第107話 作ってみた
何とか平静を取り戻し、アケミさんを寝かして、俺はソファーの上に寝袋を敷いて寝たのだが、感情の高ぶったアケミさんに抱きつかれてしまった余韻で、なかなか寝付けなかった。
結局やっと眠りに落ちたのは、朝方であった。
朝の7時過ぎに部屋をノックされ、ハッと目覚めると朝ご飯の案内であった。
15分ぐらいで持って来てくれる事になったので、慌ててアケミさんの方へ、扉越しに声を掛けたのだが、返事が無い。
どうしよう、朝食が来ちゃうな。
意を決して、引き戸を開けて寝室に入ると、アケミさんが幸せそうな顔で、スヤスヤと寝息を立てて寝ている。
なんか、起こすのが可哀想になるなぁ。
流石に変に意識しちゃってて、起こす勇気が湧かない。
そこで俺は、ジジにお願いして、アケミさんを起こしに行って貰ったのだった。
ジジを部屋に送り込むと、暫くして、
「あぁ~ん、ケンジしゃまぁ~」
と甘えた様な声が聞こえた気がしたが、暫くすると、
「あ! え?? ジジちゃん!? あ!朝だ!!」
と慌てた様な声がした。
「あ、おはようございます。 もうすぐ朝食が来るので、起きて顔でも洗って来てくださいね。」
と扉越しに声を掛けると、
「ああぁぁ!! お、おはようござじゃいましゅ!」
と挨拶の声が聞こえた。
どうやら、完全に目が覚めたようだ。
軽くドタバタと着替える音がして、5分くらいで部屋からアケミさんが登場した。
いつもはシャンとしているクールビューティなアケミさんの髪の毛が若干爆発しているのはご愛敬だろう。
逆にちょっとホッコリしたりしている。 フフフ、朝からご馳走様です。
割と時間的にはギリギリで、アケミさんがリビングに来ると直ぐに朝食が運ばれて来た。
俺はシートを床に敷き、ピョン吉達の食事の準備を済ませ、朝の熱い緑茶を頂いてから、頂きますをした。
「そう言えば、いつもご飯を食べる前、ケンジさんって『頂きます』って言ってますけど、あれはどう言う意味なんですか?」
と今更だが聞いて来た。
「ああ、それね、俺の生まれた所の習慣というかね、お礼の言葉なんだよ。
食べ物ってさ、元は大体が生ある生き物でしょ? 肉にしろ魚にしろ、植物にしてもそうだよね。
だから、それらの命を糧としてありがたく頂くという感謝の気持ちだね。
それと作って下さった人への感謝の気持ちも籠もっているんだよ。
お米にだってね、『米一粒に7人の神様』が居るというぐらいに一粒一粒を大事に頂くんだ。」
と説明すると、
「凄いです。でも何だろう? なんか懐かしい気もするんですよね。 不思議です。
私も今日から、『頂きます』って感謝を込めて言う様にします!」
と言って居た。
へー、丸っきり前世の記憶が無い訳でも無いのかな? 面白いなぁ。
その内、何か思い出したりしてねぇ? 無いよなぁフフフ
美味しい朝食を堪能した後、準備を終えて、宿の精算を済ませてチェックアウトした。
またもや、多くのスタッフに見送られ、宿を後にしたのだった。
ここからアケミさんと暫しの間別行動となる。
アケミさんは、今住んで居る部屋の撤去を済ませてから、屋敷の方に合流して貰う事となっている。
まあ、荷物運びの為に、俺が作った巾着袋(マジック・ポーチ)を渡したんだけど、凄く驚いて、震えながら受け取っていた。
使い方を教えてから別れたんだけど、振り返ると、フワフワ歩く姿が目に入り、ちょっと可愛かった。
