第92話 雷寿司

さあ、義務を果たした後は、お待ちかね『魅惑の市場』タイムがやって来た訳だ。

マーラックの街一番の市場は、凄い人の数と熱気である。


さあ、買って買って買いまくるぞ! と気合いを入れて、美味そうな物を買いまくる健二。

まあ、本人あまりえげつない買い方をして、悪目立ちしない様にしようとは思っているのだが、そもそも見た目が超美形の金髪で、ここら辺では見かける事の無い外国人、更に強烈な従魔を3匹連れている時点で、滅茶苦茶目立っている訳で。

本人に取っては、黒髪なんて、日本人的感覚で見慣れているので、ついつい自分が金髪の外人という事を忘れてしまっている。



そんな事には気付かず、ヒラメや鯛、アジ、大物のマグロ等、様々な魚を買ってはリュックに詰めて行く(と見せかけて収納)。

海苔も数店で大量に買い込み、鰹節やいりこ等、ワカメや昆布、ウニや貝類等を嬉々として買いまくる。

佃煮屋を発見して、塩昆布や海苔の佃煮を壺単位で買ったり、塩屋さんでは、味見したりしながら、上質の塩を麻袋単位で購入したりした。

一応、一般住民や飲食店に影響しない様に、一店舗では少量ずつ購入しているが、目立ちまくっていた(らしい)。



時折屋台の魚の串焼きをピョン吉達にせがまれ、買い与えていたが、そろそろ良い時間じゃないだろうか? 11時は過ぎている。

俺は、市場に集中する事で誤魔化していた欲求を抑えきれず、足早に教えて貰った寿司屋へと向かい始めた。


メイン通りを進み、目印の店のある角を曲がった脇道にその寿司屋がある。

11時30分頃に店に到着………が、店が開いていない。


「あれれ? 早過ぎたのか? しょうがない、待つか。」


<えーー!? 開いてないの?>

<じゃあ、他行くにゃ!>

<ぼく、お腹減ったよー?>

と3匹が五月蠅い。


「えーー? ここまで来てそれはなぁ。もうちょっとだけ待とうよ。

よし、これでも食べてて。」

と五月蠅い3匹に買い置きしていた肉串を2本ずつ出してやると、静かになった。




そして、現在12時20分………未だに店の中から開く様な気配がしない。


「もしかして、お休みなのか?」


そこで、それとなく通行人を捕まえて聞くと、

「ああ、一昨日ぐらいから、店の主人が病気で寝込んでいるって話だったぞ?」

と通行人のおじさんが言ってた。


「マジか! えっと、店のご主人って、ご高齢なんですか?」

と聞くと、


「50歳ぐらいだっけか、まあソコソコ歳ではあるかな。

まあ、一人暮らしだからなぁ~。大丈夫かなぁ?」

とえらく俺の心を抉る設定を教えてくれた。


なんか、異常に心配になって来て、店の中の気配を探ると、確かに店の2階に一人気配はあるのだが、凄く弱っている様に感じられた。

「え? これ、ヤバいんじゃね?」

と思わず声を上げ、


「ごめんくださーーい。雷寿司のご主人ーー、ご病気大丈夫ですかーー?

ごめんくださーーい! 大丈夫ですかーー!」」

と大声で叫んだが、全く気配に動きが感じられない。

ジリジリと焦る俺は、店の扉に手を掛けて引くが、鍵が掛かっていて、扉はビクともしなかった。


これは、壊してでも入って様子を見るべきだよな……俺みたいに、孤独死とか寂し過ぎるからな。


俺は、決心して、扉を力任せにこじ開けた。

「ドコッ!」という音と共に扉が外れ、それを店の壁にソッと立てかけて、ピョン吉達には、店の前で待つ様に頼み、店の内部へと入っていった。


綺麗でこぢんまりとしたカウンターとテーブル席が3つある店内を通り、厨房の横の階段から2階へと上がった。

2階には部屋が2つあって、表に面した部屋にその問題の反応がある。


「すいません、ご病気と聞き、心配で来てしまいました。

大丈夫でしょうか?」

と声を掛けたが、反応が無い。


「失礼します!」

と強引に部屋のドアを開け、中に入ると、布団から這い出そうとした痕跡のあるおじさんがうつ伏せに倒れていた。


直ぐに確認すると、


『詳細解析Ver.2.01』

***********************************************************************

名前:ライゾウ

年齢:50歳

誕生日:8月28日

父:ヨイチ

母:カヨコ

種族:人族

性別:雄

好意度:0%

忠誠度:0%

敵意:0%

婚歴:死別

身長:167.6cm

体重:50.3kg


称号:


職業:寿司職人

レベル:18


【基本】

HP:18(※元132)

MP:37(※元101)

筋力:34(※元188)

頭脳:125

器用:181

敏捷:58

幸運:43


【武術】


【魔法】

火:Lv0

水:Lv0

無:Lv0


【スキル】

漁師 Lv3

素材採取

調理 Lv10

解体


【加護】


【状態】

精神:意識不明

肉体:衰弱(脳に損傷あり)

