLv1を持っていたので、これで調理係は十分であろう。


「じゃあ、この4名も決定でお願いしますね。調理系はこれで大丈夫ですね。後は護衛や雑用が出来る人物を1人と出来れば屋台の経験者が居れば大丈夫かな。」


「畏まりました。では決定された者以外は一旦下がらせ、該当する者を連れて参ります。」

とまた席を立った。


それまで傍で無言で居たアケミさんが、ヨーコさんに駆け寄り、手に手を取り合って泣いていた。

そんな2人に取り残されている他の面々に、俺は声を掛けた。


「どうも、初めまして、冒険者やっているケンジです。この度この街に屋敷を購入したので、そこで働いて貰いたいと思ってます。

皆さんが『同じ屋敷で』です。誰かがバラバラになる様な事も、仕事内容が酷い事も無いと思います。

なので、安心して下さい。詳しい内容等の説明は、メンバーが全員決まってからとなりますが、取りあえず待ち時間が長いと不安だろうと思いまして。」


すると、それを聞いた5名とヨーコさんらは安心した様な表情になっていた。

しかし、ハッとした様にエツコさんが若干不安気に聞いて来た。


「あ、あのぉ、ケンジ様? エツコと申します。私はこんな見た目で火傷や怪我の後遺症で、余りまともに働く事が出来ないのですが、宜しいのでしょうか?」


「ああ、その事なら心配ないよ。ちゃんと現状を把握した上での判断だし、安心して! そんな事は多分どうにでも治せるから。」

と俺が答えると、目に涙を溜めて、「あ、ありがとうございます。宜しくお願い致します。」と頭を下げていた。



それから数分で、第二陣の護衛組+商売組がやって来た。


フフフ、ランコさんどうやら俺の意を読み取っているっぽいな。


連れて来られたメンバーの中には、元々の戦力はあるが、故障や怪我や部位欠損のある、所謂訳ありの方が2名混じっている。

詳細解析Ver.2.01大先生で確認すると、能力的にも人格的にも問題が無かったので、その2名を選択した。


1人は元Cランク冒険者のサンジさん(31歳)独身で、骨折後の治療が悪かったらしく、左足を引き摺っている。

戦闘力が落ちた為、討伐依頼の最中に魔物にやられて、左手首から先を失ってしまった。

その怪我を負った際の戦闘で、相棒だった恋人も亡くしてしまった。

その後、生活が困窮してしまい、最終的に借金奴隷に堕ちたらしい。


もう1人は元衛兵だった人物で、ライジさん(28歳)既婚者だ。奥さんと子供がこの街に居るらしい。

衛兵として魔物と戦い、右手の指を3本食いちぎられてしまい、剣を持つ事が出来なくなった為、衛兵を首になったらしい。

その後、必死に働いて居たのだが、奥さんの病気を治す為の治療費の借金で、借金奴隷となったらしい。

奥さんの名前はレイコさん(26歳)、息子さんはゼン君(6歳)だそうで。

奥さんの病気は一応治療出来たらしいが、かなり酷い暮らしをしているらしい。

当然、残した奥さんと息子さんの安否が心配で堪らない様だ。


そして、商売組からは、トビゾウさん(23歳)独身をチョイスした。

割と手堅く屋台をやっていたらしいのだが、仕入れで詐欺の被害に遭い、悪循環の末に借金が膨らみ返済出来ずに借金奴隷墜ちしてしまったらしい。

真面目にやっていても1つの歯車の食い違いで、人生が壊れて行くのだからなぁ……たまったもんじゃないよな。



「という事で、この3名を追加でお願いします。」


ランコさんはニッコリ笑って、「ありがとうございます。」と言いながら手続きに入ったのだった。


合計金額だが、予想よりも結構安い金額で、そのまま現金でお支払いして、全員の奴隷紋に血を垂らして契約を完了した。


「ケンジ様は本当に面白い方ですねぇ~ フフフ、また機会がありましたら宜しくお願い致します。」

と意味ありげに微笑むランコさんに見送られ、ウェンディー商会を後にした。




全員を連れて馬車に乗り込み、馬車全体に遮音シールドを掛けてから、話始めた。

「これから、体調が不完全な人をまずは治療します。まず最初に全員にお願いしたいのは、俺や俺の屋敷等に関する情報を、絶対に漏らさない様に心がけて欲しい。

俺や我が家には、余り人に知られると拙い事が起きる可能性の高い物なんかがあるのでね。

まあ、生命の危機があって殺される様な状況なら命を優先して欲しいけど、出来る限りは内密でお願いしたい。

これから行う治療に関してもね。」

と俺が言うと、全員が頷いている。そして、1人1人にパーフェクト・ヒールやハイ・ヒール等を使い分けつつ、正常状態へと戻して行った。


