第103話 幽霊屋敷

マーラックへと向かう馬車の中、街が近付くに従って、なんかソワソワしているアケミさん。

どうしたのかな? トイレ? そう言えば、この馬車にはトイレないんだよねぇ。


「どうかした? 一旦トイレ休憩でも入れる?」

と俺が声を掛けると、


「ちょ! っそ、そんなんじゃないですー!」

と顔を真っ赤にして抗議されたのだった。


そして、

「あの! ケンジさん、私、明日までギルドお休みなんですよ。

そ、そのぉ~ 別にお休みでもやる事が無いというか、何か一緒に居るのが普通に思えちゃって、えーっとですね……」

と尻つぼみに声が小さくなっていく。


「あー、そう言えばそう言ってましたね。 じゃあ、昼前にはマーラックに辿り着きそうだから、ライゾウさんの所で昼ご飯食べませんか?

俺もライゾウさんの所に行きたいと思ってたし、ほら、旅の前に約束したし、どうですかね?」

と俺が誘ってみると、「はい!」と嬉しそうにしていた。


ソワソワが少し落ち着いた感じだったので、やはりトイレではなかったらしい。





久々のマーラックだ。

時間は11時50分頃か。

「どうしようか、一旦馬車とマダラ達を置いて来ないとキツいよね?」

と俺が言うと、

「あ!そうだ!! マダラちゃん達に良い場所ありますよ!」

とアケミさんが声を上げる。

南門から出た所に牧場があるらしくて、そこで一時預かりもやってくれるとの事。


「なるほど、それは良いね! じゃあ、一旦西門から出て外を回った方が早いかな?」

と直ぐにUターンして、城壁の周りを1/4周し、牧場へとやって来た。

場外にあるので、結構広大な面積のある牧場である。


馬車は既に巾着袋に収納しているので、マダラ達だけを牧場に預けた。

そこからテクテク歩くのも面倒なので、乗合馬車という物に初めてのってみたのだった。


「あっ、うっ、結構揺れるもんだね、馬車って。」

と俺が路面のギャップで跳ねる座席に尾てい骨を打ち付けて声を漏らしつつボヤく。


「フフフ、ケンジさん、これが普通の馬車なんですよ? あの馬車が異常なんですよ?」


「まあ、あれは馬車もだけど、どちらかというと、マダラ達が凄いんだよ?」

本当にマダラ達、ハイ・ホースは優秀である。


かなり近くまで辿り着いたので、途中で下車して雷寿司へ向かいつつ、マダラ達のスキルの話をすると、

「え? マダラちゃん達って、馬じゃないのですか?」

と心底驚いたいた。

だよねぇ~。俺も最初は驚いたからね。




「ライゾウさん、こんちは! 今日は2人なんだけど、良いかな?」


「お久しぶりです、おじ様。お加減は如何ですか?」


2人で店に入ると、

「あれ? お嬢じゃねぇか。久々だな? というかお前達知り合いだったのか?」

とライゾウさんが驚きながらも、満面の笑みで迎えてくれた。


ちなみに、酢の匂いが駄目なピョン吉達は、店の前で別のご飯を既に食べて大人しくしている。


「ええ、そうなんですよ。ランドフィッシュ村を案内して貰った帰りなんです。

いやぁ~、凄かったですよ、ランドフィッシュ村。特におばさん達が。」

と俺が言うと、ライゾウさんもアケミさんも大爆笑。


「あれは確かに凄い生き物だ。ガハハハハ」


それから1時間程、美味しい寿司を堪能して、旅の話なんかをしていた。


終始ニコニコ顔のライゾウさんだったが、


「しかし、おめーらが付き合ってたとは知らんかったぞ。

クックック、ええのぉ~、若いって言うのは。」

と突然ぶっ込んで来て、アケミさんが「プシュー」と音がしそうなぐらいに真っ赤になっていモジモジしていた。

俺は空気を読んで取りあえず笑っておいたのだった。



ライゾウさんの店を出て後、またアケミさんがソワソワし始めたので、お願いしてみた。


「アケミさん、もし良かったら、海王亭に一旦チェックインしてから、商業ギルドに行きたいんですが、付き合って貰えますか?」


すると、「ええ、勿論です!」と良い笑顔で即答してくれた。


海王亭のチェックインを素早く済ませ、商業ギルドへと2人で歩いて行く。

ピョン吉達は、部屋で昼寝らしい。

<主、頑張って!>

とピョン吉から謎の声援を投げ掛けられたのだが、さて何を頑張るのだろうか?



