第98話 村での洗礼2

通常村と街の境目は、周りに魔物避けの城壁が有るか無いかで大まかに別れているらしい。

ランドフィッシュ村にはそう言う立派な塀が無いが、漁村とは言え、集まる人の数は村の域を超えているらしく、通りは買い付けに来る商人の馬車や人で溢れかえっている。


市場には、健二が良く知る魚に加え、更に見た事の無い様な魚も多く並んでいる。

アケミさんが「これ美味しいですよ!」という魚を迷い無くドンドン買い付けて周り、リュックへと放り込んで行く。


そんな最中、市場の通りに並んだ露店の魚屋さんを眺めていて、ふと気付きアケミさんに聞いて見た。


「ねぇ、あの魚達が入っている木箱ってさ、良く見ると魔石とかが付いているけど、あれって何かの魔道具なの?」


「ええ、あれは凄いんですよ。木箱には時間経過を遅延する効果がありましてね。

あれが出来てから、漁業が一変したんですよ?

氷も溶けにくくなりましたし。」

と教えてくれた。


「なるほど! だから新鮮な魚がマーラックでも食べられるのか!」


「そうなんですよぉ~。まあそれでも効果はあくまで遅延なので、ユックリとは流れるからそれ程極端には日保ちしないんですけどね。」


「ああ、なるほどね。やっぱり遅延だと、マーラック辺りが限界なのかも知れないね。」


「でも、そのお陰でランドフィッシュ村は大きく発展したんですけどね。」



なるほどね。マジックバッグ的な機能はないけど、経過時間の遅延が出来る魔道具があれば、鮮度が保たれるからなぁ。

作ったのが誰かは知らんが、GJだ!!




市場では、さっきから、かなりの頻度でアケミさんの知り合いに遭遇している。

そして、その結果、大体共通して言えるのは、『おばちゃんは人の話を聞かない』という事実であった。

しかも隙を見せると、質が悪い事に、ドンドンと群れて来る習性を発揮するのである。

いやぁ~、かなり恐ろしい生き物である。

なので、油断して下手に立ち止まると、かなり大変な事になる。


買い物をしながら市場を奥へと進んで行くと、漁港が見えて来る。

そして、近付くに従い、美味しそうな匂いも流れて来る。

もう既にかなり前から、俺の後ろを突いて来るモフモフ達が頭の中で五月蠅い。

胸のポケットに居るサリスも顔を出して匂いを嗅いでいる様子。


漁港の近くは、数多くの漁師料理の屋台が建ち並ぶエリアとなる。


「ここら辺はどれも美味しいんですけど、お薦めの店があるんですよ。 ほら、あの店ですよ!」

と前を先導してくれているアケミさんがこちらを振り向きいて笑顔で教えてくれた。



「おじさーーん、お久しぶりです!」

とアケミさんが店のゴッツいおじさんに声を掛けると、


「おおぉ!! アケミちゃんじゃねーか! 久しぶりだなぁ? 戻って来たのか? 元気にしとったんか?」

とゴツい顔を笑顔でクシャクシャにして聞いて来た。


「ええ、何とかギルドの仕事にも馴れて、順調にやってます。

今日はお墓参りも兼ねて(大事な方の)案内でやってきたんですよぉ。

せっかくだから、美味しい漁師料理の店で堪能して貰おうと思って。」


そうすると、そこで初めてアケミさんの後ろに立つ俺に気付き、凄いガンを飛ばして来た。

おいおい、異世界のヤンキーかよ! と言いたくなる程の眼力である。


「あ? おめーか! おめーがアケミちゃんを誑かしてるんか? ああ? どうなんだよ? ゴラ!!」

と。


「え? いや、誑かすって……。まだお知り合いになったばかりで、たまたまこちらに来るのに案内して貰っているだけですよ?