最初にエツコさんの火傷や癒着部分等全てをハイヒールで治したところで、本人の大号泣と周囲は大絶叫だよ。

手を取られて、何度もお礼を言われ、その次に恋人のゼンジローさんを治療してやると、2人で抱き合って泣いていた。

うんうん、良かったな。これからは幸せになるだけだな。

ちなみに子供らも泣いてその2人に抱きついていた。


次はサンジさんの左足と左手首の治療である。

イメージを練ってパーフェクト・ヒールを発動すると、激しく身体が輝き、手首が生えて行く。

曲がって付いてしまった左足も正しい位置に戻り、左右の足の長さも正常に戻った。

「うぉーーーーーー! 手首が!!」

と叫び声を上げるサンジさん。

周囲もまた騒然としていた。


もう、チャッチャ行くよ!


ライジさんの指をパーフェクト・ヒールで生やした。


最後は、ヨーコさんの娘、サヨちゃんだ。

これは初めて掛けるので、慎重になりつつ、心を癒やすイメージで『マインド・ヒール』を掛けた。

ポッとサヨちゃんの身体が一瞬光り、収まった。

後は、時間が解決してくれるだろう……多分。


判っては居た事だが、この馬車に11名(サヨちゃんは小さいのでカウントしてないけど)乗ると割とギッシリという感じで、感動と興奮で彼らが騒ぐので、圧迫感が半端ない。

という事で、一旦アケミさんと御者席に移動し、馬車を出発させた。

感動しまくりのアケミさんは、感極まる感じで、何度もお礼を言ったり、俺を褒めちぎったりしていて、むず痒かったが、悪い気はしない。


賑わう街の中、B10~B16までの馬を従えての移動は時間が掛かったが、30分程で何とか無事に屋敷に到着したのだった。



「ふぅ~。結構時間掛かったね。」


「この時間帯も結構混み混みでしたね。」


屋敷に戻ると子供らが出迎えてくれたので、馬車から切り離したマダラとB0、それにB10~B16を厩舎に案内する様にお願いした。


新しいメンバーとなった8名+サヨちゃんを屋敷のリビングに連れて来て、食事を取らせつつ、屋敷の説明や秘匿事項を口頭で説明し、最後に泉の水と桃を食べさせてやった。

多分、これで弱った体力等も早く回復するんじゃないかと……ね。

そうそう、桃を食べた時、サヨちゃんが、小さい声で「おいちい」と呟き、ヨーコさんが嬉しさで咽び泣いていた。



「あと、まずみなさんに先にして欲しいのは、皆さんの着替えや生活必需品の買い出しです。」

と言って、全員に大銀貨を1枚ずつ手渡した。

勿論、サヨちゃんの分はヨーコさんに渡してある。


「ああ、あと、ライジさん、貴方はまず、奥さんとお子さんをここに連れて来て下さい。

買い物は2人の分もだから、追加でお渡ししますので。

ここなら、親子3人安心して暮らせますから。もし、何か不都合が生じていたら、それは包み隠さずに俺に教えて下さい。

例えば、借金が残って居てとか色々ね。全部こちらで処理しますので。」


「あ、え? 本当に宜しいんでしょうか?」

と驚きながらも聞いて来るライジさん。


「ええ。全く問題無いですから、安心して下さい。 あと、皆さんもですが、何か困り事があれば、遠慮無く言って下さい。

着替えの服や下着類等は、4~5日分は買って下さいね。夕食までに戻れば大丈夫ですよ。

また冬用等は別途揃える様に支給しますから、安心して下さい。

先程も言った様に、給料もちゃんと出ますから、今後はご自分で好きな物なんかも買えますからね。」


「「「「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」」」」

と喜びながら頭を下げる9人の新しいメンバー達。


「ああ、それとゼンジローさんとエツコさん、ちょっとお二人の事なんですが、どうです? この機会にその気があるのであれば、ご結婚されたら?

結婚するもしないも、お二人のご自由なんで、お二人で買い物しながら話し合われてみては如何ですか?」

と提案しておいた。

何かお見合い婆みたいで、ちょっと俺の柄じゃないんだけど、どうやらゼンジローさんのストーリーでは、求婚直前で今回の騒動になったらしいからね。


そして、サヨちゃんを含め10人は嬉し気に出掛けて行った。

仲間や恋人同士や親子で、微笑みながら部屋から出て行く様を見ると、凄く心が和むのであった

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