屋台を練り歩きながら、屋敷へと辿り着くと、結構な野次馬がワイワイと門の前で見物しているという、見慣れた光景が目に入った。
「ハハハ、やっぱりそうなるよねぇ。」
と独り言を呟きつつ、人混みを掻き分けて、門の前に立って、門の横の通用口から中に入ろうとすると、1人のおじさんから声を掛けられた。
まあ、内容は何時もの通りで、これまた何時もの様に、「ここのご主人が著名な魔法使いの方に~~」と適当に返しておいたのだった。
宿舎に行くと、
「あ!!! ケンジ兄ちゃんだーー!」
と子供達がダーッと走り寄って来た。
俺は全員の頭を撫でてやりながら
「おはよう。ちゃんと用意してある朝食は食べた?」
と子供達に聞いてみると、全員がウンウンと頷きながら、
「「「「「「「「「「美味しかったー!」」」」」」」」」」
と声を張り上げていた。
「そうか、それは良かった。今日明日で母屋の方の管理する大人を募集して来るからね。
君らの食事も一緒に作って貰える様にするから。
大丈夫、変な大人を連れて来たりはしないから、安心してね。
あとアケミさんが後で来るから、その時は裏の倉庫辺りに居るって伝えてくれる?」
「「「「「「はーーい!」」」」」
「「任せて下さい!」」
俺はアケミさんが来るまでの間に、半球状や鯛の形に窪んだ鉄板を作ろうとしていた。
まずは、倉庫の横に鍛冶場を設置して、魔力炉に巾着袋から出した鉄のインゴットを投入して熱して行く。
真っ赤に焼けた鉄のインゴットを、錬金と魔法で圧力を掛けながら4mm厚の鉄板に伸ばし、規則的な位置に半球の窪みをプレスする感じで押し出して行く。
同じ要領で、たこ焼き用の鉄板をドンドン量産して行く――
20枚ぐらいを作り終えたので、一旦休憩し、今度は鯛焼き用の鉄板を作る事にしたのだが、これが結構大変なのである。
まずは、材木を削ってベースとなる鯛の木彫りを作って行く。
うーーーん、俺木彫りの才能が微妙過ぎるな。
なんか、元の世界の鯛焼きの形と違うなぁ。これじゃあバッタモンっぽいよな。
と出来上がった残念過ぎる鯛の木彫りを前に唸ってしまう俺。
なので、紙に絵を何個か描いてみて、一番それっぽいのをベースに彫ってみた。
多分こんな感じだよな。
この木彫りの鯛をベースにして砂型を作り鋳造する予定である。
土魔法でサラサラの砂を生成して行き、固めた雌型と雄型を作って合体し、鋳型を完成させた。
対となる反対側の鉄板の鋳型も作成して準備完了。
鋳型の注入口から、ドロドロに溶けた鉄を流し込んで、空間魔法で押さえ込みつつ、振動と圧力を掛けて行く。
空気穴の方から、空気の変わりにドロドロの鉄が出て来たので、多分巣は出来て居ないだろうが、念の為更に振動を与えつつ圧力を掛けた。
同様の方法で、個残り19個の鋳型にも鉄を流し込み、鋳造過程を終了した。
現在20個の鋳型に並列して圧力を掛けているが、これは一体いつまでやっていれば良いのだろうか?
ドロドロに溶けた鉄の余り分は、既に表面が暗くなって、居るんだが内部はまだ熱そうである。
そこで、思い付いたのは、時空間魔法の『リワインド』の逆で『フォワード』である。
多分、水などで急激に冷やすと歪みやクラックが出そうな気がするので、時間経過を早めてやれば、十分に冷えるのではないかと考えた訳である。
20個の鋳型に1日分の『フォワード』をイメージして発動!