数日前、ランドフィッシュ村の情報を得る為に一度来た時と同じお姉さんが受付に居たので、商業ギルドのカードを見せて聞いてみた。


「こんにちは。今日はこの街に家が欲しいと思ってやって来たのですが、ある程度の広さで、上物はこちらで用意するので、有っても無くても構わないのですが、物件ありますかね?」


「ああ、先日の方ですね。そうですねぇ、色々ありますが、どれ位の広さがお望みでしょうか?」


という事で条件を幾つか提示すると、5箇所の物件の紙を用意してくれた。


「該当する広さだと5箇所あるのですが、1箇所だけちょっと問題のあるばしょでして、所謂訳あり物件となります。」


ほほーー、なんだろう? その訳あり物件。というか、こっちの世界でもあるんだね、訳あり物件って。

聞いてみると、何やら幽霊的な物が出るらしい。 何度か冒険者を雇ったり、神殿にお願いして浄化して貰ったりしたんだが、ダメらしい。

魔物や魔法がある世界なのに浄化とか出来ないってのもちょっと不思議だよねぇ。


場所的には一番俺の提示した条件に合って、尚且つ一番安い(訳あり物件だけに)のが、その場所だった。

「じゃあ、その5箇所を見せて貰って良いですかね? まずは、その訳あり物件から見てみたいです。」

とお願いし、比較的商業ギルドから近い場所にある訳あり物件にギルドのお姉さんと3人でやって来ました。



15分程歩いた所にその物件はあった。

訳あり物件だけに、荒れ放題で塀があるが彼方此方朽ち果てていて中は草がボウボウ。

建物もソコソコ大きいのがあるが、ボロボロであった。


お姉さんもアケミさんも、敷地の入り口から動こうとしないので、俺は単身で草を掻き分けて入って行き、敷地全体にアクティブ・ソナーを放ち反応を伺ってみた。

すると、いくつかの人の気配を建物の奥から察知した。どうやら子供達らしい。

なるほどなぁ。でも子供だけでそんな幽霊の仕業と見せかける様な事が出来るのだろうか?

と少し不思議に思いつつ、ズンズンと建物へと近づいた。


建物の前に立つと、明らかに判る。 建物には地下室があって、そこに5名の反応がある。


壊れかけた建物の扉を開けて内部に入ると床には埃も無く、綺麗である。

「ほほー、なかなか中は綺麗だな。ここの幽霊さんは綺麗好きらしい。良い事だ。

さて、じゃあここを買う事にしようかなぁ?」

と俺がわざと大きな声の独り言を漏らすと、地下室の反応が動く動く。


さて、地下室への入り口は何処なんだろうか?

建物をグルリと回ったが、それらしい物が見当たらない。

もしかして、ここってカラクリ屋敷的な感じなのか? 忍者屋敷!? それはそれで興味を惹かれるぞ!


「うん、なかなか良い屋敷だな。幽霊付きで購入しよう。大丈夫だ。幽霊を追い出したりしないから。」

と態とらしい独り言を言った後、敷地の外で待つ2人の所へと戻った。


「という事で、ここを購入します。」

と俺が宣言すると、


「「ええぇーー!」」

と2人が手を取り合ってビビってらっしゃる。


「ほ、本気ですか! 幽霊出るらしいですよ? 結構ヤバいらしいですよ?」

とアケミさんがマジビビりで言う。


「案内しておいて言うのも変ですが、幾ら安くても、ここは……止めた方が良いかと?」

と受付嬢のお姉さんも驚きながら止めに入る。何か良心的な人だな。


「ええ、大丈夫。ここが気に入りましたので。逆にここは俺以外が購入すると、かなり大変な事になりますよ?」

(子供達がね)


という事で、俺達はサクッと商業ギルドに戻って購入手続きを済ませ、晴れて幽霊屋敷のオーナーとなったのだった。

ギリギリまで思い直す様にと止めるアケミさんと受付嬢を振り切る感じになったのだが、後でアケミさんに種明かししとかないとだな。


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 いつもお読み頂き、ありがとうございます。

 一過性のランキングとは思ってますが、凄い位置に自分の作品があるので、嬉しい限りです。(思わずスクショを撮りたくなるほど)

 皆様のコメントは全て読ませて頂いてますが、内容の予想が書いてある所に思わず先の内容で答えてしまいそうなので、そう言う内容に関しては微妙な返答をしておりますが、しかし嬉しく読ませて頂いております。

 本当にありがとうございます。

 ここの所、色々と忙しく、ちょっとアップが遅れております。

 少ない創作時間をこちらの作品に注力しているのですが、書きたい事が多くあり、纏めるのに時間が割かれてしまったりと、その関係で、ストックしている話数の分にも変更を入れたりと……。

 若干ペースは乱れますが、アップは続けて行きますので、宜しくお願い致します。

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