第102話 思い詰める
「これで、取りあえず今回の目的はほぼ終了だな。
行きのスピードは出ないみたいだし、のんびりマーラックを目指すかな。」
クレントン村を出発した所で俺がそう言うと、アケミさんが急激に顔色を曇らせて「ええ……」と呟いていた。
馬車の中で、アケミさんに話掛けたのだが、何やら愁いを帯びた様な思い詰めた表情で、返事も上の空である。
どうしたんだろう? と思いつつも、余り立ち入るべきではないかと、ソッとしておく事にした。
午後6時前、空が暗くなり始めたので街道脇にキャンプを張る。
最初に一日頑張ったマダラとB0それにB10~B14達にも、クリーンを掛けてやり、餌とフルーツと泉の水を出してやる。
そして、テントの中で、出来合の料理で夕食を済ませた。
夕食を終え、アケミさんにはホットココアを出してやり、俺がコーヒーを飲んで一休みしていると、アケミさんがポツリポツリと喋り出した。
「あの……ケンジさんは、マーラックに戻ったら、そのまま行っちゃうでしょうか?」
と。
ああ、そう言う事か。
「うーん、直ぐにではないけど、多分1週間は居ないと思うな。
かなり長い間拠点を留守にしているからね。
マーラックでちょっと一休みして、ライゾウさんの所でお寿司を食べて、また買い物をしたらトールデン経由で帰る予定なんだ。
ほら、前に言ったトールデンの別荘で、もうそろそろ別荘を管理してくれているスタッフの奥さんが出産なんだよ。
だから、ちょっと気になっててね。」
と俺が答えると、アケミさんの目に涙が溢れていた。
「ケンジさん。 私、冒険者ギルドを辞めるのに多分、最低でも1週間は掛かると思うんです。
ケンジさんの跡を追ってトールデンに行くにしても、マダラちゃん達、足が速いし、追いつけないと思うんです。
そうしたら、もう逢えなくなっちゃうかも知れないです……。
……もう1人は嫌なんです。私、マーラックに来てから、こんなに楽しかったのは、こんなにも人と一緒に居るのが幸せと感じたのは初めてなんです。
他の誰かではなく、ケンジさんと一緒だったからです。
私がギルドを辞めて、着いて行ける様になるまで、せめて1週間だけお待ちいただけませんか?
何でも良いです。私をケンジさんのお側に置いて貰えないでしょうか?」
と思い詰めた表情で涙を流しながら切々と語ってきた。
うーん。そうなんだよね。確かに言いたい事も判る気がするんだよね。
どうしようか。連れて行くのは連れて行けるけど、この子の望みはもっと別の意味だよね。
「ごめん、今直ぐには答えられない。
半端な気持ちで君を連れて行くのは、間違っていると思うけど、前に言った様に俺はまだ誰ともそう言う事になれそうにないんだよ。
そんな半端な精神状態の俺の傍に居ると、君が消耗するだけだと思うんだよ。
だから、少し考えさせてくれないか?
ちゃんと君に返事をするし、まだマーラックで多少やる事や考えて居る事もあるから。
絶対に君に黙って消える様な事はしないから、そこは安心してくれるかな?」
と返事を先延ばしにしてしまった。
「……はい。」
アケミさんに先にお風呂に入る様に薦め、俺はマーラックに拠点を作るかを考えていた。
拠点を作るのであれば、それに1日、ライゾウさんのお寿司を食べに1日、スタッフを雇うのに1日。そのスタッフを慣らすのに3日ぐらい?
まあライゾウさんのお寿司は合間で行けるから、5日ぐらいあれば、そこら辺は何とかなるか。
はぁ~。何だろう。 アケミさんの思い詰めた表情を見ていると、凄く寂しい気がするんだよね。
あの涙を見ていると、胸がチクチクと痛むよ。
確かに1人は寂しいという気持ちも判るし、誰でも良い訳で無い事も判るんだよなぁ。
うーーーん……風呂入って寝よっと。
◇◇◇◇
翌朝目覚めると、少し目の赤いアケミさんが起きていて、朝食を作ってくれていた。
「すみません、眠れなかったものですから、勝手に材料使って作っちゃいました。」
「いえいえ、構いませんよ。ありがとう。
お! 肉じゃがですか!! こっちは、ワカメのお味噌汁ですね? 早速頂いて良いですか?」
「ええ、どうぞ。フフフ。」
という事で、全員揃って 頂きます!
「おーー! 美味しいですよ。 この肉じゃが! あ、お味噌汁も美味しいですよ!」
と俺が喜んで食べていると、アケミさんは照れながらも嬉しそうに微笑んでいた。
朝から思わずお代わりまでしてしまい、動きたくない状態なのだが、先にマダラ達にもご飯を出してあげないと行けないので、テントの外に出た。
良い朝だ。
<主ーーー! おはよーー! お腹減ったよー>
<主ーーご飯ーー!>
とマダラとB0が催促して来る。
「ごめん、ごめん、ちょっと先にご飯食べちゃってた。 さあ、タップリ出しておくね。」
<<<<<<<わーい!>>>>>>>
「ここまで来たら、マーラックは目と鼻の先だし、ユックリ食べて良いからな。」
と言って、テントへと戻る。
「アケミさん、ちょっと聞きたい事があるんですが、マーラックで何処かソコソコのサイズの土地とかって売り物あるんでしょうかね?」
「え? 土地ですか? 家無しで? 土地もありますが、上物が建てられている物件が多いと思います。
冒険者ギルドでも斡旋は可能ですよ?」
「ええ、知ってますが、冒険者ギルド経由で割り引きで買うってのは、そもそも拠点をその街に置いて活動して欲しいって事でしょ?
だから、買うとしたら商業ギルド経由かなぁ。 そうか、売り物はあるのか。」
「も、もしかして、マーラックに住まれるって事ですか?」
と少し目を輝かせるアケミさん。
「あ、いや、そうじゃなくて、別荘というか、来た時の拠点があると色々と便利なんですよ。
ただ、問題は拠点を長期で留守にするので、結局は誰か管理してくれるスタッフを雇う必要があるんですよね。
そうなると、このテントと同じで、秘密の塊になるので、裏切らない、信頼を置ける人物じゃないとダメなんですよね。」
俺がそう言うと、アケミさんが聞いて来た。
「今までの拠点ってどうされてたんですか?」
「今までの拠点は、全部奴隷商から奴隷を購入……言葉が凄く嫌なんで、奴隷商で募集した感じです。
その後、タイミングを見て、全員解放してますし。
解放後も、ちゃんとやってくれていますよ。出会う場所がちょっとアレなんですが、良い人材に巡り会えたと思ってます。」
「なるほど、奴隷ですか。 何かケンジさんのイメージと違って、ちょっとビックリしましたけど、なるほど、それなら納得ですね。」
とアケミさんがホッとした様な表情をしていた。
アケミさん曰く、奴隷商ならウェンディー商会がお薦めらしい。
ふむ、マーラックに辿り着くまでに色々考えてみるかな。
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