ただ、どうしても美味しい漁師料理が食べたくて。」

と俺が焦りながら説明していると、


「おじさん、ダメだよ? 私の大事な人なんだよ? 脅しちゃダメなんだよ?」

とアケミさんが窘めると、鬼の様な眼力が解除された。


ヤッベー、オーガもビックリだよ。


「フフフ、やっぱり、アケミさんはこちらでも大人気なんですね?」

と俺が言うと、


「そ、そんな事ないでしゅ。」

と頬を赤らめていた。



そんなおじさんの店の海鮮汁? 海鮮汁なのか? いや、もう具が多くて一応味噌仕立てなんだが、海の幸の出汁が凄くてね。


「美味い!!! メッチャ美味い! 何これ!? 滅茶滅茶凄いよ! ヤバいよ! アケミさん!!!」

と俺が乏しい語彙でその感動を伝えると、


「でしょ? おじさんの海鮮汁は凄いんですよ。だから、是非とも食べさせてあげたくて。ウフフ。」

とアケミさんが満面の笑みを浮かべている。


さっきまで頭の中で五月蠅かったピョン吉達も、無言でガツガツと食べている。


「いやぁ~、これは凄いなぁ。 海鮮タップリのお味噌汁が美味いのは知って居たけど、ここまで美味しいとは。

おじさん、これ最高ですね!」

とおじさんに俺が声を掛けると、


「ガハハ。 あったぼうよ! この俺が作ったんだからな!」

とさっきまでの威嚇が嘘の様に笑っている。


「わぁ、これ持って帰りたいなぁ。みんなにも食べさせてやりたいなぁ。」

と俺が思わず呟くと、


「ああ、拠点の方々ですか? 何人ぐらい居るんですかその拠点は。」

とアケミさんが俺の呟きに反応して聞いて来た。


「えー? あれ? 今何人なだろうか? 結構色々増えたからなぁ。 うーん、多分100名は居ないけど、大人と子供合わせて多分70名ぐらい?

拠点を守っていくれている食いしん坊の従魔も入れると、80名ぐらいか。」


「え? 何で疑問形なんですか? でも思った以上に大人数なんですね。」



うーん、今度一回カウントしてみないとな。

別荘もポコポコ増えているから、最近殆ど把握してないんだよね。

それに生まれて来る子も居るしな。



すると、アケミさんがおじさんに交渉し始めた。

俺とピョン吉達は、現在2杯目を堪能中である。


暫くすると、アケミさんが満面の笑みでこちらを振り返り、親指を立てて来た。

「やりました! アケミ、頑張りました! 獲得しました!」

と言いながら。



「え? もしかして、80名分売ってくれる事になったの?」


「ええ。その変わり、鍋というか、寸胴?は用意する事が条件で、寸胴1杯で銀貨10枚まで頑張りました!」

と。


「マジか! ありがとう!! おじさんも、ありがとう! わーい、嬉しいなぁ! マジか!

じゃあ、直ぐに寸胴を買いに行こう!」


市場の中にある金物屋?に突入し、取りあえず、寸胴を5個購入した。


「え? 1つで良いのでは?」とアケミさんが呟いていたが、多くて困る事は無いからな。

いつ何時、こう言う機会に恵まれるとは限らないし、『備えあれば憂いなし』だ。


そして、寸胴をおじさんの店へと持っていって、更に交渉して寸胴2個分を銀貨24枚で作って貰う事になった。

アケミさんは、せっかく交渉して安く値切ったのに……と言っていたけど、

「でもさ、こっちも無理を言うんだから、どうせ作るなら、気持ち良く美味しい物を作って貰いたいじゃない。

そんな、原価ギリギリなんて、可哀想でしょ?

それに、俺は俺で、美味しい絶品海鮮汁を手に入れられるし、おじさんもちゃんと利益を得られる。

やっぱりWinWinじゃないとね。」

と俺が言うと、


「ウフフ。やっぱり、優しいんですね。」

と呟いていた。


さて、海鮮汁はこれで解決。


ここには他に焼き物等、色々あるのだ。

次はアワビや牡蠣やホタテ等の貝類、それにウニを焼いて食べさせてくれるお店らしい。

網の上で焼かれているのだが、もう近付くだけで匂いが堪らない。


「おじさーーん、お久しぶりです!」

とアケミさんが声を掛けると、やはりさっきのおじさんの時と同じ様に、ゴッツいおじさんから、殺気を放たれた。


そして判ったのだが、どうやらアケミさんはこの村ではおじさんのアイドル的存在? だったご様子。


それが、数年ぶりにやっと顔を見せたと思ったら、横というか後ろに金髪のヒョロ男が立っていて、


「なんじゃ、こいつは。俺達の村の可愛い娘っ子を誑かそうってか!!」

と言う感じらしい。多分。


一方おばちゃんは、「あ~ら良い人出来たのねぇ~。ウフフ。」という勘違いのパターンらしい。


はぁ~……この流れは当分続きそうな予感である………。

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