第93話 幼い日の夢
念願の寿司は食いそびれてしまったものの、健二の心は穏やかというか、ライゾウさんが助かった事でホッとしていた。
50歳という実に微妙な一致と、一人暮らしという状況の一致で、どうしても感情移入してしまっていた。
自分自身とは違う方向性での不幸の結果の一人暮らしであったが、やはり孤独死は寂し過ぎる。
弟子でも取れば良いのになぁ。
一夜明けた翌日もライゾウさんの所へお邪魔して、ライゾウさんが動ける様になったのを見て安心した。
ライゾウさんの話では、明日から、店を始めるとの事だった。
なので、ライゾウさんの店が開くまでは、寿司を我慢する事にして、市場へと通うのだった。
食欲に任せ、色々な海鮮物を買い漁っている健二であるが、ふと頭の中に、これを有効に使って調理してくれるイメルダ料理の料理人が居ればなぁ……という考えが頭に浮かぶ。
まあ成り行きでトールデンに別荘を作っちゃったけど、それはそれで良いとして、例えばここにも別荘を作ってスタッフも置いておけば、食材の入手は可能だよな。
それを1歩進んで、料理人を雇って、調理した物を供給して貰うってのはどうだ?と考えたのだが、直ぐに自分でその考えを否定した。
いや、やっぱり料理人として、壁に向かって素振りしている様な環境は、ちょっと人として可哀想だよな……と。
自分がそんな環境で働きたいか?と言われれば、美味しいとか不味いとか言ってくれる環境で働きたいと思った訳である。
まあ、一番手っ取り早いのは、俺自身が転移の距離を伸ばして、ここまで気軽に来られる様にするのが、一番迷惑が掛からないんだけどねぇ。
距離かぁ~飛距離が伸びないんだよなぁ最近。 イメージの仕方が悪いのだろうか?
とは言え、これも誰にも相談出来ない悩みの1つなんだよね。
ほら、転移魔法自体がお伽噺や神話レベルらしいから。
参考になる物が存在しないのである。
ちなみに、俺が転移する際に参考にしているのは、アメリカのSFドラマのスター・○レックの転送シーンだったりする。
まあ、それは兎も角、市場以外の街中で飲み食いして、武器屋とかも覗いたんだけど、面白い事に気付いてしまった。
そう、この国の冒険者のメインウェポンだけど、剣ではなく、日本刀というか刀が主流らしいのだ。
今まで食い物にばっかり目が行ってて、街中に居る冒険者の装備とかって、全く気にもとめてなかった。
思わず、発見して入った武器屋で、飾ってある刀を凝視してしまった。
同じ製法なのかは判らないけど、刀って滅茶苦茶刃先が綺麗なんだよね。
「わぁ……やっぱ、刀は綺麗というか、刃の紋様が良いねぇ。 如何にも斬れそうだ。」
すると、店の店主が真後ろに居たらしく、
「どうだい、異国のあんちゃん、刀は斬れ味がスゲーぞ? まあその分、使い手の腕に寄っては折れるけどな。ニヒヒ」
と肩越しに声を掛けられた。
「オワッ! ビックリした。 いつの間に背後に。
でも、そうか、腕かぁ。俺木刀振ったぐらいしか経験ないからなぁ。
でも1本は欲しいなぁ。良いなぁ刀。」
思わず欲しくなって考え込む。
そう言えば、幼稚園の頃は、忍者○影に熱狂して、近所のお祭りの露店で主人公のお面買って貰ってさ、プラスチック製の刀を背中に紐で結び付けて、マントの替わりにタオルを肩に安全ピンで付けて一人で赤○ゴッコやってたんだよなぁ。
お袋はタオルは止めて、せめて風呂敷にしなさいって言ってたんだけど、俺はあの長さのバランスが気に入ってて、結局タオル使ってたんだよね。
そうそう、昔小学校の頃土曜は半ドンで授業があって、給食が無いので、お袋の作ってくれた昼ご飯を食べながら、隠密○心とか見てたんだよなぁ。
最後のクライマックスでお仕置きに行く際の『心得の条』とか覚えちゃってたな。
懐かしいなぁ~。
中学時代だっけ? 影○軍団も見てたなぁ。
懐かしいなぁ~一時期忍者スタイルに憧れたんだよね。
フフフ、今となっては笑い話だけど………
いや、待てよ? 今じゃ、笑い話なの? 違うんじゃないか? だって、ほら俺凄く早く動けたり飛んだり跳ねたりも出来るんだよね?
え? 忍者!? いけるんじゃなかろうか? 気配遮断スキルだってあるんだよ? 凄いんだよ? イキナリ目の前で消える様に気配が無くなるんだよ?
と頭の中の妄想が止まらない。
そんな俺を見透かしたかの様に、
「まあどんな名刀だろうと、腕ないと宝の持ち腐れだからなぁ。
剣と刀じゃあ、使い方がまた違うからなぁ。」
と色々と教えてくれた。
しかし、聞いている内に、あれれ? それ俺が剣を使う時にやってるのと同じなんじゃ? と思い始める。
こ、これはもしかして、「実は使えました!」って言うパターンだったり?
と思い始める健二。
結局、中級ぐらいの刀を2本お買い上げ。
「フフフ……買っちゃった。」
1本はショーキチさんにあげよう。 そしてあわよくば教えて貰おうという魂胆である。
「ああ、これで後は手裏剣と黒装束とかあればなぁ……」
と言う心の声が漏れていたらしい。
「あるよ!」
「え? あるの?」
「ああ。お前さん、見た目と違って面白い奴だな。ガハハハハハ」
と武器屋の店主のおじさん。
見た目が凄いんだよね。片目に眼帯してて頭はつるっパゲ。
どうみても武器屋の親父よりというも、橋の下の掘っ立て小屋でボクシングジムを開いてそうな雰囲気なんだよね。
「フフフ……あるんだ。」
「ああ、どれ位欲しい?」
「じゃあ、手裏剣はあるだけ全部で。黒装束は……5着ぐらいかな。」
「おう! お前さんも好きだねぇ~」
「「ガハハハハ」」
と最後は2人で何か肩を叩き合って大笑い。
というか、もしかして、こっちの世界に居るのか? 忍者?
いやぁ~これで、帰りにショーキチさんへの土産が出来たなぁ。フッフッフ。
ショーキチさんと言えば、ソロソロ生まれる頃じゃないのかな?
わぁ~、なんかそう考えるとドキドキしちゃうね。
無事に元気な子が生まれます様に!
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