第89話 餌付けしてみた

精霊が何を食べるのか判らなかったので、取りあえず馬車の中で泉の水や桃等を小さく切って出してやる。


「お腹減ってない? これ美味しいから、良かったら食べなよ。」

というと、目をキラキラ光らせ、賽の目状に切った桃の欠片を抱え、齧り付いている。

一口食べたサリスは、


「!!!!!! ♪□%&♫」

と奇声? 歓声? を上げて嬉し気にバクバクと食べている。


どうやらお気に召したらしい。

泉の水も美味しいらしく、ドンドン食べては飲み、そんな小さい身体の何処に入ってるの? と思いたくなる程食べている。


あんまり幸せそうに食べるので、俺達も例のフルーツシリーズの葡萄を出して、食べながら、葡萄も与えて見ると、自分の顔のサイズとほぼ同じサイズの葡萄を見つめ、一生懸命に皮を剥いで、横から顔を齧り付いていた。

フフフ、可愛いな。

顔や手が紫色に染まっているが、そんな事は気にもとめず、嬉しそうに食べて居る。



凄いな……顔と同じサイズの葡萄だったけど、種と皮以外、全部食べちゃったよ。


流石に満腹になったらしく、サリスは膨らんだお腹を出して、足を投げ出してピョン吉にもたれ掛かる様に座っている。

顔も身体もフルーツの汁でベトベトになっていたので、クリーンを掛けてやると、気持ちよさそうに顔を緩めて、ムニャムニャと言いながら寝落ちしてしまった。


まあ、生まれたばかり? 1歳か。

人間で言えば、やっと掴まり立ちして、片言の言葉を発するかどうかぐらいの頃だよな。


しかし、俺達が気付かず、あのまま樹液トラップに捕まったままだと、この子は一体どうなったんだろうか?

そもそも精霊って、死んだりするのかな? 良く判らないけど、霊的な存在とはまた違うのかなぁ?

うーーん、今度誰かに聞いて見ようかな。


と考えつつ、サリスの幸せそうな寝顔を暫く眺めているのであった。




マダラ達の曳く馬車は、本来であれば難所とされる山岳地帯を飛ぶ様な勢いで越えて行き、漸く(と言っても少しペースを落としたから2時間程だけど)山向こうの麓へと辿り着いたのだった。

とまあ、簡単に説明しているので魔物も盗賊も出ない幸せな世界の様に思えるかも知れないが、実際は山岳地帯で、結構な数の魔物を討伐している。

ランクで言うと、大体、Eランクのゴブリンの集団~Aランクのロック・リザードまで結構な数の魔物が出て来た。

基本、魔物を放置していると、ドンドンと個体数が増え、最後には餌や勢力争い等で行き場を失った魔物等が森から溢れたりする。

よって、冒険者達は、極力魔物を見かけたら、討伐する事が暗黙のルールで推奨されている。

それに、魔物の討伐部位を取って近所のギルドに見せれば、それが依頼のある物だった場合、路銀の足しにもなる。

(一般の旅の冒険者等は、当然マジックバッグ等を持って居ない為、余程高額な素材でないと、荷物になるので、持ち帰られないのだ。)



麓の林を抜けると、草原が暫く続き、街道の傍には小川が流れて居た。


現在時刻は午後2時半である。

一旦休憩を入れて、マダラとB0を休ませ、泉の水と果物を出してやる。

地図によると、マーラックまで大体150kmという所かな。


ついでに俺達も馬車の外にシートを敷いて、サンドイッチ等を食べ始めた。

道の傍を流れる小川の水音が涼しげで、時折吹く風に揺れる草の擦れる音も気分が良い。


サリスもサンドイッチを小さく切ってやると、不思議そうな顔をしながら、少し食べてみて気に入ったのか、ガブリと食べる。

しかし、如何せん口が小さかったので、食べた場所にマスタードが集中していたらしく、


「!!!!△$!f*」

とバタバタし始めたので、慌てて、泉の水をコップに入れてやると、ガブガブのんで、俺に抗議して来た。


「ごめんごめん、態とじゃ無いって。 そうか、身体が小さいから、マスタードが口いっぱいに入っちゃったんだな。

うーーん、じゃあ、こっちなら、甘いから大丈夫じゃないか? とプリンを出してやると、もう騙されないぞ!? という顔で俺を睨んでいたが、プリンから漂う甘いカラメルソースの匂いに気付いたらしく、

目の前にある、身体の半分の高さがあるプリンを凝視している。


おれが、スプーンで一口分ぐらい掬ってやって、目の前に持って行ってやると、怖ず怖ずとペロリと舐め、

「!!!♪□%&♫」と声を上げて、齧り付くというか吸うというか、顔を突っ込んで居た。


ハハハ、可愛いなぁ。


<主ーー! プリン!>

<私もプリンを所望するにゃ!>

<ぼくもーー!>

と3匹が強請るので、3つ皿に出してやると、こっちも幸せそうにパクッと食べていた。



休憩を終えて、再度出発する。

さあ、マーラックまであともう一息だ!


