第91話 ギルドのクールビューティー
翌朝の朝食も素晴らしく美味しかった。
サンマの塩焼きと大根おろし、それに出汁巻き卵や、癖のある味だがその癖が結構後を引く菜っ葉のおひたし? とつみれの味噌汁。
それに焼き海苔である。
「おお! 朝から豪勢じゃないですか。」
と俺がニコニコしながら喜んでいると、持って来てくれた昨夜のお姉さんが、
「そうですかね? 大体こんな感じで、多分出汁巻き卵がちょっと豪勢ぐらいかと。
それより、昨夜は沢山のお心遣いを頂き、ありがとうございました。
板場の者も、大変喜んでおりました。」
とお礼を言われた。
「ハハハ、お礼を言いたいのは俺もですよ。
確かにクーデリア王国の料理も美味しいのはあるんですが、イメルダ料理って、私のソウルフードに近いですからね。」
と俺が言うと、
「え? お客さんって、もしかしてクーデリア王国から来られたんですか!?」
と目を丸くしていた。
「あれ? 言ってませんでしたっけ? そうなんですよ、クーデリア王国のドワースって所からやって来たんですよね。」
「それは、もしかして本気で海鮮を食べに来たって事ですか?」
「ええ、昨夜言った様に、海の幸、お刺身やお寿司を食べる事が今回のメインの目的ですよ。」
「そこまでですか!!」
と呆気にとられていた。
美味しい朝ご飯を食べた後、お姉さんにお勧めの美味しいお寿司屋さんの情報と、冒険者ギルドや商業ギルドの位置を聞いてから宿を出た。
マダラとB0には大変申し訳ないが、厩舎でお留守番である。
屋台は様々な焼き魚等に加え、つみれや海の幸満載の海鮮汁等、バラエティに富んだ物が売っている。
彼方此方で買い食いしつつも、お寿司の分の空きスペースを考慮しながら、冒険者ギルドと商業ギルドをまずは目指した。
冒険者ギルドでは、途中の山間部等で討伐した魔物の報告と買取がメインである。
宿を出発して寄り道しっぱなしで約40分後、冒険者ギルド マーラック支部へと到着した。
「そう言えば、このイメルダでは初めて冒険者ギルドに入るなぁ。」
と呟きつつ、他の冒険者ギルドとほぼ同じ仕様のドアを開ける。
しかし、よくよく見ると、この冒険者ギルドの建物って何処でも同じ感じだよね。
これって、もしかして規格が決まってるんだろうか? 等とくだらない事を考えて、クスクスと笑ってしまう。
既に朝のピーク時間は過ぎているので、1階のロビーに居る冒険者の数は、食事やお酒の飲めるエリアに5人と、依頼の張り出されている掲示板の前に2人ぐらいしか居なかった。
ドアの開いた音で一斉に俺の方を見る冒険者達とギルドスタッフだが、こっちをガン見している。
どうやら、黒髪以外の俺が珍しいのだろう。
「お、外国の人かい。あんちゃん珍しいな!」
とテーブルに着いて軽食を口にしていた冒険者の1人が声を掛けて来た。
「ああ、どうも。クーデリア王国のドワースって所から来たので、珍しいみたいですね。」
と俺が答えると、
「えー!? そんな遠くから来たのかよ!」
と驚いていた。
そんなたわいの無い会話だったが、金髪の外国人が物珍しいのか、1階に居る冒険者もギルドスタッフも視線を逸らす事無く、耳を傾けている様子。
すると、別の1人が俺の足下に居る従魔達を見て、驚きの声を上げた。
「げげ! あんちゃん、それ従魔なのか? それただのホーンラビットじゃねーよな。どう見ても……キラー・ホーンラビットにしても大きいよな?
それに後ろの黒いのは、シャドー・キャットよりもヤバい感じがするし、白っぽい狼?……まさかな……」
と声を掛けて来た。
「ああ、これは俺の可愛い従魔達ですよ。3匹共にモフモフ感がヤバい感じですよ?」
と微笑みながら答える。
そして、会釈をしつつ彼らの前を通り過ぎて、受付嬢の居るカウンターへ近寄り、
「すいません、先程言った様にクーデリア王国のドワース支部で登録している冒険者で、ケンジと言います。
サリウス山の辺りの街道沿いで出て来た魔物の報告と、買取をお願いしたいのですが。」
と声を掛けた。
すると頬を赤らめてケンジを凝視していた受付嬢が慌てて、
「あ、どうも。マーラック支部の受付をやっております。アケミです。歳は19歳です!」
と自己紹介を始めて、更にハッとしてアワアワしている。
フフフ、馴れてない新人さんかな? 何か必死な感じが好感を持てるな。フフフ。
しかし、綺麗な子だなぁ。
純日本的な美形ってこう言う顔を言うんだろうなぁ。
柔らかそうな綺麗な黒髪を後ろで束ね、肌もきめが細かく色白(白人的な白さではな)で、全体的に細身である。
なるほど、19歳と言われれば、確かに19歳にも見えるが、でも大人びている感じもするなぁ。
「あ、えっと、ギルドカードを拝見して宜しいでしょうか?」
と言われ、ギルドカードを出すと、
「わぁ!A(ランク)!!」
と小声で叫び、慌てて自分の口を手で塞いでいた。
そして、キリリとした表情にチェンジして、
「じゃあ、えっと、何という魔物が出たんですかね? 種類と数をお教えお願い出来ますか?」
