第94話 至高のお寿司
そして漸く待ちに待った雷寿司が再開した。
いやぁ、良かったよ、随分遠回りしたけど、良かったよ、ライゾウさんが元気になって。
昼ちょっと前に雷寿司の店の前に到着したんだけど、暖簾は出てなくて、ちょっとドキッとしてしまった。
大丈夫かと、慌てて扉を開けると、ライゾウさんがニカッと笑って出迎えてくれた。
「あれ? 店、再開したんじゃなかったんですか? 出直しましょうか?」
と俺が聞くと、
「良いんだよ。今日はお前さんだけの為の店だ。」
何と、今日は俺の為だけに開けてくれたそうな。
普段は1人で切り盛りしているので、ユックリ話せない程に急がしいらしく、それだと健二の食べたい物を十分に堪能させられないからと、健二の為だけのプレオープンとしてくれたとの事だった。
そして、そんな状況に恐縮しつつも席に着き、出された寿司達は、もう最高でした。
これまでの2回の人生で食べたどの寿司よりも。
もう食べ出すと涙が止まりませんでしたわ。
昆布締めされた鯛のにぎり、穴子も、マグロの漬けも、中トロも、ヒラメも、サンマも、アジも、どれもこれも最高!!
余りにも美味しい美味しいと連発しながら、笑顔で泣いていたらしく、ライゾウさんが何か察した様な顔をしていた。
何かエンドレスに食べて居たいと思える味で、ついつい気付かぬ内に3周も握って貰っていた。
お椀のお味噌汁は、シジミの味噌汁で、これまたシジミの味と出汁が出ていて最高の味だった。
こっちの世界でも鉄火巻きとカッパ巻きと納豆巻きはある様で、最後の締めにはそれをお願いした。
この3つは、俺が小さい頃に最初に親から食べさせて貰ったお寿司なんだよね。
今でこそ握りとかを喜んで食べるけど、それでもこの3つは必ず食べるんでよね。(主に廻るお寿司屋さん専門だったけど)
ここのところ、結構頻繁だけど、やっぱり「生きてて良かった!」と思わせるお寿司だった。
親孝行が出来なかった前世だけど、出来れば生前の両親にも食べさせてやりたかったな。
特にお袋には結婚以来、寂しい思いをさせてしまったからなぁ。
「ライゾウさん。本当に最高の寿司だった。
ここまでやって来た甲斐があったというか、何か俺、またこれからも頑張れそうな気になったよ。」
俺が涙ぐみながら感激していると、ライゾウさんも何故か涙ぐんでいた。
最後にお茶を頂きつつ、提案というか聞いてみた。
「ライゾウさん、お弟子さんとか取ったら?
せっかくのこんな腕を1代で終わらせるのは、やっぱり勿体無いと思うんだけどなぁ。」
と俺が言うと、やっぱり今回の事で凄く死を身近に感じたらしく、考えてみるとの事だった。
まあ、実際に孤独死しちゃった俺も他人事ではないのだがな。
そして、調理の話になって、寿司の作り方や酢飯の美味しい炊き方なんかを少し教えて貰った。
まあ、聞いただけで出来る程、甘いもんじゃないのは良く判っているんだけどね。
拠点とか遠くに居る時に、発作的にお寿司が食べたくなる事だってあるだろうし、少しでも美味しく出来れば、拠点のみんなにも握ってやれるかな? なんてね。
しかし、シャリの握り具合とかって、凄く大変で、程良い力加減を習得するは長い時間の努力の積み重ねが必要らしい。当然だよね。
如何に手早く握るかで、同じネタやシャリでも味が変わるらしい。厳密には、ネタの切り方も重要と。
素人の俺がやるなら、鉄火巻きやカッパ巻き等の巻物ぐらいまでにした方が無難だろうな。
「まあ判っては居たけど、やっぱり自作お寿司は難しいか。」
と俺が漏らすと、
「まあ、そう悲観するもんじゃねぇさ。 好きな女や仲間と一緒に手巻き寿司でも十分に楽しめるぞ?
要は誰と食べるかで、味は変わるってもんさ。」
「ああ、確かにそう言うのはありますね。 好きな子かぁ。 それが一番俺には難しいかなぁ。」
「それはそうと、お願いがあるのですが。お持ち帰り分を作って頂けないかと。
実は、ここだけの話ですが、俺鮮度を完全に保てるマジックバッグを持ってまして。
だから、持ち帰っても腐る事は絶対にありません。
どうしても美味しいお寿司をたべさせてやりたい人達が居ましてね。
もうソロソロ出産なんですよ。だから出産してお祝いに上げたくて。」
「そうか、出産か! じゃあ美味しいのを食わせてやりてぇよな。」
結局、お持ち帰りの分を10人前も作って貰った。
お礼を言って、最後に代金を払おうとしたんだけど、それが受け取ってくれなくてね。
「えーー? そんなつもりじゃないし、ちゃんとに受け取って貰わないと、次に気軽に来られなくなるんですが……」
「いや、お前さんがどれだけの事をして、ワシを助けてくれたんかは、よー判っとるんじゃ。
それに比べれば、こんな寿司如きでは申し訳ないぐらいなんじゃよ。
但し、次からは、ちゃんとお代は頂くから、安心してくれ。」
と言われ、ありがたくご厚意を受け取る事にしたのだった。
その代わり、俺は無理を言って、俺の作った特級ポーションと特級スタミナ・ポーションを各2本保険代わりに押しつけた。
「これがあれば、最悪何とかなるかも知れない。俺の居ない所でライゾウさんが居なくなったりしたら、俺泣いちゃうから。
また美味しいお寿司食べたいから、いざという時の保険だよ。 それにこれ、俺が作った物だから、原価なんて知れてるんだよ?」と。
さあ、これで俺はまた安心して旅を続けられる訳だ。
そうそう、今回全くこのお寿司タイムに参加しなかったピョン吉達であるが、唯一の弱点が発覚した。
それは酢飯らしい。匂いに敏感なピョン吉達は、酢の匂いと酸っぱさがキツいのだそうで。
刺身はOKでも酢飯に載ると、やはりダメだと言っていた。
ちなみに、ワサビも弱点らしい。 あの鼻に抜ける辛さは鋭敏な魔物達の嗅覚に異常を来すらしい。
なので、宿で大人しくお留守番してくれている。
「あれ? でも酢の物の小鉢とか食べてたよね?」
と聞くと、あれは小鉢程度の量なので、残すのは悪いと思ったらしくて、我慢して食べたらしい。
「サンドイッチのマスタードは大丈夫なの?」
と聞くと、あれはOKだそうで。
うーーん、良く判らないが、まあ苦手な物を無理に進める必要も無いので、今後は気を付けないとだな。
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