街道沿いに農村が2つ程あったので若干その区間だけペースを落としたが、それ以外はクルージングスピードを維持し、休憩から2時間で漸くマーラックの城壁が見えて来た。


時刻は午後5時を過ぎた頃である。

時間的に宿が取れるかは微妙だが、しかし、是非とも辿り着きたいところである。



ああ、心が逸る。

御者席に移動し、遠くに見えるマーラックの城壁を今か今かとジリジリしながら、見つめていた。

すると、気付かぬ内に、握り拳を握り絞めていていたらしく、指が少し白くなっているのに気付き、思わず苦笑い。


徐々にマーラックに近付くに連れ、交通量も増えて来たので、マダラ達にペースダウンする様に伝える。


ああ、ありがとう、マダラ、B0 俺をここまで運んでくれて!


時刻は午後5時半を回った頃だろうか、やっと長年?の夢が叶い、マーラックの城門の入場を待つ列の最後尾へと辿り着いたのだった。



列は順調に進み、俺達も特に問題無く入る事が出来た。

衛兵のお兄さんに、従魔と一緒に泊まれる良い宿を聞くと、海王亭を薦められたので、お礼を言ってそこを目指す事にした。


気になる街の様子だが、おそらくだが、今まで行ったどの街よりも、人通りも多く、凄く賑わっている。

しかも!だ、屋台には、串に刺して焼いた焼き魚や、サザエの壺焼き、ホタテのバター醤油等々、海鮮色が非常に濃い。


「ああ、もう堪らんなぁ…… しかし、ここは我慢だな。まずは宿の確保が先だ。」

と自分に言い聞かせつつ、さっきから頭の中で 買え!買え! と五月蠅いピョン吉達も諫める。



そして辿り着いた海王亭は、実に素晴らしい宿で、嵐山亭にも引けを取らない店構え? 宿構え?であった。

馬車を表に駐めて部屋がある事を祈りつつ、受付のお姉さんに声を掛けると、

「あ~ら、お客さん、お珍しい。異国の方かい?

部屋はあるけど、うちはイメルダ料理ばかりでねぇ。特に場所がら、生のお魚とかも出るんだけど、食事はどうしますかね?」

と少し申し訳なさそうに聞いて来た。


「おお!!! 刺身あるんですね? 刺身でしょう? ああ、お刺身と暖かいご飯~。

ばっちオッケーです! ドーーンと惜しみなく舟盛りでも何でも持って来て下さい。

ああー! やっと念願のお刺身が食べられるーー! お寿司もオッケーですよ。

いやぁ~イメルダ料理最高ですよね!」

とイキナリ俺が食い付いて、テンション上げるもんだから、宿のお姉さんが、ドン引きしていた。


「ハハハ、お客さん、本当に変わってますね。」と。


マダラとB0にも餌を普通より多めにして貰い、出来れば焼き魚を1匹ずつ出してやってとお願いすると、滅茶滅茶驚かれたが、ちゃんと代金を多めに払う事で納得してくれた。

勿論、俺やピョン吉達のご飯も1人前以上でお願いしてある。


「えっと、これってお願いすれば、追加でジャンジャン持って来て貰えますよね? 勿論別料金で払いますし。」


「え、ええ。大丈夫ですけど、お客さん……もしかして、イメルダ料理に飢えてるの?」


「ええ、滅茶滅茶飢えてました! もう今日という日を夢見て生きて来たと言っても過言じゃないくらいです!」

と答えると、爆笑された。


「判りました。フフフ、板場によーーく言っておきますね!」と。


部屋に案内されると、やはり、嵐山亭と同じく、素晴らしい部屋で、寝る場所はやはり畳の部屋であった。


ちなみに、従魔達の食事だが、本来なら厩舎の横で食べて貰うところだけど、俺が専用のシートを敷いて、部屋を絶対に汚さないし、その分多めに払う事で了承して貰っている。

俺の食事も、ピョン吉達の食事も部屋に運んでくれるとの事。

この時間からなので、準備に1時間ちょっと欲しいと言われ、その間に大浴場に入る事にした。

(ピョン吉達は入りたがったが、嵐山亭と同じく無理なので、クリーンで我慢して貰った。)


ここの大浴場だが、岩風呂になっていて、ちょっとした温泉の雰囲気である。

身体と髪の毛を洗って、程良い熱さの湯船に足を入れ、身体をユックリ沈めて行く。


「クァーー! 堪らん。」


幸い? 大浴場には俺しか居なかったのだが、湯煙の中、ポーッとしながら、今までの事を考えて居た。

拠点を得て、色々な人が周りに居て、そして前世からの大好きだった旅行も出来て、24年程遠くなっていた豪華な和食を堪能出来る喜び。

本当に転生させてくれた女神様と日本の神様には、感謝しかないな。



風呂から上がり、部屋に戻ると、泉の水をコップに入れて氷を浮かべ、火照った体をクールダウンさせる。

サリスは、ジジの尻尾で楽し気に遊んでいる。


フフフ、何だかんだでサリスも馴染んだな。


何だろうか、こうしてサリスが家族と馴染んで遊んで居るのを見ていると、自分の子を見ている様な錯覚になってしまうなぁ。





そして、ほのぼのと和んでいる間に時は満ちて部屋のドアがノックされたのであった。

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