第97話 村での洗礼

アケミさんに、村にそろそろ到着する事を伝えると、

「え? もうですか?」

と泣きじゃくった顔を上げて驚いていた。


美人さんは、泣き顔も絵になるんだなぁ~ 

涙に濡れた長い睫を至近距離から見下ろしてしまい、不覚にもドキリとしてしまう。

ってか、睫長っ!! 付け睫毛とかじゃ無いんだよ? しかもちゃんと上向きにカールしてるし。

間近で見ても、ビックリするほど、綺麗で端正な顔立ちで――

ヤバっ! 心臓の音が聞こえてるんじゃないかと余計に焦ってしまう。

だって、まだ俺の胸身を寄せている体勢だったから、か、顔が近いんだよ! そりゃあ緊張しちゃうよね?

多分、お袋以外の女性をこの距離で見たのは初めてなんじゃないかな?


と、兎に角! 何とか誤魔化さないと!!


「ええ、マダラ達は優秀で賢く足も凄く速いんですよ。」


と瞬間的に考えた俺の誤魔化しレベルがこれ。



「え? でも足が速いとかのレベルではない気が??」

と困惑しているアケミさん。


あ、そうだ! 大事な事だし先にお墓参りしないとね。


「ところで、ご両親のお墓って何処ら辺なんですか?」

と聞くと、必死で思い付いて話を振ると割と近い所で、村の手前を曲がった丘の上らしい。


「じゃあ、先に無事に生活している事をご両親に報告しに行こうね。」

と行って、御者席へと退避するのであった。




お墓のある丘には、ちょっとした草原というか、花が咲き乱れる綺麗な所で、そこには沢山のお墓が並んでいた。

俺はこの世界の風習を全く知らないので、取りあえずお墓の敷地の外で待機し、外からソッと手を合わせた。


アケミさんは、何やらお墓の前で屈んで話掛けている様だったが、10分ぐらいで馬車へと戻って来た。


「もう良いんですか? 気にせずに、もっと話をしてきて良いんですよ?」

と俺が言うと、


またもや、俺の心臓に良くないドキリとする笑顔で、

「ありがとうございます。でも大丈夫です。一杯お話してきましたから。」

と言っていた。


「そうか、立派に生きてるアケミさんを見て、きっとご両親も安心して微笑んでいるんじゃないかな。」


「フフフ、どうでしょうか。まだ一人なのか! と心配しているかもしれませんよ?」

と悪戯っぽく笑っていた。


「ハハハ。まあそうかもしれないね。俺もその件では人の事は言えないからなぁ。」

と笑って誤魔化したのだった。




お墓参りを済ませ、村の入り口に到着した。

マーラックでは、厩舎で堅苦しい思いをさせてしまったマダラ達を馬車から外し、フリーにしてそこら辺を好きに走り廻らせる事にしてやると、


<<わかったーー! ちょっと発散してくるー!>>

と大喜びの2匹はアッと言う間に視界から消えていった。


その走り去る様を見たアケミさんが、

「はやっ!」

と驚きの声を上げていた。


馬車を収納し、アケミさんの案内の下、漁港横の市場へと向かう。


「あら? アケミちゃんじゃないのぉ~。

どうしてたの? 元気にしてたの? あらぁ~まぁ、ちょっと、滅茶滅茶良い男じゃないのぉ。

やるわねぇアケミちゃん! あんなに真面目で奥手で、引っ込み思案だったのにねぇ。

そうなのぉ~、ご両親に報告かい? あらあらまぁ羨ましいわぁ~。

若いって良いわねぇ~。おばさん、歳感じちゃうわぁ~。

せっかく来たんだから、美味しい物沢山食べさせてあげなさいよぉ~。ウフフ。」

と村のおばさんトークが止まらない。

ヤバい程のノーブレスで捲し立てている。


そうすると、ワイワイと他のおばさんが寄って来て、全員が銘々好き勝手に喋りだし、誰も協調性のある事を言ってなくて、これは聖徳太子でも無理だろ!と言いたくなる程の喧しさ。

誰が誰に何を言っているのか、全く理解出来ない。


そんな会話すら成り立たない状況に、ドン引きよりという、恐れすら感じてしまう。


やっとの思いで、その集団から脱出し、


「ヤッベー、何? ねえ何?? あれで会話成り立つの? 怖っ! しかもみんな全員息継ぎ無しだよ? 息してなかったよ??」


俺が堰を切った様に突っ込むと、アケミさんが爆笑していた。


「フフフ、ここの村の女性は、大体あんな感じですよ?

でも不思議と一致団結するんですよねぇ。

まあ、流石に私もあの中に入って生きて行くのは辛そうだと昔から思ってましたけど。」

と言いながら笑い過ぎて溜まった目尻の涙を拭いていた。


「しかし、あのおばさん達、息継ぎ無しで良くもまぁあれだけ喋れたなぁ?

普通酸欠で倒れるよね? しかもあれで会話が成立しているのか!?」

と俺が言うと、


「ああ、あの人もですが、女性は海女として長く海の中で潜って作業するので、肺活量が半端無いんですよね。

多分、あの倍ぐらいは、一気に喋りますよ。

会話よりという、雰囲気というか、喋った者勝ち的な?」

と理解し難い生態系を教えてくれた。


えーー? あの倍? 既にそれは海の魔物の域なんじゃないのか!?

と図らずもある意味魔物より恐ろしい生き物に遭遇して心の中で叫ぶのだった。



「あ、そう言えば俺を彼氏と間違って居た様で否定する間も無くて………何かごめんね。」

と俺が謝ると、


「エヘヘへ いぇ………(寧ろそれは望む所でしゅ……)」

と嬉しそうな顔をしつつ、後半は下を向いてがゴニョゴニョと言っていて聞こえなかった。


「け、ケンジさん! まずは市場でお魚でも買いますか? どうやら、幾らでも新鮮なままお持ち帰り出来るみたいですし。

(私も新鮮なままお持ち帰りして頂いても……)」

とアケミさんが聞いて来た。


「え? ああ、お魚も貝も、甲殻類も、海藻類も、全部欲しいですね。

うちの拠点って、山の麓というか、周囲に海が無いので、海産物が全く入って来ないのですよ。

だから、こう言う場所が羨ましくてねぇ。

そうそう、塩もあれば、大量に欲しいぐらいですよ。」


「じゃあ、目利きは任せておいて下さい。 ガンガン買い占めましょう!」

と腕まくりをしていた。


うん、頼もしいな。


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 いつもお読み頂き、ありがとうございます。

 GWもいよいよ終わりですね。一応GWの終わりと言う事で、1話余分に追加致しました。

 早くコロナが終息する事を祈っております。

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