と地図を出して場所を聞いて来たのだった。
健二も自分の地図を広げ、
「えっと、この辺りで、ポイズン・スネークが2匹、ここではフォレスト・スパイダーが5匹、ここでキラー・ウルフの群……えっと何体だ?ああ15匹ですね。
あと、ここで、コボルトの集落が1つあって、えっと、35匹でしたね。コボルト・キングが1匹でした。
こっちはロック・リザードマンが10匹でした。
あとは、ここにオークの集落あって、50匹とオーク・ジェネラルが2匹、オーク・キングが1匹かな。
ここら辺はゴブリンが5匹前後で4回ぐらい出ましたね。
あとは、スパイダー系が4匹ぐらいかな。~~……」
と受付嬢だけに聞こえるぐらいの声で、地図を指差しながら次々と報告する。
最初はメモを取りつつ聞いていたのだが、その余りの数に驚く受付嬢のアケミさん19歳。
「えっと、それかなりの数ですが、まさか全部は?」
「(ああ、ちょっと騒ぎになると問題なので、大声は禁止ですよ。ちゃんと全部倒してます。買い取って貰う為に持って来てますよ。しかし、数と手段を大っぴらにしたくないので、倉庫で出して良いですか?)」
と小声になって話すと、アケミさんが必要以上に身を乗り出して、頬を赤らめつつ、目を見つめながら、
「(あ、はい。じゃあ、地下の倉庫へ)」
と言ってケンジを案内して行った。
ロビーに居た冒険者達は、クールビューティーで有名なアケミさんの変貌ぶりに、着いていけず、ただポカンと口を開けて呆けていたのだった。
このアケミさんだが、この支部での人気は相当に高く、実際にファンも多い。
しかし、誰にもクールな笑顔と姿勢を崩した事がなく、ギルドスタッフになってから3年半以上、何度も猛者(冒険者)達がアタックして玉砕した経歴がある。
営業スマイルというか、微笑みはするものの、表情を崩したり、バカ笑いした所等、誰も見た事が無く、かと言って冷たい訳でも無く、面倒見も良い。
正にプロ中のプロと言った感じで、男女問わず、実に人気のある受付嬢であった。
そんなクールビューティーのアケミさんの初デレを見てしまった訳だ。
2人と3匹が消えたロビーは暫くシーンとしていたが、1分程してから、
「「「「「「「うぉーーーー!!」」」」」」」
と歓声というか、驚きの声が響き渡ったのだった。
その後、
「や、ヤベェなあの超美形の金髪あんちゃん。」
「ああ、ヤベェぞ。 スゲー物を見せてくれやがったぜ!」
「まさか、アケミちゃんのデレを見せつけられるとはなぁ……。」
「伊達にモフモフを引き連れてないな。」
「伝説だな。俺は今日、この伝説の1ページを見る為にここでサボってたんだな!」
「「「「いや、お前、そこはサボってないで、働けよ!」」」」
とワイワイ騒いでいるのだった。
そんな1階での騒ぎとは無縁の地下の倉庫で、健二は受付嬢と倉庫のスタッフのおじさんを前にして、再度情報の秘匿をお願いしつつ、ダミーのリュックから、ドンドンと魔物を取り出して行く。
ズラリと並んだそれらの山に、声を無くす倉庫のおじさんと、アケミさん。
「ただ、ここのオークは半分だけにしておきます。ゴブリンとかは要らないとおもったので、討伐証明部位だけですが。
これで、確認大丈夫ですかね?」
とアケミさんに声を掛けたが、返事が返って来るのに2分程時間が掛かった。
「あ、ああ、はい。大丈夫です。 ご報告通りなのを確認しました。
では、オークの方は半分は予定通り買取のままで宜しいですね?」
と確認されて、「ええ」と頷いたのだった。
「えっと、数が多いので暫く時間が掛かるのですが……。
もしかして、どちらかに移動するご予定でしょうか?」
と聞かれ、
「ええ、基本暫く滞在して、ちょこちょことランドフィッシュ村辺りには出掛ける予定です。
美味しい魚が捕れるらしいので食べに行かなきゃならないですからね。フフフ。」
と想像するだけで嬉しくて、ニコニコ笑いながら答えると、さっきから赤い頬をしていたアケミさんの顔が更に赤くなっていた。
「そ、そうですか、ランドフィッシュ村ですか! ランドフィッシュ村……」
とアケミさんが小声で呪文の様に繰り返していた。
「当面は、海王亭に宿泊していますので、何かあれば伝言下さい。
あの量だと2日ぐらいは査定に掛かりますよね?」
と聞くと、
「はい、何か無くても海王亭に伺います! 任せて下さい!!」
と胸の前で両手に拳をグッと握りながら決意した様に答えていた。
ん? 用が無ければ連絡は不要なのだがな?
フフフ、面白い娘だな。
「あ、そうそう、市場ってここからだと、どう行けば良いかな?」
と聞いてみると、詳しく道を教えてくれた。
「ありがとうございます。では、また2日後ぐらいに来てみますね。」
と挨拶をして、冒険者ギルドを出たのだった。
健二にお礼を言われて、ポッと頬を赤らめて口元がデレッと緩んでいるアケミさんを見たロビーの冒険者達が、またその後暫く盛り上がっていたのは言うまでもない。
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