すると数秒で鋳型の放熱が終わった換わりに、魔力をゴッソリと削られてしまった。
鋳型をソッと手で触れてみると、触れるぐらいになっている。
鉄の部分を指で触れて一旦鉄部分だけを収納して行き、横に鉄板を再度取り出した。
「おーーー! 初めての鋳造だったけど、上手く行ったね。」
早速仕上げに入る。
余分な鉄をカットして、鉄板の合わせ面も研磨してぴっちりと面を出してやる。
イメージ次第で、こう言う加工が簡単に出来るので、魔法は実に素晴らしい。
蝶番と取っ手を取り付けて、紅茶と酢を使って表面を黒錆加工してやる。
――――
――
ついでにたこ焼き鉄板も黒錆加工しておいた。
各鉄板サイズに合わせて、魔力コンロをサクサクっと作成して鉄板をセットして行く。
「やったー! 完成だーー!!」
完成品を全部収納して、鍛冶場から出ると、外気の風が涼しく感じる。
よくよく見て見ると、身体中汗ビッショリで、慌てて全身にクリーンを掛けて、習性となった脇の下の匂いをクンクンとチェックし、ホッとする。
1時間40分ぐらい作業していた様だが、まだアケミさんの姿は無かった。
庭の方に行って、大きなテーブルを出して、取りあえずたこ焼きと鯛焼きのコンロを2セットずつ取り出して、火を入れて熱し始める。
確か記憶では、鉄製品の調理器具は最初にシーズニングを行う必要があると聞いた気がするので、軽く油を引いて屑野菜をうえで炒めていく。
十分に鉄臭さが取れた辺りで屑野菜を捨てて、まずはたこ焼きから作る事にする。
小麦粉、天カスや小ネギを小さく切った物、片栗粉、カツオのだし汁、塩、醤油、卵と……こんな感じだっけ?
だし汁で小麦粉を溶いて行き、片栗粉を少々入れて、塩と醤油を少々と卵を適当にっ……っと、よし、あとは小さく切った小ネギを入れて、こんな感じで生地は完成かな?
おお!!!! 忘れてたよ。 タコだよタコ! これが無いとタコ無し焼きになっちゃうじゃん。
たこ焼き鉄板を温めて油を薄く引いて、生地を流し込んで、あ!天かす、そしてタコのブツ切りをパラパラと……コンロの火加減調節して……
竹串で、こぅやってクルッと あれ? クルッと回して生地を足して……焼けたじゃん!
皿に盛って、ハケでたこ焼きのソースを……ソース!? ソース!!!!!
「しまったソースが無い。ヤバいぞ。食糧倉庫からお好み焼きソース出して来て代用してみるか。」
走って食糧倉庫に行って、ついでに鰹節と青のりも持って来た。
たこ焼きにソースを掛けて、上から青のりと鰹節をトッピングして、やっと完成。
「さあ、実食です!」
湯気で鰹節が踊るたこ焼きに爪楊枝を刺して、ハフハフしながら口に入れて――
「おお!!! これはこれで良いんじゃないか?」
うぉーー!! 良いじゃんかこれ。 懐かしいなぁ~ ほっんとうに、久しぶりだよ。
何か生きてく事に必死だったから、たこ焼きの存在なんて忘れてたなぁ。
まあ、問題はソースだな。この先の事を考えると、食糧倉庫無しでの自力供給を目指さないと駄目だしな。
俺は子供らを呼んで、たこ焼きを食べさせてみた。
「「「「おいちいーー!」」」」
「ですよ!」
「美味いっす!」
「あら、面白い味だわ!」
と全員ハフハフしながら食べてる。
丁度そこに、アケミさんもやって来たので、手招きして呼んで、爪楊枝で刺したたこ焼きをお口に入れてあげると、
「何ですか? これ美味しいです! あ、タコが入ってる!!」
とアケミさんにも大好評。
「これね、たこ焼きって言うんだよ。 これを子供らの小遣い稼ぎのお仕事にしたらどうかな?ってね。」
「ああ、なるほど! 面白いアイディアだと思います。 流石ケンジさんです!」
フフフ、じゃあこの方向で進めてみるかな。
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