健康:超異常状態


【経歴】

ランドフィッシュ村の出身。

貧乏ながらも優し両親の下で育ち、将来を誓い合った幼馴染みのエツコと16歳でマーラックへ出て来て、店を持つ事を夢にし、2人で必死に働く。

やがて資金も貯まり、結婚と同時に店を開業し、1年程で店が軌道に乗り出した頃、エツコが妊娠して幸せを噛み締め、より仕事に精を出す。

しかし、出産直前にエツコが流行病(この世界のインフルエンザ的な病)に掛かり、子供は死産、妻も出産時のショックで亡くなってしまった。

以来、妻と子に毎日陰膳を添えつつ、妻と作ったこの店を1人で切り盛りしている。

3日前の夜、脳梗塞となり、半身が動かなくなり意識を失い、現在脱水症状と栄養不足で瀕死の状態。


【展望】

職人気質で非常に真面目。情に厚く心優しい。頑固な一面もあるが、自分の非があれば素直に認めるところもある、好感の持てる人物。

寿司やイメルダ料理に関しての腕とセンスはピカ一。

脳梗塞により、一部脳機能が損傷を受けており、非常に危険。

詰まった脳血管を修復し、血流の確保と酸素と栄養不足で損傷を受けた脳細胞や神経経路等の修復が必要。

幸い、健二のパーフェクト・ヒールで完全修復が可能である。

またパーフェクト・ヒール後は、脱水症状と栄養不足を補う為、元始の泉の水とスタミナ・ポーション、それに神桃のジュースを飲ませる事を推奨する。

さあ、美味しいお寿司の為にも、是非パパッと治療しちゃいましょう!


 [>>続きはこちら>>]


***********************************************************************


と出た。


俺は、慌ててその場で脳血管の血流改善と壊死した脳細胞の復活や神経回路の修復をイメージし、『パーフェクト・ヒール』を発動した。

目映い輝きがライゾウさんの身体を包みこむ。


そして、輝きが収まった頃には、柔らかい表情に戻ったライゾウさんの姿があった。

呼吸も安定して来たので、俺は泉の水をコップに入れ、仰向けにして上半身を起こし、口を開かせて、少しずつ水を流し込む。

コク……コク……ゴク……ゴクゴクと徐々に自発的に飲み始める。

更にスタミナ・ポーションを1本飲ませ、徐々に肌の色も良くなり、更に泉の水に塩を少し混ぜて飲ませた。

多分、塩分も足りて無いだろうからね。

脱水症状の回復には、まだまだ水分が足りてないだろうけど、取りあえず栄養も必要だろうと、桃のジュースをコップに入れて少しずつ飲ませると、ドンドンと飲む力が増して行き、やがてライゾウさんの目が開いたのだった。



「ん? ワシは? お主は誰じゃ?」

とキョトンとするライゾウさん。


「ああ、良かった。目が覚めましたか。両手両足を動かして見て貰えますか?

脳の血管が詰まって、意識を失って死にかけてたんですよ?」


俺が告げると、慌てて両手両足をモゾモゾと動かすライゾウさん。


「ふぅ~。ちゃんと麻痺も無く、動かせているようですね。良かったーーー。

危ないところでしたよ。これを全部飲んで下さい。栄養が付きますから。

あと、水分補給はこの水を飲んで下さい。

少々この部屋もライゾウさんも臭うので、クリーン掛けますね。」

と言うだけ言って、さくっと全体にクリーンを掛けた。


「ああ、初めまして、クーデリア王国のドワースから来た冒険者のケンジと申します。

えっと、こちらには、イメルダ料理……特に寿司と刺身を食べたくてやって来ました。

いやぁ~、外で待ってたんですが、全然店が開く様子無くて、気配はあるけど、大声で声を掛けても返事が無いし、気配がか細くなっていくから、突入しちゃいました。

あ………店の扉壊しちゃいました。弁償するので。」

と俺が言うと、


「そうか、ワシは死にかけてたのか。」

と呟いていた。


「病名は脳梗塞と言って、脳に栄養や酸素を運ぶ血管が詰まった事で、脳に酸素と栄養が行き届かなくなり、壊死してしまったりする症状です。

詰まった血管の位置に寄っては、そのまま死んだり、半身不随になったり、色々あるみたいですよ。

お歳なんだから、食べ物とかにも気を付けて貰わないと、困りますね。せっかくライゾウさんのお寿司目当てで、遠路遙々ここまで来たのに。」

と俺が後半冗談っぽく言うと、


「ありがとうな。助けて貰ったな。体調戻ったら、真っ先に美味しいのを食わしてやっから、楽しみにしとけ!」

と無理に空元気を出して言ってくれた。


「ところでよ、このジュース、滅茶滅茶美味しいんだが、これ何だ?」

とライゾウさん。


「ああ、それですか……ちょっと特殊な場所で獲れる桃です。

これなんですがね。」

と桃を1つ取り出すと、ギョッとして目を見開いている。


「こ、これは……」

と言葉を詰まらせていた。


「あ、それより、扉を修理してこなきゃ。

少しは食べられる状態になったみたいなんで、この雑炊でも食べておいて下さい。」

と泉の水を入れた水差しとコップ、それに雑炊を入れたお椀と土鍋をちゃぶ台の上に置いた。


俺は、ピョン吉達に、「何とか間に合ったよ。」と伝えて、扉の修理に取り掛かった。

上手く壊した様で、直ぐに元通りに戻った……というのは建前で、扉の時間を『リワインド』で巻き戻し、壊れる以前の状態に戻したのだった。

このリワインドだが、使える事は使える魔法なのだが、実に燃費が悪く、物によっては、ちょっとの時間の巻き戻しでも魔力が枯渇する事がある。

今回は特に何の変哲もない扉だったから1時間の巻き戻しでも使えたが、これが魔道具だったりすると、かなりヤバかった。



それから、小一時間程、話をしつつ様子を見たが、目に見えて回復していたので、安心して宿に戻るのだった。

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